そこのあなた、血祭りって言われてピンときますか。
・カッとなってやった
・反省はしているが後悔はしていない
そんな残念クオリティ
雰囲気R15っぽいエロを目指しました。
雰囲気ですが!
清水京太郎は困惑していた。自室のど真ん中、目の前で正座して頭を下げる少女の言う内容が全く理解できず、固まったように動けない。一体なにがどうなってんだ、と呟いて、少女の言葉を再び脳内で反芻する。
――――私に、血をください
きっちりと正座して、真剣な表情と声音で、彼女は確かにそう言ったのだ。
………いやいやいや、と京太郎は口元だけを小さく動かした。血、とは血液、blood、あの赤い血でまず間違いはないだろう。そんなことはわかっている。しかしなぜ、そんなものが必要だというのだ。輸血でもするのか。加えて、彼女はさっき“私に”…他の誰か、親戚や友人ではなく自分に血をくれと言ったが、彼女自身が大きな怪我をしているようには見えない。ましてやわざわざ輸血を頼みに来るほど、またほかの理由だったとしても、京太郎の血液型はRH+A型、どこにでもいるごくありふれた型で、珍しい種類ではない。
さっきは、とにかく中に入れてくれと言うからつい勢いに押されて許してしまったが、これはどう見ても怪しい。口元をひきつらせて、京太郎は何言ってんだ、と喉の奥で唸った。
「………………おい、」
しばらく経っても微動だにしない後頭部に眉を寄せて声をかけると、そろりそろりと頭が持ち上がった。明らかに不本意そうで、上げた顔は眉間にしわが寄っている。そんな顔したいのはこっちの方だ。というか、もうしているが。
なんなんだコイツ、と少し距離をとって彼女の様子を伺うと、怪訝そうな視線に気付いたのか少女は口を開いた。
「……紹介が、遅れましたが、私の、名前はラウラ、と、いいます」
なんとなく顔立ちで察してはいたが、日本人では無かったらしい。肌は青白いくらいに白く見るからに黄色人種ではない。目も緑だしと頷きかけて、いやいや違うだろと強く頭をかく。
「いや、自己紹介はいいから…、別に名前が気になって見てた訳じゃねぇし。……とりあえず、あんた、なんで急に血がどうとか言い出したんだ?」
初対面にしちゃ口調が砕けすぎかとも思うが、人の部屋に半ば無理矢理入って来られて丁寧に接しろと言う方が無理な話だ。乱雑に問うと、彼女はおもむろに、無表情のまま、こくりと頷いた。
「実は、――――…………あなたの、血を、飲ませて、いただきたく、て、来たんです」
「…………………………は?」
畏まって告げられた浮き世離れした単語に、開いた口が塞がらない。つまり、なんだ。この子…いやコイツ、
「変…態?」
呟くと、少女…ラウラ、だったか。彼女はきょとんと首を傾げた。
「変態?血を飲むことが、異常性癖だ、と、いうこ、と?………それは、遺憾です、ね」
ムッとしたように、微かに眉間にしわを寄せて。
「私は……いえ、われわれ、は…」
そこで言葉が途切れる。
「いや、おい…。ホントになんなんだよ、コイツ…」
は、と目を見開く京太郎の目の前で、青白い顔をした黒髪の少女は、床にぐったりと倒れ込んでいた。
◇◇◇
「…貧血だな」
無駄にきりっとした決め顔で告げられて、まじかよ、と京太郎はため息をついた。人に血を寄越せと詰め寄っておいて、自分が貧血で倒れたら世話無いだろう。いや、だから人の血をもらいにきたのか…?と、分かったような分からないような複雑な気持ちになりながら白衣の男にうなずくと、彼はにやにやとお世辞にも上品とは言い難い笑みを浮かべる。
「しかし驚いたぜ、久々に顔見たと思ったら、お前が女の子抱えて診察きてるんだもんよ。腹上死でもさせちまったのかと思ったぜ?こりゃぁ兄貴分としちゃ、可愛いいとこの過ちを隠蔽してやるべきか自首を進めてやるべきか迷ったってのに、」
まさかただの貧血とはなぁ、と馬鹿にしたように笑われて、京太郎はうるせぇ、と唸る。
「……だけど、単なる貧血にしたって倒れるか?普通」
脇のベッドに寝かせた少女の病的に白い肌を眺めながら言うと、彼は少し気まずそうに頬をかいた。
「それなんだけどな、あー、んー…」
「なんだよ」
「……うん、この子、今生理来てるみたいだな。………それにしたって重傷すぎるが」
それで血が足りなくて、倒れたんじゃねぇか?と早口で続ける雅人に、なるほどそういうことかと黙っていると、その沈黙をどう受け取ったのかなぜか一人で焦り始めた。
「い、言っとくけど下見た訳じゃねぇぞ!触診して、胸が張ってる感じとかで判断すんだよ!」
「別に聞いてねぇけど」
「今は何かと厳しンだよ…。……っつうか、この子お前の彼女じゃねぇのか?」
「ちげぇよ」
即座に否定すると、きょとんとした顔をされる。
「じゃあ、どういう関係だよ。見た所、友達って感じでもねぇし」
貧血気味なのも聞いてなかったんだろ?と軽く尋ねられて、目を泳がせる。
「……あーっ…と…」
「それに、ついて、は、折り入ってお話が、」
「「!!?」」
どう答えようかと返事につまっていた所で、背後から聞こえた声にびくりと肩を跳ねさせゆっくり振り返る。
いつのまにベッドから降りたのか、少女は二人の背後に上着を手にして突っ立っていた。心臓のあたりを押さえたまま、雅人と二人でホッと息をつく。
「ビビった…てか、お前、もう立って大丈夫なのか?」
「だいじょ」
「大丈夫じゃないだろ。さっき倒れたばっかなんだ、まだ休んでなさい」
普通に頷こうとした彼女に眉をひそめた雅人が、珍しく医者っぽいことを言って細い体を抱き上げる。少女は不思議そうに雅人を見上げてパチパチと瞬きをしていたが、疑問は自己完結したのか少し首を傾げただけで何も言わなかった。そのまま彼女をベッドに下ろすと、雅人はぐっと伸びをしてこちらを振り向いた。
「じゃ、俺は奥にいるから。しばらくここでゆっくり寝てな。帰るとき声掛けてくれたらいいから」
「ああ、ありがと、雅人。助かった」
「………ありがと、ございます」
軽く頭を下げた京太郎をじっと見上げてから、少女も同じように頭を下げ、礼の言葉を口にする。それに笑って、いいからいいからと手を振り、雅人は彼女の頭をくしゃりと撫でた。
「お大事に、貧血のお嬢さん」
「はい」
最後にポンポンと頭をなでて、雅人は部屋を出て行った。
カラカラ、と扉が閉まる音に我に返る。
「………で?」
なぜかほのぼのしだした空気にはっとして、わざと厳しい目つきで問いただす。目の前でぶっ倒れるものだから忘れていたが、コイツは半不法侵入者ではなかったか。きょとんとする少女に軽く目を眇めて続けた。
「血が欲しいとか、どうとか…どういうことだよ。詳しく話してもなわなきゃ、どうしようもないだろ。輸血にでも使うのか?」
「…違、う」
俯く彼女と同じように頭を下げて再びがしがしかくと、呟くような小さな声。
「じゃあなんのために俺なんかの血、を、」
要領を得ない答えに苛立ち、…顔を上げて、目があった瞬間。
「……ごめん、ね。突、然」
なん、だ。
なにが…起こった?
「人間、は…こうしな、きゃ、話を聞いてくれな、いから」
くうきがこおった。
からだが、うごかない。
指先一つぴくりとも動かせず、自分の息遣いがやけに大きく聞こえる。
「わたしは…、吸血鬼、と、あなた、た、ちが、呼ぶ、イキモ、ノ」
目を、疑う。
億劫そうにそう言って立ち上がり、こちらを振り仰いだ瞳は…見事に紅かった。宝石のような、血のような…毒々しいほどに鮮やかな、赤。けれど確かに命を持ったガラスのような瞳に吸い寄せられて、目が逸らせなくなりそうだ。
………って、ちょっと待て。
確か、さっきまで目は緑だったよ、な?
驚きのあまり咄嗟に動いた唇から、乾いた言葉がこぼれ落ちる。
「な、に、言って…」
少女がそれに驚いたように瞳を丸め、へぇ、と呟いた。
「喋れる、んだ。やっぱり、トクベツだから、かな…」
どういう意味だ。
疑問に思い問いかけようとするが、まばたきをした赤い目と目が合うと、再び口は動かなくなった。話す気は無いということか、或いは今は話すときではないということか。
「信じて、もらえないだろう、けど。…私は、吸血鬼。あなたたちの…血を糧として、生きる生物。名は、ラウラ。……姓は、ない。私たちに姓と、いう、概念は、ないか、ら」
なにか質問はあるかという風に向けられる視線に、混乱しつつも…むしろ混乱しているからこそ、だろうか…小さく首を振る。
その仕草を見て、赤い瞳を爬虫類のようにスッと細めたラウラが、胸に両手を当てて語るように話し出した。
「あなたは…私たち、の、中で、トクベツな存在。神の悪戯、と、呼ばれる、極上に、して、至高の、血、を持って、いる。……だから、少しだけ、それを、私にくれない、か、な?」
……………………………いや、ちょっと待て、キャパオーバーだ。
いきなり来て何を言ってるんだコイツは。
吸血鬼?血を糧に?神の悪戯?
…わけがわからん。
ついでに今も、俺は一体何をされてんだ。
「端的に言えば…金縛り、か、な」
「だから人の心を読むな。……て、あれ」
喋れるようになってる。 思わず握り締めた手も、問題なく動かせて、パチパチと瞬きを繰り返す。
どうして、と視線を前に戻すと、ベッド脇の壁に寄りかかって再びぐったりする少女…ラウラの姿があった。その姿はさっきの比ではなく病的で、今にも死にそうなくらい顔色が悪い。
「お、前…、」
「…さっき、あのお兄さん、が、言って、た、けど。月経が、私、人より重く…て。血が栄養の、吸血鬼、には、死活問、題」
そういって少女は、自嘲気味に震える口元を持ち上げた。笑おうと、したのだろうか。
「だからか…」
「あなたの、血、をもらわな、きゃ、…たぶん、死ぬ、かな」
ハッハッと荒い息を零してそういうと、ラウラは目を閉じた。まるで人形のような少女の、諦めたようなその仕草にひやりとして、思わず肩をつかんで揺さぶる。
「お、…おい!」
「…May god bless you(あなたに神のご加護を)。迷惑をかけ、て、ごめ、なさ…。これ、で、死んだらは、はに申し訳、ない、と思っ、て、行動したけど、……迷惑、かけ、て」
「ウソ、だろ…」
途方もなく阿呆みたいな状況だ。
この無表情人形女の言うことを信じたとして、吸血鬼が、一般的には強く高貴な印象を持たれてる怪物が、生理から来る貧血で死にかけてるだなんて。
すごくすごく、生理痛なんか死ぬほどいたいとは聞くけれど、男の京太郎からすれば生理で死ぬってどういうことだよ、ショボすぎだろうとと呟きたくもなる。
そして、彼女の命が、まるで京太郎の選択次第、みたいになっているのも、訳が分からなかった。死ぬほど苦痛なら、生きたいなら、無理やり拘束して飲んじまえばよかっただろうに。力があったのになぜ、すぐに飲むためではなく、説明するために時間を割いたのか。
そんな思いに気付いたかのように、うっすらと片目を開いた少女が、今度こそ、笑う。
「……私、同意、を、得ず、に、飲んだり、しな、いって、決めてるか、ら」
「………ばかかお前」
荒い呼吸のまま、潤んだ瞳でそういったラウラに、溜め息をつく。
こんなときまで、律儀に守る必要あんのかよ。……普通ないだろう。だけどそういう能天気なとこがいいところかもなと、わかったようなことを考えた。
…つうか完全に絆されて、思う壺だな。
そんなふうに自分やラウラに呆れつつも、なぜか、恐怖は感じなかった。
彼女が死にかけ、京太郎の血を欲する理由があまりに間抜けだったからか、それとも半分自分の命を諦めかけているような少女に、同情したのか。
どっちだっていい、と京太郎は呟いた。
自分はただの人間で、至高とか言われたって他人と大きく違う点があるとは思えないし、吸血鬼なんてばかげた話、本当かどうかもわからない。
だけど京太郎が平凡な人生を歩んできたのは事実で、死にかけた人間が…自分の行動一つで救える命が目の前にいるなら、助けたいと思うのもまた当然だろう。
なんてもっともらしい理由を心の中で組み立ててから、京太郎はベッドに近寄り膝を突いた。
何をするのかと怯えたようにこちらを見上げるラウラが楽しくて、微かにのどを鳴らして笑う。
「……目の前で死なれたら、後味悪いからな。…ただし、」
ゾクリとするほど冷たい指先をそっと導いて、一回だけだぞと襟元を引っ張る。初めて見る、一瞬驚いて目を見開いたあとのホッとしたような表情に、胸が詰まった…気がした。
◇◇◇
「なぁんでこうなったんだか、なぁ…」
「?なに?」
隣で本を読んでいたラウ…ラウラが顔を上げて、不思議そうな顔をする。――――…といっても、微妙に眉が上がる程度だが。
この半年でだいぶコイツの無表情にも慣れたもんだと思いながらなんでもないと首を振って、…それでもラウはこちらを見たまま視線を逸らさない。さすがに人形のような美貌に見つめられ続ければ、慣れているとはいえ居心地が悪い。
なんだよと問いかけ頭をなでると、口元だけで何か呟いたラウが勢いよく立ち上がった。そのまま俺を跨ぐように体勢を変えてくるのに何となく察して、ため息をつく。
別にしてほしい訳じゃないが、こういう“おねだり”みたいなのは普通下から見上げてくるもんだろう。なんで上からなんだよ。
そんなことを考えながらパーカーを脱いでその辺に放り投げると、Tシャツの襟元をグッと引っ張って外気に晒す。
本当はこんな、まるで俺から誘ってるかのようにするのは性に合わないのでその辺りもコイツにやって頂きたいのだが、どうも力の加減をできずに服を破ってしまうようだ。それはカンベン。
「…ほら、」
少し目を逸らしつつ促すと、相変わらず凍えた指先が首に触れて微かに身を縮める。どんなに血を与えてもラウの体温が低いのは元からで貧血もそれに起因しているようで、全く治らない。毎回冷たくて適わなかった。耳元でそんな俺に小さく笑う声がする。
「笑うなっつーの」
くすぐってぇ、と眉をよせると、ごめん、とのんびりした謝罪が返ってきて、一度手が離れる。どうしたのかと振り返ることもせずに、俺は服の襟を引っ張った端から見たらマヌケな格好のまま待っていた。ほどなくラウがパチンと手のひらを合わせる音がして、いつもの言葉が耳に届く。
「それじゃ、……いただき、ます」
「…どーぞ」
いつものルーティン。
変わらないやりとり。
返事をすると再び冷たい手が首筋に当てられて、ピタピタと確認するように上から下へと這う。血管をラウの指が辿って、ぴと、と一点で動きを止めた。爪先が当てられじわりとした痛みと熱が同時にそこを襲い、生暖かいものが流れるのを感じる。それを舐めとるようにラウの舌が同じ箇所を撫で、思わず変な声が出そうになるのを押し止める。少し離れた紅い唇から、は、と短く吐息が漏れた。………興奮、してる。
―――――なんでも普通は血を頂くにしても、ただの食べ物だしそれ自体に興奮なんて全くないが、俺に関しては勝手が違って、吸血鬼なら誰でも興奮が高まってしまうらしい。凄まじいアドレナリン。罪な男とか言われても、俺のせいじゃないだろう。もはやそれは生理現象で、普段ぼけーっとしてるラウですらテンションが上がり、アドレナリンとかムダな熱とかその他諸々を発散させている。………まぁ、それはいいとして。
「…んっ、はぁ、」
じゅ、という割とでかい音と共に、ラウが血を吸い上げる。目がうっすら赤いのは、本能が溢れそうになってる証。最初のころに完全に赤くなったのは、疲れすぎて抑えきれていなかったからだとか。最初のころは遠慮なしに吸われてかなりキツかったが、今ではラウも負担をかけない飲み方が分かってきた…というか、“極上品”であるらしい俺の血にやっと慣れてきたのか、理性が保てるようになってきたようだ。体から血が抜けていくってのはあまりいい感覚じゃないが、苦痛というほどでもない。
「ちゅ、ん…はァ、ふ、ん……んん、」
「…っ」
舌が傷口を優しく撫でる。ぞわっとしたもどかしさが背を走り、ちょっと気持ちいい。
微かに背をそらし黒い髪を緩く撫でると、応えるように空いた右手でぎゅっと抱きついてきた。動物みたいだな。
「は、は、ん…ちゅ、ん…キョウ…んは、じゅっ」
名を呼んで上目遣いにこちらを見上げ、最後に大きく血を吸って、ラウの口が離れていった。赤く染まった唇を指の腹で拭うと、舌だけで傷口をちろちろとなめる。
「……っは…ん、」
「――ちゅ、……キョウは、吸われる、より、なめられるののが、好きなの?珍しい、ね」
「………」
最後に軽く首にキスを落とし、顔を話して首を傾げたラウの額に、俺は思わずデコピンをかましていた。
あの日以来、うちに居候しているラウに………まぁ、色々巻き込まれたり、何かと大変だったり、するけど。今んとこ毎日、割と平和だ。
……と、思っておこう。
…死ぬほど痛いですよ(タイトル続き)
まぁ結論、最後の吸血シーンが書きたかっただけですよね←