表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZERO-DELAY  作者: WE/9
死神の信物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/102

OUT

零次レイジ、準備ができているなら、車内の黄金のチップに手を触れて」


ハリーの幼い声がイヤホンから消えるやいなや、零次の細く、無数の傷跡が刻まれた指先は、黄金のチップを死守するように押し当てられた。


ドン――!


それは音ではなく、意識の爆発だった。その瞬間、零次は銀白色の閃電と化し、列車のフロントガラスを粉砕した残像を空中に残したまま、本体はすでにメデューサ部隊で埋め尽くされた薄暗いトンネルへと突入していた。


神経接続は最初の1秒で限界まで燃え上がった。ハリーのデータ支援により、トンネル内の混乱した気流と塵は、零次の瞳の中で静止した幾何学図形へと凝固した。


【00:05】


前方のメデューサ特攻兵30名が驚愕して半自動小銃を構えるが、零次の視界では、引き金を引く人差し指の動きは湿ったゼンマイのように緩慢だった。零次は減速することなく、逆に45度に近い傾斜角でトンネルの円弧状の側壁を疾走し、重力を無視して駆け抜ける。


【00:15】


「全軍、撃て!」指揮官の叫びが最初の音節を発した瞬間、零次の二丁拳銃が鳴り響いた。


両手は全く逆の方向を指し、銃口から放たれた火炎は暗闇の中に二道の致命的な弧を描く。一発ずつの9mm弾は精密に戦術ヘルメットの装甲を避け、兵士たちのマスクの下にある喉元へと吸い込まれた。それはハリーが算出した「絶対致命圏」だった。


【00:30】


トンネル中央で十数輪の暗紅色の血の花が咲き乱れ、兵士たちは悲鳴を上げることすらできず、零次が通り過ぎて3秒後に整然と倒れ伏した。メデューサの老兵が閃光弾を投じようとするが、零次は空中で身を翻し、壁を蹴って白隼しろはやぶさのごとく急降下する。閃光弾の安全ピンが抜かれる直前、右手の銃のグリップが相手の鼻梁を粉砕した。


【00:45】


零次は高速移動中にタクティカル・リロードを完了させ、マガジンが床に落ちる澄んだ金属音が響く。彼は残りの兵士の陣形へと突っ込み、その動作はもはや単純な戦闘ではなく、高頻度の精密な切断作業へと変わっていた。背後の敵を見る必要さえない。ハリーから送り返される神経感応だけで、刺突を回避しながら、流れるように別の敵の後頭部へ弾丸を送り込んだ。


【01:00】


第1分、終了。


第一陣の阻止部隊は完全に崩壊した。トンネルの床は温かい血溜まりで覆われ、零次の白いスーツは硝煙の中で翻り、裾は返り血で黒く染まっていた。彼は足を止めない。呼吸は古びたふいごのように重く、しかしその眼差しは銀色のデータ流に点火され、ますます空虚で狂気じみたものへと変わっていく。


「ハリー、次だ」


零次は血の混じった唾を吐き捨て、再びトンネルの闇の奥へと姿を消した。


第1分の硝煙がまだ晴れぬ中、トンネルの奥から重苦しい金属の足音が響いてきた。メデューサの第二陣――重装外骨格歩兵組が、一人分の高さがある複合鋼鉄盾を構え、移動する鋼鉄の長城のごとくトンネルを隙間なく封鎖していた。


【01:10】


零次の左手の銃がホールドオープン(弾切れ)の乾いた音を立てる。彼は未練なくその銃を重装兵の頭部へ投げつけ、相手が盾で防いだ隙に、姿勢を低くして白い伏地雷光のように突進した。右手にはまだ最後の一丁を握っているが、ハリーの警告により、9mm弾ではこの亀の甲羅を貫けないことを彼は知っていた。


【01:25】


「目標ロック、クロスファイア――撃て!」


重装兵の肩に装備された自動機関砲が火を噴き、密集した弾幕が零次の立っていた床を一瞬で粉々に砕く。しかし、零次はその瞬間、物理法則に背く動きを見せた。高速走行中に片手で地面を突き、身体を螺旋状に躍らせて宙に舞う。死んだ兵士の死骸と交錯する一瞬、細い指先が血溜まりに落ちていた合金長刀を正確に引っかけた。


【01:40】


[データ接続:合金長刀強度88%、共振周波数確定]


ハリーの声が脳内で激しく躍動する。零次は着地後、淀みなく重装兵の防衛線へと突入した。もはや広範囲の破壊は求めず、精密に金属の隙間を狙い定める。


「ガキィィィン!」


合金の刃が盾の縁を削り、耳を刺す火花を散らす。零次の姿は狭い盾陣の隙間を縫うように動き回り、捕らえることのできない亡霊のようだった。


【01:50】


一人の重装兵が怒号を上げ、巨大な機械の拳を零次へ叩きつける。零次の眼差しは氷のように冷たい。避けるどころか、拳風に向かって突き進む。拳が胸元に届くわずか5センチ手前で、彼はつま先を軸に身体を独楽のように回転させた。


回転の遠心力とハリーが算出した共振角を利用した刃は、銀色の閃光となり、外骨格の油圧ラインへと正確に食い込んだ。


ドシュッ!


青い作動油と赤い鮮血が同時に吹き出し、その重装兵は痛みを感じる暇もなく、機械の腕を肩ごと切断された。


【02:00】


第2分、終了。


トンネル内には金属の断裂音と重い転倒音が木霊していた。かつては越えられないはずだった鋼鉄の防壁は、零次の血塗られた長刀の前で、バラバラの屑鉄へと解体された。


零次の右腕は過剰な衝撃に耐えきれず細かく震え、血が刀の先端から熱を帯びた床へと滴る。呼吸はさらに短く、破裂音を含んでいたが、銀色の双眸は依然として前方を見据え、手に持った長刀は暗闇の中で冷たく光っていた。


「あと3分……」


零次は低く呟いた。その声に生の渇望はなく、ただ任務完遂への決意だけが宿っていた。


激しい爆発により照明システムは完全に沈黙し、赤い非常灯だけが忙しく点滅していた。血色と影が交錯する廊下に、メデューサの増援部隊が潮のように流れ込んでくる。百名以上の精鋭兵と、三つの移動要塞のごとき重装歩兵陣列だ。


【02:10】


「同期率400%突破! 零次、君の神経末端が燃えているよ!」


ハリーの声に冗談の色はなく、電子干渉のノイズが混じっている。


零次は屍の山の上に立ち、右手で残り半分のマガジンが入った銃を逆手に持ち、左手に合金長刀を構えた。彼の瞳は今や完全に液状の銀色と化している。それは極限の負荷の下で、生体信号を完全にAIに託した証だった。


【02:25】


「撃てぇ――!」


メデューサ兵の銃火が瞬時に金属の網を織り成すが、零次の姿は消えた。


400%の同期視界の中では、全ての弾丸が長い赤色の尾を引いて流れていく。彼は人間離れした動きで空中で身を屈め、右手の銃で重装歩兵の露出した関節部を狙い撃つ。


「バン、バン、バン!」


三発の銃声。三人の重装兵の膝の油圧ベアリングが正確に爆ぜた。彼らが均衡を崩して倒れ込む一瞬、零次はすでに陣形の中央へと死神のごとく潜り込んでいた。


【02:40】


[戦術演算:近接殺戮パス A3]


左手の長刀と右手の銃火が同時に爆発する。それは視覚的な残酷美だった。刀の先端で一人の頸動脈を跳ね上げると同時に、右手で盲撃ちを行い、背後から襲おうとした兵士の眼窩を撃ち抜く。重装兵の広い盾を踏み台にして宙へ舞う姿は、赤い雨の中を舞う白鶴のようだった。白いスーツはすでに元の色を失い、彼が敵陣で回転し、突き、処刑するたびに、半月状の銀光が閃いた。


【02:50】


「化物め! こんなの人間じゃない!」


一人の一般兵が恐慌に陥り叫びながら、狂ったように弾丸をばら撒く。


零次は無表情に首を傾け、弾丸が頬を掠めて焦げた血の跡を残した。左手の長刀を投げ放つと、銀光となって相手の胸腔を貫通した。そのまま自身も突進し、右手の最後の一発を重装兵のヘルメットの隙間に押し当て――


「ドン!」


【03:00】


第3分、終了。


零次は半分空になったトンネルの中央に立っていた。左手は空で、右手の銃は最後の一発を撃ち終えてホールドオープンしている。彼は濃い血を大量に吐き出し、400%の同期率により身体は激しい痙攣を起こしていた。


しかし彼はゆっくりと頭を下げ、屍に刺さった長刀を再び引き抜き、弾の切れた銃を腰に戻した。その動作は緩慢で硬く、過熱して歯車が摩耗しきった旧い機械のようだった。


「ハリー……」零次は血に染まった歯の間から絞り出す。「あと1分だ」


「いいえ、零次。あと2分ある」ハリーは一秒沈黙し、声を震わせた。「でも君の身体は……あと1分分しか余力が残っていない」


トンネルの遠方から耳を刺すようなレールの摩擦音と混乱した足音が聞こえてきた。リン今田イマダが外周の囮部隊を片付け、死に物狂いで「終結点」へと駆けつけていた。凛の瞳にはかつてない驚愕と焦燥が浮かび、イヤホンからは零次の、焼き切れたふいごのような、かすれた呼吸音が聞こえてくる。


「師匠! あと少しだけ耐えて! すぐ行くから!」


凛は通信機に向かって叫ぶが、その足速度はすでに訓練時の極限を超えていた。


しかし、トンネルの中心で、零次にはもう何も聞こえていなかった。


【03:10】


「同期率550%! 零次、すでに痛覚は遮断した。僕が君の小脳反射をジャックする!」


ハリーの声は今や電子ノイズの悲鳴のように響く。


前方、最後にして最大の重装歩兵集団に対し、零次は空の銃を腰に差し戻すと、刃の欠けた長刀を両手で握りしめた。白いスーツの袖は汗と血で浸り、痩せた腕に張り付いている。筋肉は過負荷で激しく震えていた。


【03:25】


メデューサの指揮官はこれが最終決戦だと悟り、手を振った。「全軍突撃! 盾の壁で奴を押し潰せ!」


十数人の重装歩兵が鋼鉄の盾を並べ、移動する鋼鉄の壁となって、ゆっくりと、しかし重々しく零次へと迫る。背後の兵士たちは盾の隙間から長槍を突き出した。


【03:40】


零次が動いた。その動作に優雅な溜めはなく、引きちぎられた鋼の弦のように一瞬で弾けた。


彼は盾の壁に向かって突き進み、接触の瞬間、ありえない角度で身体を捻った。盾を斬ろうとはせず、550%の同期がもたらす超感覚で、金属の応力の弱点を見抜いたのだ。


「ギィィン!」


長刀が盾の重なり合う隙間に突き刺さり、零次はそれを利用して盾の壁の頂上へと跳ね上がった。鋼鉄の森の上を疾走し、刃を素早く振るう。一撃一撃が、ヘルメットから露出した兵士たちの頸動脈を正確に切り裂いていく。


【03:50】


「あそこだ! 引きずり下ろせ!」


無数の銃口が上を向くが、火を噴く直前、零次はすでに盾の端から着地していた。彼は反転しながら横一文字に薙ぎ払い、合金長刀は血の匂いを纏った銀色の弧を描いた。ハリーの演算増幅を受けたその一太刀の威力は凄まじく、三人の重装兵の油圧脚部連結パーツを一気に切断した。


【04:00】


第4分、終了。


トンネルは再び静寂に包まれ、重い装甲が倒れる音だけが響く。


零次は血溜まりの中で片膝をつき、長刀を支えにして身体を保っていた。左目は毛細血管が破裂して真っ赤に染まり、顎を伝って血が絶え間なく滴り落ちる。


「零次……」ハリーの声はとても静かで、残酷なほどに優しかった。「同期率が……下げられない。君の脳波は今、溶け始めている」


その時、トンネルの背後から凛の悲鳴が聞こえた。「師匠――!」


それは凛と今田の姿だった。ついに最後の障害を突破し、修羅場の中央で、もはや人間としての形を保つのがやっとのような白い後ろ姿を捉えた。


零次は振り返らなかった。ただゆっくりと、震える手で地面に突き刺した長刀を再び引き抜いた。


前方に、最後の一分。


そして、最後の一人。


「来るな!」


零次の咆哮が狭いトンネル内に爆発した。それはもはや人間のものとは思えない、かすれた声だった。後方の今田は瞳孔を収縮させ、零次の周囲に漂う破滅的なエネルギーを鋭く察知した。凛がなりふり構わず駆け寄ろうとした瞬間、今田は歯を食いしばって彼女に飛びかかり、遮蔽物の後ろへと力ずくで組み伏せた。


同時に、零次が動いた。


それはハリーでさえ正確にシミュレートできない、最後の突撃だった。零次の姿はぼやけた銀白色の光束と化し、行く手を阻む全ての残骸を粉砕しながら突き進んだ。


【04:25】


短く、鼓膜を震わせる交錯。


刃が肉を裂く鈍い音、骨が砕ける乾いた音が、わずか5秒の間に一つの音節へと重なった。


凛が再び顔を上げた時、最後の執行官は糸の切れた人形のように入り口に膝をついていた。零次は彼らに背を向け、右手に銃、左手に刀を持ち、鮮血に塗りつぶされた彫像のように立ち尽くしていた。


「エリア、クリア。零次、残りの話は、彼岸でしよう」


ハリーの声は稀に見る優しさを湛え、ヘッドセットのノイズの中にゆっくりと消えていった。


「ありがとう、ハリー」


零次は心の中で静かに答えた。


同期率が強制的に切断され、データ流が潮が引くように去っていく。


零次は骨を抜かれたかのように身体を激しく揺らし、冷たいトンネルの壁に沿ってずるずると座り込んだ。激しく喘ぎ、呼吸のたびに肺から血の泡が吹き出す。予定されていた5分の接続時間はまだ1分近く残っていたが、彼にはもう必要なかった。


凛は這うようにして駆け寄り、零次の冷たくなった身体を抱きしめた。涙が瞬く間に彼の白いスーツを濡らす。今田も涙に顔を歪めながら近寄り、震える手で止血を試みたが、どこから手をつけていいのかさえ分からなかった。


「凛……」


零次は重い手を上げ、凛の黒い長髪に最後の一触れをした。指先の血が彼女の髪に鮮やかな赤を刻む。


「俺の引き出しに……手紙がある。読んだら、燃やせ」


彼の視線はゆっくりと、傍らで泣きじゃくる今田へと移った。その口調は、まるで日常の公務を言い渡すかのように穏やかだった。


「今田……俺のデスクの上に、一着の服と一丁の銃がある……。それはお前と神楽ミナトへのものだ。どちらが何を取るかは、自分たちで決めろ」


「それから、新堂アキラに金庫を開けさせろ……。パスワードは、あいつの誕生日だ」


零次は長く、重い嘆息を漏らした。視線は定まらず、トンネルの天井を見つめる。そこには、静江が微笑みながら手を振っているのが見えるようだった。


「いいか、お前たちと過ごした時間……本当に楽しかったよ」


彼は途切れ途切れに言葉を紡ぎ、口元に極めて淡く、優しい笑みを浮かべた。


「九条家から凛を救い出し……警察から今田を連れ出したことは……俺の人生で……」


声は次第に小さくなり、手は無力に血溜まりへと垂れ下がった。


「師匠?」


凛は引き裂かれるような悲鳴を上げ、彼の肩を激しく揺さぶった。「師匠! 目を開けてよ!」


彼は、逝ってしまったのか……。


息の詰まるような沈黙の中、零次のすでに止まりかけていた胸腔がかすかに動き、消え入りそうな最後の力で、言い残した言葉を完成させた。


「俺の人生で……一番の誇りだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ