一緒にまわろう
文化祭1日目。朝。
前日の大貴との件で、閉じ込めていた大貴への想いが溢れてきていた。
大貴ともっと話したいな。
また、頭ポンポンてして欲しいな。
そう考えながら、文化祭だから気合を入れてお団子ヘアにした。
大貴、なにか言ってくれるかな?
そんなわけ、ないか。
今日も定刻通り進む電車の中、大貴のことを考えていた。
ショーの準備をしていると放送が流れ出た。
おはようございます。
本日は、待ちに待った文化祭。
皆さん、思う存分楽しみましょう。
生徒会長の挨拶が流れ、BGMが流れ出す。
文化祭の幕間けに胸が高鳴った。
楽しいこといっぱいだといいな。
ショーも成功させたいし。
佳代とまわるのも楽しみ。
桜木先輩に会えるかな?
内山くんとも、まわるんだもんね!
一人ニマニマしていると、教室は一気に慌ただしくなっていた。
第1部まで後、1時間。
大慌てでメイクをしていき、終わった子達がチラシと看板を片手に飛び出していく。
宣伝隊、がんばれー!
みんなを見送ったら、休むまもなく会場整備。
忙しくしていると、よく知った声に呼び止められる。
「奈美ちゃん。」
にこにこ顔の桜木先輩が立っていた。
クラスの友達と一緒に見に来てくれたみたい。
「あ、先輩!おはようございます!」
嬉しくなって笑顔で駆け寄る。
「ふふっ。お団子可愛いね。けど、残念。お団子ヘアじゃ、頭撫でられないね。」
先輩は、楽しそうに笑ってみせた。
私は可愛いと褒められ、顔が赤くなってしまう。
「あ、ありがとうございます。せ、席はこちらです。」
動揺を隠しながら、しどろもどろに案内すると、先輩の友達からもからかわれてしまった。
恥ずかしい思いをさせた先輩を恨めしそうに、見つめている間に、あっという間にお客さんが集まって。
教室に入り切らずに、廊下に立ち見もたくさん出た。慌てて裏方さんが廊下の窓を外してくれた。
宣伝隊も戻ってきた所で、みんなで円陣を組む。
2年H組、ファイ、オー!!
皆が声を揃えて気合を入れた。
司会役の子が舞台にあがり、挨拶をする。
ショーがいよいよスタート。
私服部隊、パジャマ部隊がランウェイを順に披露していくと、観客は徐々に盛り上がりを見せる。
チャイナドレス部隊が舞台に上がると笑い声で会場が包まれた。
観客席にむけてしきりに投げキッスをお見舞いしているみんな。
私たちも可笑しくて、声を出して笑った。
笑いが治まらない中、突如流行りのアイドルソングが響く。
舞台に制服部隊が手を振りながら登場した。
瞬間、沸き立つ会場。
センターを務める内山くんに、あちこちから
可愛い!
誰、あいつ?
すげー!完成度高い!
と、歓声が集まる。
私の視線も内山くんに釘付けだった。
うん。やっぱり完成度高いー!
けど、あれで筋肉すごいんだもんなー。
準備の時に見た、内山くんの筋肉を思い出し、少し赤面。
内山くんを見ている間に、曲が終わって制服部隊ははけていった。
トリは、浴衣部隊。お祭りの定番ソングが流れ、浴衣部隊が彼氏役の子と腕を組んで登場する。
花火大会を見に来た設定で、ミニコント。これがまた、かなり受けていて、客席からは笑い声が。
クライマックスは、カップル役のみんながキスのフリ。
会場中が男子のどよめきと女子の甲高い悲鳴で沸いた。
こうして、大盛況のうちに、1部が幕を閉じた。
すると、舞台に登る級長。
手にはチェキが。
ん?
こんな演出聞いてない。
みんな、顔を見合わせて困惑。
級長がマイクを握り宣言した。
「ここで、緊急企画!
出演者とツーショットチェキタイムです!」
今から10分間、指定した子とチェキが取れます!!
級長が言い終えると観客が沸く。
撮りたい人ー?と、級長が尋ねると会場中から手が上がる。
級長が指名した人が次々と舞台にあがる。私たちも大慌てで対応。
なんと、内山くんは女の子から圧倒的人気。
ヘアメイク担当の私は誇らしい気分で、その様子を見ていた。
チェキタイムが終わると、級長がマイクでアナウンスする。
2部3部でもチェキあるよ!
今回撮れなかった人は、次もぜひ来てね!
なるほど。リピーターを作る作戦かな。
なら、何故飛び込み企画にしたんだろう。
そう思っていると、級長が出演者を集めて言う。
「これで、お前達に拒否権はなくなった。頼んだぞ!」
なるほど。写真を撮られるの嫌がって恥ずかしがる人もいるから、当日まで秘密だった訳ね。
うんうん頷きながらみんなを見ると、項垂れている人が数人。
ご愁傷さまです。
その後。
休憩時間に佳代と他のクラスを見てまわる。
桜木先輩のクラスに行ったら、喫茶店をやっていて、コーヒーを頼むと先輩の彼女が、睨みを効かしながら提供してくれた。
私はすっかり敵視されているみたい。
真子のクラスのベビーカステラも食べて、大満足の1日目。
2日目。2部終了。
本日も大人気の内山くんが、ヘアメイクはそのままに、自分の制服に着替えて戻ってきた。
そのままなの?と、尋ねると
面倒だからって笑って言う。
「これで、内山くんが女の子の制服のままだったら、本当に女友達とまわってるみたいだったのに!」
そう茶化すと、内山くんは複雑な表情を見せる。
「俺が女友達ならよかった?」
「え?そんなことないよ!内山くんが男の子だってちゃんと知ってるよ?」
そう答えると、内山くんの顔が近づく。
「ほんとに?俺、男になっていいの?」
女装メイクした内山くんが真剣な顔して言うから、私は思わず吹き出した。
「はぁ。冗談だよ。行こうか、奈美。」
「え?」
固まる私。
内山くんと目が合う。
「名前、呼んじゃダメだった?」
言葉が出てこなくて、首を横に振るので精一杯。
な、なんで、いまドキッてしたの??
パニック状態の私に優しい笑顔で内山くんが告げる。
「ん。じゃ、決定ね。俺のことも周助って呼んで。」
「あ、うん。周助……くん」
大貴以外の男の子を呼び捨てにしたことなんかなくて、思わずくん付けで呼んだ。
内山くん、いや、周助くんは、嬉しそうに笑って言った。
「今は、それでいいや。」
もう、考えるのやめよ。
うん。今は周助くんと文化祭、楽しもう!
ひとつ、気合を入れ直して歩きだした。
パンフレットを眺めて、あ!縁日だ!ここ行きたい!なんて話していると、
ドンッ
こちらに向かって来た人と肩がぶつかってしまった。
「あっ、すいません。」
お互い頭を下げる。
すると、突然私は手を引かれた。
「奈美?人も多いし、危ないから手繋ぐよ?いい?」
繋がれた手を見つめ、私は頷くことしか出来ない。
あ、男の子と初めて手、繋いでる。
けど、あんまりドキドキはしないなぁ。
周助くんは、照れたようにそっぽを向くと私の手を引いて歩き出す。
周助くんは、女装メイクのままだから、よく目立つ。
私たちのファッションショーを見に来ていた子達が、周助くんを見つけて、ヒソヒソ話している。
あれ、彼女なのかな?
う、彼女じゃないでーす
友達でーす
と、心の中で否定して歩いた。
たくさん遊んで教室に戻ると、周助くんに連絡先を聞かれた。
「男友達と、連絡先交換ーー!!」
一人感動している私に、周助くんは、柔らかく笑う。
「俺なんかの連絡先で感動してくれて、ありがとう」
連絡先を交換し終えると、周助くんは着替えに向かう。
扉を開けたところで、ふいに振り返る。
「そうだ。言い忘れる所だった。」
今日の髪型似合ってる。可愛いよ。
突如、男の子の表情でワントーン下げて言うから、女の子のメイクしてる顔とあまりにも不釣り合いで。
ドキッとするよりも、面白くなっちゃって、私はまた吹き出した。
「はぁ。この格好じゃ決まんねぇ」
ぼそっと周助くんが何か呟いたけど、私は聞き逃していて、聞き返しても周助くんは、何でもないってそっぽを向いてしまう。
3部の時間が迫り、私たちはまた慌ただしく準備を始めたのだった。