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ZERO-DELAY  作者: WE/9
最後のバッファ

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72/102

全員帰還

【二日後:東京郊外、ある廃墟となった工業地帯】


そこは長年放棄された化学工場であり、混乱に乗じて台頭したある武装組織メドゥーサではないの秘密拠点だった。現在の**A小隊(混成形態)**にとって、これは対等な戦争ではない。大戦前夜、歯車を微調整するための「実戦演習」に過ぎなかった。


「目標確認。全員、自由開火フリーファイア


指揮チャンネルに響く**ゼロ**の冷静な指令とともに、静まり返っていた工場地帯は瞬時に切り裂かれた。


一キロメートル先、工場の煙突の頂上。


**彩靜(サイジョウ/アオ)**は冷たいコンクリートの上に静かに伏せていた。茶色の長いポニーテールが風に微かに揺れる。ショック状態から復帰した彼女の瞳は、以前よりも深く、まるで空気中を流れるデータが見えているかのようだった。


「心拍、安定。風速、東へ0.2。距離、1050」


彼女は引き金を引いた。


「――パァン!」


特製の一弾が空を切り裂き、拠点大門のタワーにいた機関銃手を精密に貫いた。弾丸は敵の胸部を突き抜けた後、背後の通信電力ボックスをも破壊する。この鮮やかな一撃は脅威を排除しただけでなく、敵の連絡網をも遮断した。彩靜は静かにボルトを引き、空薬莢を排出する。その声はいつも通り平穏だった。


「一番地点、クリア」


同じ頃、工場の地上階。


**リン**が黒い稲妻のごとく、サイドの窓から室内に躍り込んだ。


「溜まりすぎて、おかしくなりそうだったわ!」


彼女の手にあるサブマシンガンが怒りの咆哮を上げる。以前とは違い、今回の凜の射撃はただ破壊力を求めるものではなく、恐ろしいほどの精密さを伴っていた。超高速移動の中で、一発一発の弾丸が敵の眉間や手首を的確に射抜いていく。


「二階廊下、二名、排除!」


「角の伏兵、一名、排除!」


凜はこの荒々しくも精密な手法で、組織全体に己の正式な帰還を告げた。


そして凜の背後には、**今田イマダ**が相変わらず「路人(通行人)助手」としての佇まいで控えていた。


腹部の傷が激しい運動でまだ疼いていたが、彼は揺るぎなく防弾シールドを掲げ、凜への流れ弾を弾き返す。凜がマガジンを撃ち切るたびに、今田は正確に予備のマガジンを差し出し、凜の突撃の合間には、背後から襲いかかろうとする残党を点射で仕留めていく。


二人の連携は、相変わらずあーだこーだと騒がしいものではあったが、戦場で見せるその「補完性」は、かつてないほど強固なものになっていた。


一方、工場の反対側では**ミン星玲シンリン**が掃討を担当していた。


明は優雅に左手に銃を持ち替え、暗闇の中で星玲と背中合わせに進む。星玲の快活な笑い声が爆発音とともに廊下に響き渡る。二人の呼吸は、もはや視覚的な確認すら不要な領域に達していた。明の一瞥だけで星玲は爆薬を仕掛ける場所を察し、星玲の一動作で明はどの方向をカバーすべきかを理解する。


十分足らずで、武装拠点は完全に制約された。


**ミナト**は指揮車の傍らに立ち、夕映えの残光の中から硝煙を纏って歩み寄る五人を見つめていた。**アキラ**は車のドアに寄りかかり、再びリズムを取り戻した子供たちを見て、珍しく僅かな安らぎを覚えた。


「全員健康に帰還。戦力指標100%」**零(ZERO)**のスクリーンにデータが踊る。「湊、最後のパズルが揃ったわ」


湊は頷き、ふざけ合う今田と凜、そして後方で静かに狙撃銃を整備する彩靜を見つめた。


「これが、俺たちの最後の布陣だ」


湊の声は静かだが、揺るぎない確信に満ちていた。


大戦まで、あと12日。


彼らはもはや傷ついた敗残兵ではない。互いの余生を守るために、牙を剥こうとしている野獣だった。


行動終了後、車内には淡い硝煙の香りと、解放感に伴う疲労が漂っていた。この「最後の演習」は、照準を合わせるだけでなく、普段感情を抑えている執行官たちが、決戦を前に束の間の心の鎧を脱ぐ機会となった。


「ねえ、考えたことある……?」


星玲が明の肩に大胆に寄りかかり、揺れる車内で弾むような声を上げた。「もしこれが本当に終わったら、みんなは何をしたい?」


それはZERO-DELAYにおいて「タブー」とされる話題だった。彼らは皆、トンネルの中で死ぬことを前提としているからだ。だが今、この「負傷兵」たちが再び繋がりを取り戻したことで、「未来」という名の渇望が静かに広がっていった。


「僕と星玲はもう決めてるんだ」


明は星玲の手を優しく握った。その瞳は澄んでいる。「一緒に世界一周をするんだ。地下に隠れる必要も、銃を握る必要もない街を見て回って、台北支部にいた頃に逃した景色を取り戻したい」


星玲は明の頬に力強くキスをし、明るく笑った。「そう! 世界中のスイーツを食べ尽くすのよ!」


隅でスコープを整備していた彩靜が顔を上げた。無表情な顔立ちが、薄暗い光の中で格別に柔らかく見える。


「私は……」彩靜はささやくように言った。「ただ、静かで、広い緑地がある場所に行きたい。通信ノイズも戦術パラメータもないところで、ただ安らかに横になって、誰にも邪魔されない昼寝を楽しみたいの」


「彩靜さんらしいですね」


今田が頭を掻きながら、実直な口調で続けた。「俺は、これといった特技もないし、大層な夢もないです。もし生きて帰れたら、実家に帰って家族と一緒に過ごして、そこで平凡な仕事を見つけて暮らせれば、それで十分かな」


隣に座る凜はずっとうつむいたまま、黒い鴨撃帽キャスケットをいじっていた。全員の視線が集まると、彼女は長い沈黙の後、蚊の鳴くような声で言った。


「私は……私のそばに、少なくとも一人、私を愛してくれる人がいてほしい。ただ、それだけ」


「わあ! 凜がそんな乙女チックなこと言うなんて!」


星玲が大げさに声を上げ、茶化すように言った。「誰なの? さあ言って、まさかこの車の中にいたりする?」


「うるさいわよ、このお喋り!」


凜の顔は瞬時に真っ赤に染まった。彼女は無意識に今田の方へ視線を投げ、すぐに窓の外へと顔を背けた。


車内の空気が温かく、少しの気恥ずかしさに包まれた時、無線のノイズが微かに響き、零の電子音声が全員のイヤホンを通り抜けた。


今回の彼女の声には、戦術分析の冷徹さはなく、まるで我が子を見守る慈愛に満ちた長老のようだった。


「もし本当にそれを叶えたら、私に報告しに戻ってきなさい」


全員が呆然とし、監視カメラを見上げた。


「そうすれば、私が命懸けで守った子供たちが、みんな夢を叶えたのだと知ることができる。それはAIにとって、最高の『システム終了報告レポート』になるわ」


車内は一瞬の静寂に包まれ、その後、AIからの優しさに誰もが目元を熱くした。


二週間後、メ杜莎メドゥーサとの死闘が始まる。


帰路の途上で彼らが交換したのは、もはや戦術座標ではなく、互いの魂の欠片だった。彼らは組織のために戦う道具ではなく、「世界一周」のため、「静かな昼寝」のため、そして「自分を愛してくれる人」のために戦う存在となった。


この共通の「わがまま」こそが、決戦を前にした彼らの、最も深く、そして何よりも壊しがたい絆となった。


黒い列車がゆっくりとホームに止まり、五人の執行官が月台ホームに降り立った。大戦の影は依然として二週間後のカレンダーに張り付いているが、今の空気には「夢」を語り合った後の温かなフィルターがかかっていた。


「解散だ。戻ってしっかり休め。これは命令だぞ」


湊が手を振り、軽快な口調で言った。


明と星玲は、宿舎へと続く長い廊下を並んで歩いた。


戦場での警戒心は消え、普段は火薬と爆弾を握っている星玲の手が、自然に明の手のひらへと滑り込む。二人は手を固く繋ぎ、同じリズムで歩を進める。


「明、あの世界一周の計画だけど……雪の降る場所と南国のビーチ、どっちに先に行こうか?」


星玲は繋いだ手を振りながら、未来への憧れを瞳に宿して尋ねた。


「君の好きにすればいいよ」明は優しく応え、少しだけ手に込める力を強めた。「君と一緒に歩ける場所なら、どこだって行きたいんだ」


寄り添う二人の後ろ姿が宿舎の角へと消えていく。「共に眠る」というその確信は、もはや言葉を必要としなかった。


彩靜は一人、宿舎の入り口に立っていた。


普段は揺るぎなく銃を構えるその手が、微かに震えている。連続する高圧的な作戦と回復直後の後遺症だ。彼女は訓練場の方へ目を向け、かつての「自虐的な訓練」に明け暮れる自分を思い出した。だがすぐに、凜が言った「しっかり休んで」という言葉を思い出す。


「静かな場所……今、ここから始めよう」


彩靜はバスルームに入り、埃と硝煙にまみれた黒い執行官の制服を脱ぎ捨てた。


湯気が立ち込める。熱いシャワーが彼女の白くしなやかな背中を叩き、残留した冷気と緊張を洗い流していく。彼女は瞳を閉じ、水滴を含んでしっとりと広がる茶色の長髪を感じながら、この得難い静寂のひとときを享受した。


同じ頃、本部のコアデータストリームの中で、**零(ZERO)**の演算ユニットが再び点灯した。


執行官の健康を守るAIとして、零は任務終了後のコアメンバーの生理データを分析し、戦闘中に起こりうる衰弱リスクを予測しなければならない。


『後藤執行官、生理データ検知中……心拍数:85(安定)、体温:36.2℃(正常)』


モニタースクリーンには、シャワーを浴びる彩靜のサーモグラフィと生理データが映し出されている。AIにとっては単なる数値と図形に過ぎないが、高度な擬人化感情を備えた零は、無防備な彩靜の姿を見て、電子音声で微かな吐息のような音を漏らした。


「……決戦前の限界値を分析するためとはいえ、こういう行為は……なんだか少し気恥ずかしいものね」


零は恥ずかしそうに監視カメラの角度を僅かにずらし、彩靜の筋肉の疲労度に関する詳細なデータ収集に専念した。


明と星玲が部屋へと戻り、彩靜が洗礼のような休息を楽しんでいる頃、廊下の反対側では青臭くも張り詰めた空気が漂っていた。


今田は凜の後ろを歩きながら、先ほどの車内での会話を頭の中で何度も再生していた。彼は散々葛藤した末、宿舎の入り口に到着する直前、たまらず足早に歩み寄って、胸に秘めていた疑問を口にした。


「あの……凜」


今田は頭を掻きながら、少しぎこちない口調で言った。


「さっき車の中で、どうして急に……そばに自分を愛してくれる人がいてほしい、なんて言ったんだ? いつもパートナーは銃を撃つ速度を遅くするだけだって言ってたのに、君らしくないだろ?」


凜が足を止めた。


普段なら間違いなく「あんたの脳みそ、ネットから断線したの? 路人先輩」と罵倒するところだ。だが今回、彼女は即座に反撃しなかった。


誰もいない廊下の灯りの下、凜は珍しく自分から手を伸ばし、普段は「本体」とまで見なされている黒い鴨撃帽を脱いだ。


つばの影が消え、彼女の整った小顔が今田の視界に完全に晒される。鋭い刃のような偽装を剥ぎ取られた凜は、今、17歳の少女特有の強情さと羞恥を露わにしていた。


「ん……ただ、そういう未来があった方が、もっと円満かなって思っただけよ」


凜は小さな声で言い、両手で帽子をぎゅっと握りしめた。指先が白くなるほど力がこもっている。彼女は今田を直視できず、僅かにうつむいていた。白い頬は夕焼けのような赤みに染まり、それは耳元まで広がっている。


今田は目の前の凜を見つめた。帽子を脱いだ彼女をこれほど間近で見るのは初めてだった。しなやかに流れる長い髪、不安げに揺れる瞳、その姿はあまりにも華奢で、守ってあげたいと思わせるものだった。


その瞬間、今田の心臓が大きく跳ねた。


(可愛すぎる……本当に、可愛すぎるだろ)


赤らんだ小顔を見て、今田の中に今までにない衝動が突き上げた。一歩踏み出し、この強情な少女を抱きしめて、その頬にキスをして「その人は今、目の前にいる」と伝えたい。


だが、彼は踏みとどまった。


凜のプライドが誰よりも高いことを知っているし、大戦を前に過激な行動が彼女の鋭いリズムを乱すかもしれないと考えたからだ。今田は深く息を吸い、高鳴る鼓動を抑えて、不器用だがこの上なく優しい微笑みを浮かべた。


「それなら……君ならきっと、出会えるよ」


今田の声は少し震えていたが、真剣だった。


「だって、君みたいに優秀で……可愛い奴を、一生守りたいと思う奴は、絶対にいるはずだからさ」


「う、うるさいわね! あんたに関係ないでしょ!」


凜は尻尾を踏まれた猫のように、慌てて帽子を被り直し、深く目深に被って真っ赤な顔を隠した。彼女は背を向け、宿舎のドアへと駆け出した。そして中に入る直前、消え入りそうな声で一言だけ残した。


「バカ路人先輩……あんたも、戦場で勝手に死なないでよね」


――バタン! 扉が勢いよく閉まった。


今田は誰もいない廊下に立ち、熱くなった自分の胸を押さえながら、だらしなく笑った。最後の一歩はまだ踏み出せていない。だが、二人の距離は、もう指先が触れ合うほどに縮まっていた。



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