お祭り前夜
私たち2年H組の文化祭準備はすこぶる順調に進んだ。
文化祭前最後の土曜日は、1日使って本番さながらのステージを組んで、最後の衣装メイクリハーサルをして、本番同様にショーのリハーサルをした。
制服組のダンスは息がぴったりで、完成度が高い。
ミニスカートの女装男子がターンを決める度、裏方の男子たちがふぅーとはやし立てる。
これは、男と分かっててもドキドキすんなー。
仕上がりはばっちりだ。
リハーサルを終えて、メイクオフタイム。
内山くんと談笑をしていた。
「斎藤さん。当日もこんな感じでよろしくね!」
「もちろん。ばっちり可愛くするね!」
2人でハイタッチを決めて笑いあった。
内山くんはふいに、真剣な顔で私を見た。
「あの、さ。斎藤さんは宣伝隊の時間空いてるんだよね?
俺、2日目の午後、3部までの間空いてるんだけど。集合時間まで俺に時間くれない?」
「え?」
なんと返事をしようか悩んでいると、内山くんは笑顔を見せた。
考えといて!
そういって、内山くんは走り去っていった。
私、内山くんに一緒に回ろうって誘われたの?
状況を理解するのに、たっぷり時間を要した。
んー。友人として私ともっと仲良くなりたいのかな?
勝手に勘違いしても良くないよね??
内山くん、ほんわかだし。喋ってて落ち着くし。
一緒にまわるのは、全然大丈夫だし。
佳代に聞いてみた。佳代はその時間、部活の子とまわるらしい。
行ってくれば?
佳代に言われて頷いた。
いよいよ、文化祭前日。
この日は1日文化祭準備のため、授業はなし。
教室の飾り付けをして、宣伝隊のためのチラシや看板を作った。
黒板にも飾り付けを施し、準備が整った。
澤谷先生が差し入れにアイスを買ってきてくれて、みんなでアイスを食べて決起集会をした。
級長がみんなの真ん中に立つ。
「明日は俺たちの晴れ舞台だ!去年を超える動員数を獲得するぞ!!気合を入れろーー!!目指せ、優秀賞!!」
おー!!!
みんなで拳を天に突き上げる。
どうか、文化祭が成功しますように。
天を仰いで祈りを捧げた。
顔を下げると、内山くんと目が合った。
私は内山くんに歩み寄る。
「内山くん。この前の話だけど。返事遅くなってごめん。いいよ!時間空いてるから、一緒にまわろ?」
内山くんはほっとした表情をして、はにかんだ。
「楽しみにしてる。」
その夜。自室のベランダに出て、星を眺めていた。
桜木先輩の天文学の話を聞いてから、時々こうして星を眺めるようになっていた。
ガラガラ。
隣の家のベランダが開いた。
大貴だ。
私の自室と大貴の自室は隣通しで、乗り越えようと思えば乗り越えられる。
昔、大貴がベランダから私の部屋に遊びに来ていたこともあった。
しかし、大貴はこうして夜にベランダに出る習慣がないため、今まで1度も鉢合わせたことがなかったのだ。
「よう。」
片手に炭酸飲料のペットボトルを持って、ベランダに出てきた。
「珍しいね。」
大貴が歩み寄ってきて距離が近づく。
私がしていたみたいに、空を見上げる。
「たまたま、外見たらお前が空見上げてた。」
「星、見てたの」
短くそう答えると、大貴は視線を私に戻した。
「そっか。」
私がベランダにいるのが分かって、外に出てきてくれたの?
喋ろうと思って?
大貴になんて言ったらいいか分からなくて、押し黙っていると大貴が沈黙を破った。
「奈美。周助と仲良いんだな。文化祭、一緒にまわることになったって嬉しそうに報告されたぞ。」
ああ、それが言いたかったのか。
「うん。内山くんに誘われて。」
「あいつ。いいやつだぞ。優しいし。」
大貴は再び空を見上げた。
盗み見た大貴の横顔から、大貴の心情は全く分からない。
「分かってるよ。 あんなに、ほんわかした男友達は初めてだから、大事にしたいもん」
「ふーん。友達として?」
大貴は、また、私を真っ直ぐみる。
私も真っ直ぐ大貴をみた。
「うん。友達だもん。」
「ああ、そか。奈美、今3年の先輩と仲良くしてるのか」
大貴は合点がいったとばかりに、相槌を打ち、ペットボトルに口をつける。
「先輩は、違うよ。彼女いるし。」
「あっそ。」
大貴は私に誰か他に好きな人がいて欲しいのかな?
私、大貴のこと本当に好きで。
今でも、まだ想いは消えてないんだよ。
大貴を見つめていると、大貴がかすかに笑顔を見せた。
「ま、幼馴染だし。付き合い長いから、お前のことは良く分かってるつもりだよ。
だから、好きな男のことで悩んでるなら話してみろよ?いいアドバイス出来ると思うぜ?」
「違うよ!悩んでたんじゃなくて、ただ空を眺めてたの!最近、星見るのが趣味なの。」
そう言うと、あっそ。と返事をしてこっちを見ないまま、おやすみ、と一言寄越して自室へ下がっていく大貴。
大貴。
変わんないな。
きっと、私が一人思い悩んで空を眺めてると思って、心配して声かけてくれたんだよね。
そういう不器用な優しさ、好きだな。
それで、私が泣きそうな顔してると、頭をくしゃっと撫でてくれて困った顔して笑うの。
何回もその大貴の優しさに救われてきた。
また、頭撫でて欲しいな。
私は、自室のベットへ潜り込みながら、大貴との思い出を噛みしめて眠りについた。