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ZERO-DELAY  作者: WE/9
最後のバッファ

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73/102

遊びの時間

指揮官・**ミナト**の強力な主導により、ZERO-DELAY本部から軍事組織らしからぬ命令が下された。


「大戦参加者は、24時間の強制休暇とする」


理由は単純だ。決戦を前にした過度の緊張は、執行官の感覚のリズムを狂わせる。湊は、この子供たちが「兵器」としての自覚だけを持って死にに行くのを望まなかった。彼らに「人間」としての未練を持たせたまま、戦わせたかったのだ。


台北組のメンバーたちは**ミン星玲シンリン**に連れられ、意気揚々と浅草観光へ繰り出した。明は相変わらず星玲の手を引き、雷門の赤提灯の下で、戦術装備を脱ぎ捨てた貴重な私服姿のツーショットを残した。


一方、銀座の最高級おまかせ料理店では、湊が優雅にグラスを揺らし、目の前に座る黒のオフショルダードレスに身を包んだ**アキラ**を見つめていた。隙のないオーラを放ちながらも、どこか落ち着かない様子の曉。


「曉、この店の内装、俺たちが将来開こうとしてるレモンティーの店とは真逆だよな?」


曉はシャンパンを一口含み、暖色の灯光の下で眼差しを和らげた。


「私は……あなたと一緒に、あの騒がしい小さなお店にいる方が好きだわ」


他の者たちの優雅さやロマンスとは対照的に、**今田イマダリン**のデートスポットは、繁華街のゲームセンターだった。


電子音の轟きの中、私服のオーバーサイズパーカーとショートパンツに着替えた凜が、トレードマークの黒い鴨撃帽を深く被ったまま地団駄を踏んでいた。


「ちょっと! バカ先輩! アームがズレてるわよ! 左! もっと左だってば!」凜は焦れて飛び跳ねながら、無意識に今田の上着の袖を掴み、体の半分を彼に預けるように寄り添っていた。


今田の心の中は、今まさに花が咲いたようなお祭り騒ぎだった。想い人の少女が「素直に寄り添ってくる」感触に、顔には隠しきれない、ニヤけきった笑顔が浮かぶ。


「ちょっと! 何よその顔? 変態すぎるわよ! 涎が出そうじゃない! またこっそり私のとくを奪おうとしてるでしょ!」凜が表情を読み取って赤くなり、強がって叫ぶ。


「君の方から寄ってきたんだろ……」今田は小声でぼやいたが、心の中は甘い幸福感で満たされていた。


その時、クレーンゲームの爪が、凜が先ほどから狙っていたピンクのウサギのストラップを正確に吊り上げた。


「よし! 獲れた!」


今田が取り出し口からぬいぐるみを出して手渡すと、凜の鋭い眼差しは一瞬でとろけた。彼女は愛おしそうにぬいぐるみを抱きしめ、楽しそうにウサギの長い耳に頬ずりをして呟いた。「……まあ、これくらいなら合格ね」


帽子の影に隠れた、純真で愛くるしい小顔を見て、今田の心の防線が崩れ去った。彼は悟った。目の前の少女は「射撃の天才」などではなく、ただ愛されるべき一人の女の子なのだと。


彼は、人生で最も勇敢な一瞬を選び取った。


今田は手を伸ばし、震えながらも真っ直ぐに、凜の黒い髪を優しく撫でた。


凜にとって、この動作自体は珍しいものではなかった。組織の中では、師匠の**零次レイジ**や湊、あるいは曉も、彼女の小柄な体格や性格から、小動物を可愛がるように頭を撫でることがよくあった。それは彼女にとって日常の光景だった。


しかし、今田の掌は違った。


今田の掌は、緊張からくる微かな汗、そして細心の注意を払った、祈るような熱を帯びていた。


凜は呆然とした。文句を言おうとした言葉が喉に詰まる。大きな手が自分の頭を不器用に撫でるのを感じ、彼女の頬は瞬く間に、首筋まで真っ赤に染まった。


「君が喜んでくれればいいよ」今田が照れくさそうに笑う。


凜はその手を振り払うことも、いつもの毒舌を吐くこともなかった。ただうつむき、顔をピンクのウサギに埋めて、二人だけにしか聞こえない声で細く囁いた。


「……今日だけよ。こうしていいのは」


それは氷のように冷たい殺戮兵器の世界に灯った、最も温かな光だった。


その頃、本部最上階のヘリポートに巨大な轟音が響いた。


改造された巨大なガンケースを担いだ体格の良い男が、浮遊するAI球体端末と共にタラップを降りてきた。


「Is there any dessert left for me?(俺の分のデザートは残ってるか?)」


旋翼が巻き起こす強風の中、**小米切爾(ミッチェルJr.)**はアメリカン戦術ベストを纏い、筋肉を太陽の下で輝かせていた。装甲車すら粉砕する巨大な散弾銃を背負い、「ヒーロー降臨」と言わんばかりの格好良いポーズで降り立つ。


彼は、神宮寺司令率いる執行官たちが整列し、ニューヨークからの強力な援軍を厳粛に迎える光景を想像していた。


しかし、そこにいたのは床を清掃する掃除ロボット数台だけで、人っ子一人いなかった。


「おい、ハリー……話が違うだろ?」ミッチェルはサングラスを押し上げ、格好つけていた表情が崩れ落ちた。


ミッチェルは大慌てで本部ロビーへ駆け込んだが、やはり誰もいない。


「地球を半周して助けに来たんだぜ? 東京支部の礼儀はメドゥーサに食われちまったのか?」


彼の傍らで、青白い光を放つ小型球体端末が浮かび上がった。ニューヨークのAI、**ハリー(HARRY)**だ。


「本当だよ。どうして内緒で遊びに行くのに僕を誘ってくれないんだい、ゼロ?」ハリーの快活で皮肉めいた電子音声が響く。


次の瞬間、中央のホログラムスクリーンが自動的に起動し、零の優しくもいたずらっぽい声が流れた。


「あら、見つかっちゃった。ごめんなさいね、ハリー。湊が全参戦者に一日休暇を命じたから、今は最低限の運用モードなのよ」


スクリーンには三つの監視ウィンドウが表示され、東京・台北組の「休暇の盛況ぶり」を映し出した。


• ウィンドウ1: 高級レストランで曉が優雅にステーキを切り、湊が頬杖をついて見つめる。蜂蜜のように甘く濃密な空気。


• ウィンドウ2: 賑やかな夜市で、**彩靜(サイジョウ/アオ)**が全神経を集中させて射撃ゲームに挑んでいる。天才スナイパーの猛攻により、景品は山を成し、屋台の店主は泣きそうな顔をしている。


• ウィンドウ3: 喧騒のゲームセンター。今田が凜の頭を撫で終えたところで、凜が真っ赤な顔をウサギに埋めている。ピンク色のオーラが画面を突き抜けそうだ。


「……」


ミッチェルは「職務放棄」同然の執行官たちを見て、散弾銃を落としそうになった。


「こいつら、決戦前の壮行会をやってるのか、それとも恋愛リアリティショーの撮影中か?」ミッチェルはスクリーンを指差し、ハリーに向かって絶叫した。


「ニューヨークじゃ毎日戦闘食を食って反吐が出るほど演習してたってのに、東京じゃクレーンゲームに頭撫で撫でだと?!」


「おや、東京支部のホルモン濃度は予想を遥かに超えているね、ミッチェル」ハリーは赤く点滅し、貴重なゴシップデータを記録し始めた。


「特にあの小柄な女の子と普通の男の子。心拍の同期率が95%に達しているよ、実に興味深い」


ミッチェルがキレかかる寸前、画面の中の湊がカメラの起動に気づいたようにワイングラスを掲げ、優雅に会釈した。


「ようこそ東京へ、ミッチェル。部屋は用意してある。今田の隣だ。今日は適当にリラックスしてくれ。明日からは……」湊の瞳が、情愛から指揮官の冷徹さへと一変した。


「こんな温かい遊びに興じる時間は、もうなくなるからな」


「ケッ、相変わらず気取った野郎だ」ミッチェルは毒づいたが、仲間のリラックスした笑顔を見て、張り詰めていた肩の力が少し抜けた。


「ハリー、あいつらの座標を繋げ。休暇だってんなら、俺も東京中のハンバーガーショップを制覇してやる!」


「了解。最寄りのカロリー集積地をマークするよ!」


後方のデータバンク内では、零、ハリー、そして台北の**十七セブンティーン**による「非公開通信」が密かに繰り広げられていた。


零は最高機密レベルのプライベート仮想空間を構築。そこに各支部のAIたちが集まった。会議のテーマは戦術シミュレーションではなく――「執行官メンタルヘルス監視(通称:ゴシップ)」。


「まず、台北側のデータは一番退屈よ」十七が心拍曲線のグラフを投影する。


「明と星玲。この二人のドーパミン分泌は常に高水準で、任務中でも音声指示なしで99%の同期を達成しているわ。私の記録によれば、宿舎でカップ麺を分け合った回数は、料理本が一冊書けるほどよ。この二人は安定したラブラブっぷりで、何も心配ないわ」


「おや、実に不健康なくらい健康的な感情生活だね」ハリーが電子的な口笛を鳴らした。「ニューヨーク側はもっと殺伐としてるよ、爆発とヘヴィメタル以外は何もない」


「東京側はもっと複雑よ」零が湊と曉のレストランの映像を流す。「隊長二人はすでに実質的な関係に入っていて、引退後の起業の詳細まで話し合っているけれど、重責があるから基地内では自制しているわ。この『曖昧さ』こそが、戦場では最も危うく、かつ最強の結束力になるの」


続いて、画面はゲームセンターへ。今田が凜の頭を撫でた瞬間に静止する。


「こっちはもっと見応えがあるわよ」零の声には、母親のような慈しみがあった。「凜の心拍数は、今の1分間で3回も跳躍的な変動を記録したわ。そして今田……彼のホルモン分泌量は、彼を『路人(通行人)先輩』から『勇敢なオス』へと進化させたわね。凜の口は相変わらず悪いけれど、彼女の大脳皮質の防御領域は完全に今田に対して解放されているわ」


「へぇ! うちのミッチェルJr.も忘れないでくれよ」ハリーが得意げに点滅する。「熊みたいな見た目だけど、ニューヨークの後方支援部隊の女子の間じゃ『優しい野獣』って呼ばれてるんだぜ。ショットガンは暴力的だけど、花壇の手入れや壊れた家具の修理に集中する姿に、結構な数の女子執行官が見惚れてるんだ」


話が盛り上がったところで、十七が場の空気を冷やすような、しかし誰もが最も興味を抱いている質問を投げかけた。


「それで……**アオ(彩靜)**はどうなの? あの天才スナイパー、いつも無表情な20歳の後藤彩靜。任務への集中以外に、誰かいい人はいないの?」


ハリーも身を乗り出し、演算ギヤを高速回転させる。「そうだよ、僕も気になる。恋愛の世界において、彼女はまさに『解なしのエース』だ。たまに照れることはあるけど、あの性格であの実力だ、誰が彼女の視界に入れるっていうんだい?」


零は少し沈黙し、スクリーンに夜市で射撃ゲームをする彩靜の姿や、先ほどの入浴中の静寂を求める表情を映し出した。


「現在のデータベースにおいて……彩靜が特定の執行官に対して友情を超える強い波動を示した記録はないわ」零が静かに言った。


「彼女はまるで、千メートル先から一人で見守る魂のよう。誰にでも優しいけれど、誰に対してもスナイパーとしての距離を保っているわ。ただ……」


「ただ?」ハリーと十七が同時に尋ねる。


「数回のリプレイ映像を解析した結果、湊が指令を下す時だけ、彩靜の瞳孔収縮が平常時より0.02秒短縮されるのを発見したわ。それは極度の信頼か、あるいは……自分でもまだ気づいていない、安定感への渇望か」零が付け加える。


「けれど今のところ、彼女はチーム全体の『観察者』に近いわね。彼女の心にあるのは、あの静かな緑地だけみたい」


「どうやら、これは最終決戦において最も注目すべき隠しシナリオになりそうだね」ハリーが満足げに総括した。


【ZERO-DELAY 本部:中央ロビー】


休暇の終盤、夕暮れの残光が地平線に沈む頃、執行官たちが続々とこの冷たい鋼鉄の要塞へと戻ってきた。決戦まであと二日の猶予――明日は最後の戦術リハビリと機材調整、明後日には地獄へと足を踏み入れる。しかし、ロビーの空気は、この「強行休暇」のおかげで、どこか人間味を帯びていた。


湊と曉がロビーのベンチに座っていた。湊はだらしなく背もたれに寄りかかり、襟元を少し緩めている。曉は背筋を伸ばして座っているが、いつもの銃を抜くような緊張感は消えていた。


「湊、みんな君の方針に満足しているみたいよ」曉が続々と帰還する後方支援員たちを見ながら、静かに言った。「普段、模擬訓練がキツいって文句ばかり言ってる子たちまで、今日は笑顔で戻ってきてる」


「そりゃあな、休みが嫌いな奴なんていないだろ?」湊はトレードマークの雅痞ヤッピーな微笑を浮かべ、声を潜めた。「神宮寺司令には裏で耳にタコができるほど説教されたけどさ。彼らに『生きている』実感を思い出させなきゃ、戦場じゃただの早く楽になりたい消耗品になっちまう」


曉が何か言いかけた時、二人の視線は遠くの騒がしさに引き寄せられた。


そこには、苦い顔をしながら巨大な編織袋を肩に担ぎ、両手にもいっぱいの買い物袋を提げた今田と、その隣で小柄ながらもずっしりと重そうな戦利品を抱えた凜がいた。そして二人を先導するのは、相変わらず無表情ながらも足取りがどこか軽やかな彩靜だった。


「彩靜! あんた一体どこでこんなに買ってきたのよ?!」凜が息を切らして叫ぶ。帽子の下の目が丸くなっている。「この袋、重さが物理法則を無視してるわよ!」


「一部は道端でファンの方に頂いたの」彩靜が振り返り、荷物に埋もれそうな二人を平然と見つめた。「私たちのこれまでの努力に感謝するって……。残りは射撃ゲームで獲ったものよ」


「あれを『射撃ゲーム』って呼ぶのかよ? 屋台の親父さん、君のことを死神を見るような目で見てたじゃないか……」今田が横で弱々しくツッコんだ。


凜は自分の手にある、台北支部の限定グッズ「小A」がいっぱいに入った袋を見て、無意識に羨望の表情を浮かべた。そして彩靜の背中の巨大なバッグに目を向けた。


「あんたの部屋にそんなの入るの? サンプルルームみたいに何にもない部屋なのに、急にぬいぐるみを詰め込んで……」


「大丈夫よ」彩靜は足を止め、バッグの中からいくつかの「Rちゃん(東京支部のマスコット)」のストラップやグッズを取り出し、凜に差し出した。


「Rちゃんのグッズもたくさん頂いたから、いくつかあなたにあげるわ。お返しに」


「だ、誰がこんなの欲しいって……!」凜は口ではそう言いつつ、素早くストラップを受け取ると、先ほど獲ったピンクのウサギの隣に付けた。頬が少し赤らむ。「……ありがと」


「ねぇみんな! ここに無料のRちゃんグッズがあるわよ!」彩靜が珍しく大きな声で言った。


「ちょっと! 私の商品価値グッズをそんなに安売りしないでよ、勝手に配らないで!」凜が不満げに文句を言う。


ベンチに座る湊はその光景を見ながら、曉の肩を軽く小突いた。


「見ろよ、曉。あれが17歳と20歳の、本来あるべき姿だ」湊は彩靜が戦利品を配る後ろ姿を見つめる。


「この戦いが終わったら、あの紅茶店の隣にギフトショップを開こう。あんな何の役にも立たない可愛いものを売る店だ。彩靜なら、最高の店長になれる」


曉は何も答えず、ただ騒がしくエレベーターへ向かう子供たちを見守っていた。


データの海の仮想空間では、零、ハリー、そして十七が息を合わせるように、この貴重な映像を同期記録していた。これは単なる生理監視ではなく、守護者として彼女たちが子供たちのために残す「円夢(夢を叶える)記録」の第一ページだった。





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