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勇者の活躍(?)の裏側で生活してます・後日譚  作者: ぞみんご
第二章 進撃のキツネとウサギ ……あと金髪
13/20

#013 Ahead Ahead Go Ahead!! ②


 待ち合わせ時間よりも三〇分近く早めに到着した為か、集合場所にはリオとラウラの二人以外の姿が見えなかった。


 リオとラウラの両名は背中に大きな荷物を背負いつつ、口元には寝坊した学生の如く、食パンを咥えながら夜明け前の街中を眺めていた。


 本当に寝坊したわけではなく、集合時間が早すぎる為に食堂の(かまど)に火が入っておらず、その結果、屋敷で朝食を摂らなかったのだ。


 リオは何も付けていない食パンをモソモソと食しながら、静かな街をキョロキョロと見回した。


「な~んかさ~、朝が早いだけでも見える世界が違うね~」


「そうね。別世界のように感じるわ」


 学校へ通う時間帯とは違い、人の姿はおろか、家に明かりが付いておらず、聞こえてくるのは人の話し声ではなく虫の鳴き声しか聞こえてこない。日常とかけ離れた世界はとても異質なものへと感じられた。


「静かな世界も悪くないとは思うけど、静か過ぎるのもどうよね」


「これで実習の日にちが間違っていたら、わたしたちってアホだね。何、一人だけおかしな格好をしているんだろうって、後ろ指を指されそう」


 普段なら何も思わない登校の途中にある場所で不思議な感覚に襲われた。自分だけが日常の風景から浮いているんじゃないだろうか?――リオからこぼれた言葉は遠足に向う学生が誰もが一度は感じるであろう共通の思いなのかもしれない。


 ソワソワし始めたリオは、残ったパンを口の中に放り込み、自分たち以外に歩いている人間がいないか探し始めた。


「……誰もいないねー」


「みんな、ようやく布団から這い出る頃合いじゃないかしら」


「……むー」


 早く誰か来て欲しい――そんなリオの思いも虚しく、目の前に広がる視界には人影はおろか猫一匹すら気配がない。平日ならば兎も角、今日が休日ということも手伝っているのだろうか、かろうじて、遙か遠くに街を見回りする自警団らしきランプの光が見え隠れしている程度だ。


 集合場所は、乗合馬車のターミナル停留所に該当する場所なので通常なら始発の馬車が待機していてもおかしくは無いのだが、こちらも午前中は休業しているので待機場は閑散としている。


 東西南北、何処を向いても気配すらない。人が居ない街というのは非日常的な感覚を引き起こす。


「……うー」


 今度は威嚇するかのように呻き声を漏らす。


 屋敷を出てからここに来るまで誰にも出会わなかったことも加味しているからか、余計に心細く感じられ心臓が早鐘を打ち始める。リオの瞳は鋭くなり耳をすぼめて何でも良いから動くものを探そうとしていた。


 その瞳は明らかに獲物を狩ろうとする肉食動物のものだ。しかし、ズボンから飛び出ている尻尾が『怯え』のサインを出している。


 一見すると保護欲を誘う可愛らしい仕草ではあるのだが、何も知らない相手から『不審者』と指摘されれば否定できない行動だ。


「キョロキョロしない。誰もいないのに威嚇しない。それだと不審者だし、下手すれば盗みをする為の家を物色している泥棒よ」


「いや、でもさー」


「大丈夫よ。日にちも間違っていないし、時間もまだ早いわ。他のみんなが遅いわけではなく、あたしたちが早く着きすぎただけよ」


 ラウラの指摘は間違っていない。これが日本ならば担当教師の誰かが一時間前から待機しているかもしれないが、生憎、時間の概念がまだまだ甘い世界。商いをしている者なら兎も角、一般家庭に正確に動く時計が必ずしもあるわけではないので、役所などの公共機関が鐘を鳴らして時間を知らせる『時鐘(じしょう)』の方を参考にしていた。


 それが理由なのか不明だが、田舎に行けば行くほど『鐘が鳴る前~』『鐘が鳴る頃~』ではなく『鐘が鳴ってから~』と時間にルーズになりやすかった。


 幸いなことに、エリザは領都に当たる都市なので、寂れていた時でも約束の時間に遅れるようなことは滅多に無かった。


 リオとラウラも普段から約束の三分前ぐらいに到着するよう心掛けている。――が、今回ばかりは、はやる気持ちが抑えきれずに早め早めの行動に繋がったに過ぎなかった。


 ラウラも最後の一欠けらを口の中に放り込み、


「……リオってば、日中は勇気一〇〇倍みたいな心を持ってるけど夜はさっぱりね。しかも、あなた、キツネのわりには夜目が利かないわよね? ああ……だから、夜中に一人でトイレに行けないのね」


 ――と、紙コップにお茶を注ぎながら、相手を小馬鹿にするように笑った。


 リオは人見知りをしないし、虫や動植物に対しても物怖じはしない。人の輪の中にスッと入っていける対人スキルを持っている。――が、良くも悪くも現場の空気に酔いやすく、熱気などにのせられやすい。


 その為に屋敷という大きな空間も手伝ってか、夜中などは特に怖がりやすい。


「ふ、普通だもん! 反対にラウラちゃんが見えすぎなの! あと、トイレは一人で行けるもん!」


「はいはい。リオは強い。幽霊は怖くない」


 嘘じゃないもん、と否定するリオをラウラは生暖かい瞳で見守った。


 リオのトイレに関する自己申告は半分は正解で、半分は外れているのだ。そのことをラウラはよく知っている。何せ同じ部屋で暮らしているのだ。リオは部屋に備え付けられているトイレには行けるのだが、部屋の外にあるトイレに向かうことは出来ないでいる。


 というか、ラウラも夜のトイレは怖いと思っている。


 理由は単純。屋敷の中を夜間巡回しているメイドのお姉さんたちの姿が怖いのだ。


 彼女たちは夜目の利く獣人族並みに視野が確保されているのでランプなどの光源補助に廊下を音を立てることも無く静かに歩いている。それだけなら大丈夫なのだが、中には契約精霊が余計なお節介を利かせて、主の体の周りをぼわっと淡く光らせるのだ。


 夜中に白く淡く光ることによって浮かび上がる物体――正体は顔見知りと言えど、それがとっても怖く見えるのだ。


「それにしても、あれはどうにかならないか……な……」


「…………」


「どうしたの、いきなり固まったりして」


「…………」


 返事は無く、リオは北の方角に視線を固定したまま微動だにしない。時折、耳をぴくぴくと微かに揺らす程度だ。


 どうやら何かを聴き取ることに集中しているらしい。


 ラウラも同じように集中すると、ジャバジャバと水面を激しく叩くような音が耳に届いてきた。次いで、誰かが救助を求めるような声も聞こえてくる。


 距離は分からないが、誰かが河に落ちたのか、流れている何かを引き寄せようとしているのか、そのどちらかだろう。


「……ラウラちゃん、どうしよう?」


 リオはベンチから立ち上がり、そわそわし始めた。台詞の響きには焦燥感こそは感じられないが、何かしなければならない、といった感情が篭もっている。


 しかし、問われた側のラウラはベンチに深く腰を掛けなおし、


「何もしないわよ」


 ――と、落ち着いた声で返答した。


「たぶんだけど、川渡しの舟から人か物かが落ちたんでしょ」


 河で分断された街の東西を行き来する為の橋は中央だけにしかない。それを補う形で渡し舟が各所に存在するのだが、時折、舟から落ちて河を流れている人を見かける。


 今回もどれかの渡し舟が音の発生源に違いない。


「それじゃ――」


「大変なのは確かだけど、あたしたちにできることは何も無いわ。救助ができるわけじゃないし、助けに行くにしても遠すぎる」


「むー……」


「むー、じゃないでしょうに。仮に助けに行ったとしても、あたしたちは足手まといにしかならないわ。それに時間もあまりないしね」


 聞こえてきた方角と音の大きさから推測するに現場まで一キロ近くは離れている。


 自分たちの足では現地に到着するまで二〇分近くは掛かるだろう。それでは往復するだけでも集合時間に遅れてしまうし、集合時間にその場に居ないことで生じる不都合もある。走れば五分で行けるかもしれないが、その為には背中の荷物を置いていく必要があるので、荷物の見張りと引率の先生への説明役に一人は必要だ。


 見張りと説明役は自分(ラウラ)の方が適任だが、リオは状況把握の能力が低いので現地に言っても意味はないだろう。


 薄情かもしれないが、勇気と蛮勇は違い、今回は自分たちの出番ではない。


「ラウラちゃんは冷静だねー」


「好きで冷静を心掛けているわけじゃないけどね。ようするに自分の中にある優先順位を間違えないこと。目の前で起きているなら兎も角、遠くに行ってまでやろうとは思わないわ。あたしはお義父さんとは違うもの」


「……優先順位……そんなもんか……」


「そんなもんよ。細く、長く、賢く生きた方が人生は楽よ」


 ずずっ……、お茶を啜りながら訳知りオバちゃんの様に返事をする。


「そんなもんかー。でもなー……」


 そうは言われてもリオ自身は納得がいかない。義姉(ラウラ)の判断が間違っているとも思えないが、何か胸がムヤムヤする。


「……あなた自身はどうしたいの?」


 『うん』と相槌を打ったものの、しかし、リオの言葉はそこで途切れる。


 何をしたいのか、と改めて問われれば、何をしたいのだろうかと疑問が湧いてきた。


 まず、声がした方角に向う。しかし、声の出元までの距離が分からないし、東西、どちらの川岸に行けば良いかも分からない。無事にたどり着けたとしても、そこで何ができるのか改めて悩むことになるだろう。


 そして、ラウラが言ったとおり時間が無い。集合時間になって自分たちが居なければ先生や他の人たちが心配するかもしれないし、心配しなくても迷惑をかけることになる。


 迷惑を掛ければ、当然、自分たちの保護者である母親(セディア)にまで話が行って、母はきっと怒るだろう。何故そんなことをしたのか、と。


 そしてもし、自分たちが行けば何とかなったかもしれないと言えば、余計に母は怒るに違いない。余計な心配をさせるな、と気を揉むかもしれない。


「…………」


 ラウラは沈黙を続けるリオの頭を撫で始めた。


 相変わらず自分は義姉に気を遣わせてしまっているようだ。もちろん、そのような表情を浮かべているからだろう。少しだけ申し訳ない気分になる。


「リオは変なところで真面目だね。……まぁ、あたしはリオのそういうところが気に入っているわけなんだけど。問題なんて複雑に絡み合って見えるかもしれないけど、結論はいつも二つよ。『オン』か『オフ』ね」


「『助けに行く』か、『助けに行かない』か」


「その通り。リオにも答えが見えているじゃない? 後は、リオの許容範囲の問題よ」


「むー、その通りなんだけどさー」


 リオは渋い顔を浮かべて唇を尖らせた。


「悩むのは間違っていないけど、こうしている間も時間は等しく流れているのよ? ウダウダと悩むのが馬鹿馬鹿しいと思うんだったら行動しなさいな。……お義父さん曰く、『迷った時は、自分にとってプラスになると思う側の回答を選ぶと後々後悔しない場合が多い』……だそうよ」


「そう……なのかな……?」


 リオはよく分かっていない風に首を傾げた。


 無言のまま『ラウラちゃんならどうする?』といった視線をラウラに向けた。


「自分で決めなさい。指針にするだけなら良いけど、完全な依存は駄目よ? それとも今度はサラサお姉ちゃんの台詞を言おうか? お姉ちゃんはね、『双六だったらそれぞれのルートが存在し、答が見えているのだけど、ここは現実です。ありえたかもしれない可能性の世界――そんなご都合主義なものはありません。あるのは自分の人生という一本道だけです』……だったかな?」


「……自分の人生。……一本道」


「大げさに聞こえるかも知れないけど、決定・決断するってそういうことみたいよ」


「……決断するって難しいんだねぇー……」


「難しいから誰もやりたくないのよ。……それに、そういう決断力(?)って奴を養うための何かが今回の実習体験にはあるんじゃない?」


「……そうだね」


 結局、リオは声がした方へと向かわず、やって来たシトンにこういう音と声が聞こえてきたことを伝えるに留まるのだった。




        ★  ★  ★




 引率教師のナンシー・キャロルは点呼をとり終えた後、悩ましげな表情を浮かべて額に手を当てていた。


 頭数が足りない。決められた集合時間になっても、集合した生徒の数が予定していた人数に届いていなかったのだ。


 不在者はエミール・ヤングとシャルル・ハワードの生徒が二名。生徒たちを護衛するチームリーダーを勤めるシトンである。


 そのうち、シトンは一度は現地に到着していたのだが、しばらく離れる旨の連絡を受けている。が、生徒の二名からは遅刻や欠席するなどの連絡を受けていなかった。


「えっと……誰か二人について話を聞いてる?」


 集まった生徒たちを見回すが、誰一人首を縦に振らない。


 姿が見えない二人の家は、集まっている他の生徒たちの家と距離があるので、連絡のとりようがない。


「困ったなぁ……」


 少々の遅れぐらいなら構わないが、何も知らされていないのが一番困るのだ。しかし、生徒の家まで赴いて確認する時間は無い。


 出発時間まで余裕はある。余裕はあるが、出発する前に生徒に連絡しておくべき話が幾つかあるし、護衛をしてもらう方々の紹介もある。


 ――と言うか、今回の護衛のメンバーを前にして遅刻とかありえない。様々な意味でヤバすぎる。


(……ぬおぉぉ、く、首が吹っ飛ぶかも……)


 比喩ではなく、物理的に宙を舞うかもしれない。


「キャロル君、ちょっと良いかな……」


 胸――ちょうど胃の辺りを押さえていたナンシーの背中に、戻ってきたシトンが話しかけた。


 リオとラウラから話を聞いたシトンは音の正体を確かめに向っていたのだ。


「は、はい、なんでしょうか? あ、そうだ。シトンさんはヤング君とハワード君について何か知っていますか?」


「そのことなんだけど……どうやら、その二人はここに来る途中に河に落ちたらしい」


 その話を聞いていたリオとラウラはどちらからともなく顔を見合わせた。


 先ほどの発生源が同じ実習に参加する子供だったとは思ってもみなかったからだ。


「お、落ちた? え? ……だ、大丈夫なんですかッ!?」


「大丈夫だそうだ。幸い、落ちたところが浅く、流れの穏かな場所だったみたいで、直ぐに救助できたそうだ。怪我もないらしい」


 誘拐などの行方不明でなくて良かった――ホッと胸を撫で下ろすナンシーだった。


 しかし、シトンの方の表情は硬いままで、


「――でだ、救助された二名は濡れた服から着替える為に一度、家に戻ったそうなんだが、こちらに来るのに二~三〇分は遅れるらしい。キャロル君、どうしますか?」


「どうしますか、とは?」


「二人を待っていたら馬車の出発時間には間に合わない。少しなら待ってくれるかもしれないが……相手にも都合があるからね」


 前述したとおり乗合馬車は休みなのだが、クロッサム領のクロッサスに向う行商の空馬車に途中のプルムまで乗せてもらう予定だった。


 本来なら料金が発生するのに相手のご好意でタダで乗せてもらうのであって、相手の出発時間を大幅に遅らせてしまうわけにはいかなかった。


 ちなみに、料金が無料になったのは子供たちの中にリオとラウラの存在が重要で、両名に恩を売ることで街の上層部に繋がりを持とうという先行投資(したごころ)だった。


「あ~……馬車が駄目なら当然……」


「現地まで歩きで行くことになるね。まぁ、最初の予定では徒歩で現地に向かうことになっていたから、それほど問題になるわけじゃない」


「ですが、最年少の子供たちが混ざっていますよ?」


「その辺りは工夫次第だよ。元々は徒歩で向う予定だったわけだし。もう一つの案を言えば、遅れてくる子供たちを不参加とみなして出発することだ。不測の事態などで何かあれば子供を見捨てても構わないという内容の同意書があるからね」


 元々は、団体行動を乱した場合はその時点で実習から退場させたり、何らかの理由で危険に晒された場合、他の子供たちの命と安全を優先させるという意味での同意書だ。


 今回は遅刻するということが団体行動を乱していることに該当する。だから該当する子供たちを実習から除外させる。


 たかが遅刻ぐらい――と、日本なら少し強引な解釈をしていると非難を浴びるかもしれないが、この世界では当然の解釈になるだろう。


「……ギリギリまで待ってみます。その前に生徒たちの意見も聞いてみますが……」


「分かった。じゃあ、私は護衛してくださる皆さんを呼んでくる」


「はい、分かりました」


 シトンは立ち去り、ナンシーは改めて生徒たちの前に立った。


 こほん、と咳払いをしてから、


「話は聞いてたかもしれないけど、ヤング君とハワード君が遅れるそうです」


「先生、それじゃあ、出発はどうなるんですかー?」


「ギリギリまで待つ予定ですが……はい、そこで質問です。みんなはどうします……いや、どうしたいですか? 二人を待ちますか? それとも、出発しますか?」


 ナンシーの問いかけに生徒たちは揃って顔を見合わせた。


「どうするも、こうするも……」


 最年長参加者であるアドルフ・マンジューは他の生徒――特にリオとラウラ――の顔を見ながら、う~ん、と唸った。


 アドルフの本音としては、徒歩で向かうことになっても構わないので待ってやりたい。遅れているうちの一人、エミールは同じ教室で授業を受ける――種族は違えど――仲の良いクラスメイトだ。


 今年が参加する最後のチャンス――昨年までは金銭的理由により不参加。今年はなけなしのお小遣いから溜めた貯金で実習で使用する弓と矢を購入していた――だし、参加を決めてから今日まで二人でワクワクしながら準備を行い、訓練を重ねてきた。


 だからこそ、病気ならまだしも遅刻程度なら待ってやりたかった。


 しかし、隣にいるリオとラウラの最年少の幼女コンビの存在がその声を小さくさせた。自分の弟や妹よりも幼い子供に三〇キロ近い荷物を背負って、二〇キロ以上の距離がある隣町まで歩かせるのは可哀想だ。もしかしたら、ご好意で用意されたという馬車も二人の為かもしれない(同じ年齢の男のことは端から眼中にない)。


 アドルフは自分の思いを胸にしまいこみ、他の生徒の意見を待つことにした。


「…………」


 リオとラウラを除いた唯一の女子参加者であるロリータ・コールマンは、ぼんやりとした表情のまま無言を貫いている。


 行くも、待つも、どちらでも良いといったところか。


「そんなの遅刻する奴が悪いだけだし、おいて行けばいいじゃん」


 ゲイリー・ルーニーの顔には、『待つのも歩くのもゴメンだね』と実に分かりやすい意見が書かれている。


 これで生徒の意見は賛成・反対・中立がそれぞれ一票ずつだ。


 四名の視線がおのずと残ったリオとラウラの二人に注がれる。


「う~ん……わたしは待っても良いかな?」


「あ、そうなんだ。じゃあ、あたしも待つ方に一票を投じます」


 リオの意見を聞いて、ラウラはこくりと頷いて、相づちをうった。


 リオとラウラの意見を聞いて、アドルフは内心で歓喜し、ゲイリーは舌打ちをした。ロリータは静かに佇んでいた。ただ、彼女の表情にはわずかに感心する気配が出ていた。


「おいおい、ちょっと待てよ! 遅刻する奴を待つってことはプルムまで歩かなきゃいけないんだぞ! そんなの納得がいかないぜ!」


 納得がいかないゲイリーはリオに食って掛かる。


「うん? そんなの分からないよね? 二人が出発までに来ることだってあるし」


「出発までに来ないときのことを話してんだよ!」


「来なかったら来なかったで、相手が来るまで待てば良いだけの話よ。ハワードさんは知らないけど、ヤングさんは知ってるし、あの人は最終学年だから今回が最後なのよ」


 反論下手なリオに変わり、ラウラがゲイリーの前に立つ。


「荷物はどうすんだよ! オレは馬車で移動すると聞いて多めに持ってきたんだぞ!?」


「それはあなたの自業自得よ。しおりにも書いてあったでしょ、『自分の持てる範囲で必要最低限の用意をしなさい』って。持って歩けない量の荷物って馬鹿じゃないの?」


 ラウラの正論にゲイリーは、ぐぬぬ、とぐうの音も出ない状態だ。


「ま、ただ待つだけなら、あたしたちにメリットが無いので、遅れてきた人たちには何らかのペナルティーを科して欲しいですけど」


「……ペナルティーって?」


 それまで黙っていたロリータが首を傾げつつ、ラウラを見下ろした。


(……うっ……巨人族って子供でも大きいのね……)


 倍近い身長のロリータに見下ろされたラウラは少したじろいだ。


 ロリータなどという可愛らしい名前や、一〇歳という実年齢に反してそこらの大人よりも高い身長――約一九〇センチ――と、やや筋肉質の肉体を持っていた。


 彼女から放たれる――本人にその気はないが――威圧(プレッシャー)にラウラは戸惑いつつ、


「……遅れてくる時間にもよるけど、水汲みを一回多くしてもらうとか、薪集めで頑張ってもらうとか……それでも駄目なら『貸し一』ということで納得できませんか?」


 それなりの落としどころを提案してみた。


「それくらいなら……俺も『待つ』に回ろう」


 アドルフは横に立つロリータの表情を窺いながら提案に頷いた。


 これで過酷なペナルティーを提案されるなら反対しなければならなかったが、この程度なら遅刻組の二人も納得するだろう。


「……あー……、…………、……《こくり》……」


 ロリータは考えるように首を傾げ、最後は何かに耐えかねて頷いた。


 これで反対の一人を除けば、全員が賛成に回ったことになる。


「でもよ~、この荷物はどうすんだよ……」


 一人、納得が行かないゲイリーはボヤキながら足元の荷物を見下ろした。


 そこにはリオやラウラのダッフルバッグよりもひと回り大きく、パッツパツに膨らんだリュックが鎮座していたのである。


 ちなみに、ゲイリーが集合場所にやってきた際は家のお手伝いさん(男)に担いでもらっていた。重ねて言うと、彼は資産家の(ボンボン)である。


「そこまで駄々をこねるなら荷車(うし)を使えば?」


「う、うし?」


「あれよ、あれ。去年の実習に参加した人に話を聞いた時は、(アッポー)まで移動する際は荷車を使ったと言っていたわよ」


 ロリータはラウラが示した先にある荷車を見て、なるほど、と感心しながら頷いた。確かにアレなら荷物を背負う必要はなくなり、移動する際の労力も減るだろう。


 アドルフも感心する。アレなら先ほどの『貸し』についても荷車を牽く回数を増やすことで解消できるだろう。馬車に乗れなかったことを考慮すると荷車の使用は良いアイデアかもしれない。


 ならば、と離れた場所で子供会議を見守っていたナンシーの下へと向い、


「先生、どこかで荷車を借りれませんか?」


「う~ん……ちょっと難しいかな?」


 ナンシーの返事に、アドルフは『え?』と愕然とした表情を浮かべた。


 ナンシーはそのあからさまな表情に苦笑しながら、


「いや、お金が勿体無いとか、そういう問題じゃないよ。単純に時間の問題。早朝という時間帯に開いている貸し馬車(レンタカー)屋がないのよ」


 荷車などをレンタルできる店が開いていないという、他者にはどうしようもうない根本的な問題であった。


「そんな顔をしないで。シトンさんが戻ってきたら相談するから……あ、丁度、戻ってきたみたいね」


 ナンシーの声と視線を追うようにラウラたちもそちらに顔を向けた。


「……あが……」


「……まじ……?」


 そしてリオとラウラは口をあんぐりと開け、マヌケな表情を浮かべて固まった。


 彼女たちが見つめた視線の先にはちょっと変わった集団――集団を引き連れているシトンは別にして――の姿があった。


 軍人然とした身なりをした初老の虎族の男性。


 頭からくるぶしの辺りまで、全身を黒いフードとマントで覆い隠し、顔にはユニコーンをモチーフにした仮面を被り、ありとあらゆる情報を隠すという怪しげな雰囲気をぷんぷん撒き散らせている謎の人物・その一。


 昇り龍の刺繍をあしらったカンフー道着を身に纏った妖精族。


 七色の派手なマフラーを首に巻き、上半身は裸、下半身は黒のブーメランパンツ一丁という出で立ちのカエル。


 一部に最近、知り合った顔をした人間(と、カエル?)が混ざっているのだが、それ以上に知っている人物が彼らの後ろを歩いていたのだ。


『(あ……あ、ああああああああああーーーーーーーーーー…………ッッ!!!!!!)』


 リオとラウラはその二人を指差し、(かろうじて)静かに叫んだ。


「(あ、マズッ!?)」


「(は、早く降ろしなさい!!)」


 上がった腕と指も他の人間に悟られる前に素早く下ろす。


 ギリギリセーフといったところか。


「(な、なんで……あの二人がここに……?)」


「(そりゃ、当然、わたしたちをサポートしてくれる……から……?)」


 ラウラの漏れた台詞にリオは、コクコク、と追随した。


 相手はこちらに気付かず、悠々と闊歩しながら近づいてくる。


「ふむ……久方ぶりに訪れたのじゃが、余り変わりがないのぅ~」


 キョロキョロと街を見回す人物――背中には弦の張っていない大きな弓を担ぎ、エメラルドグリーン色のショートカットをした妙齢の女エルフ。


 二大勇者の片割れ、『弓の勇者』の異名を持つイーリス・トリスタン・ミュラー。


 そんな重要人物以上に衝撃を与えたのが彼女の横を歩く、


「変わりないというが、さほど開発が進んでいるわけではないからな」


 白い長袖のTシャツに細身の黒いパンツ。その上にベストでも着用していればその辺を散歩する優雅なオジサンとスルーできたのだが、その男性はベストではなく宮廷魔道士が身につけるローブを羽織っていた。


 そして、気品溢れる素敵オーラが隠しきれずに漏れ出している。


「(あれって、リディアちゃんのお父さんだよね?)」


「(間違いないわよ。変装しているけど、絶対に王様だわ)」


 色と髪型を変え、顎鬚を付けて変装はしているが、独特の響きがある声に二人は聞き覚えがあった。


 この国の一番偉い人。エレンシア連合王国・第一四九代国王、アルバート・アーサー・ヴァレンタイン・エレンシア(四〇)、その人である。


 そんな重要人物が目の前を歩いていることは兎も角、少なくともたかが子供の体験学習の護衛を引き受けるような立場ではない。


 普通は逆だ。


 通常なら大勢の護衛に守られながら歩いていなければならない。


「(……あ、そういえば、お義父さんが、『この国の王様は妙にフットワークが軽いからその辺で日向ぼっこや散歩していても不思議じゃないよ』って言ってたような)」


 その話を聞いた時は『そんな訳あるか!』と内心で笑っていた記憶がある。


 しかし、事実は小説より奇なり。現実が空想を凌駕する、という言葉通り目の前の光景が脳が作り出した幻想では無いという限り、現実に起こっている出来事である。


「あの話、本当だったんだね……」


「そうみたいね……でも、どうしようか?」


 当たり前の話なのだが、周囲の人間――ナンシーを含め――は、あの人物が国王であることに気づいていない。連れてきたシトンは、スタート前から少し気疲れのような表情をしている点を考慮するとアルバートの正体に気づいているはずだろう。


 国王が参加するから勇者が護衛として連れてこられたのか、勇者が参加しているから国王の首を引っ張ってきたのか……。


 ただでさえ、領主の知り合い、親が領主の下で働いているといって周囲の生徒たち――特に上級生――から目の敵にされているリオとラウラである。いくら変装しているからといってアルバートやイーリスと馴れ馴れしく応対すれば、これまで以上に敵対視されるのは確実といってもいい状況だ。


 そうした状況が、いかに面倒くさく、鬱陶(うっとう)しく、楽しい実習が憂鬱(ゆううつ)なものへと変貌してしまうだろう。


 どういう対応をすれば、正解なのか経験不足の二人には見当がつかない。


「は~い、みんな、整れ~つ! 護衛をしてくださる方々の紹介をするわよ」


 そんな二人の懊悩など知らぬまま、ナンシーはざわついている生徒たちを促した。


 リオとラウラも同じように並ぶのだが、(本人たちは)さりげなくアルバートとイーリスの方には視線を向けないよう無駄な努力した。


 しかし、そんな二人の努力はやはり無駄だったようで、イーリスが二人の存在を確認すると親しげに言葉を掛けてきた。


「……ふむ、そなたらはリオとラウラじゃったかな? 久しぶりじゃのぅ、今回はよろしく頼むぞ」


 とたんに場がざわめいた。


 生徒は元より、ナンシーや他の護衛メンバーからも視線が向けられた。特にゲイリーの目には疑い深そうな色が浮かんでいた。


 遅れて気づいたアルバートからは、謝罪するかのような視線が向けられる。


 ラウラはこれから始まるであろう難儀な生活を思い、大きな溜息を吐くのだった。


 ……ちなみに、リオは周囲の視線や雰囲気を気にすることなく、『おひさー!』と元気に返事をしていた。




        ★  ★  ★




「解せぬ!」


 ちっぱい金髪は何度目か分からない行き止まりになったことを示す目の前の壁を拳で叩きながら、力強く吐いた。


「こうなれば、やはり力技で……」


「やめなさい」


「ぐあっ!?」


 手に持った銀色の刀身を持つ剣を大上段に構えようとしたちっぱい金髪を、おっぱい金髪が背後からその後頭部を叩いた。


「……で、何が『解せぬ』のですか?」


 殴られた箇所を押さえながらちっぱい金髪の恨みがましく視線を受けても、おっぱい金髪は何事もなかったかのように、淡々とした表情で尋ねた。


「わらわたちが行く先々が行き止まりになっておるのじゃ!」


「他には?」


「だが、どこもかしこも行き止まりの壁から風が吹いておる」


「それは同感です」


「じゃが、通り抜けるような穴は見当たらぬし、風そのものは真正面から受けておる」


「それも同感です」


「全ての行き止まりで同じ結果。まるで同じ場所をぐるぐる回っておる感じがする」


「確かに」


「何を冷静に頷いておる。そなたは悔しくないのか!? わらわは悔しいぞ!」


 風で揺れる前髪を押さえながら、イーー!、悔しがった。子供だ。


 洞窟というには迷路のような人工物のようにも感じられ、ここまで誰とも出会わず、虫やネズミなどとも遭遇していない。


 既に体感では三〇キロ近くは歩いているだろう。肉体的な疲れはないが、見える風景が代わり映えなく同じように見えるので精神的な疲れは蓄積していた。


「あわてない、あわてない」


 おっぱい金髪は慌てる孫を優しげに見守るような老人の瞳を差し向けながら、前方の壁に手を這わせた。


「おそらく、我々は幻像でも見せられているのでしょう。そこに壁がないにも関わらず、『ここには壁があるんだぞ~』と脳が錯覚しているのでしょう」


「……? しかし、洗脳の類は受けておらぬぞ」


 手にある剣のお陰で精神汚染や状態異常の類にはめっぽう強い。それは隣に立つ友人も同じ――いや、自分以上に強い。


「少し力を込めて触ってみれば分かりますよ」


 促されて、改めて目の前の壁に手を這わす。


 確かに感触はある。しかし、指摘されたことによって認識も変化したのか、それまで凸凹(でこぼこ)に感じていた土の壁が垂直に切り立った板のように感じられた。


 そして、いくら力を込めて掻いてみても、むき出しの土が剥がれ落ちることはなかった。剣を突き刺してみても、刺さった感触が伝わってくるのだが、土がこぼれるような現象はなかった。


「……ふむ、そうなると……」


 ちっぱい金髪は剣を鞘に戻し、壁があると認識している方へを足を進めた。


 壁にぶつかるようなこともなく、おっぱい金髪の目には壁をすり抜けるように消え去っていった。無事に進むことができたらしい。


 壁を抜けたちっぱい金髪の視界には、それまで瞳に映っていた洞窟のような風景ではなく、人の手で作られた城か要塞のような石造りの幅が広い廊下が続いている。


 ただし、長い年月を人の手が入らずに廃墟と化した廊下だ。


 廃墟と化してから十年、二十年という歳月ではきかないに違いない。壁のあちこちに苔が生え、木の蔦や根が這いまわり、深く食い込んでひびが入っているところもあった。


 背後を振り返ると、それまで彷徨っていたのは迷路ではなく、実はダンスホールのような広い空間で、そこを長い時間、グルグルと回っていたのだろう。


 おっぱい金髪が突っ立っている姿もあった。


 ちっぱい金髪から遅れること数秒、おっぱい金髪も壁を越えてきた。彼女も後ろを振り返り、なるほど、と軽く頷いた。


「……これはアレですね。侵入者、もしくは中の人間が外に逃亡できないように認識を齟齬する魔法が施されていたと思って良いですね」


「牢屋などに施されておるアレか……。そう言えば、わらわたちが居た場所は、かつて魔法帝国と呼ばれていた土地じゃったな」


 彼女たちがいる国は、エレンシア帝国が統治する前は魔女が治める魔法帝国だった。


 なぜ、そんな場所に居たかと言えば、観光と武者修行のためである。大国の王女として見聞を広めるのと同時に、道場破りと紛争に傭兵として参加することで実戦経験を積むためだった。


 金髪コンビは、路銀が尽きかけたので、麓の町で魔法帝国が統治していた時代に作られたという要塞――遺跡に潜んでいるという匪賊退治の任務を請け負っていた。


「我々がここに迷い込む前は、旧時代に使用されていた要塞に潜む匪賊の討伐に向っていましたから、何らかの理由により、その遺跡の深奥部に入ったのでしょう」


 その遺跡は、世間の時の流れから忘れ去られたように深い森の奥にひっそりとたたずんでいた。迷路のような回廊を抜け、中庭のような吹き抜けの広間にたむろしていた匪賊たちと遭遇し、すぐに鎮圧することができた。


 匪賊そのものは実家を継げない次男坊・三男坊という素人が集まっていただけで、武装集団と呼ぶには貧相なものだった。


 そして、残党が居ないか入ってきた時とは別の扉のドアノブを掴んだところで意識を失ったのだ。


 背後の広間の見える範囲を窺う限り、飛ばされたのは自分たちだけなのだろう。


「恐らく、遺跡の防衛機構は今も生きているのでしょう」


「それが本当なら厄介じゃな……で、そなたは何時からこのカラクリに気づいたのじゃ? ほれ、わらわは怒らぬから早う申してみよ」


「壁が幻像であるということを確信したのは先ほどですけど、違和感はかなり前から気づいてましたよ。……それに精霊(このこ)も、空気や肌に突き刺す感覚がそういった施設と似ていると申していたので」


 自分の肩に停まった契約精霊――蒼い色をした鳥の手柄を褒めるように喉元を指で撫でつつ、『気づかなかったのですか?』と呆れた表情を浮かべた。


「……おい。何故、もっと早く言わぬ?」


「それは……貴女が魔法(しかけ)に気づくのを待っていたからです。今回の旅は貴女の実戦感覚を養うためでもありますから。精霊と契約していないとは言え、個人的にはあと三時間は早く気づいてほしかったですね」


 おっぱい金髪は、やれやれ、肩をすくめながら溜息を吐いた。


「三時間も前……そなた、わらわを馬鹿に――む? 今、何か聞こえなかったか?」


 不意に、ちっぱい金髪が呟いた。その音はおっぱい金髪の耳にも届いていたようで、


「風の音ではなく、人の発した音でもありませんでしたね……」


 回廊を抜ける際に発する風の音でもなく、人の話し声でもなかった。あえて似ているものを探すとすれば、犬の遠吠えに似ていた気がする。


 音を立てることなく、鋭い眼差しのまま耳をすませるように前方を注視する。




 ――GYAAAAAAAAoooooooo!!!!




 次の瞬間、地響きと耳をつんざくような咆哮が響き渡った。


「今度はちゃんと聞こえたな」


「ええ」


 普通の人間なら腰を抜かしていてもおかしくはない音量だったが、生憎と二人は今聞いた音量以上の恐ろしい咆哮を過去に体験している。その咆哮に比べれば、今の咆哮などちょっと音痴な歌声程度にしか感じなかった。


 廊下の先から異臭が漂い、鼻を突く。


 死臭。二人には嗅ぎ慣れた臭いだ。


 ちっぱい金髪が剣を抜き、おっぱい金髪は槍を携えて待ち構えていると、廊下の先、暗闇から白い影が浮かび上がった。


「ウエェェ……な、なんじゃあれは?」


 ちっぱい金髪はその姿を見て、生理的嫌悪を覚えた。


 浮かび上がった影の正体は、自分たちが退治した匪賊の一人だった。ただし、体は何倍にも膨れ上がり、醜く歪んでいる。そして、肌は病的なまでに白く変化していた。


 かろうじて、首から上の顔だけが元の状態のままだったが、両目から血の涙が流れ落ち、口はだらしなく開いている。顎が外れているのかもしれない。


「材料は人間なのでしょうが、いわゆる『ゾンビ』とは違いますね……」


 動きは緩慢で、膨らんだ体も固まっていないのか、雫のように体が溶け落ちていた。


 見る限り体が腐っているのかもしれないが、少なくとも知識としてある『ゾンビ』と目の前の白い生物とでは隔たりがあった。


「さてな。まぁ、少なくともわらわたちに好意的な存在ではあるまい」


 相手の視線はこちらを捉えていないが、敵意や殺意といったものは向けられている。


「……さて、アレは素直に降参してくれるかのぅ。捕まえるのも難儀じゃからな」


「さぁ? ああなってしまっては別に殺してしまっても問題はないでしょう」


 可能な限り生かして捕えよ、という依頼内容から表で鎮圧した際は気絶させ、逃げないよう両手両足を折ってから縄で縛った状態で放置しておいた。


 ここからだと材料となった人間の生死の判定が難しいが、緊急事態だし、可能な限りなので、必ずしも履行する必要はない。


 依頼内容よりも、自分たちの命の方が大切だ。


 ちっぱい金髪は懐からナイフを取り出し、白い生物に向けて投てきした。


 相手の反応を見るための牽制目的である。


「……む」


 しかし、予結末は想していたものとはかけ離れて違っていた。


 投げたナイフは弾かれることもなく、人間でいう心臓の部分に吸い込まれ、白い生物は断末魔の咆哮をあげながら地面に倒れた。二度、三度と痙攣したのち、白い生物は動かなくなった。


 どうやら見かけほど強くはなかったらしい。


「……脆い」


 手応えのなさに呆気にとられていたが、我にかえりボソッと呟いた。


 確認する為に、遺体(?)に近づこうとした瞬間、膨れ上がった体が再び膨張し、限界を超えたところで体液が噴き出した。体液が全て噴き出すと、元の姿――水分が全てなくなりガリガリにやせ細った姿へと変貌を遂げた。


 検分をしたおっぱい金髪は首をゆっくりと横に振った。既に事切れている。


「……死んでます。人の姿とは乖離していましたが、急所は同じですかね?」


「分からん。しかし、投げたナイフを見よ」


 促されて遺体の近くに落ちていたナイフを見た。


 刀身が半分から先端にかけてドロドロに溶け落ちていた。熱というよりは腐食に近い現象だ。近くには真っ二つに割れたドス黒い宝石のようなこぶし大の石も落ちている。


 おっぱい金髪は落ちていた石をハンカチで包むように持ち上げた。


「……魔物を倒した際に稀に発見される物と似ていますね。しかし、色が……」


 光沢がなく、精霊鉱石に例えるなら下の下だろう。


「人が魔物化したと思って良いかも知れんのぅ」


「おそらく……」


 ただし、魔物というわりには恐ろしく弱い。


 強力な武器を持つ二人ならば敵にはならないだろうが、本来なら小隊単位の人数で総当りしなければならない相手である。


「頭が人間のままでしたから、なりかけの半端な状態というわけですかね?」


「専門家ではないから分からぬ! しかし、本国(エレンシア)の父上には報告が必要じゃろう」


 自分たちには正体を解明することはできないが、エレンシアにいるアルバートなら何らかの情報を持っている可能性がある。なければ、解析班などを送り込むに違いない。


 宝石をポケットにしまい、脱出に取り掛かろうとした次の瞬間、




 ――GYAAAAAAAAoooooooo!!!!




 再び咆哮を響き渡った。


 しかも、複数の咆哮が一斉にだ。


 前方に視線を戻すと倒したものと同じ白い生物が複数、こちらに近づいてきている姿が映った。今度は人だけではなく、犬や猫、イノシシといった動物まで含まれている。


 見える範囲だけで一〇体は居るだろうか。気配を探るとその三倍の数が続いている。


 彼らはジリジリとこちらに近づいてきている。


「……どうします?」


「決まっておる。叩きのめすのじゃ……ッ!」


 先手必勝と云わんばかりに、ちっぱい金髪は白い生物の集団に襲い掛かった。


 実に分かりやすい行動に溜息を吐きつつも、おっぱい金髪も自分がするべき仕事をする為に、ちっぱい金髪を追うように白い生物たちに踊りかかっていった。




        ★  ★  ★




「着いた~……」


「や、やっとねぇ~……」


 リオとラウラの両名は、エリザベス領とクロッサム領の境にある目的地に到着するなり地面に倒れこんだ。


「歩いた、俺は歩いたんだ! 最後まで歩ききったんだ……ッ!」


 他の生徒も似たような状態で、中には『股関節の付け根が~』と情けない姿を晒しながら唸っている者もいた。


 結局、遅刻の二人は馬車が出発するまでに到着することは叶わず、徒歩でプルムに向かうことになったのである。


 荷物を運ぶための荷車に関しては、ナンシーから相談を受けたシトンがどこからか小型の荷車を調達し、それを生徒たちが交替しながら運ぶことになった。運んでくるまでの時間が早かったことから事前に用意していたのだろう。


 荷車を中間に配置し、前と後ろは護衛のメンバーで固めていた。荷車を牽かない生徒は二列に並び、荷車を追随する形で進むことになっている。これは荷車のスピードに合わせるためと、坂などで荷車を後ろから押すためのことを考慮しての順番だった。


 道中、特にこれといったイベントもなく、八時間ほどかけて目的地に着いた。


 最初は、街の外という非日常的な世界にワクワク・ドキドキな行進を続けていたが、特にこれといったアクシデント――鹿やイノシシが列の前を横切ったり、ちょっと大きな蛇が道の真ん中で眠っていたぐらいだ――もなく、会話も時間と共に少なくなり、最後は淡々と歩いているだけだった。


 ラウラからすれば、何もなかったことが逆に不気味であり、他にも狙われているような視線を道中ずっと感じていたので、常にビクビクしながら歩くはめになったのだ。


 その原因となったアルバートとイーリスは偽名を名乗り、必要以上に接触してくることもなかった。生徒たちからは顔見知り程度と認識されたのかもしれない。


「はいはい、みんな、こっちに注目~。姿勢はそのままで結構だけど、これから話す内容は重要だから、ちゃんと聞くように」


 集団をしきっていたシトンが倒れこむ生徒たちに語りかけた。


 目の前に広がる森は、人が生活するための安全圏と、様々な誘惑と危険が渦巻く非日常との境界線である。肉食動物は襲い掛かってくるだろう。食肉植物が幻惑してくるだろう。街で生活することが叶わない犯罪者が隠れているかもしれない。


 シトンは臨場感溢れる口調で生徒たちを恐怖の底に陥れた――のだが、


「――とまぁ、多少、脅かすようなことばかりを言ったけど、森の外は安全圏が続いていると思ってもらって大丈夫だから」


 先ほどまでの表情とは打って変わり、ニコニコ顔でそう締めた。


 その言葉に生徒たちもホッと胸を撫で下ろした。


 常に緊張していろというのは困難を極めるし、休める時間がないというのも辛い。


「ただし! 怖いのは目に見える範囲だけとは限らないから要注意」


 例えば、と言いつつ胸ポケットから蓋のついた透明の小瓶を二つ取り出した。どちらも蓋が二重・三重にと厳重に閉じられており、割れない限り開きそうにもない。


 一つは、ややお尻の大きい蚊に似た小さな虫が二匹ほど入っている。


 もう一つは、メダカサイズでやや肉厚の小さな魚が漂っている。


 まず虫の瓶を軽く揺らしながら、


「この中身の正体は蚊だ。蚊は卵を産む為に人の血を吸いに来るんだけど、蚊が伝染病の媒介する役目を担ったりするから用心が必要になる。特に二匹で飛んでいることが多い尻の大きなこいつは、高い確率で病原菌を保持している。最近は東方で獣人族に感染する伝染病が発生しているから、森の中に限らず、必ず虫避けの香は身につけておくこと」


 続いて、魚の瓶を揺らした。


 こちらは特に男子が気にするように、と前置きしつつ、


「これは近くの川に生息している小魚だ。こいつらは特定の臭いに反応して近寄り、飛びついてくる習性がある」


「臭いって?」


「アンモニア――いわゆる『おしっこ』だね。だから、川の側で立ちションベンなんかはしないように。キミらからこぼれ落ちるおしっこに反応して、最終的にはおち○ち○に進入してくるから」


「……は、入られたら?」


「激痛なんて生易しいもんじゃない。見てくれは小さいけど立派な肉食系だ。こいつらは生き延びる為に暴れるし、噛みつくし、食い破ろうとする。こいつらが死ぬのが先か、キミらが激痛でショック死するのが先かの問題だね」


 自分たちがのた打ち回る姿を想像してしまったのか、男子たちは冷汗を流しながら自分の股間を抑えて震えあがった。


「私はそのご遺体に立ち会ったこともあるが……その人物の場合は膀胱や玉の部分まで進まれたらしく、そこを食い破られてしまったのさ。お陰で股間部分は血まみれ状態。実に惨いもんだ。こいつやその仲間が原因で、我が国でも年間で二〇人ぐらい死んでいるそうだし、名前付きで統計を取られているから、仮にそうなったらキミらの名前は半永久的に歴史に刻まれるだろうねぇ~」


 立ちションベンが原因で死亡するのも情けないが、それが原因で歴史に名を刻みたくはない。男の子として、どうせなら格好よく記されたいのだ。


「注意事項は以上かな? それじゃあ、ナンシー君。あとはよろしく」


 シトンが笑いながら引っこむと、代わりにナンシーが出てきた。


「はい。今日はもう何もありません。テントに入ってぐっすりと眠るもよし、夜更かしするのも自由です。ただし、実習は今日と同じように早朝からです。一応、起こしますが寝坊した子は置いてきぼりになるので、ヤング君とハワード君は特に気をつけるように」


 ナンシーは『特に』の部分を強調しながら、今朝の遅刻の件を指摘した。


 遅刻の指摘に、くすくす、と好意的な失笑が漏れた。


「先生、それは言いっこなしですよ」


 寝坊ではないが遅刻したことは事実なので、二人は決まりが悪そうに返事をした。


「テントは既に用意してくれています。キミたちは事前に決められた番号のテントで寝るように。テントには護衛してくださる方々も寝泊りすることになっていますので、可能な限り迷惑を掛けないように」


 後ろを振り返ると、何時の間にか中央の火を囲うような形でテントが張られていた。


 子供は倒れたが、大人はまだまだ体力が残っているようだ。


「トイレとかは?」


「火の見張り番をしている大人に声を掛けてから行くこと。絶対に一人で行動しないように。それと、今日は免除されますが、明日からキミたちも火の見張り番をしてもらうから、そのつもりで」


 今日は疲れているだろうという配慮から免除されていた。


「……それと、深夜の見回りの際に姿が見えなかったら先生が困るからね」




 『解散』という声が飛ぶと、疲れていた生徒たちは各々割り当てあられたテントへと重たい足取りで向っていった。


 昼食以外の食事は各々個別で摂るようにと云われていたので、これから特に集まって何かをすることはない。


 そもそも、疲れによる眠気が勝っているので食欲が湧いてこないのだ。


「あたしたちもテントに行こうか」


「そうだね」


「あたしたちの荷物しか残っていないから、荷車(それ)ごと移動しましょう」


 ズルというよりも、要領が良い、と称して欲しい。


「ふあぁぁ……駄目だねぇ~、ものすごく眠いぃ……」


「あたしも……テントで二〇分だけ休みましょう。動くのはそれから……」


 暗くなる前に水を汲み、薪を拾い集めておかなければならないのだが、今は気力だけで体を動かしているような状態だ。少しだけ休憩して体力を戻しておきたい。


 リオとラウラは同じ番号のテントで過ごすことになっているので、与えられた番号のテントへと向った。


 テントは標準的なモンゴルの遊牧民が使っていた(パオ)に似たテントではなく、角柱を横に倒した珍しい形のテントだった。


「二本のポールとロープで骨組みを作って、あとは布を被せた、ってところかしら?」


「布がヒラヒラで薄いねぇ~」


 ヒラヒラの布で、雨が降れば透き通りそうだし、室内がビショビショになりそうだ。


 見た目の貧弱さに思わず押してしまいたい気持ちに駆られる。しかし、実際にそれをしてしまえば組み立てなおすのは自分たちに回ってくる。


「多く望むの違うもんね。さ、入ってひとやす……みぃぃぃぃーーーー!!!?」


 テントの入り口からにゅっと伸びた腕に首を掴まれたラウラはそのままテントの中へと吸い込まれていった。


 吸い込まれたというよりも食われた?


「ラウラちゃん……ッ!?」


 呆気にとられていたリオも慌ててテントの入り口の布を持ち上げた。


「ラウラちゃん、だ……」


 大丈夫か――と、言葉を続けようとしたのだが、中で進行中の光景に言葉を失った。


「本物だ、本物のウサ耳よぉ~、ぎゅってさせて! ぎゅって!」


「ぎゃああああああッッッッ!!」


 白銀色の髪を持った謎のお姉さんが奇声をあげながら、野獣の如く両腕でラウラを抱きしめていた。


 そういえば、酒に酔った義父がよくこんな感じにじゃれついている光景をよく見たなー、という遠い記憶が湧き上がってきた。


(……わたしには一度もやってくれなかったけど……)


「おお、()い奴よ~、愛い奴よ~」


 すりすりすりすり。


 激しく頬ずりをしたり、体中のあちこちを触ったり、垂れた長い耳を甘噛みしたりしている。男だと問題だが、相手が女性だから問題ないのかもしれない。


「り、リオ……。た、助けて……」


「無理」


 義姉の救いの求めを、あっさりと切り捨てた。


 助けに入れば自分も巻き込まれる。いや、邪魔をするな、と吹き飛ばされそうだ。けれど、放っておくのも気の毒だし、お姉さんの正体も気になる。


 この世界には友人(リディア)以外に、これほど綺麗な白銀色の色彩を放つ髪質をもった人間は存在しないはずだ。染めたとしても、ここまで綺麗にならない。


 ただ、リディアの髪質ほど神秘性を感じない。


 白銀ではなく、白金。


 模倣(レプリカ)ではなく、むしろ一流の贋作師が作り上げた……気づくものには気づくような贋作といった、そんな曖昧な感想を抱いた。


「あ~、色々と気にするな」


 背後から掛けられた言葉に後ろを振り返ってみると、そこには複雑そうな表情を浮かべたイーリスが立っていた。


「あ、イーリスおばちゃん」


「おば……うぉっほん、『お姉さん』じゃ。それと、ここでは『イーリス』ではなく『イージス』と呼ぶがよい。本名はいかん。」


「あ、そうだったね」


 勇者としてイーリスという名前が国内に浸透しているわけではないが、国外では割りと有名だ。そんな有名人を監視するストーカーも多数いるので、何かと本名で呼ばれることになると予定調和が崩れるので困るのだ。


 アルバートはいつも通り、アルル、であった。


 アルバートの場合は、別に本名を名乗っていても問題はない。顔や体型や思考・行動まで似すぎた影武者が王城に座っている為に、ストーカーはそちらに注目が集まってしまうのだ。


「……ラピス、そろそろ離してやれ」


「あ、ここから先は料金が発生? いくら払えばOK?」


「一〇分、一〇(リラ)!」


「良いわよ。とりあえず一時間延長で」


 銀貨をリオに投げ、ウィンクしながら、「お釣りはいいわ」と格好つけた。


「良いわよ、じゃないわよ! そんなシステムないし、リオもあっさりと相手の口車に乗るな! あと、値段が安すぎるわ! 最低でも金貨一枚よ!」


 ラウラは相手を無理やり引き離し、ラピスと呼ばれた女性も渋々といった表情で両腕を離した。しかし、すぐさまホクホクとした表情を浮かべて、


「ま、これから同じテントで生活するんだし、ちょっとずつ仲良くなれば良いか! まずはお姉さんと同じ布団で寝よう!」


「寝ません!」


 こんな発情している人間と寝たら最後、貞操が危うい。


「というか、貴女は一体誰なんですか? なんで、ここに居るんですか!?」


「……え? そりゃあ、キミらの護衛するメンバーの一人だから。聞いてないの? テントでも護衛も兼ねて一緒に過ごすってことを」


「それは聞いてますけど……って、はあ? 護衛のメンバー?」


 その言葉にラウラは怪訝そうなな表情を浮かべた。ラピスの放った台詞を呑みこめなかった。今日一日、護衛してくれたメンバーの中に目立った女性はいなかった。女性は先生とイーリスの二名だけだったはず。


 女性と思っていた妖精族のちびっ子は、男の娘、という分類に属するらしい。


 一緒に首を傾げていたリオが、あ、と声を上げた。そういえば、一人だけ顔を隠した不審な人物が居たではないか。


「もしかして、ずっとフードを被っていた人?」


正解(ビンゴ)! 髪とか容姿とか、色々と問題があってね、ああやって世間の目から隠していなきゃいけないの」


 あはは、と自虐的に笑う女性。そう云われて、改めて女性の姿を確認した。


 髪の印象が余りに強すぎて他のところに目が届かなかったのか、女性は色んな特徴を持った容姿をしていた。


 耳はエルフのように長く尖っている。


 前髪に隠れて分からなかったが、額に蒼い宝石のような物が埋まっている。


 左腕の肩から肘に掛けて、一部の龍人族が持つものと同じ模様の刺青が彫られている。反対側の右腕には違う模様の刺青が彫られていた。


 様々な種族の特徴が混ざり合った姿がそこにはあった。確かにこれでは世間の目から隠す必要があるのかもしれない。


 ただ……、


「……ま、王様と勇者オバちゃんが居るような集団だもの、他に変人が一人や二人混じっていてもおかしくはないわ」


「パパやトールちゃんとかに比べればインパクトが弱いし……カエル君なみ?」


 ラウラの物言いにリオも頷いた。


 良くも悪くも、世間ズレしている二人なので、今さらこの程度の人間が現れても受け入れるだけの度量があったのだ。


「……イーリス。何、この二人は?」


 二人の見せた反応に、ラピスは戸惑った。


 普通なら気味悪がられたり、拒絶反応が出たりするのだが、ここまで真逆の反応をされると新鮮すぎて困ってしまう。


「……お前さんの『()』だった女が嫁ぐ予定の男の娘じゃよ。……ま、義理じゃがな」


 イーリスの紹介にラピスは目を丸くして驚いた。


 なるほど、あのキツネ魔王の身内なら今の反応も頷ける。


「おやや、じゃあ、キミらはアヤコの知り合いなのね。……ならば、改めて自己紹介をしましょう。わたしはエレンシア王国・近衛軍侍従隊予備役のラピス。アヤコの元・同僚にして、元・お姉様」


 突然の自己紹介にリオとラウラは固まった。


「気軽に、ラピスお姉様、と呼んでちょうだいな」


 そういって、人の悪さがスパイスされたような微笑を浮かべてウィンクするのだった。


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