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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第3章 遠ざかる2人
15/32

期末テスト

周助くんとの勉強会は頻繁に行われた。


TOPを独占してやろう!を2人のスローガンに頑張った。


まちづくり。


目指す方向が決まって、前以上に取り組めたこともあるけど。




とにかく、こんなにやり切った気持ちでテスト初日を迎えたことはない。




ガタンゴトン。


電車に揺られて、私は自信に満ち満ちていた。


教室に入ると、周助くんが最終チェックをしている。


「おはよ。」


声をかけると、にんまり笑う顔が私を見た。


「奈美。やってやろうぜ!」


いつになく自信が溢れているのは、周助くんも同じみたい。


2人でハイタッチを交わして笑い合った。






初日の科目を終えて。

一旦緊張の糸が切れる。



頭の中で明日の科目の復習時間を計算する。



周助くんと明日も頑張ろう!

と、誓いあって。


佳代と一緒に電車までの道のりを歩く。



人の波に沿って歩いていくと、数メートル先に大貴の姿が見えた。



どうして、人混みの中でも見つけてしまうのかな。


視線を逸らそうと思ったけれど、私の視線はそこで固まる。






あ、あの顔。


大貴が穏やかにふわりと笑った。








隣を歩いてるのは、真子だった。







一緒に帰るほど、仲良くなったんだ。






大貴、いい顔してるな。






いつの間にか、あの笑顔は私だけの物じゃなくなってたんだね。



そうか。


大貴との距離ってこんなに離れてたんだ。


クラスで放課に喋って。




時々、ベランダで会話する。




それだけで、すごく特別なつもりだったけど。




隣を歩いて帰っている真子の方が、よっぽど大貴に近くて、特別。





「奈美ーー!」

佳代が私を必死に呼ぶ。


慌てて視線を外す。


「ごめん!なんでもない。」



佳代は私が見ていた先を見る。




「奈美。あれ、知ってたの?」



あはは。乾いた笑いを零して首を振る。


「なんか、最近仲良いんだなー。2人で会ったりしてるのかな?って疑問に思ったことはあったけど。」





「奈美。テスト終わったら話聞くよ!まずは、期末頑張ろう!あと2日!」



今、考えちゃだめ!


絶対だめ!



佳代に強く言われて、頷く。




自室で勉強していても、隣家にいるだろう大貴の存在に集中を乱される。


勉強道具を持って、図書館へ向かった。



周助くんとも、何度か足を運んだ場所。



なぜだか、心が落ち着いて勉強に集中できた。







大丈夫。


頑張れる。




周助くんとTOPをとる!











気力で最終日まで、頑張った。







テストが終わると真子から連絡が来た。

明日、時間が欲しい。


了承の返事をした。





テスト最終日は、玲奈か佳代と寄り道することが多いのだけれど、佳代は用事があるそう。


今度、話聞くからごめん!


と、謝り倒された。


玲奈も、別の子と約束が入ったと断られた。






帰る前に、資料室行こうかな。



とぼとぼ歩きだす。





「奈美ちゃん?」


ふいにかけられた声。



「桜木先輩。」


凄く久しぶりに見る先輩の顔。


ふわっと笑って頭を撫でられた。



なんて顔してるの。

人生相談、する?



どうしよう。

涙がこぼれ落ちそう。


別に泣くようなことなんて、何もないのに。






ガラガラ。


資料室の扉を開けて、定位置に座る。


「なんか、久々だね。ゆっくり話すの。」



「受験でお忙しいのに、ごめんなさい。」



頭を下げると、先輩は静かに首を振る。


「受験生だって、息抜きするよ。だから、暇つぶし。気にせず、甘えといてよ。」



あの時と、同じセリフを言って爽やかに笑う。




「先輩、思わず頷いちゃったんですけど。」


進路の話じゃないんです。



「いいよ。文化祭で女装してた子かな?それとも、体育祭で一心に見つめてた子?」



固まる私。


「先輩。………エスパー?」


あはは。先輩がまた、人懐っこい笑みを浮かべている。



「見てれば分かるよ。」



そう、なのかな。



てか、私。先輩に何話そうとしてるのかな?


先輩のこと、どう思ってるかも分からないのに?



戸惑っていると、飛び切り優しい手つきで私の髪をくしゃくしゃとかき混ぜて、柔らかい表情をして、私を見つめる先輩。


そのまま、私の髪を整えつつ、両手で私の顔を挟んで、先輩の方を向かされる。



「先輩が話聞くって言ってるの。ごちゃごちゃ考えずにスッキリしなさい。」



先輩の視線に絡みとられて、思考が止まった私は、色々先輩に素直に話した。



先輩に一目惚れしたとか。先輩のことどう思ってるか分からなくてぐるぐるしてることは話してないけど。



好きがなんなのか分からないのに。

大貴と真子のことでムカムカして。



悲しくなって。




全部離すと、涙がこぼれ落ちそうになった。




ふわっ。


先輩の香りで包まれた。



先輩に抱きしめられてる?



状況を理解すると、慌てて先輩から離れる。



「だ、ダメです!彼女さんに怒られちゃいます。」



「ふふ。ダメな理由はそれだけ?」


それなら、もう気にしなくていいよ。


もう一度先輩の腕に閉じ込められた。




「もう、別れたから。」




そう言って先輩は、私を閉じ込め続ける。



そのまま、続ける。







奈美ちゃんが、今1番悩んでる原因は何処にあるのかな?


奈美ちゃんはさ。好きが分からないって言ったけど。



井上くんのこと、好きだって思う気持ちがあったんだよね?

それは、本当の気持ちじゃなかったのかな?


無理に気持ちを押し殺そうとして、苦しくなってたりしない?





確かにね。

好きって言う感情は曖昧だよ。


ドキドキ胸が高鳴るから好き?

一緒にいて落ち着くから好き?


どっちもあるから好き?


それは、みんな間違っててみんな正解。



例えば。



そう言って、ようやく先輩は私の体を解放する。



「わ!!」

突然、大きな声を出す先輩。


「ふふ。心臓ばくばくした?」


私は頷く。


「それ!その胸の高鳴りは俺が好きだからだ。」

なんて、キザに決めた先輩。

意味が分からずキョトン顔の私を定位置の椅子に座らせる。


「今のは強引だったけれど。吊り橋効果って知ってる?」


「はい。」


「うん。あれってね、極論今みたいなことでしょ?」


相手の人にドキドキした訳じゃないけれど、その時の胸の高鳴りを脳が恋だと勘違いしちゃう。


さっきの驚かされて脈が早くなったのを、俺が好きだからだって奈美ちゃんに刷り込んだら、奈美ちゃんの脳はそのうち、俺を好きだって勘違いして、俺の顔を見るとドキドキしちゃうようになる。


まあ、人間には理性があるわけで。確かに賢い。けれど、所詮は動物。



怖くてドキドキするのと、恋焦がれてドキドキするの。全然違うように思うでしょ?


でも、それは思考能力を持った人間が感情に名前や意味を持たせたから、違うものなのであって。

所謂、心。っていうやつね。そいつがそう感じさせてるの。


脳にとっては一緒。

体にとっては、違わないんだよ。



そうやって、考えると。


ドキドキしてるから、何なんだって感じない?





結局、人が人を好きになるのって。

全部、心が決めてるの。


心は、自分自身でも分からないことが多いでしょ。


だから、全部正解で、全部間違ってるの。



ずっとドキドキできるのが恋だって言う人もいれば。

安心できるのが恋だって言う人もいる。


もちろん、両方欲しい人もいる。


それは、一人一人が自分の心と対話して決めてること。




奈美ちゃんにも、それが出来るよね?



ここで、俺にまちづくりの話を聞いて、興味を持って。行動に移した。奈美ちゃんは自分の心と会話して、まちづくりを自分のやりたいことだって、確信して。俺に真っ直ぐ伝えてくれた。


誰かを好きになるのも、それと同じだと思わない?




けど。今のままじゃ、心と対話出来ないのかもね。

無理矢理井上くんを好きじゃないって思ってるままじゃ。


認めてあげてよ。その気持ち。





例え、叶わなくたっていいんだよ?

けど、きちんと区切りをつけて、お終いにしようって、心と対話して決めなきゃ。

終わりに、出来ないよ?



先輩の手が再び頭の上に乗っかる。


「ゆっくり時間かけて。って、言ってあげたいけど。

山口さんがいるから、それも出来ないのかもね。」


奈美ちゃん。

井上くんを、好きな気持ちは悪いものじゃない。


しっかり心と会話して。


奈美ちゃんがどうしたいのか。



井上くんが山口さんとこのまま仲良くして欲しくないなら、それを井上くんにぶつけたっていいんだよ?


それでダメなら、泣けばいい。


俺を泣き場所にしてもいいよ?


そしたら、今度はすっきり次にいける。




もちろん。このまま2人を見守るのも、奈美ちゃんがきちんと心と会話した上で納得して決めたことなら、いいんだよ。



それを決めるのは、奈美ちゃんだから。




結局、堪えきれずに、涙が溢れた。


先輩は、もう一度だけ私を腕に閉じ込めて優しく頭を撫でた。



「奈美ちゃんなら、大丈夫。奈美ちゃんは、素直で真っ直ぐで。感受性豊かで。自分で見つけた答えに一直線に進める強さを持ってるから。」


俺、奈美ちゃんと知り合ってそんなに経ってないけど、奈美ちゃんの素直で真っ直ぐな所大好きだから。





私は、しばらく涙を流していた。

先輩は、何も言わずに隣にいてくれて。



さっき言ったけど、彼女とは別れたから遠慮せずに連絡して?


いつでも聞くから。




私が落ち着いた頃に、そう言って先に資料室を出ていった。

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