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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第3章 遠ざかる2人
17/32

決意

期末テストの結果が発表される日。


いつもと同じ時間。

いつもと同じようにガタンゴトン。と、刻むリズム。


今日は、どこか早鐘を打っている気がする。


やり切ったという自信。

ワクワクする気持ちと、これでも追いつけていなかったら?と、不安な気持ち。



ガタンゴトン。


私の気持ちを急かすように、音は鳴り響く。



目的地まで定刻通り届けてくれた鉄の箱を見送って、校舎までの道のりを歩き出した。






ドキドキ



まるで、合格発表を見る前のように緊張しながら、


順位表の前に立つ。



ゆっくりと顔をあげて。




文字を目で追っていく。





2年生 理系



1位 斎藤 奈美





その文字を見つけ。意味を理解するまで3秒ほど時間を要した。



「奈美ー!!」

後ろから、声をかけられ振り返る。


「周助くん!」


「やったな!」


3位 内山 周助



周助くんも、前回より成績をあげ3位を獲得していた。


私たちは、硬い握手を交わした。



「1.2フィニッシュは出来なかったけどな。」



理系だけに配られる、各教科順位のプリントを手に取り2人で眺める。



周助くんと2位の点差は10点。



「後、10点か。」



周助くんは悔しそうだった。


私と2位の点差は2点だった。




学年1位のキープは大変そうだ。



「周助くん、本当にありがとう!!」


私、周助くんのおかげで1位になれたよ!


勢いよく頭を下げお礼を伝える。


周助くんはニカッと笑う。


「俺も、奈美のおかげで初めて物理と古典もトップ5に入れた。」


ありがとう!


周助くんも頭を下げる。


冬休みに入っても一緒に勉強会をしよう!って話をして周助くんと別れた。



私は、3年生の順位表を見に行く。


自分の順位を確認するのと同じか、いや、それ以上にドキドキしながら、先輩の順位を確認する。



「あ。」


思わず、声が出た。



先輩は、高校生活最後の定期試験を学年1位で終えていた。



良かった。


ほっと、胸をなで下ろす。



このまま、受験も上手くいきますように!




口角緩みっぱなしのまま、教室に向かっていると、ポケットの中の携帯が震えた。


桜木先輩からメールだ。


件名 ご褒美


添付ファイル 1件


本文


2人の学年1位を祝して

明日の夜、どう?



添付ファイルを開く。


そこには、ふたご座流星群のネットニュースの記事が添付されていた。



廊下で思いっきり叫びそうになって、手に口を当てる。

ダッシュで教室へ駆け込んだ。



「佳代ーー!!」


「お、奈美。どした?学年1位がそんな嬉しいか?」


突然、叫びながら走ってきた私と距離を取りながら、佳代が私に応対する。


ずいっ


先輩からのメールを佳代に見せつける。


「ほー。」


メールを読んだ佳代がニヤリと笑った。


「ついに、彼女から奪うの?」



ち、が、う!


「先輩、彼女と別れたって言ったでしょ?」


「あー、そうだったそうだった。」


ってことはなに?

先輩と、進展しちゃうわけ?


ニヤニヤと佳代に小突かれる。


「わかんないんだもん。」


ぷくっと頬を膨らませると思案顔の佳代。


「何が分からんことがあるのさ。学年1位の秀才さん?」


「先輩のこと、どういう好きなのか良く分かんないのー」


「は?」


佳代が変なものを見るように私を眺めている。


「今、好きって言ったじゃん?」


だ!か!ら!


「好きにも色々あるでしょ?」


恋愛的な好きかどうか分かんないのー


ふーん。

つまらなさそうに、私を見やると、佳代は考えながら喋り出した。


「奈美。難しく考えすぎなんじゃ?今さ、先輩に彼女になってくれって言われたらどうすんの?」


「えー!!」


突然、大きな声を出した私にうるさい!と、チョップする佳代。


「あんた、デート誘われてんじゃん。そういうことじゃないの?」


で、でーーーと?


誰と誰が?


「先輩、天文学が趣味で。最近、私も星見てたりするから。ご褒美って書いてあるし。違うでしょ?そういうのじゃ………」


言いながら、語尾が弱くなる私。


「先輩、なんで彼女と別れたん?」


奈美と仲良くなったことは関係ないの?


ずいっと佳代の顔が近づく。



私は小さく首を振った。

「理由は聞いてない。そんな余裕なかったし。」


あー、まあね。奈美、あんときいっぱいっぱいだったか。


テスト最終日。私の話を聞けなかった負い目があるのか、佳代はバツの悪そうな顔をする。









あの日、先輩に話を聞いてもらって、次の日、真子と話をして。


自分の中で大貴に対する気持ちの整理ができたことを佳代に報告した。

真子を応援することも。


だから、寂しい気持ちはあるけど、大貴とはただのクラスメートととして、ただの友達として、接していくと佳代に宣言したのだった。


幼馴染を卒業する。


そう、決意した。



佳代はため息を零しながら言った。



「私は、奈美の中に井上くんに対して、きちんと家族愛以外の恋愛感情の好きがあるように感じてたけどね。」


ま、奈美の気持ちは奈美にしか分からないし、奈美が違うって言えば違うよね。

それで、奈美が傷付いたり、悲しんだりしないって言えるなら、いいんじゃない?


そりゃ、カッコイイって思ったりしてたけど、それは、大貴以外の男の子を知らなかったし、見ようとしたこともなかったから。


今は、大貴以外にもドキドキしたりすることもあるから。


そう説明すると、それは先輩か周助くんか聞かれた。


先輩。と、答えると、佳代はふーん。と意味深に笑っていた。









そんな会話を、つい先日佳代と交わしたところ、佳代は私が先輩を好きだと思っているようだ。


「佳代。私ね、確かに先輩にドキドキしたりするんだけど。好きだとは思うんだけど。こう、なんか違う気がするの。」


そう言うと、佳代は微妙な顔のまま、私を見据えてる。


「とりあえず、さ。先輩と、人生相談以外の話もしたりしてみれば?先輩との関係が変われば、奈美の気持ちもまた見えてくるかもよ?」




「うーーん。でも、受験控えてる先輩の邪魔したくないもん。だから、いいの。」


佳代は盛大なため息をつく。


「ま、奈美らしい、か。」



とりあえず、天体観測楽しんできな?










私は、ドキドキしながら先輩に了解の返信をした。


送信済み。


ポップアップがそう告げて、息を吐いた。


送っちゃった。




すぐに先輩から、暖かい格好してきてね。と、返信が届く。


先輩は天体観測のために、バイクの免許を取得していて、明日は先輩のバイクでおすすめの鑑賞地点まで連れて行ってくれることになった。


遠慮したけれど、夜連れ出して申し訳ないということで、家まで送り迎えしてくれるらしい。


自宅へ帰ると、明日は何を着ていこうかと、クローゼットをひっくり返してファッションショーをしていた。



服が決まり、一息ついて、はっとした。


私、こんな風に服悩んだの初めてかも。まるで、初デートにいく彼女みたい。



んーー。やっぱ先輩のことは、そういう好きに近いのかな?



意識すると、ドキドキしてきた。



一人でベットに座っては立って、部屋を歩き回り、また座る。


そんなことを繰り返していると、階下で母がバタバタと帰ってきた音がした。



「お母さーーん!」

慌てて、母の姿を探す。


「奈美。そんな慌ててどうしたの?」



あのね、明日なんだけど。夜、ご飯の後出かけていい?


恐る恐る尋ねると、母は私の顔をのぞき込む。


「何しに行くの?」


これ。と、先輩のメールに添付されていたふたご座流星群のネットニュースを見せる。


「これ、見に行くの。」



「誰と?」


「先輩。」

この前、話したでしょ?

大学とか紹介してくれた先輩。


そう、伝えると母は記憶を辿る。


「あー、学年1位の先輩?」


そう、それ!


「あ!奈美!そういや、あんた成績どうだった?!」


先輩の話で、今日が順位発表だったことを思い出したようだ。

私も明日のことで頭がいっぱいで忘れてた。


部屋に慌てて成績表を取りに行き、母に渡した。



「……」

1位の文字を見て、母は驚いているみたい。


「奈美、良く頑張ったわね」

おめでとう。


そう言って優しく笑った。


「これも、先輩のおかげ?」


うーん。私は思案する。



「そう、かな?」


周助くんと勉強会したおかげでもあるけど、先輩のおかげで一段とやる気が出たのは間違いない。だから、間違ってないと思う。


母は、少し考えてこう言った。



「あんた、時々。夜、空眺めてるわよね。天体観測興味あるの?」


「うん。最近、星見るの好き。てか、お母さん知ってたの?」


ふふ。と、母は笑う。


「知らないわけないでしょ?」


「まぁ、いいわ。行ってらっしゃい。」


夜も遅くなるだろうし、気を付けるのよ?

暖かい格好して、風邪ひかないようにね?


たまには、息抜きしてらっしゃい。



夜何時?どこに集合するの?




「あー、あのね。」

先輩が、遅くに連れ出して申し訳ないってね。家まで送り迎えしてくれるの。



そう、告げると母の目が見開く。


「あら、まー!流石学年1位ね。そういうところもしっかりしてるのね。それじゃ、奈美を任せても安心ね。」


母は、上機嫌にキッチンへ向かう。


あんた、今回気合い入ってたから1位とれたと勝手に確信してたから、今日はお祝いよー


手洗って手伝いなさい。



母は凄い。



何も言わなくても色々筒抜けだ。




「はーい」


私は腕まくりをして、キッチンへ向かった。

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