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置き去りにしたもの
声が聞こえてきた
笑っている
怒っている
泣いている
叫んでいる
ひとつが聞こえるとひとつ重なり
ひとつが消えると また重なった
呼ばれた気がした
誰かが返事をした
殴られた
誰かが叩かれた
震えることも
怖がることも
泣くことも
喜ぶことも
その誰かからは
感情が伝わってこない
微かな光が見えた
人影があった
人影は
幼い私だった
しっかりと目を開き
なにかを見ているようで
なにも見ていない
じっと耐えているわけでもなく
ただ なににも反応を示さない
暗い中で
ぽつんと座っている
幼い私のいるところだけ
ぼんやりと明るい
声が聞こえる
笑っている
怒っている
泣いている
叫んでいる
幾重にも幾重にも響く
幼い私は座ったまま
なにも聞こえないかのように
表情をぴくりとも変えない
私は聞こえた声に
恐怖で周囲を見渡す
なにも見えない
声が響いているだけ
私は
気が狂ったのだろうか
そうだ
そうだろう
だから幼い私は
目をしっかり開いたままでも なにも見ずに
こんなに声が響いていても 反応もせずに
ただ座っている
私は幼いころに
感情を放棄して
座っているだけを選んでいた
響く声は
放棄した感情たちだ