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その日常

私は王族付き近衛兵。


近衛兵とは主に君主やその親族の身辺を警護する兵の事を指し、不肖ながら私もその任に携っている。


私は王族付き近衛兵。


日々は忙しくありながらも、平和な領土に恵まれ穏やかに過ぎて行った。


私は王族付き近衛兵。


だがそれは突如として破られることになった。何の前触れもなく王宮の中庭で光の柱が出現、光の中から一人の少女が現れたのだ。現場は大混乱。スゴイ大混乱。


私は王族付きこの・・・もういいか。

要するに私は光と共に現れた少女・・・アオイ・ウラサキ様の身辺警護の任を任されたのだった。


「アオイ様、今日のお召し物はこちらでどうでしょうか」

「え」

「ではこちらはどうでしょう。アオイ様の黒髪が映える様な色味でございましょう?」

「あ、いや」

「でなければこのドレスは?これならばアオイ様の目に叶うかと」

「あの、そうじゃなくて、ですね」

「・・・どれもこれもアオイ様のご希望に去ってなるべく飾りの少ないように変更しました。丈も捌きがし易く動き易いようなデザインになっていますがまだお気に召しませんか、そうですかでは倍に追加」

「ご免なさい!ファルベさん!ご免なさい!十分です!これでオッケーです!これ以上増やさないで下さい!お願い!」


今朝もアオイ様付き筆頭侍女ファルベ殿とアオイ様のドレスをめぐる攻防はファルベ殿の勝利に終わった。やれやれとわざとらしくため息を付くファルベ殿とまだ環境になれないのか、戸惑い気味にドレスを見やるアオイ様。いつもの光景に周りの侍女達が苦笑しながらも、それぞれの役割をこなしていく。少し不安げなアオイ様のお召し換えが終わると、次の間で朝食を取りながら今日のスケジュールの確認が行われる予定だ。


・・・の予定だったが・・・・


「今日はまた随分のんびりだな。どうした小娘、間抜けな顔などしている暇があったら茶の用意でもしろ。俺の貴重な時間をわざわざお前に合わせてやってるんだぞ。もっと早く出てこんか」


何故アンタがここにいる。


おっと気を付けねば自分。あまりにツッコミ所が多くて危うく不敬な言葉が出そうだった。

陛下・・・・只今は兎羽うわ時半じはん (7時半頃)です。約束の時刻までまだ二時間あります。のんびり等とほざいてるアンタがどうしたんですか。しかも会合はアオイ様の部屋ではなく執務室ですし・・・狙ってやってるのか陛下・・・・

私はぽかーんとしている(さもありなん)アオイ様の頭上を侍女頭のファルベ殿と一瞬目を見交わし、微かに頷いた。

ファルベ殿が控えの侍女に茶の用意を言い付ける一方、私は同僚に頷くと護衛の一人も付けずにやってきたバカ・・・いや陛下に今ごろ右往左往している近衛屯所まで走った。


案の定、近衛屯所は消えた陛下に大騒ぎしていた。


「失礼します!近衛総団分隊所属、ティッティ・ティッカネンです!至急ヴィティッカ団長に報告があります!」


・・・・・どうして私の名前は妙に笑いに走った語感なのだろう。自分の名を声高に口にすると羞恥に赤面するのが抑えきれない。思春期には激しく、息止まる思いで名付け親を呪ったものだ。いや正直言うとまだ呪ってる。

私は語感が面白い名を口にすると総団長室に入った。

私が所属しているのは近衛総団分隊でここは主に女性の王族関係の警護を任される。必然的に女性近衛兵が多いのも特徴だ。分隊の上に総団があるのでヴィティッカ総団長は私の上司の上司に当たるわけだが・・・正直ウチの団長のあの傍若無人ぶりに時々忘れそうになる。

中には近衛総団長のヴィティッカ様と副団長のタイニオ様その他複数が居た。


「どうしたテッカネン。アオイ様に何かあったのか」

「い、いえ。アオイ様ではなく陛下の事で・・」

「どういう事だ!?・・・またかよあの野郎!」


タイニオ副団長・・・不敬が出てます。いくら陛下と幼い頃から馴染みとあっても不敬は不敬。

あと総団長、私の名前は・・・


「テッカネン、陛下はアオイ様の御部屋に居わすのか?」

「・・あ・・・はい。只今ご一緒に御茶を召し上がって居られます。あ、あの総団長、私の名前」

「タイニオ、至急ガイナス達を向かわせろ。宰相殿に知られる前に陛下を私室・・いや執務室にお連れするんだ」

「は」


総団長は口早に副団長に命じると私の方を向いて


「よくやったテッカネン。もう戻っていいぞ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ティッカネンです、総団長閣下。


何故か入隊してから間違われ、そのままになっている。

ただでさえ面白い名前なのに総団長が間違えて呼ぶものだから周りが面白がり、そこここで忍び笑いが起きる。そして誰も総団長に訂正しない。なので私は総団長の前では常に赤面したままだ。

訂正しようにもそう総団長と接点などあるはずもなく今に至るのだが・・・

私は心持肩を落としながら総団長室を後にした。

走ってアオイ様の部屋に戻ると陛下が両脇をガッチリ抱えられたまま退室しようとしている所だった。先輩仕事早いなぁ。ガイナス様が私に気付いて何時もの無表情で頷くのを敬礼で見送る。


「ティッティさん」

「アオイ様、承諾なく護衛を外れてしまい申し訳ありません」

「そんな!謝る事ないですよ!陛下の・・・えええっと」


アオイ様は不敬に当たらない言葉を探して悩んでいるご様子。そんな困るのならガツンと言ってやればいいのに。のらりくらりかわすのと押しに弱いのは根本的に違う。


「アオイ様、今日のご予定ですが」


ファルベ殿が何時もの無表情で、アオイ様の今日すべき事を書類も見ずにすらすらと口にしている。

アオイ様はそれらに時々質問したり、確認したりしている。私も昨日のうちに目を通していた事を頭の中で諳んじてみる。

確か昼食を召し上がった後は歴史の授業をしてその後軍を視察だったはず。・・・という事はおそらくあの方とあの方、あと一人ほどアオイ様に群が、いやご挨拶に来るかもしれないな。面倒くさ、ではなくアオイ様が困られる事がないよう排除、いやいや対処しなければ。


私の主観を除き、ごく一般的に見ればアオイ様は大変愛らしいお方だ。

背の中ほどまである黒髪は真っ直ぐで艶やか、大きなアーモンド形の黒瞳。透き通るような白い肌に華奢で小柄なお体。そしてその御心ははかなげな外見とは違いはきはきと意見を言い、強い者には震えながらも立ち向かい弱い立場の者には自分の事のように気遣いを見せる優しいお方だ。

まったく異なった世界にいきなり放り出され、すわ間者か物の怪かと厳しく追及され、誤解が解けた後も暫くの間は混乱と悲しみに沈んでいたのだが、自身と折り合いを付けたと仰り漸く皆に笑顔を見せてくれるようになった。

今は元の世界の知識や良識をフルにお使いになって我が国に進言して下さる。目から鱗の様な斬新な提案に当初は胡散臭そうにしていた頭が切れる陛下と優秀な宰相殿もアオイ様を今は重宝されている。というかなんとかモノにしようとしてる。

そして私はそんなアオイ様専用近衛兵になってしまいとても面倒くさい毎日を送っている。

というのもアオイ様大変男性にもてるのだ。しかも皆が皆権力者だったり実力者。

ここまで言えば大抵の事情は分かってもらえると思う。

確かに彼女の知識や良識は国に役立つだろうし、付随する異世界の道具は魅力的なものばかりだ。


だが。


それを割り引いても彼女の周りで起こる事柄が面倒くさい。彼女に群がる男共の度が過ぎる口説きやその男共にご執心な女達の嫌がらせ、更にはそれを利用しようとす貴族達の謀略知略を防がんと、私ともう一人の近衛、ユリア・ハルストロームはほぼ毎日超過勤務体制だ。

なんでか知らんが妙にアオイ様に懐かれ、それを知ったあの色ボケ権力者共が「アオイの良いように」の一言で専属に。残業手当や特別手当が付くとはいえこのままでは過労死してしまうんではないだろうか。お肌の具合も良くないし、友人達との付き合いもままならない。アオイ様中心に物事が回るので休息時間も帰宅時間もまちまち。正直、任務から外されたい。


コンコン。


私は如何にも尤もらしく聞こえる異動願いの文面を考えるのをやめ、音もなくアオイ様の前に立つとファルベ殿が慇懃にノックの主に問い掛ける。


「どちら様でございましょう」

「シルヴァンティエです」

「・・・ご訪問の予定はありませんでしたが」


今度は左宰相閣下か。ファルベ殿が暗に「帰れ」とも聞こえる返事を返すと


「・・・会合の前に重要な案件が出来ましてアオイにも予め目を通して欲しいのですよ」


・・・・嘘くさい。

大体左宰相自らその案件とやらを持ってくる事からしておかしい。重要度がどのくらいかは知らんが優秀なスタッフが大勢いるではないか。そいつらを使えばいいのに。税金の無駄遣いだ。

ファルベ殿が背後のアオイ様を窺うと


「何かあったんですかね?ファルベさん、左宰相様に入って貰って下さい」

「・・・畏まりました」


アオイ様は純真に心配そうに頷いた。

アオイ様・・・。


「アオイ・・・君の侍女達の態度をどうにかしてくれないかね。私をまるで不審者のように扱うので大変困る」


不審者のようじゃなくてまるきりそのまんまで扱ってます左宰相閣下。

閣下は巷で氷の貴公子とか呼ばれる(確かに氷像にしようと思ったらしやすそうだな。まっすぐな線だらけだから)美形なお顔で眉を顰められた。だがその氷もアオイ様の前では溶けてしまうようだ。銀の長い髪がサラリと揺れ紫水晶の様なと言われる熱い目がアオイ様に注がれまくる。


「え・・・あ、あの、す、すいません。でもみんな悪気があってではなくて・・・この前私が心配掛けちゃったせいなん、です。だ、だから・・あの」


しかしアオイ様はそんな熱い視線に全く気付かず、私達と左宰相を交互に忙しく見ながら詰まる様に仰った。餌をどこに隠すか迷ってるリスみたいだ。・・・これ不敬になるだろうか。因みにその心配とはアオイ様がいかにもな嘘くさい同情買いの演技に騙され、城から連れ出された事を指す。ものすっごく叱られ給料も減らされたっけなぁ・・・ハハハハ・・・・・なんか寒い・・おもに懐が。

だが、気のせいではなく部屋中の温度が下がりファルベ殿を始めとする(勿論私とユリアは除く)アオイ様付きの者が左宰相をアオイ様に気付かれぬよう睨みつけた。その空気は、


『テンメェ・・・何文句付けてんだぁ!?あまつさえアオイ様が終わった事さえ気に出し始めたじゃねぇかっ!だからお前は私達に嫌われてんだよっ!身の程を知れ!空気読め!この冷血朴念仁左宰相がっ!!』


という具合だ。


「いや・・・私も言い過ぎてしまったようだ、すまない。・・ただ、へい、っ!」

「へい?」

「いや・・あの・・最近兵達が元気だね」

「あ、そうなんですか?今日皆さんの訓練を見せて貰うんで、そんなの見た事ないのでとても楽しみです」

「そ、そうか・・」


はは――――――ん。

左宰相の奴、今朝陛下が奇襲をかけたの知ったんだな。だから何かあったか確かめにやってきたと。

私がそれとなくファルベ殿を見ると彼女も無表情で見返してきた。その洞察力に優れている青の瞳は私の考えを肯定するかのように細められている。

何時の間にか座って雑談という名の自身の売り込みをし始める閣下だが、天然が入りまくっているアオイ様にはみじっんも伝わっていない。ていうか閣下・・・業務報告を読み上げる口調でお固い業界言葉ではアオイ様でなくても伝わらないかと思います。

私達がちぐはぐな会話を温い気分で眺めていると突然激しいノックの音がして扉が開かれた。私は同僚と同時に左宰相を付き飛ばし、アオイ様の前に出る。


「お前達・・・」


と低い声が聞こえたがシカトだ。


「アオイっ!無事かっ!」


むしろあなたの方が今危険です陛下。


「アードルフが向かったと聞いた。大事ないか」


貴方、脳みそは大事ないですか?


「聞き捨てならない事を言うな、ラドクリフ」


左宰相がパンパンと服を叩いて起き上がり、以下下らない舌戦が行われる。


「ふん・・・間違ってはいまい。俺に大量の書類を押し付けてこそこそと・・・」

「貴方こそ朝から押し掛けたではないのかっ!あまつさえ一緒に朝食など!」

「押し掛けてなどいない!朝の挨拶によったら朝食を勧められたんだ!ハ!羨ましいだろ!」

「貴方が挨拶如きで寄る事などないではないか!全く毎度毎度いい加減にしろ!」

「貴様が人の事言えんのか!この前だって」

「あなたは昨日」


醜い。

おっと勿論そんな事思ってても口になんかしませんよ。

私は大の男2名が口汚く相手を罵るのを半分死んだ目で見ているとふと端っこに移った人に目を挙げた。

近衛兵先輩のガイナス様だ。

アッシュブロンドの強そうな短髪。冷酷そうな薄い緑の目が何時ものように無表情に陛下と宰相殿を見詰めている。

この国筆頭七貴族の一人ラウスティオラ侯爵家の次男で、近衛兵の中でもダントツに腕が立つ。化け物みたいに強い総団長と渡り合えるのはこの人と副団長のタイニオ・シルヴァンティエ様だけだ。(いやこの前お前の体力には付いていけんと仰っていたからトップなのかな?因みにタイニオ様は左宰相の兄君)表情筋がないんじゃないかと勘違いさせてくれそうな無表情、言葉数も少なく、たまに喋ったかと思えばそのお声は腹にズーンと響く超重低音。大柄な体躯は歩けば重装備騎士、走れば重装備騎馬といった具合だ。見た目と合う厳しくて激しくて情け容赦のない訓練は対峙する者に絶大な恐怖心と見る間に萎む闘争心を与え、職務には妥協 (今はアオイ様という緊急事態)を許さず真摯な態度。

私はそんなガイナス様を尊敬している。正直一対一では絶対に話したくはない相手だがその騎士としての態度を尊敬している。

ギェッ!

そんな事を考えているとそのガイナス様が不意に私の方へ視線を巡らし目が合ってしまった!

私は慌てて目の前でまだ下らない争いをしているこの国の重鎮2人に視線を戻した。

危ない危ない、さぼっていると思われる所だった。ガイナス様は説教と訓練が漏れなくセットで付いてくるから睨まれてはいかん。


「あ、あの!やめて下さい!」


アオイ様が声を張り上げて仲栽に入るが2人の耳には入らないようで無視されてしまった。

アオイ様、男というモノは何かに集中してしまうと周囲が見えなくなる生き物なんですよ。私の同僚や先輩後輩更には2人の兄上と父上で臨床済みです。

私がガイナス様に睨まれないようなるべくキリリとしていると、ファルベ殿が懐中時計をちらりと見て静かにアオイ様に近寄った。


「アオイ様、授業の後の羊花ようかの時半 (午後2時頃半)のお茶は軍施設に隣接するサンルームで過ごしましょう。今頃は羊花の花が満開でしょうからそのまま軍訪問へ向かわれる方がよろしいかと思われます」


ファルベ殿は冷たい目で男2人を見ると「え!?え!?いいの!?」と困るアオイ様を促し、取りすがる様にみっともなく、いえ謝罪する野郎共、いやいや陛下と閣下をド無視すると部屋を出ていく。

私と同僚もアオイ様とファルベ殿に従いその先頭と横に付いた。

去り際ガイナス様がちらと私を見ていたような気がするが・・・・そんな訳ないか。多分すぐ横のアオイ様を見ていたんだろう。愛らしいアオイ様には堅物のガイナス様でも目が奪われるというものか。なんか意外だな。

羊花の花をアオイ様は「綿花という花にそっくりです!でも清々しい匂いと虹色の色はとても綺麗ですね!」と大変珍しそうにしていらした。喜んで戴けた様でファルベ殿は鼻高々のご様子だった。

軍施設に着き、元の世界では見た事がないと興味津々に軍団長閣下に質問をなさるアオイ様の真剣なご様子に空気がゆるみ、束の間平和だ。

ん?背後からピーンと気配が。


「何の真似かな?」

「それはこちらの質問ですよイングベルグ様。何のご用でしょうか?」


私とユリアは無表情で目の前の美丈夫を見上げた。

クラウス・イングベルグ様。筆頭七貴族の一つ、イングベルグ公爵家の嫡男でまだ随分と若いのに勇壮で鳴らす王国軍第一軍の副団長だ。黒い髪は(巷で言われるには)宵闇の如く、瞳は(巷で言われるには)深遠な黒曜石の如く、細身ながら鍛えた体は引き締まり、軍人としては無骨な所は微塵もなくスマートな物腰で漆黒の貴公子と呼ばれる(なんだそりゃ?)に相応しい・・・らしい。


「君達に言う必要が?」

「恐れながら何らかのお約束が?」

「だから君達に」

「不躾は承知の上です。ですが我々も職務ですのでお許し下さい」

「ぐ・・・」


は!ぐうの音も出ないだろう!あっ「ぐ・・」って言った。

フッと鼻で笑ったのがわかったのか(いや勿論心の中で)イングベルグ様はギリリと歯を噛締めると


「君達が言っているのがアオイ様の事なら違う。軍団長に話があるのだ。わかったらそこをどきたまえ」


ほ ん と う かぁぁぁああああ~?


私達が眉根を寄せて疑わしそうに見上げていると痺れを切らしたイングベルグ様は強引に間に入って軍団長閣下とアオイ様に近寄り、礼をすると軍団長閣下に一言二言何か言うと体ごとアオイ様に向き直り、けしからん事に手を取って口付を落とすと流麗な口調で話し始めた。


「こんにちわ黒髪の麗しき姫。このような所でお会いするとは・・。貴女と私、素敵なえにしがある予感がします」


オイコラァ!!


私と同僚そして向こう側に控えているファルベ殿以下侍女達が殺気の籠った視線をイングベルグ様に注ぎまくる。その異様な空気を感知したらしい軍団長閣下が僅かにたじろぐのがわかった。


「あーコホン。イングベルグ、用件が済んだのなら下れ。アオイ様は視察の途中だ」


さすが歴戦の戦士。空気を読むのもお手の物だな。


「軍団長!お忙しい軍団長に代わって後は私が引き受けます!」


なにぃ!


「・・・・何を言っとるんだお前は。私よりお前の方が」

「アオイー!!!!」

「きゃっ!」

「アオイーアオイー」


・・・おま、いえ貴方は・・・

突如として現れ、アオイ様の腰に抱きついて甘える男性がいっぴ、いえお一人。


「ジュリアス貴様ァ!!アオイから離れんかァ!!!」


ジュリアス・シュナウダー様。こちらも筆頭七貴族シュナウダー公爵家嫡男、17才。栗色のフワフワした髪 (もしかしなくても中身も)碧に輝くまん丸な瞳。背はそれほど無いが細みの体は中性的な・・・(もういいか面倒くさい)真っ白な肌は分類上女である私よりも肌理細やかだ。喧嘩売られてんだろうか。因みにこの国学問の最高峰「王立学術院」の筆頭補佐官だ。・・・少女に抱きついて頬擦りしている姿はとてもそうは見えないが。世も末だ。

イングベルグ様の怒号が響き、ベリッと音がしそうなほどの勢いでシュナウダー様をアオイ様から引き剥がした。どさくさに紛れてそのまま抱き寄せようとするのを、機会を伺っていた私と同僚が素早くアオイ様を保護した。ファルベ殿に引き渡すと軍団長閣下を促して別棟へと移動する。


「えっ!おっおい!待て!」

「何すんだよ!バカっ!僕とアオイの邪魔しないでよ!」

「邪魔するわド阿呆!いきなり抱きつくとは何事だ!」

「君には関係ないでしょー!」

「お前が抱きつくからアオイが!」


等と下らぬ戯言が聞こえてきたが聞こえなかった事にして処理を完了する。

ぐいぐい押してくる害虫ど・・いや男性達だが天然が上滑りし、結果としてその猛追をかわしているアオイ様はそれほど困ってらっしゃる様には見えない。周囲は多大に迷惑を被っているが。いやこれも仕事だ。だがそんなアオイ様にも唯一苦手とされるお方がいる。


「アオイ・・・今日もまた一段と可愛らしい。これから一緒にお茶でもどうだろう。君の口に合う菓子を用意したんだ」


筆頭七貴族が一つ、アウデンリート公爵家嫡男ルードヴィーグ様だ。

『あのゆるやかに波打つ、艶やかで豪奢な金髪。どこまでも深く澄んだ蒼い瞳。大柄ではあるけれど優雅で洗練された物腰・・・』友人が他にも彼について語っていたようだがあいにく最新の兵法本を読んでいた私には半分ほどしか頭に入ってなかった。が、噂では相当女好きらしくあっちこっちでとっかえひっかえ、浮名を流されている。

その女好きのアウデンリート公爵様はアオイ様の手を取って身を屈めて、困りきった赤い顔を覗き込んでいる。ここにあの4人がいれば直ちに引き剝がされるのだろうが、私達の身分では黙って突っ立っているしかない。これぐらいは礼儀の範疇なのだ。侍女方も見目麗しい公爵様に半分ほど没落だ。


あっ手の甲にチュウした!




という訳で万事がこんな調子だ。なので当然アオイ様を恨む輩が起こす事件やら、それらに乗じて我が国を脅かす他国勢力が喧嘩を売ってきたりと・・・・取り合えず休みくれ。

いや、出来たから・・・・・

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