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ZERO-DELAY  作者: WE/9
嵐のあと

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38/102

デジャヴ

医務室内には、心拍モニターの規則正しい「ピッ、ピッ」という音が静寂の中に響き渡っていた。


今田イマダの意識は深い海の中を漂っているようだったが、やがて微かに漂う、リン特有の高雅な香りに呼び覚まされた。彼は朦朧と目を開けたが、その光景に脳が瞬時にショートした。


そこにいたのは、いつもキャップを深く被り、鋭い眼差しを向ける反抗的な少女ではなかった。目の前の九條 凜は、あろうことかトレードマークの黒いキャップを脱いでいたのだ。


彼女の全貌を、これほど近くで、何の遮りもなく見たのは初めてだった。凜の黒曜石のように艶やかな長い髪は、疲労のせいで少し乱れ、ベッドの縁に柔らかく流れている。帽子の影が消えた彼女の顔立ちは、工芸品のように繊細で、柔らかな光に照らされていた。鋭利なナイフのようだった瞳は、今は不安に揺れ、祈るような優しさを宿している。それは戦士の外殻を脱ぎ捨てた、17歳の少女としての純粋で、最も心を打つ強情さと慈愛の姿だった。


「……凜?」


今田がかすれた声で呼ぶと、至近距離にある可憐な顔に心拍数が一気に跳ね上がった。


「ちょっと! 変態みたいな顔してんじゃないわよ、このクソモブ!」


凜は今田が目覚めたことに気づき、さらに自分の「無防備」な姿をまじまじと見られていることを自覚した。彼女の白い肌は一瞬にして耳の根元まで真っ赤に染まり、反射的に手元にあったキャップを頭に叩きつけた。乱暴に庇を限界まで下げ、動揺した瞳を隠す。


「……あの一撃を止めた功績に免じて、ほら、これ食べなさいよ!」


彼女は素早くチョコレートを今田の手に押し付けた。動作は荒っぽかったが、指先の微かな震えまでは隠せなかった。


その後、零次レイジアキラミナトも病室に入ってきた。


「命拾いしたな、今田」


零次は相変わらず冷淡な口調だったが、弟子が目覚めたのを見て、全身の殺気は明らかに霧散していた。曉と湊もいくつか言葉をかけ、今田の脳がまだ少し追いついていない以外は、大きな支障がないことを確認した。


しばらくして、曉と湊は視線を交わした。この師弟三人(一人は寝ているが)には、彼らだけの空間が必要だと察したのだ。


【夜の廊下:一年半の重み】


医務センターを出ると、深夜の本部の廊下には二人の足音だけが響いていた。先ほどの凜の不器用ながらも真摯な姿を見て、湊と曉の心に共通の記憶が蘇る。


「さっきの小凜リンの様子、なんだか見覚えがあるな」


湊は両手を後頭部で組み、廊下の突き当たりに見える月光を見つめながら、懐かしそうに言った。


「……私も、同じことを考えていたわ」


曉が静かに答える。


それは一年前の任務でのことだ。


当時、曉は(ライバルである)沈玥との勝負に固執するあまり、敵の罠に落ちて拉致されてしまった。あの時の湊と零次は完全に理性を失い、敵陣へと殴り込み、暴走する列車の中から昏睡状態の曉を救い出した。


曉が病院で目覚めた時、最初に見たのも湊だった。


あの時の彼女には、「戦士」の冷徹さも「体制」の武装もなかった。血まみれで疲弊した湊の顔を見た瞬間、すべての強がりと矜持が崩れ去ったのだ。


曉は病床の上で、ありったけの力で湊を抱きしめた。自分を彼の身体に埋め込もうとするかのような強さで。それが、曉が湊の前で初めて見せた、極度の脆弱さと依存だった。


「あの時の君は、ずいぶん強く抱きついてきたよな」


湊は隣を見て、曉をからかった。


「今の冷え切った執行官様とは、まるで別人だったよ」


曉は足を止め、深藍色の長い髪が月光に照らされて幽かに光った。彼女は振り返り、自ら湊の手を握って指を絡めた。


「……だって、あの時ようやく気づいたんだもの」


曉は湊を見上げ、その瞳には温かな愛が満ちていた。


「組織の目標よりも、あなたのいる世界を失うことの方がずっと怖いって。その恐怖は、死よりも恐ろしかった」


湊は不敵な笑みを消し、彼女を優しく抱き寄せると、その額に口づけを落とした。


「もう怖がらなくていい。小凜も、今田も、僕らも……リズムが刻まれている限り、誰も脱落させやしないさ」


深夜の宿舎の廊下は、とりわけ静まり返っていた。暖黄色のセンサーライトが二人の歩みに合わせて一つずつ点灯し、背後でゆっくりと消えていく。


曉は湊の隣を歩きながら、この見慣れた廊下を見つめ、無意識に足取りを緩めた。ここは彼女にとって、「体制の信徒」としての尊厳を維持する最後の防線であり、同時に、隣にいるこの男に徹底的に攻略された場所でもあった。


「……湊」


曉が小さな声で言った。その響きには、微かな調侃からかいが混じっている。


「ここを見てると、あなたって本当に変態だと思うわ。以前、深夜任務が終わるたびに、いつもここで私を『いじめて』……怒る私を見て楽しんでたでしょ?」


湊は、彼女が自分の前でしか見せない甘えたようなニュアンスを聞き取り、足を止めてニヤリと笑いながら振り返った。


「ほう? じゃあ、今のその顔は、その変態にもう一度してほしいってことかな?」


曉が強がりの反論をする隙も与えず、湊は迅速に距離を詰めた。大きな掌が彼女の後頭部を支え、熱い吐息が瞬時に彼女の感覚を支配した。


――んっ。


それは熱く、慣れ親しんだキスだった。曉の手にあったタクティカルジャケットが床に滑り落ちる。彼女は目を閉じ、無意識に湊の首に腕を回し、二人だけのこのリズムに溺れていった。


良久、湊はわずかに距離を置き、額を曉の額に押し当てた。情熱に潤んだ彼女の深藍色の瞳を見つめる。


「今日……小凜にずっと問い詰められたんだ。僕ら二人が普段どうやって触れ合ってるのかって」


湊は低く笑った。声は少し掠れている。


「僕らは少しも合ってないように見えるから、一緒にいる姿が想像できないんだってさ」


曉は至近距離で見つめられ、鼓動を速めた。呼吸はまだ乱れたままだ。彼女は射るような視線を避けるように、わずかに顔を背けた。


「あの子……直感だけは鋭すぎるのよ」


接吻キスくらいはしてるし、それも頻繁にね、って答えておいたよ」


湊は意地悪く彼女の耳元に寄せ、さらに低く付け加えた。


「なんせ正式に付き合って一年半だ。すべきことは全部済ませてるんだから。だろ?」


「あなた……っ」


曉の顔は瞬時に爆発したように赤くなった。戦場での冷静さは霧散し、湊を押し返そうとする手には力が入らず、甘えるような動作になった。声は自分にしか聞こえないほど蚊細い。


「……あなたが、強引に迫ったからじゃない……」


一年半前、湊のあの半分冗談のような、それでいて強引な追求。そしてある夜、彼が初めて彼女の心の壁を突き破り、体制と感情の境界線を越えさせたあの時。


その瞬間から、「体制の信徒」を自称する孤児は、心の中にこの男のためだけの、ZERO-DELAYとは切り離された小さな世界を築いたのだ。


湊は彼女の恥じらう姿を見て、心の一番柔らかい場所を突かれた気がした。彼は曉を強く抱きしめ、廊下の突き当たりにある、二人のための小さなドアを見つめた。


「他人の目にどう映ろうと、これが僕らのリズムだ」


湊は彼女の髪にキスをした。


「今田が治って、小凜も一人前になったら……レモンティーの店の計画、本気で考えよう」


曉は彼の胸に顔を預け、落ち着いた心拍数を聞きながら、静かに答えた。


「店名……決めたわ。『Delayディレイ』。すべての任務、すべての殺し合いを、その店の入り口で遅らせて、止めてしまうの」


この「共通の利己主義」こそが、冷酷なZERO-DELAYという体制下で、彼らの最も堅固な鎧となっていた。

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