エピローグ「愛しきエラーコード」
五年後。
エルステッド領は、魔法と科学が融合した「魔導都市」として、世界中にその名を轟かせていた。
空には小型の輸送ドローン(もちろんゴーレム製)が飛び交い、街路は魔導灯の淡い光で照らされている。
丘の上に立つ領主館のテラスで、俺とオルトは並んでその景色を眺めていた。
「随分と遠くまで来たものだな」
感慨深げにつぶやくと、隣のオルトがワイングラスを傾けながら微笑んだ。
「ええ。ですが、まだ開発進捗率は60%です。次は教育機関の設立と、医療用AIの普及を計画しています」
「働きすぎだぞ、オルト。少しは休まないと」
「あなたの傍にいる時が、私の休息です」
彼は変わらない。
いや、年月を経て、その愛情表現はより洗練され、そして深くなっていた。
最近では、俺の視線の動きだけで、何が欲しいかを予測して差し出してくる。以心伝心というレベルを超えて、思考が共有されているような感覚だ。
「そういえば、昨日の議会で、跡継ぎの話が出たそうですね」
オルトが不意に話題を変えた。
俺は少しバツが悪そうに頭をかいた。
「ああ……まあ、貴族社会だからな。養子でも取らないかと言われたよ」
「必要ありません」
オルトが即答する。
「カイルの遺伝子情報は、私が完全に保存しています。そして、私の思考パターンもバックアップ済みです。我々の技術があれば、いずれ我々の子供と呼べる新たな知性体を創造することも可能です」
彼は真剣な顔で言った。
AIと人間の子供。生物学的には不可能だが、俺たちの技術なら、魂の継承は可能かもしれない。
少し狂気じみているが、それもまた、俺たち「らしい」気がした。
「それもいいかもな。……でも、もう少しだけ、二人きりの時間を楽しみたいかな」
「……同感です。あなたの愛情を、他の誰かに分散させるのは、まだ効率的ではありません」
オルトが俺の腰を引き寄せ、キスをする。
五年経っても、その熱量は変わらない。むしろ、日々増していくばかりだ。
俺の体の中で、小さなノイズが走る。
それは、幸福という名の、決して修正されることのない愛しいエラーコードだった。
風が吹き抜け、新しい時代の香りを運んでくる。
俺たちの物語は、ここで一旦の区切りを迎えるが、この先もずっと、最適解を求め続ける日々は続いていくだろう。
最強のAIと共に。




