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ZERO-DELAY  作者: WE/9
ZERO-DELAY:平凡なリズム

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86/102

次は……私があなたを守るから

【芸術大学:写真学科卒業予展 14:00】


後藤彩静は、時間通りに展示館の入り口に現れた。


今日の彼女はいつものニットではなく、黒の長袖ハイネックのタイトなワンピースを身に纏い、その上に仕立ての良いグレーのロングコートを羽織っていた。その装いは彼女のしなやかでモデルのようなスタイルを完璧に引き立て、精巧な陶器のように冷静でノーメイクの顔立ちは、芸術の香りが漂うキャンパスの中でもひときわ目を引いた。


彼女は湊も今田も連れてこず、零(ZERO)との遠隔接続さえも一時的に遮断していた。彼女は「後藤彩静」という一人の人間として、この展示を見たかったのだ。


「ヘイ!後藤さん、こっち!」


遠くから、浅野健二がその清廉な後ろ姿を見つけた。彼は入り口で数人の友人たちと談笑していたが、まるで発光体を見つけたかのように、慌てて友人たちに挨拶をして駆け寄ってきた。


背後では写真学科の学生たちがこぞって注目し、ひそひそと噂し合っている。


「わあ、浅野の奴の隣にいるの誰だ?綺麗すぎるだろ。隣の大学のモデルか?」


「オーラが半端ないな。どこかの高級ギャラリーから出てきたみたいだぜ。」


「ハイ、浅野。」彩静は小さく頷いた。棕櫚色の長いポニーテールが動きに合わせて揺れる。


「本当に来てくれたんだね、すごく嬉しいよ!」浅野は少し顔を赤らめた。今日は清潔感のある白シャツを着ており、いつもより凛々しく見える。「中に入ろう。僕のブースは少し奥なんだ。」


浅野に案内され、特別に設営された通路へと入る。テーマに合わせて照明は暗く落とされ、空気には静寂が漂っていた。通路が狭いため、二人が並んで歩くと肩が触れ合いそうになる。


この静かで閉鎖的な空間の中で、甘い空気が急速に立ち込める。もし普通のカップルなら、今頃は自然に手を繋いでいただろう。


彩静は浅野の呼吸が少し乱れているのを感じていた。彼女の「戦術感知」は、相手との距離がわずか3センチであることを常に警告している。しかし、この薄暗い光の中で、彼女は微塵の脅威も感じなかった。むしろ、この光と影に包まれる感覚は、狙撃陣地に潜んでいる時よりも安らぎを与えてくれた。


通路の突き当たりまで来ると、視界がぱっと開けた。


「見て、あっちは僕の友達のエリアなんだ。一緒に『氷』をテーマに合同展をやってるんだ。」浅野は二つの異なる看板を指差し、声を潜めて紹介した。「彼のは『氷室』。主に地方の風景を撮ってる。そして僕の作品集は、**『氷層の下の光』**というんだ。」


浅野の作品はほとんどがフィルム写真で、色調は寒色寄りだが、細部には温もりが宿っていた。


「これ……」彩静はある写真の前で足を止めた。


写真には早朝の街が写っていた。街灯が消えたばかりで、地面にはまだ露が残っている。そんな冷え冷えとした背景の中で、一台の自動販売機が放つかすかな熱気のそばに、一匹の野良猫が丸まっていた。


「僕はいつも思っているんだ。冷静であることは、決して冷酷であることじゃないって。」浅野は彩静の隣に立ち、自分の作品を見つめながら優しい口調で言った。


「氷のように、外側は硬くて冷たいけれど、光の角度が合えば、その氷層の下にはとても綺麗で、生命力に満ちた光が屈折しているのが分かるんだよ。」


彩静は何も言わず、一枚一枚の写真に視線を走らせた。そして展示エリアの最深部へと辿り着く。


そこには独立した、最も大きな作品が掛けられていた。


写真の中に野良猫も風景もなかった。あるのは一人の少女の横顔だった。


それは彩静だった。レモンティーショップの窓際で、分厚い歴史書に目を落としている姿。浅野は、窓から差し込む光が彼女の長い睫毛と鼻先に降り注いだ瞬間を捉えていた。


浅野のファインダーを通した彩静は、もはや引き金を引く瞬間の特級執行官でも、感情を表現できないロボットでもなかった。その写真の中の彼女は、瞳の奥に淡い、極めて優しい憂いを秘めていた。


写真の下にあるタイトルには、こう記されていた。


《真実の温度》


「後藤さん……」浅野は少し緊張した様子で手をこすり合わせた。


「これが僕の、一番好きな作品なんだ。その瞬間、僕は……氷層の下に隠された君を、ほんの少しだけ見つけられた気がしたんだ。」


彩静はその写真を見つめ、心拍のリズムが完全に狂った。二十年の人生で初めて、他人の瞳を通して、こんなにも温かい自分を見た。


「……浅野。」彩静は静かに口を開いた。今回、彼女は彼のことを「大学生」とも「カメラマン」とも呼ばなかった。


「ん?」


「あなたのピント……完璧に合っているわ。」


彩静は顔を上げ、薄暗い展示会場の明かりの中で、浅野に向けて、何度も練習したけれど今この瞬間が最も自然で、最も真実な、微かな微笑みを浮かべた。


浅野の『氷層の下の光』を見終わった後、二人は繋がっている展示エリア『氷室』へと歩を進めた。


ここは浅野の温和な作風とは一線を画し、画面には大自然の壮大さと冷厳さが満ち溢れていた。そして展示エリアの中心部に来た時、一枚の巨大なカラー写真が磁石のように全員の視線を釘付けにした。


写真の舞台は夢幻的な深い森。幾重にも重なる樹冠を突き抜けた光が、数多の聖なる金の線となっている。森の真ん中で、男女のカップルが苔むした巨石に寄り添って座っていた。男性はカメラを手に持ち、女性は彼の肩に静かに頭を預けている。二人の後ろ姿は周囲の壮麗な自然環境と一体化し、まるでその瞬間に時間が完全に停止したかのようだった。


「この写真……」彩静は足を止め、その瞳に滅多に見せない衝撃の色を浮かべた。


スナイパーとして、彼女は幾度となく森を見てきた。しかし、それは潜伏地点として、あるいは弾道環境としてだった。森がこれほどまでの「包容力」を見せるものだとは、彼女は知らなかった。


「これは僕の友達の最高傑作なんだ。」浅野は傍らで、どこか憧れを込めた声で説明した。「ある写真の巨匠について地方へ実習に行った時に撮ったらしいよ。写真の中の女の子は彼の彼女なんだ。あいつ……自分の展示でカメラマンとモデルを同時にこなして、こんなに綺麗に撮るなんて、本当に凄いよな。」


彩静は写真の右下にあるサインに目を向けた。そこにはシンプルなアルファベットがあった。


「Yuto」


写真の中で寄り添う男女の姿を見て、彩静の心の底に小さな石が投げ込まれたかのような、さざ波が広がった。彼女が隣の浅野に目を向けると、彼もまたその写真をぼんやりと見つめていた。二人の間の空気は、この写真によって、先ほどの通路よりもさらに濃厚な、青春の憧憬を帯びていった。


【展示館出口:夕暮れ 17:00】


展示館を出ると、涼しい夕風が吹き抜け、暗い会場から出てきた二人は同時に深呼吸をした。


夕日がキャンパスの街路をオレンジ色に染め、学生たちが三々五々通り過ぎていく。浅野は足を止め、彩静に向き直った。その瞳には期待と緊張が混ざり合っている。今日の展示は大好評だったが、彼が最も気にしている観客は、今目の前に立っている。


「ふう……やっと終わったね。後藤さん、今日は来てくれてありがとう。僕にとって、本当に大きな意味があったんだ。」浅野は少し照れくさそうに笑い、風に乱れた髪をかき上げた。


「いいえ、お礼を言うのは私の方よ。」彩静は黒のロングコートを整え、冷静だが真剣な口調で言った。「私は見たわ……データ以外のものを。」


浅野は、氷細工のように精巧でありながら、もはや冷たくはない彩静の顔を見つめ、勇気を振り絞って尋ねた。


「この後……どこか行きたいところはある? もし時間が許すなら、近くに有名なカフェがあるんだけど、それとも……」


「どこでも構わないわ。」彩静は答えた。その声は夕日の下で格別に柔らかく響いた。「あなたとなら、きっと素敵な『撮影スポット』を見つけられるから。」


浅野は一瞬呆気に取られたが、すぐにその日一番の輝かしい笑顔を見せた。


「よし! じゃあ……僕についてきて。行きたい場所があるんだ。」


浅野は彩静を連れて電車に乗り、街の端にある廃駅へとやってきた。


ここにはもう列車が止まることはなく、錆びついた線路は野草と薄紫色の小さな花に覆われ、煤けたホームは夕日の残影の下で浮世離れした孤独な美しさを放っていた。先ほどの芸術的なキャンパスとは違い、ここは時間が止まったような重厚感に満ちていた。


「ここは一昨日、偶然見つけた場所なんだ。元々今日来ようと思ってたんだけど、やっぱり……ここの光と影は、時間の重みを捉えてるね。」


このエリアに足を踏み入れた途端、浅野の人格が切り替わったかのようだった。彼の瞳には純粋な情熱が宿り、手際よくバッグからカメラを取り出すと、ピントを合わせ、中腰になり、フォーカスリングを回した。


「後藤さん、見て! あの錆びた信号機! 今のブルーアワーに最高に合ってるよ!」


彩静は傍らに立ち、普段は目が合うだけで赤くなるこの少年が、一筋の光を捉えるために廃墟の中を駆け回り、砕石の上に膝をつくことさえ厭わない姿を静かに見つめていた。


(……写真狂ね。)


彩静は心の中で呟き、無表情な顔に極めて淡いさざ波を浮かべた。疎外感は感じない。むしろ、何かに我を忘れて没頭する浅野の姿に、不器用ながらも目を離せない「愛おしさ」を感じていた。それは戦場で精緻さを追求する自分の姿と重なり、それでいてもっと温かいものだった。


「後藤さん、あの途切れた線路の横に立ってもらえるかな? ポーズは取らなくていい。ただ遠くを見ていて。」


カメラの向こうで浅野が叫んだ。彩静は言われるままにそこに立った。黒のワンピースが微風に吹かれて軽やかに揺れる。


——カシャッ。


その一枚の写真に、殺気はなかった。ただ風景に溶け込む、平凡で美しい一人の少女がいた。


【ホームの端:出発直前】


辺りは次第に暗くなり、遠くの街の明かりが次々と灯り始めた。


浅野はフィルムの残り枚数を確認しながら、満足げにカメラを収めた。「ごめん、写真を撮ってると時間を忘れちゃって……行こうか。遅くなると帰りの電車に間に合わなくなるし。」


浅野が背を向けて立ち去ろうとしたその時、突然コートの後ろ裾に微かな引きの力を感じた。


彼は不思議そうに振り返った。そこには彩静が二本の指で、静かに、少しぎこちなく彼のコートを掴んでいた。彼女の方から仕掛けた、初めての物理的な接触だった。


「後藤さん……?」


彩静は何も言わなかった。普段は弾道を計算している彼女の瞳は、今は微かに伏せられ、彼の視線を避けていた。彼女は空いた方の手をコートのポケットに入れ、あの一見冷たい黒のスマートフォンを取り出すと、インカメラを起動した。


「前を見て。」


彩静の声は相変わらず平淡だが、拒絶を許さない命令のような響きがあった。浅野は一瞬呆気に取られたが、すぐに顔の温度が急速に上昇した。


「次は私の番。」


彩静が一歩近づき、二人の肩がぴったりと触れ合った。浅野は彼女の持つ冷ややかで、それでいて心地よい香りを感じ、脳がフリーズした。ただ硬直したまま、驚きと戸惑いの混ざった、間の抜けた笑顔を画面に向けた。


——フラッシュが光る。


画面が定格される。背景には荒涼とした廃駅、右側には無表情だが瞳に微かな光を宿した棕櫚色の髪の少女、左側にはトマトのように顔を真っ赤にして、情けなくも笑っているイケメン大学生。


これは、任務のターゲットや仲間以外で、彩静のスマホに保存された初めての、真の意味での「ツーショット」だった。


二人がスマホをしまい、月明かりの下で廃墟を去ろうとしたその時、静寂を切り裂くような悪意に満ちた口笛が響いた。


「おい! そこのカップル! こっち向けよ!」


旧待合室の影から、だらしない髪型にダボついたパーカーを着た三人の不良がゆっくりと歩み寄ってきた。先頭の大男はライターを弄び、無遠慮な視線を彩静の上に走らせる。


「へえ、可愛い子じゃねえか。こんな場所でデートなんて、刺激的だろ?」


三人が半円状に囲い込み、空気は一瞬にして険悪になった。


「な……何の用ですか?」


浅野の声は明らかに震えていた。カメラバッグを握る指先さえ白くなっている。彼はただの大学生だ。これまでの人生で最も暴力的な場面といえば、現像に失敗した時くらいだろう。


「もったいねえな。こんな美人が、あんな弱そうな奴に食われるなんてよ。」不良の一人が耳障りな笑い声を上げ、仲間に顔を向けた。「アニキ、ここで先に俺たちが『検品』してやろうぜ。この女、いただこうぜ!」


「名案だな。どうせこの廃墟には誰も来ねえしよ。」


三人が距離を詰めてくる。恐怖で震えていたはずの浅野だったが、その時、彩静の予想もしなかった行動に出た。


彼は猛然と一歩前に踏み出した。足はまだ震えているというのに、両腕を大きく広げ、死に物狂いで彩静の前に立ちはだかったのだ。


「逃げて……後藤さん、出口まで走るんだ!」浅野は振り返ることもなく叫んだ。声は掠れていたが、そこには自殺的なまでの決意が宿っていた。「僕が食い止める。君は人を呼んできて!」


彩静は浅野の背後に立ち、その広いけれど薄っぺらな背中を見つめていた。特級執行官である彼女なら、一秒もあればこの三人など永遠に消し去ることができる。しかしこの瞬間、彼女はすぐに動かなかった。


彼女は黙って浅野の後ろ姿を見つめ、普通の人間から「守られる」という奇妙な感覚を味わっていた。それはデータ上の防御ではなく、「勇気」という名の非理性的な熱エネルギーだった。


(……守られるというのは、こういう周波数なのね。)


「おや? 坊ちゃん、いい格好しようってか?」


リーダー格の不良が、浅野を突き飛ばそうと手を伸ばした。


その汚れた手が浅野に触れようとした刹那、彩静が動いた。彼女はそっと手を伸ばし、浅野を後ろへと押し退けた。


「後藤さん!? 何を……早く逃げて……」


浅野の言葉が終わる前に、彩静の深邃な瞳が月光の下で刃のような鋭さを放った。


今日はいつもの狙撃銃を持っていないが、この程度の「ノイズ」を片付けるのに武装など必要ない。


「遅すぎるわ。」


彩静の姿が残像と化した。


彼女はまず精確なサイドキックをリーダーの膝に叩き込み、相手が悲鳴を上げる前にその反動で跳躍。鮮やかな手刀を二発、残る二人の頸動脈洞へ精確に叩き込んだ。


ドン、ドン、ドン。


わずか三秒。先ほどまで吠えていた三人の不良は、今や砕石の上に綺麗に並んで倒れ、深い物理的な昏睡状態に陥っていた。


廃墟は再び静寂に包まれた。


彩静は手の塵を払い、先ほど蚊を追い払ったかのような冷静な表情を浮かべた。彼女は振り返り、まだ守るポーズのまま呆然と口を開けている浅野を見た。


「……行きましょう。」彩静は平穏に言った。「ここ、空気が悪くなったわ。」


浅野は地面に転がる大男たちを見、そして目の前に立つ黒いワンピースの、棕櫚色のポニーテールを揺らす優雅な少女を見た。脳が完全にオーバーロードしている。長い沈黙の後、彼はようやく声を取り戻した。その口調には、崇拝に近い震撼が込められていた。


「後藤さん……君、今……かっこよすぎだよ。」


浅野の瞳はキラキラと輝いていた。それは恐怖ではなく、「僕の女神はやっぱりただ者じゃない」という驚喜だった。


彩静はその呆けた顔を見て、固く結ばれていた唇の端を再び微かに上げた。彼女は自分から歩み寄り、浅野の袖を軽く引いた。


「……次は、私があなたを守るから。」


【東京:彩静のマンション前 21:00】


夜は深まり、街路の自動販売機が微かな蛍光を放っている。浅野は彩静を送り、都心にある高級だがどこか物寂しいマンションの下までやってきた。


廃駅での「武力衝突」は、決して雰囲気を気まずくさせることはなかった。むしろ、二人の間の見えない壁に亀裂を入れた。浅野はカメラバッグを背負い、街灯の黄色の光の中に立ち、かつてないほどの真剣な眼差しを向けていた。


「あの……」浅野は足を止め、カードキーを取り出そうとする彩静を見て、ようやく勇気を出して口を開いた。「後藤さん。……君の名前を、聞いてもいいかな?」


彩静の動きが止まった。


複雑な弾道パラメータを処理できるはずの彼女の脳が、一瞬だけ空白になった。彼女は今更ながら思い出した。これまでの間、二人の会話は「後藤さん」と「浅野くん」という、極めて形式的な呼び方に留まっていたことを。彼女は以前、ただ名字が「後藤」だと説明しただけで、浅野もシャイすぎるあまり、それ以上踏み込めずにいたのだ。


「私の、名前……」彩静は振り返った。街灯が彼女の瞳の奥に優しい影を落とす。


彼女は今田の言った「告白は真実を話すこと」を思い出し、暁の言った「温度を感じる」ことを思い出した。この瞬間、彼女は全てのコードネームと防壁を解く決心をした。


「私は、後藤ごとう 彩静あやしずか。」


任務以外の場で、一人の「普通の人間」に対し、これほど明確に自分の存在を宣言したのは初めてだった。


浅野は一瞬呆気に取られたが、その三文字を魂に刻み込むかのように、静かに繰り返した。「彩静……彩静さん。後藤彩静さん。」


彼はその日一番温かく、そして一番不器用な笑顔を浮かべ、彩静を真似て姿勢を正し、正式に手を差し出した。


「僕は、浅野あさの 健二けんじです。」


それは長く遅すぎた、真の意味での「初対面」だった。スナイパーも大学生もいない、ただの彩静と健二だった。


【マンション高層階:彩静の部屋】


彩静は掃き出し窓の前に立ち、下の小さな人影が手を振って別れた後、少し興奮した様子でスキップしながら去っていくのを見届けていた。彼女は手元のスマホを見つめ、廃駅で撮ったあのツーショットを表示した。


画面が彼女の顔を照らす。刃のように鋭かったその眼差しが、「浅野健二」という名前を口にした時、まるで水のように柔らかく溶けていた。



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