祭りの終焉
周助くんとまわって帰ってくると、クラスはフィナーレに向かって最高潮のテンションになっていた。
佳代に耳打ちされる。
「デートはどうだった?」
ちがっ!そんなんじゃない!
慌てて否定した私に佳代は意地悪に笑う。
ふーん。ちょっとは意識してるんだ?
だから、友達!!友達になったの!!
周助くんは友達、友達。と、念じながら着付け、メイクを終える。
会場整備をしていると、真子が姿を表した。
「奈美ー。お疲れ様」
「真子!来てくれてありがとう」
真子は少し恥ずかしそうに私に耳打ちをする。
「あの、内山くん?
陸上部の子だよね?」
そうだよ。と返事をすると。
お願い、奈美。私、内山くんと写真撮りたい!
ほーー。さては、真子。周助くんに惚れたんか。
ニヤニヤと笑いながら了承する。
級長に慌てて伝えにいく。
あの子、私の友達なの。
内山くんと写真撮らせてあげて!
級長は親指を立てて返事をしてくれた。
「おーけー。任せな!」
私も親指を立てて、笑い返した。
最終ステージを眺めながら、祭りの終焉が悲しくなっていく。
教室の隅に大貴を見つけ、こっそり見つめた。
結局、大貴とは何もなかったな。
あれ?私、大貴諦めるんじゃ。
なんで、今更。
こんなん、全然大貴のこと、好きみたいじゃん。
複雑な想いのまま、フィナーレを迎えた。
級長は約束通り真子を指名してくれて、真子は周助くんと写真を撮っていた。
級長がニヤニヤしながら、もっと近付けよーと、特大サービスをしていて、周助くんはその要望に応えていた。
ちょっと微妙な顔した周助くんと目があったような気がした。
真子は、にこにこしながら周助くんとのチェキを持って帰っていった。
「奈美ー!ありがとう!!」
観客が全員帰ると、周助くんが私に近付いてくる。
「級長、最後にさ。俺と奈美の撮って。」
「え?周助くん?」
びっくりして周助くんを見ると、ぐいっと体を引き寄せられて、私の肩に周助くんの手が周り、先程真子と撮っていたよりも、近い距離になっていた。
級長はニヤニヤしながら、ほら、撮るよーと私たちに声をかけた。
私は戸惑いながらも、カメラに笑顔を向ける。
シャッターが切られた時、大貴と目が合ったような気がした。
周助くんは、満面の笑顔で私に告げる。
「これで、女友達としての思い出残せたね?」
私は吹き出す。
「そういうこと!なんか距離近いと思ったら、女友達ね!」
2人で笑いあってると、クラスメートたちは、なんだそういうこと。
てっきり、そういう関係かと思ったわーと、周助くんを茶化していた。
チェキは、私が貰うことになった。
翌日。体育祭。
昨日の興奮そのままに、体育祭もかなり盛り上がる。
桜木先輩は借り物競争に出ていて、校長先生と走って笑いをとっていた。
桜木先輩は、クラスの中心人物のよう。
先輩の人懐っこい笑顔は、人を幸せにするもんね。
ぽけーっと眺めていると、大貴に後ろからチョップを食らった。
「顔。ひどいぞ。そんな顔、周助に見せんなよ。」
私がなにか言う前に大貴はどこかへ行ってしまった。
私、どんな顔してたの?
周助くんに見せるなってどういうこと?
ひとり、考え込んでいると、今度は後ろから周助くんに、肩を叩かれた。
「奈美。大丈夫?百面相してるよ?」
「うっそ!」
振り返ると、にこにこ楽しそうな周助くんがいた。
「面白いからいいけど、眉間に皺が寄った顔はいただけないよ?」
そう言って、周助くんに眉間をとんと小突かれた。
周助くんの顔がそのまま近付いてきて。
「リレー。出来れば俺のこと見てて。」
耳打ちされた。
今日は、女装メイクしてないから、心臓が飛び跳ねた。
赤面した私を見て、周助くんは満足したみたい。
自分の席へ戻っていった。
うっわーー。
今の何??
なんか、周助くんって友達の距離感近くない?
もしかして、男の子通しはあんな感じなの?
やっば。私免疫無さすぎて。
一人、百面相を続けていると、今度は佳代に笑われる。
「ほんと、奈美は見てて飽きないわ。」
自分の出番が終わって、いよいよラスト。
リレー対決。
1チーム4人で、うちのクラスは周助くんは3番手で、その次アンカーが大貴。
1~3番手は半周。アンカーは1周で競う。
さっき、周助くんに言われたことが、頭から離れなくて周助くんを思わず見てしまう。
けれど、大貴のキリっとした表情が目に止まった瞬間、もう他に何も見えなくなってしまった。
ああ、大貴が走る時のこの表情好き。
スタートの合図が鳴る。
一斉にスタートを切ったランナー。
応援席が盛り上がる。
私はそんな喧騒の中、ただ大貴の表情に見惚れていた。
「内山、いけー!!」
はっとした。
気付いたら内山くんが、2番でバトンを受け取っていた。
「周助くーーん!!頑張れー!」
大きな声で声援を送る。
段々と距離が縮まるも抜けないまま、バトンは大貴へ。
私はまた、大貴に釘付け。
両手を握りしめて、大貴を見つめる。
「大貴。」
ぼそっと呟く。
大貴が私たちが応援している応援席の目の前でついに、1位となった。
応援席がより一層湧く。
大貴はそのまま1位でゴールした。
私は腰が抜け、へなへなと地面へ膝をついた。
大貴。
なんで、そんなカッコイイとこ見せるの。
私、また大貴しか見えなくなるじゃん。
ダメなのに。
2番手でバトンを受けたとき、奈美にいい所を見せようと思った。
応援席からの声は走っていると正直、あまり聞こえない。
けど、
「周助くーーん!!頑張れー!」
奈美の声援ははっきり届いていた。
スピードをさらにあげるが、追い抜くことは叶わず大貴にバトンを、つないだ。
大貴、勝ってくれ。そう願いレースを見守る。
応援席を見やると、奈美が泣きそうな顔で大貴を見つめていることに気づいた。
奈美。やっぱり。俺じゃダメなのか。
大貴が1位でゴールすると、力が抜けたように座り込む奈美の姿が見えた。
俺は、見せ場を持っていった級友に駆け寄って声をかける。
ありがとう。
大貴は笑う。
みんなのおかげだろ?
他のレースを見るため、待機場所へ移動する。
そこで。こそこそと大貴に話しかける。
「奈美。お前のことめっちゃ見てたぞ」
大貴にそう言うと、バツの悪そうな顔をする。
「いや。周助のこと必死に応援してたろ。いつの間にか名前で呼んでるし」
「奈美。泣きそうな顔でお前のこと見てたよ。」
少し考え込むようにして大貴は口を開いた。
気の所為だろ。
応援席に戻っていくと、奈美は真っ直ぐ大貴の元へ走りよって行った。
「大貴!おめでと!!かっこよかったよ」
ふわりと笑う奈美。
ああ、その顔。やっぱり大貴専用なんだな。
ぼんやり見てると、大貴が奈美の頭に手を置く。ぽんぽんと優しく叩くて奈美に告げていた。
「ありがと。けど、言う相手間違ってるぞ」
一瞬、大貴の表情が和らいだ。
しかし、すぐに意地悪な顔で奈美を小突いている。
奈美はプクッと、頬をふくらませて、俺の所へやってきた。
「周助くん!お疲れ様!!凄い早くてびっくりした。」
にこにこ笑顔。
けど、やっぱり大貴に向けるふんわり笑顔じゃない。、
「ありがとう。俺にはないの?格好良かったって?」
大貴への、嫉妬心から奈美の頭へ手を伸ばす。優しく奈美の頭を撫でた。
ふわっとした柔らかい髪にドキマギした。
風が吹いて、俺の鼻腔に奈美の匂いが届く。
ああ、今すぐ抱きしめたい。
そんな思いを隠すように奈美の髪を撫でながら手を離す。
「周助くん。……格好良かったよ。」
少し上目遣いに、ボソボソ告げる奈美。
は?なに、この可愛いの。
俺は赤面した顔を隠すように背け、言葉を返した。
「お、おう。サンキュ」
やばい。幸せで死ねそうだ。
奈美は、少し特別な存在から、この文化祭を通して俺の好きな人になっていた。