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介入

作者: 震えザール
掲載日:2026/10/08

夏のキャンペーンのやつに間に合わなかった作品です。

供養

最近中古屋で無線イヤホンを買った。定価の半分以下なのに、悪いところはどこもなくて音質もすごく良い。万年金欠の大学生にはありがたい。

しかも前の持ち主はすぐに売ってしまったのか、随分綺麗な状態で買うことができた。

新調したイヤホンを使い始めてから生活の質がグッと上がったように感じる。どこにいても音楽を聴くようになった。特に大学の帰り道なんかは暇でしょうがないからちょうどいい。


今日も帰りの電車でいつも通り好きなバンドの曲を聴く。低音もしっかり拾えるから、ベースの音もよく聞こえるんだよな。

目を瞑って曲を楽しんでいると、突然音楽がぴたりと止まる。まだサビの途中だし、ブレイクのある曲ではなかったはずだ。

スマホを確認すると、イヤホンの接続が切れてしまっている。充電切れかと思いケースに戻すが、満タンの表示がされている。

おかしいと思いつつ再度イヤホンをつけると、機械的な音声で接続が通知される。


やっぱり中古だから調子悪いこともあるのか?


そう思いながら音楽を聴こうとするが、音が全く出ていない。ポケットの中でスマホを操作して音量を上げる。

すると、電車の中に爆音で先ほど聞いていた曲が再生され始める。音源は言うまでもなく俺のスマホだ。

周囲の乗客から冷たい視線を感じる。隣にいる男はあからさまに不愉快そうに横目で見つめてくる。途端に恥ずかしくなり、そっと音量を下げる。


やっぱり不良品なのか?全然接続できてないじゃん。


唇を噛みながら初期化の手順を調べ始める。どうやら専用のアプリを入れないと初期化ができないようだ。

イヤホンのアプリを入れようとしたところで、運悪く電車は地下に入ってしまった。ダウンロードが途端に遅くなる。しょうがないので初期化は家に帰ってからにする。

することもないのでボーッと窓の外を眺めていると、イヤホンから小さく音が聞こえてくる。耳を澄ませると、車内で流してしまったあの曲が流れている。

結局接続できたのかと思いつつスマホの画面を確認すると、音量ゼロの表示。しかし、イヤホンで流れているこの曲は紛れもなくあのバンドの曲だ。


もしかして誰かのスマホに接続したのか?


辺りを見渡してみるが、そんな様子の人はどこにもいない。そもそもこのイヤホンの接続は手順があって少し面倒くさい。通りすがりの人がたまたま接続してしまうことはないだろう。

そんなことを考えていると電車は目的の駅に着く。

接続表示で何かバグがあったのだろう、とあまり気にせず電車から降りる。

駅の人混みをかき分けながら改札へと向かう。やっとの思いで外へ出ると、アプリのダウンロードが早くなる。


突然、イヤホンから爆音の音楽が鳴り始める。先ほどとは違い、低音のドローンが強い曲調の不気味な歌だ。体の奥に響くような低音と、女性の高い歌声で頭が痛くなる。


こんな曲は俺のスマホには入っていないぞ。誰かがわざわざイヤホンに接続したのか?


そこまで考えてそんな訳ないと思う。イヤホン側の操作も必要なはずだ。しかし、このイヤホンからは実際に音楽が流れている。まさか、中古屋に売った前の持ち主はまだイヤホンを接続先として登録したままにしているのか?

なんの目的でこんなことをするのかはわからないが、大音量でこんな音楽を流すやつが正常なはずがない。

訳もわからず、その場から逃げ出そうと家の逆方向へ走り出す。


5分ほど走るうちに、いつのまにか接続が途切れている。そういえばこのイヤホンは何mか離れると接続が不安定になったはずだ。おそらく撒いたのだろう。

ホッとすると喉の渇きを感じ始めたので、近くのコンビニへと入る。

こんなに走ったのは久しぶりだったため、息を整えるので精一杯だ。

店内を歩きながら飲み物を選ぶ。俺以外に他の客はおらず、落ち着いて商品を選ぶことができる。

小さめサイズの水を手に取ると、そのままレジへと向かう。

外を見ると、がら空きの駐車場に車が一台止まった。

すると、再びイヤホンにノイズが走り、あの曲が流れてくる。

店内のBGMもかき消すほどの爆音に顔が青ざめていくのを感じる。

水を持ったまま急いでトイレへと駆け込む。目の端に、誰かが入店したのが見えた気がした。

便座に座り込むと、イヤホンの音はますます鮮明になっていくように感じた。あまりの恐ろしさに、思わず耳からイヤホンを外し荷物置きに乗せる。投げるように置いたからか、イヤホンが微かに動いた気がする。

耳を塞ぎ、頭を抱えるようにしていると、俺の入っているトイレの入り口が開いた気配がした。

入ってきたのがソイツじゃないでくれ、頼むから俺に気づかないでくれ!

祈るように待ち続けると、再度入口が開く気配がした。どうやら出ていったようだ。そのままじっと身を潜めていると、また入口が開いた。


「大丈夫ですか?」


外から声がかけられる。どうやら店員が声をかけてきたようだ。長い間トイレに入ってしまっていたらしい。


「大丈夫です、大丈夫です。すぐ出ますね」


俺は慌てて立ち上がると、イヤホンをおそるおそる耳につける。

イヤホンは何事もなかったかのように一切の音がしなかった。

トイレから出ると、持ち込んでしまった水をそのままレジへと持っていく。店員は不思議そうに俺の顔を見つめている。多分、あまりにも俺の顔が白かったからだろう。


コンビニを出た俺は、遠回りをして家へと向かう。普段使わない道を通ったからか、いつもは数分あれば着く道に1時間もかかった。道中一度もイヤホンから曲が流れることはなかった。

階段を登り家に着くと、ドアにしっかりと鍵を閉める。すぐに初期化をしようと、玄関に座り込んでアプリを開くと、簡素なUIが表示される。


AUDIO SETTINGS

MY SOUND

SEARCH FOR EARPHONES

CONTROL

SETTINGS


日本語には対応していなかったため、検索をかけながら初期化の手順を進める。後は初期化の処理を待つのみとなった。


放心状態で処理を待っていると、着けっぱなしにしていたイヤホンからあの曲が流れ始める。

心臓が途端に強く拍動を始める。遠くの方から階段を登るような足音が聞こえてくる。

トットットットッという足音は次第に大きくなり、俺の家へと近づいてくるようだった。

どうして良いのかわからず、勢いよくイヤホンを投げ捨てると、床を転がっていくイヤホンから音が漏れていた。


もしかしてトイレの中でも同じように音が漏れていたのか?


だとすると、あの時トイレに入ってきたのはやはり前の持ち主だったのか?わざわざ音を止めて俺が出てくるのを待っていたとか?

ずっと後をつけられていたという考えに、体を小さくして壁にもたれることしかできない。


1分、2分とだんだんと時間が過ぎていく。すると、イヤホンから漏れる音が突然鳴り止んだ。スマホの画面には「RESET COMPLETE」の文字が表示されている。

あの足音もイヤホンを外してから全く聞いていない。幻聴だったのか、心臓の音を聞き間違えたのか。とにかく俺が直面していた危機はひとまず去ったようだった。


ピンポーン


部屋にチャイムが鳴り響く。俺にはドアを凝視するしかできなかった。

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