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ZERO-DELAY  作者: WE/9
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52/102

放送事故

【場所:廃駅「旧赤坂駅」】


そこは地下深く、長年使われていない古い駅だった。壁は剥がれ落ち、空気中には古い錆の臭いが漂っている。第2回『RA-TIO:生存比率』の撮影のため、ハリーがすべての予備電源を遮断したことで、駅全体が不気味な静寂に包まれていた。


「ハロー、生き残ってる皆さん」


**R(凛)**がホームの端に立っていた。懐中電灯の光が下から彼女の冷ややかな顔を照らし、刃物のように鋭い眼差しを鮮明に浮き彫りにしている。彼女は黒のタクティカルジャケットを羽織り、動作は無駄がなく洗練されていた。


**小A(彩静)**は彼女の半歩後ろに控えていた。長いポニーテールを後ろで結んでいる。遮るもののないカメラの前で、彼女の清純だが緊張しきった顔が完全にさらけ出され、応急キットをぎゅっと抱きしめていた。


「今日のテーマは『停電した閉鎖空間に閉じ込められた時』よ」Rはカメラに向かって、相変わらず不機嫌そうな口調で告げた。


カメラの後ろでは今田がスタビライザーを構え、真っ暗な線路の脇をよろめきながら歩いていた。


「そこの通行人……じゃなくて、カメラマン!」Rが振り向き、眉をひそめてカメラを睨みつける。


「は、はい!」今田は反射的に直立不動になり、それに合わせてカメラもガタりと揺れた。


「もっと離れなさい、線路から遠ざかるの。あんたが躓いて排水溝に落ちる無様な姿を視聴者に見せたいわけ?」


「了解、すぐ移動します!」


今田のぎこちない足取りが砂利の上で耳障りな音を立てるのを見て、Rはついに耐えきれなくなった。彼女は一歩で詰め寄ると、ライブ配信中のカメラの前で今田の襟ぐりを掴み、荒っぽく後ろへ引き寄せた。


「そんな歩き方して、私に射殺されたいわけ?」Rの顔がカメラに近づく。瞳には呆れと怒りが入り混じっていた。「暗闇の中では、安易に自分の被弾面積をさらすんじゃないわ。あんたの足音、パーティーでもしてるのかってくらい響いてるわよ!」


【ライブ配信コメント欄が爆発】:


• 「WOW!Rちゃん、生配信だと余計に怖いな。好きだわ!」


• 「カメラマンのこの不器用さ、リアルすぎる。まさに彼氏目線だろww」


• 「小Aちゃんが隅で縮こまってるの可愛すぎ。頭なでなでしたい」


ライブ配信が盛り上がりを見せていたその時、薄暗いトンネルの奥から低い金属の摩擦音が響いた。


――ギィィ。


それはハリーが仕掛けた効果音ではなく、悪意に満ちた、本物の踏みしめるような音だった。Rの耳がわずかに動き、眼差しは瞬時に「教育モード」から「実戦モード」へと切り替わった。


『視聴者の皆さん、注目ですよ!』イヤホンからハリーの茶化すような通知音が聞こえてきたが、現場にいる者たちにはその警告の意味が理解できた。


『番組サイドが少し難易度を上げたようです。Rちゃん、小Aちゃん、これから模擬の敵が襲撃してきます。対応の準備を!』


それを聞いたRの口角が冷酷に吊り上がった。彼女はゆっくりと腰のホルスターに手をかける。


「模擬の敵、ね……」


彼女は顔を向け、暗闇からゆっくりと迫りくる複数の黒い影を凝視した。その動きは極めてプロフェッショナルで、ハリーが普段使うシミュレーション用ロボットとは明らかに違っていた。


「……ちょうどいいわ。『より高度な』内容を教えられるもの」


トンネルの奥からの足音はますます鮮明になり、その統制の取れた圧迫感は、およそ普通の「スタッフ」が出せるものではなかった。


監督ディレクターの言葉、聞こえたわね? これから実戦パートに入るわよ!」**R(凛)**はカメラに向かって冷笑し、手で帽子のつばを上げた。遮るもののない彼女の顔には、興奮を帯びた自信に満ちた表情が浮かんでいた。


**小A(彩静)**はすでに素早くホームの柱の陰へと後退し、暗闇の中で鮮やかにシルバーグレーのロングレンジ・スナイパーライフルを展開していた。その動作はあまりに流暢で、普段の恥ずかしがり屋で不器用な面影はどこにもなかった。


【ライブ配信コメント欄が瞬間的に埋め尽くされる】:


• 「実戦パート? ペイント弾か? 待て待て、動きがプロすぎないか!」


• 「監督ハリーの声、若すぎだろ! 10歳くらいの子供に聞こえるぞ」


• 「待って……小Aのライフル、なんであんなに本物っぽいの? 金属の光沢とか構造とか、今の小道具ってこんなに精巧なの?」


• 「カメラマン、もっと近づけ! 正面衝突が見たい!」


「通行人……カメラマン、スタビライザーをしっかり持って」Rが低い声で命じる。彼女の体はすでにいつ爆発してもおかしくない戦闘状態に入っていた。「もし決定的瞬間を撮り逃したら、生まれてきたことを後悔させてやるから」


「は、はい!」今田のうなじは冷や汗でびっしょりだった。彼は知っていた。迫りくる影たちの動き――それはメドゥーサ部隊の突撃歩法だ。


――パァン!


赤い火花がトンネルの奥で弾け、銃弾が正確にRの肩をかすめ、背後の広告看板を粉砕した。


「レッスン1:敵が発砲してきたら、躊躇しないこと」


Rの声はライブ配信の中で冷徹かつ優雅に響いた。彼女はその瞬間、猛烈な勢いで身を伏せ、逆手で腰のグロックを引き抜いた。


「ハリー、周辺の集音感度を上げなさい」Rは遮蔽物に飛び込みながら、マイクに向かって言った。「視聴者に聞かせてあげるわ。何が『生存のリズム感』なのかをね」


遠く指揮センターでコーヒーを飲みながら配信を見ていたミナトが、勢いよく立ち上がった。雅痞がっぴな笑みは一瞬で凍りついた。


「ハリー、あれは俺たちが手配した連中じゃないよな?」


『……違います』ハリーの声がコントロールルームに響いた。異常なほど冷え切っている。『メドゥーサが現地の電力システムをハッキングしました。彼らは数百万人の視聴者の前で、ZERO-DELAYの「教官」たちを死体に変えるつもりです』


「あの狂った連中……」アキラはすでにショットガンを背負い、瞳に冷たい光を宿していた。「これはもう教育ビデオじゃない。公開処刑の現場よ」


「いや、動くな」ミナトはモニターの中の、闘志に満ちたRの瞳を凝視し、アキラを制止した。「連中が実戦を見たいって言うなら、最高にリアルなやつを見せてやろう。ハリー、配信信号を維持しろ。何があっても中断させるな。もし俺たちが世界に姿を現すなら、ここが最高の舞台だ」


ホームの奥で、彩静は片目を閉じ、彼女の瞳の中で世界は交差する弾道モデルへと変わった。


「……ロック」


配信を見ている視聴者の視点では、小Aの指先が軽く動いた瞬間、スナイパーライフルが重厚で轟くような音を立てたのが見えた。トンネルの奥にいた一人の兵士の戦術ヘルメットが火花を散らし、そのまま崩れ落ちた。


【コメント欄が完全に爆発】:


• 「エフェクト強すぎだろ!! あの兵士、マジで倒れたぞ?」


• 「空砲か? 床が震えてるのが伝わってくる……」


• 「Rちゃんが飛び出した! 速すぎてカメラが追いつかねぇ!」


Rは黒い稲妻のように、今田の「彼氏目線」カメラの中で跳躍し、射撃し、空中で見事なサイドキックを繰り出した。


「カメラマン、ぼーっとしない! 私のリズムについてきなさい。じゃないと視界から消してやるわよ!」


トンネル内の火花は徐々に収まった。ハリーの冷静な声が凛のイヤホンの中で規則正しく響く。


『R、ライブ映像は**15秒のディレイ(遅延)**に調整済みです。現場のメドゥーサ残党の大部分は、付近の支援小組によって無音で処理されました。残った3つの「移動標的」をマーキングしました。これがあなたと小Aの最後のパフォーマンスタイムです』


「了解」


R(凛)が低い声で応じた。彼女は遮蔽物から勢いよく飛び出すと、右手の軽い擦り傷を考慮し、流れるように左手での射撃に切り替えた。薄暗い非常照明の下、彼女は左手一本でグロックを操り、極めて流暢かつ覇気のある姿で連続点射を放った。弾丸は正確に標的のタクティカルベストを捉え、敵を影の奥へと退かせた。


この最高にクールな特写は、今田の震えながらもプロフェッショナルなレンズを通して、数百万人の視聴者に届けられた。


【ライブ配信コメント欄】:


• 「サウスポー最高! Rちゃんの左手撃ち、かっこよすぎて死ぬ」


• 「この動作の滑らかさ……本当に役者にできることかよ?」


• 「見ろ! 奥でフラッシュが!」


カメラが切り替わり、背後の柱の陰を捉えた。**小A(彩静)**の普段は内気な顔は今や氷のように冷たく、茶色のポニーテールが射撃の反動に合わせてわずかに跳ねる。ダン! ダン! 二発の重い銃声が、回り込もうとした最後の敵二人を正確に仕留めた。


戦闘はわずか数分で終わった。本来ならこれ以上ない締めくくりの瞬間だったが、張り詰めた精神が緩んだ瞬間、最もリアルな反応が露呈してしまった。


凛は汚れの目立つ壁の隅に寄りかかり、胸を激しく上下させていた。彼女は無意識に帽子のつばを深く下げ、顔に浮かんだ疲労を隠そうとした。


今田は壁際で肩で息をする凛を見つめていた。その小さな体が暗闇の中でかすかに震えているのを見て、一瞬、胸の中に名状しがたい衝動が突き上げた。彼は自分が今、ライブ配信中のカメラを構えていることも、その背後に数百万の目があることも忘れてしまった。


彼は一歩踏み出し、スタビライザーを降ろすと、そっと手を伸ばして凛の肩を叩いた。


「凛(Rin)……大丈夫?」


その呼びかけには、二人だけの間にしかない気遣いと優しさが込められていた。


『警告:プリセット外の台詞を検知。リアルタイム消音処理を実行しました。』


ハリーの反応は極めて速かった。音声が流れる直前、今田の口から漏れたその名前は電子ノイズによって完璧に消し去られた。だが、ハリーは音は消せても、映像までは消せなかった――。


カメラはその瞬間を記録していた。謎のカメラマンが「バイオレンス教官」の肩に触れ、普段は傲慢で極端に短気なはずのRちゃんが、その瞬間にビクりと震え、その後、17歳の少女特有の驚きと羞恥の入り混じった表情で振り返る姿を。


「……何してんのよ、通行人先輩」


消音の隠れ蓑の下で、凛は声を低めて今田を鋭く睨みつけたが、赤くなった耳たぶは高画質のレンズから逃れることはできなかった。彼女は今田の手をバシッと振り払うと、カメラに向かって再び冷酷な仮面を被り直した。


「今日の特別ライブは……ここまで。これくらいのリズムについてこれないなら、こんな世界で生き残ろうなんて思わないことね」


【ライブ配信ルームが完全に制御不能】:


• 「今の何!? 消音されたところに重要な情報があっただろ!」


• 「あの肩を叩く感じ……本物の心配だろあれは!」


• 「Rちゃんが振り返った時のあの目……愛だろ? 絶対に愛だ!」


• 「カメラマン、出てこい! 決闘だ! Rちゃんに頭ポンポン(誤解)しやがって!」


配信信号が遮断された瞬間、ハリーが全メンバーの視界に現れた。


『皆さん、おめでとうございます。第1回実戦ライブの達成率は200%です』ハリーは、今田が肩を叩き、凛が見つめ返している瞬間のスクリーンショットを表示した。『名前は処理してあげましたが、「カップル目線」の話題性がメドゥーサの脅威を完全に押し流してしまいましたね』


「ハ・リー――!」凛は傍らにあった空の弾倉を掴み、スクリーンに向かって投げつけた。


配信信号の遮断とともに、チャンネル『RA-TIO:生存比率』は正式に社会現象級の都市伝説へと昇りつめた。


本来の目的は安全知識の啓発だったはずが、ネットユーザーの関心は完全に制御不能な方向へと突っ走っていた。各掲示板では、**「Rちゃん」と「謎のカメラマン」**のカップル論争がトレンド1位に躍り出た。壁際で今田に肩を叩かれ、驚きと羞恥を帯びて振り返る凛の写真は無数にスクリーンショットされ、ミーム画像(コラ画像)となり、果てには純愛映画のようなタイトルまで付けられる始末だった。


【ネット上の注目コメント】:


• 「あの振り返る一瞬に、愛のリズム感を見た!」


• 「カメラマン、これで勝ち確だろ。Rちゃんに射殺されても本望じゃないか?」


• 「背景の小Aに気づいたの俺だけ? 冷静に狙撃した後、無表情で前の二人のイチャつきを見てるあの目……まさに『独身勢の最高の写し鏡』だわ。ファンになった」


彩静の、音もなく支援し、まるで世界と切り離されたような清廉な横顔は、図らずも「クール系愛好家」たちの心を鷲掴みにし、ついには**「地上最強の背景バックグラウンド」**という称号まで与えられた。


車内の空気は、ネット上の熱狂とは裏腹に、言いようのない気まずさと沈黙に支配されていた。


今田は隅に縮こまり、呼吸することすらためらっていた。凛の、今にも火を噴きそうな視線が自分の後頭部に突き刺さっているのを感じていたからだ。


「あの……ハリー、ちゃんと名前は消してくれたんだよね?」今田は首をすくめて小声で確認した。


「あんたが死にたいなら、今すぐ消音(黙らせて)してあげてもいいわよ」凛が歯を食いしばって答える。


この気まずさを打破しようと、凛は車内のメインスクリーンを見上げた。そこには**ゼロ**のトレードマークである冷淡なシルエットが映し出されていた。彼女は眉をひそめ、ずっと心に引っかかっていた疑問を口にした。


「そういえば零、今回はなんでわざわざニューヨークのハリーにこんな雑用を頼んだの? ずっと東京を監視してるあんたの方が、日本のネット環境や大衆心理に詳しいはずでしょ?」


執行官たちにとって、ハリーはニューヨークの戦術中核だ。強力ではあるが、遠くから手を回すのはどこか作為的に感じられた。


メインスクリーンの波形が一つ揺れ、零の声は相変わらず淡々と、最もシンプルで呆れるような理由を告げた。


『理由は単純です。この任務を割り振る際の内部システムのゲームにおいて……私がジャンケンで勝ったからです』


「……は?」凛は呆然とした。


「ジャンケン?」ぼーっとしていた彩静も顔を上げ、茶色のポニーテールが揺れた。


『ハリーはこうした大衆と関わる「娯楽性の高いデータ」を好みますが、私は静かに世界の脅威を監視することを好みます』零は説明を続けた。『そこで我々は仮想空間において、確率アルゴリズムによる対決――人類の言うところの「ジャンケン」を行いました。彼が負けたため、彼はニューヨークの防衛と同時に、この『RA-TIO』チャンネルの24時間体制の運営も引き受けることになったのです』


車内に死のような沈黙が流れた。


執行官たちは思いもしなかった。ハリーの演算能力が、ニューヨーク支部の戦術支援をこなしながら、ついでに動画を編集し、ライブのディレイを制御し、今田の失言までリアルタイムで消音できるほど強大だとは。ハリーにとって、それはフルマラソンを走りながらルービックキューブを解くようなものだった。


「じゃあ……あいつ、今頃メドゥーサの浸透に対応しながら、掲示板のカップル考察スレでも読んでるわけ?」凛の顔には、羞恥とAIの化け物じみた演算能力への畏怖が混ざり合った、複雑な表情が浮かんでいた。


『その通りです』零が追い打ちをかける。『彼から先ほど連絡がありました。「Rちゃんの振り返りシーンによるトラフィック増加」だけで、ニューヨーク支部のスーパーサーバー増設予算が二台分確保できたそうです』


「ハ・リー――!!」凛はついに叫び声を上げ、座席に崩れ落ちると、帽子で顔を覆った。


その混乱の中、今田はこっそりと凛を見た。零に散々からかわれはしたが、トンネルの中で彼女の肩を叩いた時の指先の温度を思い出し、彼の口角は図らずもわずかに緩んでいた。



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