土生敦仁01
朝、よく晴れていたのだけれど、寝坊して。わりとやばかったので、近道をする事にした。ちょっと汚れるかも知れないけど、かなりのショートカットで、とても便利。
でも、多分、僕しか知らない道だ。
「痛っ!」
ちょっと汚れるというか、今、ちょっとどっかをぶつけた。
高台にある学校の裏の、神社の境内を突っ切る道である。階段を駆け上がって境内を突っ切って、境内の後は雑木林を突っ切って、その後は落ち葉と藪を突っ切って……。突っ切って、突っ切ってというけれど、それほど真剣に突っ切って行く訳ではない。先人でもいるのか、辛うじてそれと分かるほどの小道になっていて、僕はそれをこれ幸いと辿って行くだけだ。
あ、いや。
ひょとしたらその先人というのは、去年から昨日までの僕自身なのかも知れないけど。
「今、どこぶつけた?」
最近、寒くなって来て少し寂しげな色合いになっている雑木林のなかを左足で飛び跳ね、落ち葉と小枝を撒き散らしながら、ずきずきと痛む右足を見下ろしたが、汚れだとか、ズボンが切れてるとか、はっきりと分かるような所はなくて。僕はしかたなく痛みを無視して、そのままふたつ目の藪を突っ切る事にした。
そうすると、秋色の木々の向こうに学校の裏道と学校のフェンスが見えて来て、やっとひと息吐けるという訳だ。
僕は、スマホの液晶を見て時間を確認した。
「よし、ギリギリセーフ。うひひ、新記録じゃねぇか?」
その時、何か落ちて来た。
「うひゃあ!?」
肩とか、首すじとか、何かその辺りで。僕は、肩越しを手であわてて払った。
クヌギやコナラの木の下にいて落ちて来るものといえば、ドングリか落ち葉ぐらいだろうけど、そういうものが手に触れたり、手に触れて落ちたりした感触や気配はなかった。
髪が、少し濡れている気がした。
「うわぁ」
雨や朝露の雫の類ではなさそうだ。そういう可憐な感じじゃなかった。
最悪なのは鳥の糞だ、カラスとかハトとか。この境内ではあまり見かけないけれど、以前、登校中の公園で、そのありがちでありながらも奇跡的な確率が命中した時には、悲しいというか切ないというか、一日中、そういうネガティブな気持ちを満喫させられてしまった。
僕は髪を探ったり、首をひねって肩や背中を見ようと自分の尻尾を追いかけている柴犬のようにくるくるとその場を回ったりしていたが、遂には制服の上着を脱いで、大きく叩いた。
何もなかった。
落ち葉や小枝の欠片以外、何も。濡れてもいなかったし、鳥の糞で汚れている事もなかった。
鳥の糞。そうか、鳥。
僕は、遅まきながら上を見上げた。
朝の鮮やかな青空、張り出した秋の枝。雑木林の狭い空を、紅葉したそれではない、赤っぽい何かがすっと横切っていた。それは、赤っぽい柱。半歩引き、目を瞬かせ、凝らすと、それが古い鳥居の笠木と貫が重なったものだった事が分かった。
「鳥居?」
こんな所に、鳥居なんてあったっけ?
誰ともなしに問うてみれば、逆に、じゃあ、お前は何でこんな所にいるんだよ、と返されたみたいで勝手に返答に窮してみたり。
色付いた秋の葉っぱが、細い枝先から離れ、右へ左へひどくゆっくり揺れながら舞った後、僕の鼻先で力尽きた。
突然、学校の朝のチャイムが鳴り響いた。校舎は目の前だというのに、狐につままれたような気分だった僕には、とても遠くからの呼び声のように聞こえた。
あ、遅刻だ。




