幸福煙草は恋の味
誰もいない公園。
ブランコや滑り台で遊んだり鉄棒で逆上がりの練習をする子供達はいない。その子供達のママさん集団もいない。野球少年もサッカー少年も。
静まりかえった公園。この世界には自分しかいないような気分に陥る。
風で木々が揺れ、葉っぱが擦り合う音がする。
過去の思い出が懐かしく込み上げてきて少し寂しいくらいになる。
だが、それがいい。
ポケットの中には宝物。落とさないように大切に、少しずつ減らしていく。
背もたれのないボロボロの木製ベンチで一人横たわる。
空は何で青いんだ。何で雲は形を作るんだ。
そんなどうでもいい疑問が浮かんでくる。
ポケットの中の宝物を取り出す。ソレにセットでついてくるジッポーさん。見てるとだんだんだんだんと……。
スーッフゥー……
大きく吸い、吐き出す。また吸い、吐き出す。ただそれの繰り返し。本当にそれだけ。
だが、それがいい。
溜め息と共に吐き出す白く濁った煙は空へと昇っていった。
そのまま雲に変わっていく…ワケないか。
だったらいいのに。そうだったらいいのに。そしたらこの世界は雲だらけ、空だけじゃなくて海陸も雲だらけ。前が見えなくてモクモク。
あ、海が雲だったらどうなるんだろう。フワフワで未だ誰も感じた事のない体験になるのか、まったく触れることはできず底まで落ちて行くんだろうか。
どうなるんだろ
なったらいいのに
なったらいいな。
モワモワフワフワモックモク。
魚も肺呼吸になって雲を泳ぐんだ。人間も雲にのって移動できるんだ。
もうこの世界は真っ白けっけー!!さあ皆も両手を上に真っ白けっけー!!
「ケッケー!!!」
ジュッ
「熱っ!」
おでこが焼けどした事よりも宝物がああああ!砂だらけに。
いやそれよりもさっきまでの自分は頭がイッちゃってたかもしれない。時たま誰かにのっとられたように別人格の自分が出てくる。それもまた、自分なわけで。
ここに来てからどれくらい経っただろう。一人で何もしていないと、時間の感覚が鈍ってくる。1時間か2時間か、いや5時間くらい経ってたりして。
自分はいったい何でこんな所でこんな事をしているんだろう。一人、寂しい公園、残り19本の宝物。
あとどれくらいこうしていればいいんだろう
あとどれくらいこうしていられるんだろう。
頭が空っぽ。
さっきの別人格も出てくる気配がない。
もう駄目だ、幻聴まで聴こえてきた。女の子、可愛らしい女の子の声が小さく聴こえる。だんだん声が近づいてくる感覚にも陥ってきた。こいつぁ…重症か。最終的には幻覚まで見えちゃってさ、女の子が真横で立ってるんだ。
ちょっとあれ…コレ見えてるよ。微かにだけどパラダイスが見え隠れしてる。いいのかな。これいいのかな。コンニチワ、そっちに行ってもいいですか?え?入場券がいる?何処で売ってるんですか。
もうダメだ。このまま幻に包まれてしまいたい。
とりあえず落ち着こう。よし、宝物をもう一本。
「ねえ煙草美味しい?」
幻が現実なわけで。
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