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ZERO-DELAY  作者: WE/9
引き継ぎ

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65/102

大人と青年

モニター上のデータストリームが高速で切り替わり、最終的に二枚のぼやけた監視映像のキャプチャで止まった。


「現在の情報集約に基づき、我々は『首領』に対する認識を修正しなければならない」**零(ZERO)**の声が、静まり返った室内に響いた。


「まず、台北支部のミン星玲シンレイから送られた報告によれば、台北司令が衝突現場で目撃したのは仮面の男――コードネーム『VN』だ。しかし、これはアキラミナトがニューヨークの任務で遭遇した状況と食い違っている」


モニターはニューヨーク支部の映像に切り替わった。そこには細身で優雅な身のこなしながら、粛殺とした気配を漂わせる仮面の中年女性が映っていた。


「私が把握している演算ロジックと権限のフローから推測するに」零が結論づけた。「真のメデューサの首領はこの中年女性、コードネーム『W』である可能性が高い。VNについては、元はN組織の高官であり、組織統合後は行動実行の地区指揮官を務めているに過ぎないと推測される」


それを聞き、終始沈黙して煙草を吸っていた神宮寺ジングウジ司令は、ゆっくりと白い煙を吐き出し、深い眼差しを湊と暁に向けた。


「正体など表層に過ぎん。真の問題は――奴らの目的だ」


神宮寺の声は低く、不安を孕んだ掠れを含んでいた。


「これこそが、現在の ZERO-DELAY における最大の脆弱な痛点だ。零の演算システムをもってしても、メデューサのロジックは解明できていない。台北の事件を思い出してみろ。奴らは技術的手法で都市全体の制御権を掌握した。一晩で台北を麻痺させることもできたはずの力だ……」


「……なのに奴らは手に入れた途端、まるで玩具を捨てるように、あっさりと権限を我々に返した」湊が眉をひそめて言葉を引き継ぎ、無意識にデスクを指で叩いた。「テロ組織の論理に合わない。権力のためでも、破滅のためでもないなら、奴らは一体何のゲームをしているんだ?」


「それこそが、組織全体を不安にさせている要因だ」神宮寺司令は立ち上がり、巨大な掃き出し窓まで歩み寄ると、地下トンネルの入り口を見下ろした。「奴らは巨大な『実験』を行っているかのようだ。我々も、都市も、そして零次レイジさんでさえ……その実験の観測サンプルに過ぎないのかもしれん。W が何を望んでいるのかを突き止めるまで、我々の一歩一歩は、相手の盤上での踊りに過ぎない可能性がある」


暁はモニターに映る W を冷ややかに見つめた。「奴らが何を望んでいようと、黒い列車を遮るというのなら……排除するだけです」


神宮寺司令はすぐには命令を下さなかった。彼はゆっくりと煙を吐き出し、首を振った。その表情はどこか沈んでいる。


彼は湊と暁を向き、厳粛な口調で言った。


「明日、全日本防衛区域を対象とした戦術討論会議がある。大戦前の最後の協議だ。今夜はしっかり休んで、あの厄介な地方政治家どもを相手にする備えをしておけ。行きなさい」


湊と暁は頷き、並んで会議室を後にした。神宮寺は二人の背中を見つめ、その瞳に僅かな安らぎと、それ以上の憂慮を滲ませた。


【東京の街角:廃工場の外壁】


夜の色は墨のように濃く、微かな街灯が冷たい風に揺れていた。


**リン今田イマダ**は、隠密性の高い低い壁の背後に身を潜めていた。情報によれば、今夜メデューサの物資搬送チームがここを通過する。大掛かりな作戦ではない監視任務だが、張り詰めた情勢下では、どんな些細な動きも神経を削り取っていく。


待ち時間は退屈で長い。今田は隣で銀色の手銃(拳銃)を点検している凛を見つめ、言葉にできない感情がこみ上げていた。


「凛……これから大戦が本格的に始まったら、こうして毎日君と『デート』するのも難しくなるのかな」今田は声を潜め、どこか感慨深げに言った。


「馬鹿なこと言わないで。誰がデートよ」凛は黒いベースボールキャップを深く被り直した。口は相変わらず悪いが、その声にいつもの刺々しさはない。


「戦争が終わったら、また大人しく基地に出勤するだけでしょ。忘れないで。先輩が遺してくれた航空券も使ってないし、ユニバ(USJ)にだってまだ行ってないんだから」


「そうだね……」今田は「ユニバ」という言葉を聞いて目を輝かせ、止まることなく計画を語り始めた。「まずはマリオカートに乗って、それからハリー・ポッターのエリアでバタービールを飲んで……お土産もすごいって聞くし……」


興奮するあまり、今田の体は無意識に凛の方へと寄っていった。もともと狭い壁際だ。凛より一回り大きな今田の体がじわじわと圧迫し、小柄な凛ははっきりと窮屈さを感じていた。


「ちょっと! 通行人先輩!」凛は小声で叫んだ。狭い空間と至近距離の体温のせいで、彼女の頬は微かに赤らんでいる。「近すぎ! 息ができないわよ!」


「おっ! 悪い! 故意じゃないんだ!」今田はようやく我に返り、感電したように飛び退くと、慌てて謝った。


凛はそのうろたえる様子を冷ややかな目で見ながら、いつもの調子でからかった。


「故意じゃないならいいけど。……あんた、さっき心の中で『わぁ、この子いい匂いするな』とか考えて、どさくさに紛れて得しようとしたでしょ?」


「してないよ! 本当にユニバのこと考えてたんだって!」今田は顔を赤くして小声で反論した。


凛は今田の平凡だがこの上なく誠実な顔を見つめ、自分でも気づかないうちに口元を緩めた。戦火に呑まれようとしているこの街で、こんな無意味な言い合いこそが、彼らの心にとって最後の防衛線だった。


やがて、廃工場の裏口にターゲットが現れた。メデューサの物資受け渡しチーム。隠密で迅速な動きだ。


「仕事よ、通行人先輩」


凛の鋭い号令とともに、銀色の閃光のような身のこなしで壁際から飛び出した。激しい銃撃戦が瞬時に勃発する。凛の持つ銀色の手銃は、恐怖を感じさせるほどの正確さを誇った。放たれる弾丸の一発一発が、敵の行動経路を精密に封鎖していく。小柄な体を遮蔽物の間で躍動させ、弾道演算の極地にある彼女には、敵の射線が見えているかのようだった。


今田も後に続く。彼はもう、引き金に指を震わせる新兵ではない。零次から託された黒い銃を沈着に放ち、凛を包圍しようとする雑魚を排除し、彼女の背後に堅牢な守りを築いていた。


戦況は圧倒的だった。メデューサの残党は形勢不利と悟り、逃げるように真っ暗な路地の奥へと逃げ込んだ。


「追うわよ!」凛は迷わず突き進んだ。戦闘の高揚感が、「防御的交戦」の禁令を一時的に忘れさせていた。


「あ、おい! 待て!」


今田は路地の高い位置に微かな反射を察知した。狙撃手の伏兵だ! 凛が死角に踏み込む寸前、今田は考えるより先に、彼女の背後から力一杯飛びついた。


「きゃっ!」凛は今田の逞しい体に押し倒されるように地面へ転がった。二人が倒れ込んだ瞬間、大口径の弾丸が耳をつんざく風切り音を立てて頭上を通過し、背後のレンガ壁を粉砕した。


今田の広い背中に守られながら、下に敷かれた凛は即座に冷静さを取り戻した。瞳は刃のように鋭い。彼女は倒れた姿勢のまま、高所の伏撃ポイントへ向けて三発連射し、続けざまに手元を見ないブラインドショットで逃走を図る敵の背中を貫いた。


硝煙が消え、路地は再び死の静寂に包まれた。


「……退いてくれる?」


凛は地面に横たわったまま、至近距離で肩で息をしている今田をじっと見つめていた。


「あっ! ああ! ごめん!」今田はハッと我に返り、顔を真っ赤にして慌てて凛の上から飛び起きると、気まずそうに服の埃を払った。


凛は何事もなかったかのように立ち上がり、黒いキャップを整え、通信用のイヤホンを叩いた。


ゼロへ。目標を全数処理したわ。死体は四体。掃除屋を回して」


スピーカーからは零の平穏な『了解』が返ってきた。通報を終えた凛が弾倉をチェックする様子を見ながら、今田は少し躊躇ってから小声で言った。


「九条。」


「何?」凛は顔を上げずに応じる。


「あのさ……僕は一応『助手』だけど、任務のたびに結構な数の不意打ちから君を守ってるよね?」今田は頭を掻き、気恥ずかしそうに、しかし期待を込めて彼女を見た。「……少しぐらい、褒めてくれてもいいんじゃないかな?」


凛の動きが止まった。顔を上げ、まずは最高に軽蔑しきったような「救いようのない馬鹿を見る目」を向ける。


しかし次の瞬間、彼女は手にした銃を下ろし、纏う空気を一変させた。首を傾げ、両手を拳にして頬の横に添え、トップアイドルのような満開の、活力に満ちた可愛らしい笑顔を作った。


「えへへ、あのね……実はね、凛……本当は、今田のことすっごく、すっごく大好きなんだよぉ!」


凛は情熱的に抱きつこうとする仕草を見せた。今田はこの不意打ちに耐えられるはずもなく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、顔を茹で上がった海老のように真っ赤にして、この稀有な抱擁を受け入れようと両腕を広げた。


抱きつく寸前、凛の体は鮮やかに翻った。甘ったるい笑顔は一瞬で消え、いつもの嫌悪感たっぷりの冷たい顔に戻る。


「……とでも言うと思った? 通行人は自分の本分を果たすのが当たり前でしょ。どさくさに紛れて抱きつこうとするなんて、本当に変態先輩ね」


「おい! 先に演技したのは君だろ!」今田はがっくりと肩を落とし、気まずそうに毒づいた。


しかし、今田が路地を立ち去ろうとしたその時、凛はふっと小さく笑った。それは演技の甘さではなく、いつになく澄んだ、活力に満ちた本物の響きだった。彼女は今田の後頭部を見つめ、消え入りそうな、けれど確かな声で言った。


「……でも、ありがとう、今田」


今田は立ち尽くし、前を歩く凛の背中を見送った。彼女はキャップを深く被って表情を隠したままだが、それが17歳の少女が今出しうる、精一杯の本物の「褒め言葉」だと彼は知っていた。


この平凡な日常は、あとどれだけ続くのだろうか。



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