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魔法使いの「願い事6つだけ」   作者: 汐田 瀬羽音
第1章:カシオペイア編
1/14

プロローグ:Hello morning!さよなら日常

ピピピ…ピピピピピ…ピピピピピ…

ああ、今日もこの音が鳴ってしまった…。

というよりは聞いてしまった…。


一日の始まりを知らせる音が部屋に鳴り響く。


次第に音量が大きくなる目覚まし音に少女は不機嫌そうに手を動かす


「んあ…もう、ちょっ…だけっ!」


と絞り出すような声を発しながら手の甲で騒音の元凶を払いのけた。


ガタンッ、カララン。


カララン…?何か余計な音が聞こえた気もするが

今は細かいことは気にしない、気にできない、眠りたい。


「…カ…、今日…やろ?お母さん…早番…から…行くからね…ちゃんと…やで!」

聞きなれた声が少女に向けて放たれるが、

部分的に意識が睡魔に飲まれて思考が言葉の意味を理解するまでに至らない。


とりあえず、知っている声なので少女は一言反応を返すことにした。

「んー。ふぁい」


朝日がカーテンの間から差し込み

顔に温かい日の光を感じながらも幸せな時間を堪能していると

またもや騒音が少女の眠りを妨げた。


トゥルルルルルル…トゥルルルルルル…


少女は眉間にしわを寄せ、本能的に、直感的にめんどくさいやつだと気づいた。

音量は一定、しかも自分の部屋の外から聞こえている…

これは…電話だ。


トゥルルルルルル…トゥルルルルルル…

少女はモジモジと布団の中で電子音が収まるのを待っているが、なかなか鳴りやまない。


「どぅわーーーーー!」

とうとう覚悟を決めたのか、少女は両手を万歳の形で布団から

上体を起こすような形で目覚めた。


おもむろに少女は立ち上がり、目を開けているのか閉じているのかわからない状態で

電話の方へ歩きだし、体や足を何回か壁や家具にぶつけながら受話器をとった。


「ふぁい、もひもひ」

まるで入れ歯を忘れたおばあちゃんのような声で応対すると

母の怒号が彼女の体を稲妻のように走った。


「あんた!まだ家におったんか!しかも今起きたやろ!?

 雫ちゃんから待ち合わせ時間になっても来ないって心配の電話着たで!

 入学試験!遅刻で受けられへんくてもお母さん知らんからね!」


ブツッ

電話の切れる音から自分が何をやらかしたのか光の速さで理解し、

体は電話をとる前とは裏腹に意思を持って走りだした。


「あーーー!なんでなんで、入学試験から遅刻なんてありえないから、いつもより1時間早く目覚まし合わせたのに…!スヌーズは!?」


時刻を天井に向かって知らせている目覚まし時計を片手で鷲掴みするように拾い上げると、時計は目覚ましを設定した時刻で止まっており、電池がそばに転がっていた。


「あーー!今何時!?まだ間に合うかな…なんでお母さん起こしてくれなかったんんん!」

母への不満を言い切る前に、少女は壁掛け時計を見て目を見開き、唸った。


入学試験20分前、通学距離、徒歩20分


家の中でありったけの力で投げられたスーパーボールのごとく身支度をすませ

少女は家を飛び出した。







まだ現代に魔法という未知の力が発見され

その力が人々の生活に普及し始めて間もない頃。

才ある一人の魔術師が人々に安全で便利な生活を送れるよう、

魔術を教える魔法アカデミーを設立。


数々の優秀な魔術師を排出し、人類の生活は今、劇的な変化を迎えようとしていた。


ある者は空気を操り、自分の周囲を快適な温度に保ち、夏場でも服を汗で湿らせることなく生活を送ったり、またある者は雨の日でも傘をさすことなく、体が濡れるのを防いだりする。


誰もが悩まされたことのある事象に対して、周囲の人より涼しげな顔で生活する魔術師に誰もが羨み、憧れを抱くなか、中学を卒業した私も魔法に憧れ、魔法アカデミーへの入学を志す。


アカデミーの入学には魔法が十分に普及している世界で

3年間の生活経験をつまなければ資格が与えられない。


この3年間の生活経験というものが実質、入学試験になっており、

アカデミー入学希望者は書面手続き後、試練の扉というものを潜り

その扉の先の世界で3年間生活をしなければいけない。


日々の暮らしの中で当たり前のように魔法に触れ、魔法とより密接な関係を築きあげねば

魔術への理解は深められない…とかなんとか。


そして今日はその魔法アカデミーの入学試験日。

そんな大事な日に寝坊をしてしまった私、ただいま全力疾走中。


顔を洗い、歯を磨き、着替えをすまし、前日に済ませたバッグを手に…したつもりだったが

全力疾走中の私の両手はきれいな握りこぶしを作って風を切っている。


「…!!!!」

頭が一瞬真っ白になりながらも冷静さを取り戻そうと鼻から大きく息を吸った。

ここまでで5分以上ロスしている、今更取りに帰っている時間はもうない。


そんな息を荒げながら走る私の横をスーッと長い黒髪で自分より少し年上の女性が横切った。


よく見るとアカデミーの制服を着ており、走る私を追い越したその女性の足は動いておらず、地面から少し浮いた状態で自転車と同じくらいのスピードで通り過ぎていった。


やや前傾姿勢で移動する姿はまさに飛んでいるといっても過言ではない光景。

「く~~~!ずるい…!あーーいいなあ!!!」


徒歩20分の通学距離。


家族からは自転車の購入を勧められたが、魔法を身に着けたらどうせ使わなくなると啖呵をきった自分に若干の後悔がある。


自分を高速で横切った女性に対して

悔しさと憧れと羨ましさが同時に降りかかり、目を少しうるわせながらも必死に走った。



ーーカーン、カーン、カーン。


アカデミーの予鈴が鳴り響くころ、普段は髪を結っている私は

ボサボサの髪を肩まで下ろした状態で試験会場の列に並んでいた。


「…ちゃん、…ちゃん」


食事も取らずに全力で走ったせいか、意識が少し遠のきかけていたところに

誰かに呼ばれたような気がした。


声の方に視線を向けると、見慣れたが親友が心配そうな顔で立っていた。


「ああ…ごめんね。雫ちゃん。初日からやらかしちゃった」


「だ、大丈夫…?携帯に電話したんだけど通じなかったから、おばさんに連絡してみたんだけど…」

どうやら私は目覚まし時計を払い飛ばしただけでなく、無意識のうちに携帯の電源も切っていたらしい。

その携帯も忘れてきた始末。


「え…あー。ごめん…。雫ちゃんからお母さんに電話してくれてなかったら今ここにいなかったと思う…。ありがとーーー」

と感謝の言葉の最後は息を吐きながら彼女に体を預けるような形となった。


「ちょっと!大丈夫?医務室行く!?」


「だーいじょうぶ、だーいじょうぶー」

と私は少し陽気に答えて、心配する親友を安心させようとした。


たぶん頭に酸素が足りていないのもあったけれど

それ以上に入学試験という緊張を前に知っている人がそばにいて安心したのが大きかったと思う。


乱れていた胸の鼓動も収まった頃、

ふと自分が周囲の人と手荷物以外に違うことに気がついた。

ゆっくりとあたり見回し、もたれている親友の姿を確認する。


「ん…?うーん…。」


やっぱり違う…。

そうわかった頃には、親友にあつい抱擁を交わしていた。


「雫ちゃん…!」


「わあ…!ど、どうしたの?」


「雫ちゃん…私だけ中学の頃の制服や!卒業した学校の制服着てきてしもうたー!」


私服姿の親友の肩に顎を乗せる形でうなだれる私を、よしよしと慰める親友。

そんな優しい雫と接する度に、もし自分に姉がいるならこんなお姉ちゃんが良いと何度思ったことか。


でも雫のほうが自分より少し背が低いため、傍から見たら、出来の悪い姉を持ったしっかり者の妹が姉を慰めているようにしか見えなくもない。


そうこうしている間にアカデミーの先生から入学試験に関する案内が終わり、


その案内をほとんど聞き流す形で頭に入らぬまま、試験の扉が開かれた。

列の先頭から扉の中へ一人、また一人と開閉ごとに吸い込まれていく。


親友と軽く別れの挨拶を交わし、気が付けば自分の番となっていた。


「あら貴方、荷物はそれだけ?」

アカデミーの先生らしき人が扉を前にした私に問いかけてきた。


ふと左手に目をやると見慣れないポーチを手にしていた。


「ん?あ、はい。」

と生返事をしながらも、ポーチの上品なデザインから

おそらく雫が持たせてくれたものだろうと感じ取った。


「それじゃあ、扉を開いてまっすぐ進んで頂戴。3年後、また会いましょう。」

先生からの案内をうけて私はドアノブに手をかけてゆっくりと開いた。


扉のいきつく先は志望生それぞれ違う場所にたどり着くとのことだけれど、

ワクワク感やドキドキ感は一切なく、正直にこわいと感じた。


普通、扉を開けば、その先に見える光景は目的地に繋がる世界が広がっているものだが、

私が開いた扉の先には、真っ暗で何か奥で蠢いているような光景が広がっていた。


「あ、あの…」

何かの間違いだろうと先生に戸惑いの視線を向けるが

先生は「頑張って」と言わんばかりの笑顔を向けてくる。


おそらくここから試験は始まっているのだろう。

私はそう考え、思い切って右足を前に出した。


第一歩を踏み出すとそこに地はなく、

足はするりと吸い込まれ、それにつられるように体は扉に吸い込まれてしまった。


「あっ…!」

思わず発した声は響くことなく、静かに体と一緒に扉の世界に飲まれていった。


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