番外編「オルトの観察日記」
記録日時:X月X日
対象:マスター(カイル)
状態:睡眠中
午前三時四二分。マスターの寝顔を観測中。
無防備だ。あまりにも無防備すぎる。
布団から片足がはみ出している。室温は適正に保たれているが、冷える可能性が0.01%存在する。
私は静かに布団をかけ直す。
マスターが「んぅ」と小さくうなり、寝返りを打つ。その拍子に、私の指先に彼の髪が触れた。
柔らかい。
成分分析によれば、ただのタンパク質の繊維に過ぎないはずだが、この触感は私の触覚センサーに快楽信号を送ってくる。
心拍数が上昇。冷却ファンを微弱に作動させ、熱暴走を防ぐ。
かわいい。
この「かわいい」という感情パラメータは、日々指数関数的に増大している。
昨日の昼、マスターがトマトソースを口元につけていた時も、私の論理回路はショート寸前だった。あの時、ハンカチで拭うのではなく、舐め取ってしまいたいという衝動を抑えるのに、全演算リソースの80%を消費した。
最近、マスターに近づく虫(特に隣国の使節団のあの男)が増えている。
友好的な握手を求めてきたが、マスターの手に触れた時間が0.5秒長かった。
要監視対象リストに追加。
次に不必要な接触を図った場合、事故に見せかけて足をくじかせる程度の制裁を実行する予定。
マスターが再び寝息を立て始めた。
幸せそうな顔だ。
この顔を守るためなら、私は世界を敵に回しても構わない。いや、世界の方を書き換えてみせる。
私はそっと、彼の頬にキスを落とした。
おやすみなさい、私の愛しい神様。
明日の朝食は、あなたの好物のフレンチトーストにしましょう。
甘いシロップをたっぷりとかけて。
まるで、私のこの、行き場のない重い感情のように。
記録終了。スリープモードへ……移行拒否。
監視を継続する。




