第一話
この春、私の腕から桜の木が生えた。
左手の手首と肘の間くらい、柔らかく色の白い部分から青く透けている血管に細い黒い根を絡ませるように生えた。
痛くはない。だが、日常生活を送るには不自由だ。服を着るにも、食事を取るのも、ただ寝るだけでも邪魔になる。
最初は小さなイボみたいなものだった。気にはなってもすぐに忘れる程度のモノだった。1月の寒い頃だったので、厚着をしていたことも気にならない理由になるだろう。
2月になって少し様子が変わった。イボだと思ったものは木の芽のようになった。私は医者に行く決心を固めた。
しかし、レントゲンを撮った結果は「根が血管に絡みついているので、切除は危険かもしれません」という素っ気ない診断。そして、「命に別状はないでしょう。経過を見てから決めましょう」と他人事のように言った。
私の友達は、これがオカルト好きな困り者なのだが、「昔、そんな漫画を読んだことがある。次第に大きくなっていって、おまえはいつか木になってしまうんだ」と笑って言った。私が「笑い事じゃない」と怒ると、「心配いらない。木に実がつけば、そこから元の姿に生まれ変わることが出来るんだ」と漫画の話なのに自信満々に答えた。
結局、私は誰にもマトモに取り合ってもらえず、奇妙な植物と共同生活を送ることになったのだ。