初めての勉強会
放課後。
真子と大貴のことで頭がぐるぐるしていると、にこにこ顔の周助くんと目が合った。
「奈美?また、百面相してるけど、大丈夫?」
とりあえず、行こうか?
あ、うん。
周助くんに促されて並んで教室を出る。
辿りついたファミレスで参考書を広げていると、周助くんにそっと手を握られた。
「奈美。ストップ」
顔をあげて目が合うと複雑な顔した周助くん。
「奈美はさ。顔に全部出るから、誤魔化さないで?」
今、何に悩まさてるの?
何をぐるぐる考えてるの?
勉強は話の後で。
そう言って、バタンと参考書を閉じられた。
「真子が。今日教室に来て。」
うん。来てたね。
優しい顔して聞いてくれる周助くん。
「あ、やっぱりいい!」
周助くんの雰囲気に飲まれてその先を話そうとして、思いとどまった。
だって、大貴と真子が仲良いことにもやもやしてるって言ったら、私が大貴のこと好きって言ってるのと同じだもん!
言えるわけない。
「奈美。遠慮しなくていいのに。」
「え?」
周助くんは、ひとつため息を零した。
「言いたくないなら、いいんだけど。」
俺は、奈美に笑ってて欲しいなって思ってるよ。
奈美が俺に話したくなったら、話してよ。
こくんと頷くと、優しく頭を撫でられる。
周助くんは、大貴や桜木先輩と違って。ふわっと触れるか触れないか分からないぐらい、優しく手を乗っけて。
髪の毛を優しく撫でていく。
桜木先輩は、髪をくしゃくしゃかき混ぜるし、大貴はぽんぽんってする。
3人とも撫で方は違うけど、手つきはすごく優しくて。
目が合うと3人の顔が順番に浮かんで恥ずかしくなる。
「奈美?勉強、集中できそ?」
あ、うん。大丈夫。
心配かけてごめん!
謝ると、ふっ。って短く周助くんが笑う。
「いつでも頼ってくれてどうぞ?」
「ありがとう!」
笑顔で返すと、周助くんは頷いて参考書を広げだした。
ふぅ。
周助くんとの勉強会を終えて帰宅。夜、寝る前にココアを片手にベランダに出て、星空を眺めていた。
もう、随分と冷え込むから長居は出来ない。
空を見上げて、勉強会のことを思い出す。
「充実、してたなぁ」
自分たちでも驚くぐらい、私と周助くんの分からないポイントが、お互いの得意な所と合致していて、お互いレクチャーしあっては、ほーと感嘆を漏らす。
一人で悩んで解決しなかった疑問がするすると解決していく。
周助くんも、私の解説を聞きながら表情が段々晴れていった。
だから、きっと。私と同じように感じてくれているかな?
最後に、また明後日も一緒に勉強しようと、約束した。
それぐらい、有意義だった。
ふぅ。
また、ため息が漏れる。
真子は、大貴を…………
この先は、言ってしまっては認めたくなくても、認めなくてはならなくなるから、言いたくない。
それに、文化祭の時、周助くんと写真撮って嬉しそうに笑ってたよね?
周助くんのこと、気になってたんじゃ?
くるっと、自室の方を向いて、机に飾られた周助くんとのチェキを見やる。
その横に並ぶ、クラス写真を見つめる。
少し詰まらなさそうな顔で写っている大貴。
はぁ。
また、ため息を零してココアを口に含むと、後ろからガラガラと大貴の自室のベランダが開く音がした。
大貴の自室の方を見ると、大貴が顔を出す。
「風邪、引くぞ?」
鼻、赤くなってる。
慌てて鼻をさすると、鼻の冷たさにも、触れた手の冷たさにもびっくりする。
ココアもすっかり冷え切っていた。
そんな私の様子を見ながら大貴が肩を揺らして笑っていた。
「あほ」
ぽつり、悪態を吐いた人の表情とは思えないぐらい、優しい顔。
視線が絡むと目が逸らせなくなって。
沈黙。
大貴がふいと、視線を逸らした。
「奈美。お前、周助のこと………」
言いかけて大貴は、口ごもる。
「なに?」
何でもない。
そっぽを向いた大貴の横顔を見ていても何も分からない。
真子のこと、聞きたいような聞きたくないような。
また、沈黙。
2人同時にお互いをみやって。目が合って2人で吹き出した。
「アホらし。」
大貴は、そう呟いた。
「大貴?」
もしかして、また私が悩んでると思って?
視線で問いかける。
「奈美が、そうやって笑ってるなら、いいや。」
「うん。」
私もね。そう思うんだ。
大貴の隣がたとえ私じゃなくても、大貴がそうやって、穏やかに笑える相手なら、いいの。
幸せでいて欲しいの。
だから、伝えないから、今はまだ。
その笑顔にときめく私を許してね。
「くしゅ」
くしゃみが出てしまった。
大貴は、くるっと踵を返して自室へ向かう。
「もう、部屋に入れ。テスト受けられなくなるぞ?」
それは困る!
そう言って慌てて自室へ飛び込んだ。
暖房が効いてポカポカする部屋に入ると、生き返ったように全身が温まる。
もう一度、大貴の自室を見やる。
もう、そこに大貴はいない。
カーテンも閉められて、大貴の姿も確認出来ない。
私もカーテンを閉めて、学習机に向き合う。
写真の中の大貴を見つめ、視線は自然と周助くんにうつった。
「頑張らないと。周助くんに負けていられない!」
参考書を広げて、勉強を再開する。
一息ついてから、ちらとカーテンを開けて、大貴の自室を見る。
電気が消えていた。
もう、寝たのかな?
ふぁー
あくびが漏れる。
私も、もう寝よう。
明日の用意を整えて、ベッドへ潜り込んだ。
桜木先輩、どうしてるかな?
文化祭以降、会っていない先輩のことがふと頭を過ぎる。
先輩、最後のテストだもんね。
1位とれるよね、先輩なら。
静かに先輩にエールを送って目を閉じた。
私、先輩のことどう思ってるのかな?
好き、なのかな?
大貴といると、最近はずっとドキドキ。
笑ってくれると嬉しいし。
触れられると、心臓がバクバクして煩い。
目が合うと、喋れなくなっちゃう。
周助くんは、落ち着く。
こんな仲良くなった男の子は、大貴以外初めてだから、分からないけど。
恋愛とかじゃなくて、ほっとできる場所。って感じ。
居心地が良くて安心。
時々、ドキってしちゃうけど、それは私が経験無さすぎるからかな?
桜木先輩は。
なんだろう。
どっちもな気がする。
大貴といると感じる落ち着かないソワソワしちゃうような、感じ。
ドキドキして、恥ずかしくなっちゃう。
でも、柔らかく微笑む先輩に安心するし。
人懐っこい笑顔で笑ってる先輩といると、私も笑顔になって楽しくて、居心地いい感じもある。
好きって何なのかな?
もう、分かんないや。