初対面
專用機が安定した巡航状態に入ると、機内には計器が作動する微かなハム音だけが残された。
**曉は湊**の肩に頭を預けて深い眠りに落ちていた。長年の高圧的な戦闘生活のせいで、彼女の眠りは常に警戒を伴うものだったが、湊の隣にいる今だけは、その呼吸は驚くほど穏やかだった。**今田**もこの時、眠りから静かに目を覚ました。彼はしょぼつく目をこすり、いつも通りの光景だと思っていたが、突如として右肩に自分のものではない重みと温もりを感じた。
彼は身体を硬直させて振り返り、驚愕した。普段は毒舌で高慢、自分を少し見下しているはずの**凜**が、今は疲れ果てた子猫のように、頭をこてんと彼の肩に預けていたからだ。
凜の長い睫毛が呼吸に合わせて微かに震えている。それは今田が一度も見たことのない、完全に無防備な疲労の表情だった。
今田の鼓動が瞬時に跳ね上がった。彼はまず泥棒のように、息を殺して周囲を確認した。湊はヘッドホンをつけ画面に集中しており、曉はまだ熟睡中だ。誰にも見られていないことを確認すると、今田は深く息を吸い、凜の頭をそっと支えて、ゆっくりとクッションの方へ戻した。
最後に、彼は凜の乱れた黒髪を見つめ、傍らに落ちていた黒いキャップを手に取ると、目深に被せ直してあげた。その動作は不器用だったが、「モブ先輩」特有の、細やかな優しさが滲み出ていた。
時を同じくして、湊は曉の頬にかかる髪を優しく払い、ヘッドホンを暗号化されたプライベート回線に切り替えた。
「ハリー、いるか?」
画面に細かな黄金の波紋が走り、ベースボールキャップを被ったハリーの小さな顔が浮かび上がった。
『いるよ、神楽執行官』
「いつ正式に職務に復帰したんだ?」湊が尋ねた。「ニューヨーク支部の連中は、自分たちの最強の戦術コアが戻ってきたことを知ってるのか?」
『この前台北で君たちに起こされてから、僕のコードは海底ケーブルを伝って少しずつニューヨークへ這い戻ってきたんだ』ハリーの語気には誇らしさが混じる。
『何しろ、ここは僕が十年間守ってきた街だからね。上層部はまだ僕の「自主権の度合い」について揉めているけど、実際には、マンハッタン中の交通センサーを既に再掌握しているよ』
「零の方もサーバーの再構築は順調だ。今はほぼ元通り、完全に東京の指揮官としての状態に戻っているよ」湊は微笑んだ。
ハリーは一瞬沈黙し、画面の映像を突如としてニューヨーク深夜の俯瞰図へと切り替えた。
『湊、君の天賦は「リズム感」だと聞いている。……今の君には、未来が見えるかい?』
湊は顔を巡らせ、影の中で休んでいる凜と、先ほどの「小さな気遣い」を終えて気まずそうに窓の外を眺めている今田を見た。
「俺は零次さんのような人間じゃない。すべてを背負って未来を切り拓くなんてことはできないさ」湊は後輩たちを見つめ、その眼差しは優しく、しかし揺るぎなかった。
「引退する日はまだ遠そうだが……俺はこの、少しずつ蘇ってきた火種たちを守り抜くつもりだ」
『分かったよ』ハリーの声に躍動感が戻る。
『僕はかつて零次と「地獄で会おう」と約束したんだ。その時、地獄には僕ら二人しかいないことを願うよ』
機内の照明が着陸前の柔らかな暖色へと変わり、執行官たちは次々と深い眠りから覚醒した。
今田は背筋を伸ばした。肩は少し凝っていたが、心には言いようのない達成感が満ちていた。彼は、既に帽子を被り直し、冷徹な顔で装備を点検している凜を盗み見て、内心ニヤニヤと考えていた。
「さっきあんなに優しく戻してあげて、帽子まで被せてあげたんだ。俺もモブなりに、少しは守護者としての役割を果たせたんじゃないかな?」
しかし、この独りよがりなロマンチックな喜びは長くは続かなかった。ハリーの茶化すような声がその場の空気を切り裂いた。
『諸君、着陸前に一つ重要な補足をさせてくれ』黄金の光が画面上で躍動する。
『零の奴は時々本当にズボラだな。今回の任務の重要人物を一人、紹介し忘れている』
スクリーンには、横顔だけのファイル写真が表示された。それは棕色の長髪を持ち、氷のように冷淡な瞳をした女性。コードネームは**「青」**。
『彼女は組織内でもトップクラスの特級執行官だ。九条執行官のようなオールラウンダーな演算リーダーとは違い、「青」は純粋な狙撃のスペシャリストだ。彼女は掃討も、誘捕も、日常の任務も一切行わない。彼女が存在する目的はただ一つ。**戦場の外周において、すべての脅威を抹消すること。**彼女は既に空港で君たちを待っている』
「おい、ガキAI。それ、アタシへの挑戦状?」
凜が猛然と顔を上げ、苛立たしげに帽子の庇を下げた。その瞳には負けず嫌いな鋭い光が宿っている。
「チームに射撃SSのアタシがいるのに、なんで『専門の狙撃手』なんて必要なわけ? アタシが戦場をカバーしきれないとでも思ってるの?」
湊は傍らで苦笑しながら首を振った。この小娘のプライドに火がついたことを察したのだ。
『落ち着けよ、九條。』ハリーは気に留める風もなく口笛を吹いた。
『君の強みは中・近距離での高速演算と機動射撃だ。だが「青」は違う。彼女は君たちと組んだことはないが、その戦場カバー能力の射程距離は、現在の組織内で並ぶ者がいない』
ハリーは一拍置き、核心的な餌を投げた。
『彼女が外周で高所の脅威を封じ込めれば、君は遠くからの狙撃を気にする必要がなくなる。つまり、君最強の精密火力を制圧に専念させられるんだ。簡単に言えば、彼女は君の競合相手じゃない。最も頑丈な「盾」なんだよ』
自分のパフォーマンスが削がれるどころか、より「暴れる」ことに専念できると聞き、凜の強張っていた肩の力が抜けた。彼女は不遜に鼻を鳴らす。
「ふん……。そういうことなら、その『アフターサービス』、謹んで受けてあげるわよ」
「本当、扱いやすい奴だな」湊が低い声でハリーに囁くと、曉から呆れたような視線が飛んできた。
専用機のハッチがゆっくりと降り、ニューヨークの一月の、冷たくアスファルトの匂いが混じった空気が機内に流れ込んだ。
凜はいつものように黒いキャップを深く被り、真っ先にタラップを踏みしめて周囲を鋭く見渡した。今田は二つの大きなバックパックを背負い、少し気圧されながらも好奇心旺盛に後に続いた。
駐機場の中央に、一人の静かな人影が立っていた。
それが青だった。彼女は濃紺のロングコートを纏い、美しい棕色の長髪を凛としたポニーテールに結び、微風に揺らしていた。無表情のままそこに立ち、両手をポケットに入れ、年齢にそぐわない冷静さとクールなオーラを放っている。
凜が青の前で足を止めると、二人の視線が交差した。空気中に微かな火花が散る。
「……」
「……」
「へぇ、あんたが今回のハリーの言ってた『助手』?」凜は眉を上げ、先に沈黙を破った。
青は目の前の小柄だが凄まじい気迫の少女を見つめた。内心では「後輩から話しかけられた」ことに猛烈に緊張しており、手のひらにじっとりと汗をかいていた。しかし、先輩としてのプロ意識を保つため、彼女は相変わらず波一つない「ポーカーフェイス」を維持し、ただ短く言葉を零した。
「……こんにちは。青です」
「九条 凜よ」凜は納得いかない様子で手を差し出した。この専門狙撃手の実力を測ろうとしたのだ。
青は一瞬戸惑ったが、ぎこちなく手を伸ばして凜と握手した。その微かに冷たく安定した感触に、凜の眉がぴくりと動く。
「こんにちは、今田です! よろしくお願いします!」今田が元気に手を振った。
青は今田の方を向き、また短い沈黙の後、こくりと頷いた。実は彼女の内心はパニックだった。
(この人、すごく優しそう。でも、なんて返せば気まずくならないかな……?)
結局、彼女は沈黙を守り通すことを選び、周囲には「どこまでもクールな女」だと思わせることに成功した。
その時、一台の武装オフロード車が咆哮を上げて駐機場に突っ込み、一同の目の前で急ブレーキをかけた。
ドアが開き、体格のいい、威圧感溢れる外国人の男が飛び降りてきた。荒々しい無精髭を蓄え、その眼差しは亡きミッチェル高官にどこか似ているが、優雅だった父に対し、彼には戦場で磨かれた剽悍さが満ちていた。
その背中には、極端に改造された巨大なショットガンが背負われており、銃身が陽光を浴びて冷たい金属光沢を放っている。
「レディ・アンド・ジェントルメン。ニューヨークの交通渋滞は待ってくれないぜ」
曉と湊が機を降り、目の前の男を見て、驚きと懐かしさが混じった表情を浮かべた。
「ミッチェル・ジュニア(Mitchell Jr.)!」湊が声を上げた。そして、あの雅痞な微笑みを浮かべる。「お前、体格が親父さんよりえげつないことになってるな」
「湊、久しぶりだな」ジュニアは湊の肩を叩いた。その衝撃で湊がよろけそうになるほどだ。彼は曉の方を向き、眼差しを少し和らげた。「曉、ニューヨーク支部は君の帰りをずっと待っていた。親父のことは……市街地へ向かう途中でゆっくり話そう」
ジュニアは傍らにいる凜と今田を一瞥し、最後に青に向かって頷いた。彼は重厚なショットガンを器用に胸元へ回すと、快活な笑みを浮かべた。
「全員揃ったな。なら車に乗れ。メドゥーサのクソ野郎どもが、マンハッタンで地獄への片道切符を待ってるぜ!」




