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ZERO-DELAY  作者: WE/9
多忙な生活

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47/102

対立面

【ZERO-DELAY ニューヨーク支部:今田の宿舎】


時差と精神的なプレッシャーの相乗効果だろうか、今夜の**今田イマダ**は朦朧としたまま深い眠りに落ちていた。抑え込んでいた欲望が、やり場のない執著と共に増幅して押し寄せる。


舞台は温かい寝室ではなく、戦闘後の廃墟だった。薄暗い光の中、周囲には爆発の余韻が響いている。


**リン**は異常なほど衰弱していた。鋭利な刃のようだったその瞳は、今は潤んだ水気に満ち、普段の高慢さは跡形もなく打ち砕かれている。今田は、自分がほとんど強引な姿勢で、この不遜な天才少女を組み伏せていることに気づいた。


「……おい、あんた……離せ……」


凜の抵抗は弱々しく、普段は毒舌を吐く唇が、今はたまらなく誘惑的に見えた。夢の中の今田は別人のようだった。いつもの卑屈な「モブ」ではなく、侵略的な衝動に突き動かされるまま、無遠慮に唇を奪った。未だかつて触れたことのない柔らかさと戦慄を享受する。


彼の大きな手が、凜のタクティカルジャケットを強引に剥ぎ取った。しかし、ジャケットが滑り落ちた瞬間、今田の脳は突如として「フリーズ」した。


本来「景色」が現れるはずの場所が、奇妙な白い霧に包まれていたのだ。


理由は単純だ。現実の今田は凜に恋しているが、根は極限まで純情な「モブ」である。彼は凜の身体を見たことがなく、潜在意識にモデリングデータが存在しないため、その聖域を脳内で生成することができなかった。


「ちっ、そんなことはどうでもいい……」


夢の中の今田は低く毒づいた。その欠落が逆に彼の独占欲を煽る。彼は手を伸ばし、凜の精緻な小顔を乱暴に掴んで、自分を直視させた。


拒絶したいのに、生理的な快感に抗えず羞恥に染まる凜の表情を見て、今田はかつてない興奮を覚えた。


「おい!! 死んでんのか? あんたの部屋に踏み込まないと起きないわけ?!」


鋭く、怒りに満ちた聞き覚えのある声が、重槌ハンマーのように今田の艶やかな夢を粉砕した。


今田は驚愕して目を見開き、瞳孔が激しく収縮した。


視界が焦点を結ぶと、夢の中で顔を掴み、組み伏せていたはずの凜が、今は生身の姿で枕元に立っていた。既にタクティカル装備に着替え、黒いキャップを深く被っている。影に隠れた顔は見えないが、その下から放たれる、自分をバラバラ死体にしかねないほど冷徹な視線を感じた。


「……り、凜?! なんで……入ってきたんだ?!」


今田は布団を高く引き上げ、顔を真っ赤にしてベッドの端へ逃げた。


「ハリーが開けてくれたのよ! 呼んでも起きないからでしょ、脳みそ断線してんじゃないの?」


凜は腕を組み、いらだたしくベッドの脚を蹴った。


ミナトアキラが勝手に出て行ったわ。アオ先輩はもう外で五分も待ってる。さっさと起きないと、あんたの役立たずな頭をネットワークから切断してやるわよ!」


活き活きと「毒舌」を振るう凜の姿を見ながら、今田の脳裏には夢で彼女の顔を掴んだ感触と、あの「空白」の視覚的衝撃がこびりついていた。極度の罪悪感で、彼はその場で発狂しそうになった。


彼は転がるようにバスルームへ駆け込み、心の中で狂ったように自己暗示をかけた。


(ダメだダメだ、今田! 落ち着け! あんたは湊先輩みたいな格好いい悪党じゃないんだ、あんなことが夢に出るだけで死罪だ! 法を守る善良な市民として、一線を超えちゃいけない……守り抜け! 最後の人間性の防衛線を!)


バスルームから洗面器がひっくり返る音が響く。凜は外でその物音を聞きながら、怪訝そうに眉を寄せた。「あのモブ先輩……寝起きが悪すぎるでしょ?」


そして、廊下の角に隠れていた青は、黙ってその一部始終を見つめていた。


【ブルックリン:旧工業地帯】


凍てつくような風が吹くブルックリンの街頭。二つの黒い影が幽霊のように、廃墟となった赤レンガ工場と埠頭倉庫の影を高速で駆け抜けていた。


湊と曉は、全身黒の特殊潜入スーツを纏っていた。ハリーのリアルタイムナビがない今、彼らの通信窓口は、東京で秘密裏に連絡を取り合っている**ゼロ**だけだ。


「リズムが遅くなった。前方三百メートルに赤外線センサーだ」


湊が低い声で警告する。雅痞がぴな微笑は消え、その眼差しは鷹のように鋭い。


曉は足を止め、右手を胸元の「深紺色の青鳥のネックレス」に強く添えた。


昨夜、本部の静まり返った廊下で、彼らはネックレスの裏側に極めて小さく刻印された暗号を発見した。零の遠隔演算によって解読されたのは、ブルックリン旧造船所内の一角を示す座標だった。


さらに彼らを驚かせたのは、座標の下に記された日本語の一文だった。


「あなたの光を連れて、ここへ来なさい。」


その言葉は、冷たい針のように曉の心に突き刺さった。


「私の『光』を連れて……?」


曉は低く呟いた。彼女は隣に立つ湊を見た。この男のリズム、微笑、そして未来への約束。それこそが、彼女の二十年の人生で唯一灯った光だった。


「曉、何を考えてる?」


湊が優しく問いかけ、手は既に銃のグリップにかかっていた。


「これが新堂 シンドウ・ゲンが残した最後の悪辣な罠なのか、それとも……私が探し続けてきた真実なのか」


曉の瞳に、体制を振り切るような決断の光が宿る。


「どちらにせよ、もう『組織』に守られたままではいたくない」


「分かってる」


湊は彼女の手を軽く握った。


「だから俺たちは今、ZERO-DELAYを代表してるんじゃない。自分たち自身を代表してるんだ。行こう、ドアの向こうに何が隠されているのか確かめに」


【倉庫内部】


倉庫内の空気は重く凝固し、錆とオイルの臭いに満ちていた。外から聞こえる微かな波音とは対照的に、ここは不安になるほど静まり返っている。


湊と曉は完璧な背中合わせの姿勢を保ち、積み上げられたコンテナの間を音もなく進む。湊の両手は銃に添えられ、極限の警戒状態にある。


突如、倉庫の奥に並んだ古いブラウン管モニターが一斉に点灯し、刺すような青い光を放った。二人の影が長く伸びる。


画面が明滅し、ノイズの混じった映像が流れた。それは十二年前、京都のある名門邸宅の廊下だった。


当時八歳の曉。部屋のドアは閉ざされている。その外には、世界を揺るがす三人の男が立っていた。ミッチェル、新堂 弦、そして若かりし日の神宮寺ジングウジ


三人は激しい議論を交わしているようだった。画面の中の新堂弦は氷のように冷徹な表情で、懐から「青鳥のネックレス」を取り出すと、ぶっきらぼうにミッチェルの手に押し付けた。そして、黒いコートを羽織り、立ち去ろうとする。


ミッチェルと神宮寺が背後から彼を呼び止めた。弦は足を止め、横を向いて低く一言呟いた。音声はないが、口の動きから、それはある「名前」だった。


そのまま彼は振り返ることなく闇の中へと消え、残されたミッチェルはネックレスを見つめて呆然としていた。


画面が猛然と切り替わり、薄暗い地下室が映し出される。映像の中の新堂弦は年老い、深い紺色の髪には白いものが混じっていた。かつての支配者の面影はなく、どこか落ちぶれた様子で孤独にレンズを見つめている。


「曉、これが最後のメッセージだ」


曉は画面を凝視し、呼吸が激しくなった。これは零次レイジに殺害される前、ZERO-DELAYがN組織へ総攻撃を仕掛ける前夜に録画されたものだ。


「ここへ辿り着いたということは、ミッチェルから誕生日プレゼントを受け取り……あんたの『光』を見つけたということだな?」


弦はうつむき、曉さえも聞いたことのないような、微かな優しさを帯びた声で言った。


曉は隣の湊を見た。彼女の「光」がその手を握り、確かな体温を伝えている。


「曉、明日……あんたたちは攻めてくるんだろ?」


画面の中の弦は姿勢を正し、自嘲気味に笑った。


「言っておくが、状況は良くない。俺の計算では、明日……俺はあんたの銃弾に倒れることになっている」


その言葉に、曉の瞳孔が激しく収縮した。彼は自分の死を予見し、自ら育て上げた「武器」の手で死ぬことさえ計画に組み込んでいたのだ。


「……何でもない。ただ、少し残念だ。もっと面白いことがたくさんできたはずなんだがな。……惜しいことをした」


弦の表情が厳格なものに変わった。彼は顔をレンズに近づけ、画面越しに圧倒的な威圧感を放つ。


「聞け、曉。N組織は終わるかもしれないが、**メドゥーサ(Medusa)**は俺の掌握下にはない。もし奴らがNの遺産を引き継ぐようなことがあれば……あんたが阻止しろ。奇妙に聞こえるだろうが、奴らは俺から見ても『悪』すぎる連中だ。純粋な悪、秩序なき破滅。それが美杜莎だ」


【強襲:包囲網の突破】


モニターが再び闇に沈み、倉庫は死寂を取り戻した。


曉は立ち尽くし、手の中のネックレスが異常に重く感じられた。彼女を道具としてしか見ていないと思っていた男の心の深淵に、自分への「惜別」が残されていたとは。


「これが彼の『実話』なの?」


曉の声が微かに震える。


「実話じゃない」


湊が歩み寄り、背後から彼女を抱きしめた。「あのアホンダラが死ぬ前に遺した、あんたへの最後の謝罪。そして……最後の依頼だ」


「メドゥーサが純粋な悪だと言うなら……」


曉は顔を上げた。その瞳には、再び刃のような鋭さが宿る。「それが彼の遺志なら、私がメドゥーサを粉々に引き裂いてやる」


その時、倉庫の外で激しい交戦音が響いた。ジュニア・ミッチェルのショットガンの轟音と、凜のリズミカルな射撃音が近づいてくる。


「しっかり掴まってろ、ガキ共! メドゥーサの連中は猫鼠ゲームをしたいようだが、俺の車はネズミじゃないぞ!」


ジュニア・ミッチェルは改造オフロード車のハンドルを死守し、眼光には父譲りの荒々しさが宿っていた。後方の六台の黒い車両は包囲陣形をとり、じわじわと路地を塞ぎながら、彼らを倉庫へと追い込もうとしていた。


「ハリー! 突破ポイントを算出しろ!」


『演算中……左前方45度。陣形の弱点ですが、二秒間の火力真空期が必要です』


ハリーの声が急き立てるように響く。


「凜! これを使え!」


ジュニアがボタンを押すと、後部座席の仕切りが開き、特製のアサルトライフルが現れた。


凜はそれをひったくるように受け取り、手慣れた動作でボルトを引いた。瞳は一瞬で「演算モード」へと切り替わる。今田へのいらだちは消え、絶対的な冷徹さが彼女を包む。


「モブ先輩、肩を支えて!」


「は、はい!」


今田は顔を赤らめながらも、生存本能で凜の身体を必死に固定した。


同時に、**アオ**は静かに車体の横に伏せていた。防弾ガラスにある狙撃用の小孔から、重狙撃銃の銃身を突き出す。


「……三、二、一」


パァン!


青の銃声が合図だった。重狙撃弾が先頭車両のエンジンフードを正確に貫通し、敵車を炎上させ、進路を狂わせる。


続けて、凜が引き金を引いた。照準の必要すらない。ライフルは彼女の手の中で楽器のように唸り、正確な点射と掃射が交錯して、敵車のタイヤやフロントガラスを次々と粉砕した。


三秒にも満たない隙を突き、二人の射撃天才は鉄の包囲網を力ずくでこじ開けた。


「今だ!」


ジュニアがアクセルを床まで踏み込む。咆哮を上げるエンジン。巨大な獣と化した車は、横転した敵車の隙間をサイドスライドで駆け抜けた。


『後方の脅威は残り20%……地元警察のパトロール隊に偽造指令を送りました。前方の交差点で足止めをさせます』


ハリーの声に得意げな色が混じる。『ニューヨークへようこそ、メドゥーサ』


パトカーのサイレンが遠くに響く。一般警官ではZERO-DELAY級の戦闘は手に負えないが、戦場を離脱する彼らにとっては、それこそが最高の煙幕となった。


車内には短い平穏が戻り、重い呼吸音だけが響く。凜はライフルを収め、高揚した顔で今田を振り返った。


「おい、モブ先輩。いつまで抱きついてるわけ? 撃たれてみたいの?」


「あ! す、すみません!」


今田は感電したように手を離し、座席の隅へ縮こまった。


一方、青は黙って銃を引き寄せ、棕色のポニーテールを結び直した。窓外を流れる街灯を見つめるその無表情の裏で、微かな疑念がよぎっていた。先ほどの突破中、敵陣営の中からも、自分の射撃リズムを観察する「視線」を感じたからだ。


「ハリー、曉と湊の居場所を。急ぐぞ、あの二人が飛び込んだ場所は……今の包囲網より危険かもしれない」


【倉庫の対峙:銀色の仮面】


モニターの残像が消え、倉庫は再び不穏な暗がりに包まれた。


「つまり、あのアホンダラは遠回りして、俺たちにメドゥーサを止めろと言いたかったわけか」


湊が銃のグリップを握り直し、自嘲気味に呟いた。


「ええ」


曉は低い声で応じ、胸元のネックレスを握りしめた。「私があそこへ来ることも、メドゥーサを許さないことも分かっていたのね」


湊が答えるより早く、冷たく金属的な女の声が空っぽの倉庫に響き渡った。


「新堂 弦もいい気なものね。とっくに見捨てた娘をこれほど心配するなんて……感動的な家庭劇だわ」


女の手が動くと、倉庫内の強力な排灯が一斉に点灯し、刺すような白光が湊と曉を射抜いた。二階の回廊に、銀色の仮面をつけた女が立っていた。紫紺のタクティカルスーツを纏い、背後にはメドゥーサの武装兵が隙間なく並んでいる。


「誰だ?」


湊が二階へ二丁拳銃を向け、冷徹に問う。


「誰かは重要ではないわ」


仮面の女は優雅に階段を降りてきた。


「重要なのは、あなたたちが何者かということ。世界を変えられると思っているヒーロー? やめてちょうだい。台北の戦いを見れば分かったはずよ。ZERO-DELAYから街を奪うことが、どれほど容易いことか」


曉が一歩前に出た。深い紺色の瞳に怒りが宿る。


「目的は何?」


「目的?」


女は嘲笑した。


「簡単よ。邪魔な連中を処理するだけ……例えば、今ここにいるあなたたちをね」


女が右手を振り下ろした瞬間、静寂だった倉庫は戦闘状態へと突入した。しかし、兵士たちが引き金を引こうとしたその刹那――


――パァン!!


空気を切り裂く重狙撃弾が、女の頭上を正確に掠めた。強烈な衝撃波が彼女の仮面を打つ。


「長官を保護しろ!」


数人のガードたちが即座に飛び出し、防弾シールドで仮面の女を死守した。


ズドォォォン!!


倉庫側面のシャッターが暴力的に突き破られ、煙を吐くオフロード車が猛牛のように突っ込んできた。


「湊! 曉! 早く乗れ!」


ジュニア・ミッチェルが片手でハンドルを回しながら、窓からショットガンを突き出し、兵士たちを狂ったように制圧する。


「断線先輩! 早く乗ってよぉ!!」


凜が車から身を乗り出し、ライフルを撃ちまくりながら曉に叫んだ。妙に動きが硬いのは、後ろから今田が「人間スタビライザー」として彼女の腰に必死にしがみついているせいだ。


「今田! 抱きつきすぎだってば! 息が止まる!」


凜は怒鳴りながらも、火力の手を緩めなかった。


湊と曉はその隙に車内へと飛び込んだ。


『各ユニットへ、全員回収しました』


ハリーの澄んだ少年の声がチャンネルに響く。


『ジュニア・ミッチェル執行官、高所にいる青をピックアップすれば、直ちに「クリーニング・プロトコル」へ移行できます』


「了解だ!」


ジュニアは野性的な笑みを浮かべた。「しっかり掴まってな。俺たちのクールないもうとを迎えに行くぞ!」


【狙撃手の交錯】


下層の倉庫が火の海と混乱に包まれる中、地上二百メートルの高空では本物の死神の博弈ゲームが行われていた。


**アオ**は錆びついたタワークレーンの上で片膝をつき、重狙撃銃と呼吸を完全に同期させていた。向かいの給水塔の上では、謎の狙撃手が同じく恐るべき「絶対静止」を見せていた。弾道が空中で交錯し、引き金を引くたびに銃弾が弾き合うような錯覚さえ覚える。


0.01秒のリズムの狂いが死を意味する、頂上決戦。


ジュニアの車がクレーンの真下へと滑り込んだ瞬間、青は風向きの変化を感じ取った。


『青、回収車が到着した。最後の一撃を放って撤退しろ』


ハリーの声が冷静に割って入る。青は呼吸を止め、世界が静止した。彼女は相手の頭ではなく、回避路を予測して撃った。


――パァン!


夜空を閃光が裂いた。弾丸は相手の側頭部を掠め、その衝撃が冷徹な金属の仮面を瞬時に砕き割った。


高倍率のスコープ越しに、青の瞳孔が収縮した。


仮面の下にいたのは、屈強な傭兵ではなく、自分と同年代に見える水色の短髪をした少年だった。少年の瞳に怒りはなく、ただ機械のような空虚と冷淡さだけが宿っていた。


二人の視線はスコープ越しに、数千万分の一秒の間、敵味方を超えて交錯した。


少年は闇へと消え、青もまた躊躇なくクレーンから飛び降り、屋根の開いたオフロード車の後部座席へと正確に着地した。


車は激しいスキール音を立てて造船所を脱出した。


「おい! 今田! あんた抱きつきすぎだってば!」


凜の叫び声が車内に響く。今田は怯えた小動物のように凜の腰にしがみついたまま、激しい揺れで顔面蒼白になっていた。自分がこのツンデレ少女の「防衛線」を完全に突破していることにすら気づいていない。


「す、すみません! 道がガタガタで……わざとじゃないんです!」


今田は慌てて手を離し、隅っこで真っ赤になって縮こまった。


「モブはモブね! 脳みそと運動神経が断線してんのよ!」


凜はタクティカルウェアを整えながら毒づくが、その手は無意識にキャップを深く被り、内側の火照りを隠していた。


湊と曉は視線を交わした。映像の衝撃は消えないが、この二人を見ていると、張り詰めていた神経が少しだけ和らいだ。


独り、青だけは静かだった。


彼女は窓際で銃を抱え、先ほどの視線を反芻していた。


あの少年の青い髪。そして、生まれながらに持っているような孤独感……。


なぜ、あんなに悲しい気持ちになったのだろうか。


「ハリー」


青は通信チャンネルで低く呟いた。


『はい、諸君。何かな?』


美杜莎メドゥーサの狙撃手リストを検索して」


銀色の仮面の女は、割れた窓の外、遠ざかっていく車のライトを見つめていた。


水色の髪の少年がいつの間にか彼女の背後に現れた。顔の半分は影に隠れ、砕けた仮面の破片が足元に落ちている。


「殺せなかったのか、『フクロウ』?」女は振り返らずに問う。


少年は答えず、ただ頬に刻まれた弾痕をなぞった。その瞳には、人間らしからぬ微かな興奮が宿っていた。


「いいわ。ここを見つけられた以上、狩りは始まったばかりよ」


女は残忍な笑みを浮かべた。


「曉、あなたの『光』を連れて……私が用意した墓場へ、もっと踏み込んでいらっしゃい」



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