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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第3章 遠ざかる2人
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対話

学校を出る前にトイレで目を冷やして、メイクを整える。


大丈夫。目、腫れてないな。




一人で帰る家までの道のり。



先輩の言葉を反芻していた。





私、自分の心に向き合って来なかったから、分からなくなってたのかな?


どうして、いつも先輩の言葉はすとんと心に落ちるのだろう。



出口の見えない暗闇に指す光みたいに。

もがく私の手を掴んで、ぐいぐいその先へ連れて行ってくれる。


心地いい。


ごちゃごちゃ考える割には、どこにも辿りつけなくて。

何も決まらない私を。


同じ目線に立ちながら優しく導く先輩の手腕は本当に心地いい。




進路が決まらなくて戸惑っていた時と同じ。



ぱーと世界が開けて行く感じ。






まだ、何も分からないし。見えないけど。




これでいいんだ。


根拠もなく、そう思える。






自宅へ辿り着いた。


部屋着へ着替えると、コンポのスイッチを押して曲を流した。


目を閉じて。



心と対話を試みることにした。



まずは、ごめんね。

ずっと息苦しかったよね。


大貴がどうして、私を拒絶するようなことを言ったんだろう?



思い返してみる。


高校に進学して、話す機会は減って。


はた、と思い出す。



確かに話す機会は減った。

そして、私は大貴と会話する機会が訪れる度、ドキドキして緊張してまともに顔を見て話していなかったかも。


それで、さらに話す機会は減っていった。


だって、心臓破裂しそうだったもん。


ああ、これが恋か。


なんて、勝手に舞い上がってたけど。



大貴は、そんな私の気持ちなんて知らないから。



もしかしたら、大貴は、私が突然よそよそしい態度をとったと思っていたのかな?

それなのに、急に一緒に遊ぼって、どう感じてたのかな?



私、大貴のこと分からない、分からないって思ってたけど、分かろうともしてなかったのかな?



ふられたって決めつけて、余計変な態度とってたけど。


大貴は、そんなつもりなかったのかも?



もしかして。


ただのすれ違い?



大貴は、あまり自分の気持ちを言葉にするタイプじゃないし。

私が、距離をとったとして、それを言及したりしないだろうな。


不器用だし無愛想だけど、優しくて思いやりがあって。


私の行動の意味を汲み取って尊重する。



そういう奴だ。





大貴に私の気持ちって1ミリも伝わってないのかな?






そうだとして。


私、今。



大貴とどうなりたいんだろう。


どうしたいんだろう。



大貴の笑顔が浮かぶ。

優しく頭をぽんぽんする大きくて暖かい手。


いたずらにわらう顔。


私が泣きそうになってると、私の気持ちを思って自分も困り顔になる大貴。


たくさんの大貴を、知っている。




大貴と上手く話せなくなって。

前みたいに話したい。

傍にいたいって感じてた。


当たり前に傍にいる時は、満足してた。恋人という存在でなくても構わなかったし。それを、望んでもなかった。


大貴との距離が離れて傍にいるためには、大貴と恋人にならないといけないと考えた。


けど、それは大貴の傍にいるための方法なだけ?




私は、どんな風に大貴を好きだったのかな。


真子に笑いかける大貴に胸が締め付けられるのは、どうして?


真子と大貴の距離が近づくの、ダメだと思ってる??



一つ一つ、問いかけていく。







すっと、こころが軽くなった。






私、大貴のこと好きだ。

それは今もこれからも変わらない。


しかし、大貴に対する好きは、恋人になりたいとかそういうのとは違う好きだ。と思う。

まだ、恋人も出来たことのない私だけれど。



もやもやしてたのは、私が大貴と話せなくなってるのに、真子が仲良くしてたから。なのかな。


私だって、大貴と話したいーーみたいな?


大貴に、近づかないでーみたいなのではない。



私が大貴と笑い合える関係がずっと続いていたら、大貴が真子といたって気にならない気がする。




恋とは違う気持ち。


きっとそうなんだ。



大貴とのこれからは、また関係を再構築していこう。

もうお互いの家を頻繁に行き来する幼馴染の関係ではなくなったけれど。

大貴の笑顔は見ていたい。

だから、新しく友達になれたらいい。


そう、思う。



真子が大貴を好きで、2人が上手く行くと、私は大貴と仲良くしていられないのだろうけど。

その時は、大貴ときちんとバイバイして、その関係に納得しよう。





そういえば。


桜木先輩の元カノさんは、私を敵視してた。

それは、好きな人が他の女の子と仲良くしていることが気に入らない。嫉妬。独占欲から来るものだったのだろう。


私、先輩に彼女がいること知って、もやもやした。悲しかった。


このモヤモヤはなに?


この気持ちが恋に近いのかな?



私は多分。

まだ、恋をよく知らない。


先輩に揺り動かされる気持ちがなんなのか。


まだ、名前を与えられない。





けど、それはまだこのままでいい気がした。

先輩とは、これからも色々話して一緒にまちづくりを学ぶために頑張りたい。


それだけは確かで。


今はその気持ちだけでいい。






周助くんは、友達。


仲良くしたい。


一緒にこれからも、勉強したいな。




ふと、考えた。


周助くんに、彼女できたら?


私、なんて思うのかな?



うーーん。

想像出来ない。



そこまで考えて、集中が切れた。



今日は、ここまででいいや。











翌日。

放課後に真子と並んで歩く。



ケーキ屋さんについて、真子が切り出した。





「奈美。私ね、大貴くんを好きになっちゃった」


へー。短い期間に大貴くん呼びに変わってる。


「最初はね。内山くんと仲良くしたいなぁと思ってたんだけど。内山くん、あんまり私と仲良くしてくれる気なかったみたいで。」


大貴くんとも少し話してね。


大貴くん、表情分かりにくい人だと思ってたけど、時々凄く優しく笑ってくれて。


もっと色んな顔みたいなーって、思ったんだ。




奈美と幼馴染だったんだね。

なんか、仲良いのかな?って思ってたんだけど、知らなかった。


「言ってなかった私も悪かったね。隠してた訳じゃないけど、ごめん。」


真子には、私が大貴を好きだなんて一言も言ってなかったから、知らなくて当然だけど。


「大貴くんから、奈美が内山くんと仲良くしてることも聞いてね。」



私、文化祭のとき。

テンションあがっちゃって。

内山くんとの写真欲しい!ってせがんで。ごめんね?

その後、内山くんが奈美とラブラブで2ショット撮ってたって大貴くんから聞いたよ?




あー、そういうことか。

私、周助くんのこと好きだと思われてて。

真子は、周助くんに気があるような素振り見せてたこと謝りたいわけか。

なるほど。


対話してみないとわかんないのは、心だけじゃなくて、人の気持ちも一緒だよ、桜木先輩。




「奈美。内山くんとの勉強会にも誘ってくれたじゃん。」


なんか、すごく申し訳なくて。

こんな簡単に心変わりしたのも、なんか言いにくいし。


なんで奈美は、周助くんは私の!って言わないのかなって。こんなに私に優しくしてくれるのかなー。って。


惑わせてごめんなさい。



真子が頭を下げる。



「顔あげて。真子。」








謝るのはね。私の方だよ、真子。



「私、さ。昨日の昨日まで大貴に恋してた。」


ってか、恋してると思ってた。



「え?」


真子が固まる。



色々考えてさ。

分かったんだけど、私、大貴のことやっぱりそういう好きじゃないみたいって、結論になった。


ただ、私と大貴。

中学の頃まで凄く仲良くてかなり一緒にいる時間長くて。


だから、今の距離感にまだ馴染めなくてね。


違和感とか寂しさとか。

とにかくそういうのを、恋だと思ってたみたい。



ちなみに、周助くんとは仲良くしてるけど、普通に友達だよ?




私の話を聞いて、真子は戸惑いながら口にした。



「奈美。無理してない?」


私のために、大貴くんを好きじゃないって言ってない?

ほんとに本当に、大丈夫なの?



「大丈夫だよ。」


笑って真子を見ると、まじまじと真子が私を見てる。


「私、大貴くんのこと、奈美に相談していいの?これからも仲良くしてくれるの?奈美、私に怒ってない?」



「もちろんだよ。」


真子に怒る理由なんてないし。



無愛想な大貴の良さを分かってくれる女の子がいて良かったよ!


そう笑うと、ようやく真子が笑った。




「私、頑張る!頑張ってみる!」






可愛いな。

そう思った。




好きな人に真っ直ぐ向き合える真子が羨ましい。




私も、そんな風に思える人に出会えるかな?





本当の本当は、少しだけ真子に強がってみせた。

悲しい気持ちがない訳じゃない。けど、それは、大好きな兄弟に恋人ができて感じる寂しさに似ている気がする。

私、一人っ子だから、よく分からないけど。

そう、思う。


真子を応援したいと思ったこの気持ちは、強がりなんかじゃなくて本心だし。

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