第二話
私の左手から生えた謎の植物は次第に伸びていき、10センチほどの細い枝のようになった。
運がよかったと言えば、生えたのが利き手じゃない左手であることだ。右手に生えていたら、もっと生活に不便なことだろう。しかし、日常生活に差し障りがあるのは変わらないので、私は再び、医者に行った。
医者は心底、困った表情で、検査入院を勧めた。それに関して私は意義を唱えるつもりはなかった。どうせこの手では仕事も出来まい。なら、入念に調べてもらった方が、会社に対する言い訳にもなる。何より、ちゃんと調べることで、今度こそ木が取り除けるかもしれないと私は期待した。しかし、結果は意外な展開を迎えた。
「この木、切らない方がいいかもしれませんよ」医者は前に来た時と同じように言った。
「ここまで大きくなっているんですよ?切らないと私は死んでしまうかもしれない」
激昂する私に医者は、困惑な表情を浮かべ、机にあるパソコンの画面を私に見せつけた。前にテレビで見たことがある、血液の流れを視覚化した映像であった。
「実は血液がサラサラになっているんです」医者は不可解そうな表情になった。
私はパソコンの画面を見る。血液が止め処なく流れている。ドロドロの血液だとすぐに詰まって流れが悪くなるはずだ。
「まさか、あの木のせいで?」
「そうとしか、考えられません。脂肪、血糖値が健康な人間が示す数値になっています」
私は左手から生える木を見つめた。木から生える根は浮き出た血管に絡まっている。まさか、木はこの血管を通して、私の中の不要な脂肪と糖分を吸収しているというのだろうか?だが、そう思わされる事実があった。私の体重はメタボ予備軍になる前の状態まで減っていたのである。お腹についた皮下脂肪もかなり落ちている。これは最初、検査入院によるものだと思い込んでいたが、どうやら、木のおかげらしい。
「それじゃあ、この木は害を与えるどころか、私を健康にしていると?」
「そう思ってもよろしいのではないでしょうか」医者は腕組みをして答えた。
こうして、私は健康体になって退院することになった。ただ、気持ちは複雑である。健康体になったのはうれしいが、仕事に戻ったら、好奇の目にさらされるのは明らかだろう。