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ZERO-DELAY  作者: WE/9
多忙な生活

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46/102

青と青い鳥

【ZERO-DELAY ニューヨーク支部線:地下鉄専用車両】


極めて深い地下に隠された東京の未来的な黒い列車とは異なり、ニューヨーク支部の列車はこの街の血脈――ニューヨーク地下鉄と直接融合していた。


マンハッタンの過密な環境下で、ZERO-DELAY専用車両は外観を一般の保守車両に偽装し、入り組んだトンネルの中を驚異的な速度で駆け抜けていた。車内は薄暗く、前方ではジュニア・ミッチェルが本部署との通信に当たっている。後方の休憩エリアでは、四人のチームと新メンバーの青が、任務前の短い交流を交わしていた。


**アオ**はベンチに端然と座り、背後にはライフルケースを立てかけていた。整えられた棕色のポニーテール。彼女は膝の上に両手を置き、静かな眼差しで向かいの広告看板を見つめている。まるで周囲の雑音が自分とは無関係であるかのように。


その「絶対的な冷静さ」が漂う空気感に、普段はお喋りな**今田イマダ**さえも無意識に首をすくめ、話しかけるのをためらっていた。


「ふぅ……疲れたぁ」


**リン**が青の斜め向かいにどっかと座り、形振り構わず背伸びをした。特訓と長時間のフライトで、彼女の血糖値は少し下がっていた。彼女はバッグから丁寧に包装された高級ブラックチョコレートを取り出し、手慣れた様子で包みを剥いて一つ口に放り込んだ。


カカオの濃厚な香りが、瞬時に狭い車内に広がった。


凜が二つ目に手を伸ばそうとしたその時、彼女は突如としてある視線を感じた。それは極めて熱烈で、先ほど駐機場で見せられたものよりも熱い視線だった。


凜が怪訝そうに顔を上げると、向かいの青は相変わらず冷徹な表情を維持していたが、その氷山のような瞳だけは、凜の手にあるチョコレートの箱を一心に見つめていた。


「……」


「……」


静寂が五秒間続いた。凜が「床でも汚したかな?」と思い始めたその時、青の静水のような声が響いた。しかしよく聴くと、その語尾は微かに震えていた。


「あの……すみません……」


青はコートの高い襟の中に顔を埋め、視線を泳がせながら、蚊の鳴くような細い声で言った。


「それを……一つ、いただけますか?」


「はぁっ?!」


凜はその巨大なギャップに、飛び起きんばかりに驚いた。ついさっきまで「三キロ先から首を狩る」気勢を放っていた特級狙撃手が、今はまるでお菓子を欲しがる小さな女の子のように、期待を込めた(表情は硬いままだが)目で自分を見ているのだ。


隣に座っていた**ミナト**は思わず吹き出し、**アキラ**までもが微かに口角を上げた。


凜は二秒ほど呆然とした後、狡猾な子猫のように目を細めて青を観察した。青の耳の付け根が真っ赤に火照っていることに彼女は気づいた。顔こそ「クールな私」を装っているが、指先は不安げにコートの裾を掴んでいる。


「なるほどね……」


凜の口角が上がり、トレードマークの意地悪な笑みが浮かんだ。彼女は大分にチョコレートの箱を青の方へ差し出し、わざとらしく語尾を伸ばして言った。


「いいですよ、青・先輩。へぇ、甘いもの好きなんですね? アタシみたいな子供っぽい趣味と気が合うなんて、意外だなぁ」


「……ありがとう」


青は少し急ぐようにチョコレートを一つ口に運んだ。甘みが広がると、彼女の強張っていた肩の力が明らかに抜け、両目は微かに細められた。それはまるで雪解けのような、一瞬の満足げな表情だった。


凜は目の前の茶髪の先輩を見て、内心の競争意識が霧散していくのを感じた。代わりに湧き上がったのは、「相手の弱みを握った」という愉悦だった。


「ねぇ、モブ先輩」


凜は隣の今田に小声で囁いた。


「この先輩、冷酷なんじゃなくて、ただの無敵な内向的スイーツ依存症なだけね。ちょろいわ」


その言葉を聞いた瞬間、青の身体は猛然と硬直した。彼女は即座に石像のような「クールな女」モードに戻ったが、今度は首まで真っ赤に染まっていた。


列車がトンネル内を疾走する中、チョコレートの一幕で数人がリラックスしたのも束の間、車内の黄金色の照明が激しく点滅した。**ハリー(Harry)**の、戯れの中にも緊迫感のある声が通信チャンネルに割り込んできた。


『諸君、どうやらスクールバスを一時停止させなきゃならないようだ。傍受した高周波信号によると、これから通過する「カナル・ストリート駅」で小規模な襲撃の予兆がある。――メドゥーサの部隊だ。少し壊し足りないらしい』


「全員、戦闘準備!」


ジュニア・ミッチェルの号令と共に、重厚なショットガンの装填音が響いた。


避難が完了し、空虚で不気味な地下鉄ホームに列車が正確に停止した瞬間、ドアが開く間際から深緑の残像が飛び出した。


曉が真っ先に突っ込んだ。


彼女の動作に一切の迷いはなかった。柱の影から現れた三名の武装傭兵に対し、真正面から突入する。鋭い膝蹴りが敵の胸当てを砕き、流れるような格闘術で敵を肉盾にして後方へ叩きつける。


曉の爆発力に満ちた戦い方は、まるで全世界に宣言しているようだった――「チームに二人の射撃天才がいようと、この場の最強は自分だ」と。


「飛ばしすぎですよ、新堂シンドウ長官!」


湊がその後に続き、二丁拳銃が影のように寄り添う。彼は雅痞がぴな微笑を浮かべながら、驚異的なリズム感で曉の死角に弾雨を降らせ、側面から狙う火花をことごとく消し去った。


ホームの反対側、長い廊下は凜の狩り場と化した。


「この程度の速度で通せんぼするつもり?」


高速で疾走しながら、凜は恐るべき演算能力を発揮した。サイトを覗くことすらなく、両手の銃を操り、壁の反射と身体の捻りを利用して、極めて短い時間で近・中距離の敵をすべて片付けた。


しかし、廊下の突き当たりの曲がり角の暗がりに、数人の狙撃兵が引き金に指をかけていた。


――パァン! パァン! パァン!


極めて短く、低く、力強い三発の銃声が後方から届いた。


列車の屋根の上に立つ青だった。彼女は完璧な狙撃姿勢を維持し、長いポニーテールを肩に垂らしたまま、無表情で引き金を引いた。三発の重狙撃弾は凜の耳元を正確に掠め、突き当たりの死角にいた脅威を瞬時に抹消した。


凜は一秒ほど呆然とし、今なお石像のように冷徹な先輩を振り返ると、唇を端を上げた。


「……ありがと、チョコ先輩」


ホーム中央では、ジュニア・ミッチェルと今田が最終防衛線を築いていた。


「小僧、俺から離れるな! 雑魚を一匹たりとも列車に近づけるな!」


ジュニアが怒鳴り、手中のショットガンが耳を聾する轟音を上げた。一発一発の火力と衝撃は、まるで建物を解体しているかのようだ。


「は、はい!」


今田は心臓が飛び出しそうなほど緊張していたが、先輩たちが前線で戦う姿を見て、歯を食いしばった。自動ナビ機能付きのシューズを頼りに、遮蔽物の間を軽快に駆け抜ける。彼は拳銃で援護射撃を行いながら、各方面の信号回線に注意を払った。


再びハリーの声が響く。


『クリア進捗85%……メドゥーサの残党が撤退を開始した。みんなよくやったよ。特に君だ、九条。甘いものは確かに演算速度を上げるみたいだね』


凜はマガジンを交換しながら、虚空に向かって目を丸くした。


この短い遭遇戦は、ニューヨークの混乱した現状を知らしめただけでなく、期せずしてこのギャップだらけのチームを結束させた。


『エリアの掃討完了。生徒諸君、時間通りに乗車してくれ。スクールバス発車、次の停車駅はニューヨーク本部だ』


ハリーの、少し得意げな少年の声がホームのスピーカーから流れる。硝煙の最後の一筋が消えると共に、一行は武器を収め、偽装地下鉄へと戻った。


数分後、列車は廃止された路線図のさらに先にある秘密の転送ステーションへと滑り込んだ。ドアが重厚な風圧音と共に開き、目の前に現れたのは、無骨なインダストリアル・スタイルでありながら最先端のホログラム設備を備えたニューヨーク本部だった。


戦場での連帯感のせいか、降車時、青は無意識に今田の左側に並んだ。落ち着いた歩みに合わせて揺れる棕色のポニーテール。ロングコートを纏った彼女は、最高にクールでエレガントに見えた。


一方、凜は食べかけのチョコレートを齧りながら、不機嫌そうな顔で今田の右側を歩く。深く被ったキャップの影からも、天才少女特有の意地っ張りな気配が漏れ出していた。


今田は二人の「特級戦力」に挟まれ、重いタクティカルバックパックを背負い、まるで忠実な執事兼護衛のように見えた。


その時、交代準備をしていた数人のニューヨーク支部の執行官たちが足を止め、声を潜めて囁き合った。


「おい……あいつどこの部署だ? 良い身分じゃないか」


「見ろよあいつ。左のクールな美人は絶対に彼女だろ、右の気の強そうな可愛い子は妹か?」


「人生の勝ち組すぎるだろ……見た目はあんなに普通なのに……」


英語ではあったが、その言葉は今田の耳に届いてしまった。今田の顔は一瞬で首まで真っ赤に染まった。彼は慌てて両手を振り、流暢ながらもパニック気味の英語で叫んだ。


「Wait! No! You misunderstand! (待て!違う!誤解だ!) She is my partner! (彼女は俺の相棒だ!) And she... she is my boss! (それから彼女は……俺の上司だ!)」


凜は鼻を鳴らし、今田を横目で睨みつけた。


「モブ先輩、英語下手すぎ。あと、誰が妹よ? 脳内回線ショートしたの?」


青は相変わらず無表情を貫いていたが、ただ顔を襟の奥に深く埋めた。


そんな騒がしい三人組の後方で、湊と曉が肩を並べてゆっくりと車両を降りてきた。二人の身体にはまだ戦闘の余熱が残っており、曉の深い紺色の長髪はわずかに乱れていた。湊は自然な動作で彼女の手からタクティカルタブレットを受け取った。前方の騒ぎを見て、湊は思わず笑って首を振った。


「ニューヨークでの今田の人気は、意外にも俺たちより高いみたいだな」


曉は答えなかった。彼女の視線は本部ロビーの中央にある、殉職した執行官たちの勲章が飾られた記念碑に向けられていた。彼女の瞳が深まり、右手は無意識に腰の銃へ伸びる。


ジュニア・ミッチェルが先頭から歩み寄ってきた。その表情には先ほどの奔放さはなく、後継者としての厳かさが宿っていた。彼は曉を見つめ、低い声で言った。


「曉、あのアホ共は放っておけ。こっちに来い。親父がオフィスの金庫に『ある物』を残してたんだ。いつかお前がニューヨークに戻ってきて、もし自分がいなかったら、必ずお前に手渡せと言っていた」


湊は曉の身体が微かに強張るのを感じた。彼は手を伸ばし、彼女の背中を優しく叩いた。


「行ってこい。俺はここで、今田を嫉妬の目から守っててやるよ」


【ミッチェルのオフィス】


オフィスの内装はクラシックな木製スタイルが保たれ、外の無機質なテクノロジーとは一線を画していた。空気にはまだ微かに、ミッチェルが愛したシガーと古い革の匂いが残っている。


ジュニア・ミッチェルは神妙な面持ちで金庫のダイヤルを回した。重厚な「カチリ」という音と共に、分厚い金属の扉が開く。


そこには機密書類の山も、殺傷能力の高い武器もなかった。核爆発にも耐えうる箱の中心に、黒いベルベットの小箱が一つ、静かに横たわっていた。


曉は微かに震える手を伸ばし、蓋を開けた。


薄暗い照明の下、銀色のチェーンの先に、極めて精巧に彫られたペンダントが揺れていた。それは――翼を広げて高く飛び立とうとする、深い紺色の小鳥だった。材質は金属でも石でもなく、光を反射して幽玄で深遠な青を放っている。曉の髪の色と、驚くほど一致していた。


「親父の遺言で、これはお前にしか渡せないことになっていたんだ」ジュニアはそのネックレスを見つめ、眉を寄せた。「だが、支部のあらゆるファイルを調べても、これの由来に関する記述は見つからなかった。曉、これに見覚えはあるか?」


曉はネックレスを掌に乗せた。金属の冷たさが肌に刺さるが、何の記憶も呼び覚まされない。彼女は深い紺色の鳥を見つめ、瞳に迷いの色を浮かべた。


「いいえ」曉の声は小さく、微かに掠れていた。「おそらく、私が拾われる前……あの『空白の期間』の持ち物だと思う」


このネックレスはまるで鍵のようだった。まだ扉は開かないが、扉の向こうの影が揺れ動き始めている。曉が目を閉じると、断片的な光景が脳裏をよぎった。燃え盛る火。崩れ落ちる建物。そして、温かくも次第に離れていく手。しかし、どれほど思い出そうとしても、その紺色の鳥は常に静止した記号のように、記憶の縁に佇んでいるだけだった。


「気にするな。親父がお前に遺したんだ、必ず深い意味があるはずだ」ジュニアは溜息をつき、重い空気を和らげようとした。「ハリーが材質の成分をスキャンしている。産地から何か分かるかもしれない」


曉がオフィスを出ると、湊が廊下の壁に寄りかかっていた。彼は凜のものらしき黒いキャップを手の中で弄んでいたが、曉の姿を見ると、すぐに不真面目な表情を収めた。


「受け取ったか?」湊は歩み寄り、曉の手にあるネックレスに目を落とした。


「ええ」曉はネックレスを湊に差し出した。その瞳は複雑に揺れている。「湊、これを見たことがある?」


湊は紺色の鳥を覗き込んだ。彼の瞳に思索の色が走る。実物を見たことはないが、「リズム感」の天才である彼は、この鳥の形態に独特の「律動」を感じ取った。まるで、ある古い一族の紋章か、あるいは秘密計画の標識のような。


「知らないな。でもこの鳥、何かを『守っている』ように見える」


湊は手を伸ばし、ネックレスを握る曉の手を優しく包み込んだ。


「思い出せなくても、持っていなよ。いつか、これが答えへと導いてくれるはずだ」


少し離れた場所では、今田が相変わらず「美人の彼女と可愛い妹」がいると勘違いした同僚たちの対応に追われていた。青は柱の影に隠れて、先ほど凜からもらったチョコレートをこっそり齧っている。凜はその隣で、今田の英語の発音を馬鹿にしていた。


曉はその仲間たちを見つめ、そして手の中の青い鳥を見た。未知ゆえの恐怖が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。


到着初日はトンネルでの遭遇戦こそあったが、本来の計画では東京組の荷解きと時差調整のための「休日」だった。事後報告を終えた一行は、ようやく割り振られた寮へと戻った。


青は黙々と今田の荷物の一部を持ってあげた。今田は恐縮しきりだったが、隣で見ていた凜は面白くなさそうにしていた。荷物を整理した後、この戦闘狂たちはハリーの予想に反して眠るどころか、示し合わせたように、本部のハイテク地下訓練場へと集まった。


「ねぇ、チョコ先輩」


射線に立つ凜は、既に黒のタクティカルタンクトップに着替え、愛銃を器用に回していた。キャップを深く被り、その瞳からは普段の傲慢さが消え、極限の集中力が放たれている。


「任務が始まる前に決めようじゃない。――このチームの真の射撃天才が誰かってことを」


三メートル横に立つ青は、ゆっくりとコートを脱ぎ、その下のシンプルなタクティカルウェアを露わにした。高く結い上げられたポニーテール。凜の挑釁に対し、彼女はやはり無表情のままだが、静かに巨大な重狙撃銃を取り出した。


「……いいですよ」


青の声は平淡だったが、グリップを握る手は緊張(と興奮)で微かに震えていた。


対決が始まった。


ハリーは彼女たちのために「極限複合ターゲット」を設定した。ランダムに出現する動体標的、視界を遮るスモーク、そして強風を模した気流。


第一ラウンド。凜はその強大な「演算のリズム」を駆使し、移動しながら引き金を連射した。連続する銃声。すべての標的の真っ芯が撃ち抜かれた。


第二ラウンド。青は姿勢一つ変えなかった。棕色の髪に隠されたその瞳は、深い淵のようだった。三キロ先の標的が出現した0.2秒後、重狙撃弾がそれを粉砕した。


二人は一歩も譲らず、五ラウンドを戦い抜いた。モニターに表示された二人の命中率は、驚異の100%を維持し、誤差すら無視できるほど小さかった。


「あの二人の感覚、ハリーの演算より正確なんじゃないか?」湊が口笛を吹いた。


曉はフィールドの二人を見つめ、静かに、しかしどこか誇らしげに言った。


「あれが、私たちが守る火種よ。あの競争意識が、彼女たちを戦場でもっと強くする」


今田は隣でハラハラしながら見守っていた。凜が負けて激怒するのも、内気な青先輩が熱中しすぎて無理をするのも心配だったからだ。


二人が最高難度の第六ラウンド――無光源下でのブラインド・ショット――に入ろうとしたその時、ハリーの声がスピーカーから響いた。


『諸君。君たちの精度には驚かされたが、AIとして忠告しておく。エネルギーを補給しないと、脳の演算速度が15%低下するよ』


画面に巨大なハンバーガーとピザのアイコンが表示される。


『ジュニア・ミッチェルがレストランで最高のチーズピザを予約してくれた。早く行かないと、今田執行官が一人で平らげてしまうよ』


「誰が食い尽くすんだよ!」今田が突っ込む。


凜と青は同時に指を離した。凜は向こう側の無表情な少女を見て、不承不承、銃を収めた。


「ちっ……運が良かったわね。今回は引き分けよ」


青は微かに顔を襟に埋め、こくりと頷いた。


「……引き分け、です」


そして青は立ち去り際、そっと凜の耳元に近づき、蚊の鳴くような声で囁いた。


「あの……さっきのチョコレート……まだありますか?」


凜は一瞬呆気にとられたが、この「冷徹な先輩」のシャイな本性を見抜き、堪らず大笑いして青の肩を抱いた。


「行くわよ! ピザにはコーラ、それから残りのブラックチョコも全部あげるわ!」


訓練を終えた一行は、全面ガラス張りのエレベーターで生活フロアへと降りた。そこはかつての地下貯水槽を改造したサイバーパンクなレストランで、巨大なデジタルアクアリウムが壁に投影され、水面のような青い光を放っていた。


レストランは混み合っており、座席の振り分けにはハリーの「意図的な偶然」が働いていた。曉と湊は角の二人席へ、そして凜、青、今田の三人は一つの円卓へと案内された。


遠くから見ると、その三人の光景は実に壮観だった。


「まだ来ないの? ハリー、ニューヨークのピザは早いんじゃなかったの? アタシの脳みそ、低血糖でシャットダウンしそうなんだけど!」


凜が机を叩き、キャップを傍らに置いて暴れている。


「小天才、落ち着いて。キッチンを見てきたけど、あと五分で焼き上がるよ」


今田は苦笑いしながら凜をなだめ、丁寧に二人の前にナプキンを広げた。そして左側に座り、硬直したままコップを見つめている青に気づくと、ポットを手に取って彼女のグラスを満たした。


「青先輩、これ温かいお湯です。少し飲んで落ち着いてください」


「……ありがとう」


青は恐縮した様子でグラスを受け取った。頬が微かに赤らみ、俯いてお湯を啜る姿は、年下になだめられているおとなしいお姉さんのようだった。


「一人の男と二人の美女」。その光景は、周囲からはライトノベルの主人公の配置にしか見えなかった。


離れた二人席で、湊は顎を突き、興味深そうにその様子を眺めていた。


「おやおや。うちのモブ先輩、ニューヨークに来てこっそりハーレム作ってやがるな。天才少女とクールなスナイパー。俺が羨ましくなるくらいの待遇だぜ……」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、周囲の気温が数度下がった。


曉がカトラリーを置き、深紺色の、冷徹な瞳で湊を射抜いた。その声には明らかな不満と危険信号が混じっていた。


「羨ましいの? そんなに気になるなら、あっちに座れば? 今田なら喜んで席を空けてくれるでしょうね」


湊の雅痞がぴな笑みが瞬時に凍りついた。戦場のリズムマスターである彼は、即座に最高難度の生存スキルを発動させた。彼はテーブル越しに曉の手を優しく包み込み、この上なく誠実で情熱的な声を出した。


「冗談言わないでくださいよ、長官。本妻せいさいがいる身で、ハーレムなんて興味あるわけないでしょう? 俺の目には、ハリーの点滅カーソルさえ映らないほど、あなたしか見えてませんよ」


曉はその厚顔無恥な甘い言葉を聞き、相手が口先三寸であると知りながらも、強張っていた口元を微かに緩め、満足げな微笑を浮かべた。


「……口だけは達者ね」


彼女は湊の手を握り返し、穏やかな眼差しで手元の青い鳥のネックレスを見つめた。


「食事が終わったら、あの座標を調べに行きましょう。罠であれ真実であれ、あなたがいれば怖くないわ」


湊は彼女を見つめ、その瞳にはかつてない真剣さが宿っていた。


「もちろんです。俺のリズムは、永遠にあなた一人だけのために刻まれます」



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