マネヒルムの合戦
初投稿です。藤原詩郎と申します(本名ではないです)。最後まで読んでいただけたら幸いです。
本作はファンタジーの戦記ものになります。
丘の上に聳え立つ城を出立した軍隊は一切のものを言わず、ただ蹄の音と甲冑の軋む音だけが響いていた。空には灰色のヴェールがかかり、冷風が西方の海から強く吹いていた。
「何をそんなにこわばることがあるのだね?」と、騎士国(ネート国)の将軍ケテーヌは騎士隊長に言った。「本当に、歩兵を集めなくてもよかったのですか。」騎士隊長は息の詰まった声で返した。ケテーヌは、「それなら心配は無用。歩兵に代わる手は打ってあるからな。」と諭した。
丘を下り、だだっ広い平野、マネヒルムに出ると、ケテーヌは軍隊に陣形を組むよう命じた。前方には弓兵十人が、後方には騎士が八人並んだ。将軍と騎士隊長はその中心で守られた。歩兵はいない。そしてまた、静寂が訪れた。
少し経って、ケテーヌは微細な振動を感じ取った。心臓の鼓動ではない、不規則で、力強く、おぞましい振動を、彼は感じ取った。「皆、よく聞け!」彼は甲高く叫んだ。「西風が三度も吹けば、残忍非道の輩は姿を見せるだろう。しかし怖気付くな!風は我らに勝利をもたらす。必ず、討ち死にした古の王の仇を討ち、奪われた宝石を再び玉座へ納めるのだ!己の忠誠心に素直であれ、ネートの騎士らよ!」彼はさっと剣を抜き取って高高く掲げた。騎士達は互いに剣を打ち付け、金属の音を響かせた。
その時、角笛の鈍い音が前方からぼうっと鳴り響き、無数の声が上がった。山賊がきたったのだ。津波のような勢いではあったが、その数はせいぜい五十ほどだった。
再び角笛が吹かれ、山賊がいっそう勢いを増すと、ケテーヌは大きな弓を引き、鏑矢を放った。空を切る音がびゅうと響き、山賊の一人に落ちた。続いて弓兵達は一斉に矢を放った。細長い矢がまばらに散り、山賊は一人また一人と倒れたが、見違えるほど数は減らなかった。
弓兵達が三本目の矢を放とうとしたその時、ケテーヌは言った。「盾を待て!己の身を覆え!」と。山賊はまだ射程距離にあり彼らは困惑したが、命令に従った。すると驚愕!前方で激しい大爆発が巻き起こり、凄まじい爆風と灰、そのうえ山賊の短剣までもが押し寄せてきたではないか!騎士隊長は愕然として、何も言わず将軍に顔を向けた。ケテーヌは言った。「言った通りであろう。歩兵の代わりだ。納得がいかないかね?まあ、はるかに歩兵より効いたからな。さあ時が来た。進め、ネートの騎士らよ!」土埃が舞い上がる中、将軍と騎士達は爆発にも劣らぬ勢いで駆け出した。足元には霧が立ち込めていた。
彼らは山賊に衝突した。甲冑が叫び、剣どうしがぶつかって鋭い音が響き、馬が嘶いた。騎士達は立て続けに剣を振りかざし、敵を叩き飛ばした。
数では劣るものの、戦力は騎士側が圧倒的であった。もはや勝利は確実で目前、と誰もが思ったその時だった。「右だ!林の方から奇襲だ!」騎士達が右手の雑木林に目をやると、そこには何人もの山賊が弓を引く姿が!
飛んでくる奇襲の矢と弓兵が放った矢が交差した。次の瞬間、悲痛な嘶きとともに数頭の馬が倒れた。「怖気付くな!馬がなくとも立てる!自分の足がある限りは!」
弓兵達は奇襲部隊を射止めきることができなかった。弓を持つ敵の背後から新たに斧で武装した敵が飛び出してきたからだ。
前からも横からも攻め立てられた騎士達は逃げ場を失い、山賊は勢いを盛り返してきた。「誤算だった!数の暴力がこんなにも手強いとは。どうすれば、どうすればこの状況を打破できる...!?」
もうだめかと思われかけたその時、西から烈風が吹きつけた。地に足をつけているだけで精一杯なほど強く、戦場から時が止まったように動きも音も消えた。
風がおさまり、ケテーヌが顔を上げると———なんと!視界は白一色になっていた!雪が積もったというのか?彼は困惑した。白の正体は、無論雪ではない。湿っていてもやもやと広がるもの、すなわち霧であった。
ふいに、沈黙の戦場を再び騒然とさせる声が上がった。「退け!霧に紛れよ!」それは山賊の首領の命令であった。しまった、迂闊だった!すぐ追いかけねばならぬ!いや、冷静になるのだ。こうも霧に覆われていてはとても敵を見つけられまい。ケテーヌは角笛を吹き鳴らし、騎士達を呼び集めた。
「敵を易々と逃してはならぬ。しかし、見ての通りの霧で、そのありかがわからぬ。よって、この中から二名の斥候を出す。」と彼は言ったが、望んで名乗り出るものはなかった。「誰もおらぬか!貴様らの忠誠心はその程度か!」彼は声を荒げたものの、内心では騎士達の心をわかっていた。
そこで、ある声が聞こえた。「『風は我らに勝利をもたらす』など、よく言ったものよな。」彼ははっとした。確かに、名乗りをあげるものはいなかった。しかし、誰も逃げ出さなかったのもまた事実。見事な忠誠心ではないか!仮に敵を逃せば、私はそんな忠実な部下達を裏切ることになる。そんなことは、決してあってはならぬ!彼は静かに言った。「逃走する敵を見れば、角笛をふた吹きする。敵に迎え撃たれれば、ふと吹き、あるいはなし。」と。意味を察した騎士隊長は叫んだ。「正気ですか、将軍!」しかし、自分が代わりにとは言わなかった。「誰も行かぬなら、私が行く!結局は誰かが行かねばならぬのだから!」
彼は鐙に足を掛けて軽やかに馬へまたがり、霧の中へ飛び込んだ。二メートル先すら見えない中、彼は聴覚に頼って敵を探した。
すると、がちゃがちゃと鎧が軋む音が聞こえた。音のする方へ馬を急がせると、そこには背を向けて逃げる山賊の姿があった。ケテーヌは角笛を二度吹いた。不運だったな!もう逃げ切ることはできまい!彼は再び見えてきた希望を胸に馬の速度を上げたが、すぐ何かにぶつかって落馬した。
起き上がると、目の前に二頭の馬が倒れていた。どうやら私は敵にぶつかってしまったらしいな。彼が立ちあがろうとした時、馬の陰からふいに人影が現れた。「貴様の国では突撃が正しい挨拶か、将軍!」ケテーヌははっとした。「まさか、お前が山賊の首領か!」「それを知る必要はない。貴様は今ここでくたばるからな!」首領は憤慨して、剣を高く振り上げた。「これはまずい...!」ケテーヌは素早く身を横に動かし、立ち上がった。彼のいたところに錨のごとく剣が突き刺さった。
彼らは剣を前に構え、円を描くようにじりじりと距離を詰めた。
剣先がわずかに触れた時、首領は叫びながら勢いよく剣を振るった。しかしケテーヌは華麗にかわして後ろにまわり、剣を振りかざした。力強い金属の音が鳴る。首領がくるりと向き直り剣先を突き出すが、ケテーヌは斜め前に飛び込んでかわし、その勢いで首元を狙った。しかし肩をかすめただけ。
彼らは再び距離をとった。その周りを騎士達が駆け抜けていく。今度はケテーヌが飛び掛かり、剣ががしゃんと壊れそうなくらい鋭い音を立てた。
激しい攻防が続いた末、とうとう首領が違った動きを見せた。彼は突然攻撃をやめ、霧の中へ消えてしまった!
「卑怯な真似を!」ケテーヌは焦った。このままでは不意打ちで呆気なく殺されてしまう!もはやここまでか...!?くそっ、どうすれば良い!
その時、さっきは西向きだった風が、今度は東向きに変わって吹いてきた。すると、視界を覆っていた霧はみるみるうちに消え失せた。霧が...晴れた...!やつはどこだ!?
彼は再び首領の姿を見出した。突然霧が晴れて困惑している!今しかない!彼の存在に気づいた首領に有無を言う隙も与えず、彼は猛烈な一太刀を喰らわせた。
からんと情けない音を立てて剣は首領の手から滑り落ち、膝はがっくりと地に崩れ落ちた。戦場はもうすでに静まり返っていた。
空にかかる灰色のヴェールは途切れ、その絶え間から幾筋もの陽光が差した。その光にさらされてきらりと輝くものが、首領の首元にあった。ケテーヌはそれを取り、眺めた。「おお、ネートの宝石よ!未だ輝きは失われていなかった!」
やがて彼の所に騎士達が集まってきた。騎士隊長は言った。「逃げ延びた山賊の数は、おそらくゼロでしょう。」ケテーヌはよくやったと言わんばかりに深く頷いた後、絹の布を取り出して宝石を包んだ。「古の王の仇は討った。さて、まだ宝石を納めなければならぬ。行こう、ネートの騎士らよ!」
彼らは城へと馬首を向け、颯爽と走り去っていった。まるで風と霧のように。
読んでいただきありがとうございます。
本作は『指輪物語』に憧れて書いた初めての戦記ものです。
ジャンルは色々になりますが、今後もぽつぽつ投稿していこうと思っていますので、お付き合いいただけると嬉しいです。
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