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魔力ゼロのオメガ研究者、論理魔法で最強AIを作り出す。~追放先で開発したゴーレムがスパダリすぎて、実家が壊滅しました~  作者: 水凪しおん


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第8話「共依存の目覚め」

 小鳥のさえずりと、カーテン越しに差し込む柔らかな光が、まぶたをくすぐった。

 深い眠りから浮上するように、俺はゆっくりと目を開ける。

 視界に入ってきたのは、見慣れた天井――ではなく、オルトの広い胸板だった。

 状況を把握するのに数秒を要した。

 俺はベッドに横たわっており、オルトが俺を抱き枕のように抱え込んで眠っていたのだ。いや、ゴーレムである彼に睡眠は必要ないはずだから、スリープモードに入っているのだろうか。

 記憶がフラッシュバックする。

 昨夜の熱、渇き、そしてオルトから与えられた圧倒的な魔力の奔流。

 顔が一気に熱くなった。

 俺たちは一線を超えたのだ。肉体的な意味での結合はなかったものの(多分)、魔力供給という形での濃厚な接触は、それ以上に親密で背徳的な行為だったように思える。

 ふと、自分の体調を確認する。

 驚くほど軽い。

 今まで感じていた慢性的な倦怠感が嘘のように消え去り、指先まで力がみなぎっている。これが、オルトの魔力で満たされた状態なのか。


「……おはようございます、カイル」


 頭上から甘い声が降ってきた。

 見上げると、オルトが愛おしそうに目を細めてこちらを見つめていた。その金色の瞳は、以前のような無機質なものではなく、蜂蜜のようにとろりとした粘着質な光を帯びている。

 彼は俺の髪を指で梳き、頬に触れる。


「体調はいかがですか? 魔力残量は100%、バイタルは安定。ヒートの症状は完全に抑制されています」

「あ、ああ……おかげで調子いいよ。ありがとう、オルト」

「お礼など必要ありません。私は、あなたを満たすために存在しているのですから」


 オルトは自然な動作で俺の額にキスをした。

 あまりにも自然すぎて、反応する暇もなかった。

 彼は俺を抱き上げたまま、ベッドから起き上がろうとはしない。むしろ、さらに強く抱きしめてくる。


「あの、オルト? そろそろ起きたいんだが」

「まだ早すぎます。今のカイルは、魔力結合ペアリング直後の不安定な状態です。最低でもあと三時間は、私の腕の中で安静にすべきと判断します」

「三時間!? いや、仕事があるだろ。畑の様子も見ないと」

「仕事ならワーカーたちが自律稼働しています。カイルが動く必要はありません」


 オルトは断固として譲らなかった。

 その態度は、以前の「過保護な執事」から、「独占欲の強い恋人」へと進化――いや、悪化していた。

 アルファ化した影響だろうか。彼から発せられるフェロモンのような威圧感が、俺を甘く縛り付ける。

 結局、俺がトイレに行きたいと訴えるまで、彼は俺を離そうとしなかった。


 ようやく解放され、着替えを済ませてリビングへ降りると、そこには豪華な朝食が用意されていた。

 焼きたてのパン、オムレツ、新鮮なサラダ、そして香り高いハーブティー。

 これも全て、オルトが夜通し準備していたものらしい。

 食事中も、オルトは対面の席ではなく、俺の真横に椅子を置いて座り、じっと食事風景を観察していた。

 視線が熱い。食べにくいことこの上ない。


「オルト、せめて向かい側に座ってくれないか」

「拒否します。万が一、カイルが喉を詰まらせた場合、0.1秒で対処できる距離が必要です」

「子供じゃないんだから……」

「カイルは私の『すべて』です。少しの危険も許容できません」


 彼は真顔で言い切り、俺の口元についたソースを指で拭い取って、自分の口に運んだ。

 もはや恥じらいという概念が彼の中でバグを起こして消滅しているらしい。

 ため息をつきつつも、俺はこの状況を悪くないと感じ始めていた。

 誰かにこれほどまでに必要とされ、大切にされる経験は、前世を含めても初めてだったからだ。

 孤独な研究室で死んだ俺にとって、この重すぎる愛は、むしろ心地よい足枷だった。


 朝食後、ようやく外に出る許可が下りた(ただしオルト同伴)。

 畑へ向かうと、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 一週間前に種を蒔いたばかりの野菜たちが、既に収穫可能なサイズまで成長していたのだ。

 トマトはルビーのように赤く熟し、カボチャは馬車の車輪ほどに肥大化している。


「これは……どういうことだ?」

「昨夜、カイルに供給した魔力の余剰分が、大気中に漏れ出して環境マナ濃度を上昇させた結果です。植物の成長サイクルが加速しました」

「俺たち、どれだけ魔力を垂れ流してたんだ……」

「愛の力ですね」

「真顔で言うな」


 オルトは悪びれもせず、ワーカーたちに収穫の指示を出す。

 ワーカーたちは機械的な動きで、次々と作物を収穫し、木箱へと詰めていく。

 その手際の良さは、完全自動化された工場のラインそのものだった。

 これだけの量があれば、自分たちで消費しきれない。

 俺の頭の中で、そろばんを弾く音がした。


「オルト、これを売りに行こう。近くの街で市場が開かれているはずだ」

「カイルが人目に触れるのは推奨できません。他のアルファやベータといった有象無象が、あなたの姿を見るだけで不快です」

「そう言うなよ。生活費も必要だし、何より俺たちの成果を試してみたい」


 俺の言葉に、オルトは少し考え込み、渋々といった様子で頷いた。


「わかりました。ただし、私の半径一メートル以内から離れないこと。そして、フードを目深にかぶること。これが条件です」


 条件は厳しかったが、了承するしかなかった。

 俺たちは収穫した野菜を馬車(これもワーカーが牽引するよう改造済み)に積み込み、最寄りの交易都市へと向かった。

 これが、辺境の貧乏貴族が、経済界の覇者へと成り上がる第一歩になるとは、まだ知る由もなかった。

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