01 目を覚ます
稚拙な文章ですが、書ききるまでは頑張ります。時間の許す限りお付き合いください。
意識を取り戻して、最初に視界へ飛び込んできたのは雲ひとつない青空と、大木から伸びた枝についた広葉だった。
「……へ?」
覚えている限り、最後は自室のベッドの上で眠ったはずだった。しかし今自分の回りにはそんなものはない。
「えぇっと?」
焦りや恐怖心はなく、ただただ困惑するしかない。身を起こして周りを見るが、木々が生い茂っているだけだった。森の中の開けた場所に居るということしか、わからない。
「どこだよ、ここ」
特別、植物や土地に関して知識があるわけでもないので、今いる場所が日本のどこなのかすら分からない。悪い場合、本州ですらないことすら考えなければならなかった。
「ん?」
ふと下を見て気づく。服装まで変わっていた。部屋にいた時、眠った時はトレーナーとジャージのズボンだったはずだ。しかし今は見慣れない、ポケットの多くついた黒いズボンとインナーとして黒のノースリーブ、その上に黒いジャケットを羽織っていた。
「なんか真っ黒だな。…うわ、靴まで黒い」
こんな服は持っていた覚えがない。
ガチャ
そうやって色々考えながら調べていたが、急に後ろから物音がした。思わず振り返る。
キィィ
(なんだ?まるで扉を開けるような音じゃないか)
こんな森の中に扉なんて。そう思ったが実際そこに扉は存在した。木製で枠と戸の部分しかなかったが、確かにそこにあった。取っ手を掴みバスタオルに身を包んだ少女と共に。
「「え?」」
図らずも同じ反応を返したのは、ふたりの相性の良さ故か。
「きゃあああああああああ!!!」
しかし相性だけでこのハプニングを乗り越えられる筈もなく、大きな叫び声と共に少女は扉を閉めていなくなった。しばらくして扉そのものも消えていった。
「な、なんだったんだ、いったい」
あまりにも唐突な出来事に半ば呆然とつつ彼は呟くが、当然それに答えが返ってくることはなかった。
あれから10分ほど経ったのだが、未だ扉のあった場所を少年は探っていた。時には地面を触り砂を払い除けたり、時には戸のあった高さに飛び込んでみたり、とにかく思い付く限りのさまざまな事を試している。
「あーあ。せっかく良いタイミングで扉が繋がったのによ。もったいねーの」
「それは仕方ありませんよ。彼もそうですが、私もまさか脱衣室の扉と繋がるなんて思ってませんでしたから」
「だよなぁ、しかもあれだけ叫ばれちゃ。アイツも運がねぇな」
そう言ってモニターに映る彼の姿を見るふたりの男がいた。
少し粗雑な言葉遣いの男は、茶髪で背が高い。細身だが筋肉質で、所々破れた料理人服を着ていた。さすがにコック帽はないが、腰には皮製の鞘に包まれた2本の包丁がぶら下がっている。
「そうですね。運がないという点では、私もあなたに賛成です。こう言っては何ですが、彼は運がなければ間も悪い。もって生まれた少しの不幸でしょう」
「はっ、ちげえねぇ」
「最も、彼のそのツイてなさを見るのが私は大好きなのですが」
「おいおい、趣味わりーぞ?」
もうひとりの丁寧な言葉遣いの男。こちらも長身だが、黒いローブに身を包んでいる為に細かい体型や見かけまではわかりそうにない。
ふたりは対面するように置かれた椅子に腰掛け、互いの顔の前に浮いているモニターに目を向けている。
しかし料理人はモニターを閉じた。そのままローブの男へ視線を向ける。
「なあ、次の開通日は何時なんだ?」
「大体30日後ですかね。月の周期と組み合わせてありますから…。お暇ですか?」
「ああ、おヒマだな。アイツが目覚めるまでは不安の残るところだったが、起きたんならもう心配はいらねえんだろ?」
ここまで言うと料理人は立ち上がった。ローブの男もそれを眼で追う。
「俺は先に行かせて貰うぜ。ここでやりたい事がねえのもそうだが……」
ここまで言って、料理人はニヤッと笑う。
「やっぱ、料理作ってこその俺なんだよ。さっさと料理がしてえ」
腕を組み、中空を見上げながら話す姿はまさに、飽くなき料理への探求心を持つ作るものとしての究極の姿を体現していた。
それを聞いてローブの男も立ち上がり、右手を料理人の方へと向けた。料理人もその手に正面から向き合った。
「では、始めます。精神体での移動ですので今の肉体はここで消滅します。ですが向こうに用意した身体でも今と同様、それ以上に成長出来るので頑張って鍛練してください」
「おう、まかせとけ。また上手いもん食わしてやるよ」
「ええ、楽しみにしてますよ。それでは」
ローブの男が別れの言葉を告げると、彼の右手の指先全てに黒い炎が灯った。そのまま右腕を真上に振り上げ、勢いよく振り下ろす。
ボワッ
料理人の身体に炎が燃え移り全身に広がって行く。
またな。そう言い残して料理人の身体は燃え尽き、消え去った。彼の立っていた場所には愛用の包丁が落ちている。
「貴女は、私と行きましょうね」
包丁を拾い上げて男は呟く。一瞬、包丁の刃が煌めいた。
その反応に男は満足そうに笑う。包丁を懐に仕舞い込みながらモニターに視線を移す。
「さて、記憶を捨てた英雄王の旅立ちまでもう少しですよ」
楽しそうに、男は森で足掻く少年の姿を見つめ続ける。
「ひ、ひらけー、ゴマー!!」
未だに少年は扉のあった場所で実の結ばない努力を続けていた。
読んでくださりありがとうございました。作者的にもここまで読んでなんの話か全くわからない事は自覚しております。ですが、この場面を後に持ってきても良い感じになりそうになかったのでここから始めました。
伏線だらけ、思わせ振りな展開はまだまだ(恐らく、後3話程)続きますが、じっくり見守って頂ければ幸いです。
それでは。
※5月12日
会話文の最後に句点をつけるミスを訂正