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ZERO-DELAY  作者: WE/9
嵐のあと

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37/102

仕事を終える

【廢棄工廠:掃除の代償】


漆黑の列車のドアが無音で滑り開き、冷たい夜風が車内に流れ込んだ。ミナトリンは二筋の幽霊のように、積み上げられたコンテナや廃棄機械の間を迅速に駆け抜ける。数分後、二人は目標の工場を見下ろす高台の観測ポイントに到着した。


凜は錆びついた鋼鉄の梁に這いつくばり、ゴーグル越しにピントを調整する。彼女の瞳は暗闇の中で鷹のように鋭く、視界の中には遠くの工場内にいる熱源反応が次々とマーキングされていった。


「捉えたわ」


凜は声を潜め、指をわずかに動かす。


「中央でふらふら歩いてる、足取りの危うい奴……あれが情報屋の『K』ね。ひどく怯えてるか、さもなきゃ一生正気に戻れないほどキマってるか、どっちかよ」


湊は彼女の傍らにしゃがみ込み、片手で銃を握りながら冷静に状況を観察していた。


「合計14人、二つのグループに分かれてる。買い手と売り手ってところか」


湊は迅速に戦術評価を下した。


「武装は拳銃と軽機関銃のみ、防弾装備はなし。生体兵器に比べれば、ただの『不純物』だな」


二人は暗闇に潜む捕食者のように、音もなく工場の深部へと接近した。凜の指はシルバーの拳銃のトリガーにかかり、湊の指示を待つ。


「3……2……1……開始」


湊のカウントダウンが終わると同時に、凜が先制の一撃を放った。


――パァン!


その一撃は情報屋Kの足元を正確に掠め、火花が散った瞬間、Kは鋭い悲鳴を上げた。彼は本能的に左側の遮蔽物へと転がり込む。この誘い込みの射撃によって、情報屋と他の武装人員を分断することに成功した。


「へい、プレゼントだ!」


湊はタイミングを見計らい、手榴弾を一閃。完璧な放物線を描いたそれは、最も密集している一角へと落ちた。


――ドォォォン!!


巨大な閃光と衝撃波が現場を席巻し、武装グループは銃を抜く暇もなく吹き飛ばされるか、一時的な盲目に陥った。現場は一瞬にして混乱に包まれ、悲鳴と罵声が入り混じる。


「俺は左から残党を片付ける」


湊は凜の肩を叩き、瞳に冷徹な殺気を宿した。


「右側は任せていいか?」


凜は振り返り、影に隠れた口角をわずかに上げた。その手の中の拳銃は、すでに獲物を待っている。


「任せなさい」


凜は躍動する黒猫のように、鋼鉄の階段を駆け下りた。生体兵器を単独で仕留めたばかりの彼女にとって、この戦闘のレベルは退屈を感じるほど低かった。


――バァン! バァン!


宙を舞いながら、彼女の両手のシルバーの銃が優雅な咆哮を上げた。サブマシンガンを構えようとした二人の暴徒は、狙いを定める前に額に鮮やかな血の花を咲かせた。凜は着地しても足を止めず、華麗かつ致命的なステップで遮蔽物の間を通り抜ける。残された敵は彼女にとって移動する標的に過ぎず、わずか数秒のうちに右側のエリアは再び死寂に包まれた。


「不純物の掃除、完了」


凜は鼻を鳴らし、一方の銃を収めると、キャップを深く被り直して隅で震えている情報屋Kへと歩み寄った。


しかし、彼女が五メートルの距離まで近づいた時、怯えきっていたはずのKの濁った瞳に、突如として毒々しい光が宿った。彼は震える手で懐から**電磁手榴弾(EMPグレネード)**を引っこ抜くと、狂ったように起動して凜へと投げつけた!


「死ねっ!」


凜の反応は神速だった。弾薬が手から離れた瞬間、彼女はサッカーボールを蹴るかのように、その手榴弾を遠くの空き地へと蹴り飛ばした。間髪入れず、左手の銃口を跳ね上げる。


――パァン!


手榴弾は空中で撃ち抜かれ、電磁パルスが青い火花を散らしたが、凜にはかすりもしなかった。


無傷ではあったが、凜の機嫌は一瞬にしてどん底まで落ちた。こんな「下衆」に反撃された屈辱感と、Kの卑猥で悪意に満ちたツラが、彼女の怒りを爆発させた。


彼女は大股で歩み寄り、黒いブーツでKの胸を強く踏みつけた。シルバーの銃口がその眉間に突きつけられる。瞳はナイフのように鋭い。


「あんたたちゴミ屑は、脳のニューロンまで死滅してんの? 頭蓋骨をこじ開けられる気分、味わってみたい?」


「へい、そこまでだ」


凜がトリガーを引く直前、温かく大きな手が彼女の手首を掴んだ。湊がいつの間にか左側の敵を片付け、彼女の背後に立っていた。


「俺もこの奴は嫌いだが、任務は『情報屋の確保』だ。落ち着け」


湊は平穏に告げると、通信機を入れた。


ゼロ、目標の掃除完了。座標を送る。回収班を寄こしてくれ。ついでにこの廃棄物を尋問に連れて行け」


地面に組み伏せられたKは、湊の登場で一時的に命拾いしたことを悟り、吐き気がするような笑みを浮かべた。その汚らわしい目は、凜の小柄な身体を舐めるように眺めている。


「へへ……可愛いお嬢ちゃんだ……さっきは勇ましかったなぁ。仕事が終わったら、おじさんに触らせて……」


反吐が出るような言葉が終わらぬうちに、凜の理理性の糸が完全に切れた。


「死ね、この社会のゴミがっ!」


――ゴンッ!


それは銃声ではなく、凜が全力で放った重い蹴りがKの下顎を捉えた音だった。Kの悲鳴は喉の奥に押し戻され、男は地面を二回ほど転がって前歯が数本吹き飛んだ。


「キツいねぇ……だが俺はそういう強情な小娘が好きなんだ。あんたを『中』までいっぱいに満たしてやる時も、その冷たい目をしててくれたら最高なんだがな……」


Kは口中を血まみれにしながら、依然として毛羽立つような笑い声を上げた。


凜は全身を怒りで震わせ、再び銃を掲げた。回収班が来る前に自ら「掃除」を完遂しようとしたその時。


「行くぞ、任務完了だ」


凜が再び足を出す前に、湊が一歩先んじた。彼はまるで毛を逆立てた子猫を抱き上げるように、凜の細い腰を横から抱え上げた。彼女の抵抗を無視し、大股で漆黒の列車の方へと歩き出す。


「放して! あの死に損ないの変態を殺してやる! 放せ、断線先輩っ!」


「ダメだ。曉が『勝手な殺生はさせるな』って言ってたからな」


湊は腕の中で暴れる凜のパンチやキックを受け流しながら、依然として気怠げで安定した口調で言った。


「帰るぞ。高いスイーツでも買ってやる。あんな奴の臭いがついたら、君の銃が汚れるだろ」


【帰路:名門の枷】


二人は再び漆黒の列車に戻った。


車内の空気はどこか奇妙だった。凜はふてぶてしく席に座り、腕を組んでキャップを極限まで深く被り、周囲に「近づいたら撃つ」というオーラを撒き散らしていた。


湊は向かい側に座り、窓の外を飛ぶように過ぎ去る隧道の壁を見つめ、思索に耽っていた。彼は自分が初めて情報屋を保護した時、同じようにその下衆さに憤りを感じたことを思い出した。だが今は、曉が言う「体制内の不条理」が少しだけ理解できる気がした。


「凜」


湊が不意に口を開いた。


「……何よ?」


帽子の下からくぐもった声が返ってくる。


「さっきの蹴り、悪くなかったぞ」


湊の口角がわずかに上がり、雅痞ヤッピーな微笑みを浮かべた。


「ただ、次は踵で踏み込むように意識しろ。威力が増す」


凜は虚を突かれたように帽子の庇を上げ、経験豊富な「老いぼれ」のような顔をした湊を見つめた。最後には不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、強張っていた肩の力は静かに抜けていった。


列車は薄暗い地下工業地帯を抜け、露天の地上軌道へと入った。午後の陽光が分厚い防弾ガラスを通して差し込み、車内の冷たい機械感を和らげていく。凜は依然として腕を組んでいたが、その「不機嫌」な空気はすでに溶け始めていた。湊は陽光に照らされ、どこか透明感のある小師妹を見つめ、沈黙を破った。


「なあ、凜。あんな僻地の駅で下衆な奴に遭うのは、確かに胸糞悪いよな」


湊はリラックスした姿勢になり、話題を変えた。


「でも、ずっと不思議だったんだ。君みたいな京都の名門のお嬢様が、どうしてわざわざ、毎日怪物や人渣(人殺し)と関わり合うような場所に来ちまったんだ?」


凜はしばし沈黙した。乱れた髪に陽光が当たり、金の縁取りを作っている。彼女はわずかに顔を上げ、流れる東京の街並みを見つめながら、冷淡な口調で語り出した。


「名門……立派に聞こえるでしょ?」


凜は自嘲気味に笑った。


「京都じゃ、『九條』って姓は絶対的な秩序と優雅の象徴よ。でも私が見てきたのは、虚偽だけだった」


彼女は自分の細い手を見つめた。長期にわたる銃の保持によって、赤い跡が残っているその手を。


「IQテストの結果が異常に高くて、おまけに……そこそこ見栄えが良かったから、幼い頃から『縁談』の申し出が絶えなかったわ」


凜の瞳が冷たく沈んでいく。


「高級スーツを着て、一族の利益をのたまう男たち……見るだけで吐き気がした。あいつらは私が誰かなんて興味がない。ただ『九條家の天才美少女を占有する』ことが、最高に気持ちよくて面目の立つ功績だとしか思ってないのよ」


湊は遊び半分な表情を消し、静かに聞き入っていた。


「私の父親もそう。今はまだ迷ってるみたいだけど、あいつの目には、私はいずれ売り飛ばすべき最高級の『玉』にしか映ってない」


凜は奥歯を噛み締め、17歳の少女には似つかわしくない狠戾(冷酷な殺気)を宿した。


「だからあいつが首を縦に振る日を待ってなんていられなかった。16歳の誕生日に、コネを使って零次師匠に連絡したわ。学業はすべて終わらせたから、もし私を拾わないなら、自分を完全に壊して九條家に価値なんて残さないようにしてやるってね」


「……君らしい言い草だな」


湊は感嘆した。16歳の少女がどれほどの誇りを胸に、単身で零次の世界へ殴り込みをかけたのか、容易に想像できた。


「師匠は死ぬほど冷たいし、一日中トゲのある言葉しか言わないし、髪は白すぎて目に毒だけど……でもあいつの目には、私はただの『九條凜』。射擊のリズムが異常に速い弟子の一人であって、取引材料じゃない」


凜はキャップを被り直し、陽光で熱を帯びた顔を隠した。


「だから、一生どこかの男の下で寝かされるのも、良妻賢母なんていう高級人形を演じるのもお断り。私はここで銃を撃つ方がいい。さっきの情報屋がどれほど反吐が出る奴でも、ここは私自身が選んだ戦場なんだから」


湊は彼女を見て、いつも暴躁(怒りっぽい)な小師妹の背中が、妙に大きく見えた。彼は手を伸ばし、凜の頭を軽く叩いた。


「安心しろよ。ここには高級な和服はないけど、スイーツならいくらでもある」


湊は雅痞で頼りがいのある微笑みを浮かべた。


「誰かが君を人形として連れ戻そうとしたら、俺と曉……それから、まだ病室で寝てるモブ先輩が、黙っちゃいないさ」


凜は呆然としたが、すぐに慌てて湊の手を払い除け、そっぽを向いた。


「……う、うるさいわね! 誰が味方してくれなんて言ったのよ! それに、帰ったら苺大福を二つ食べるんだから。あんたの奢りよ!」


列車は再び幽暗な隧道へと潜り込み、東京本部へと疾走していった。


【本部大廳:見透かされた関係】


時計の針はすでに深夜を指していた。後続のクリーン任務をいくつか終えた湊と凜は、硝煙の匂いと疲労を纏って本部のエントランスホールへと足を踏み入れた。ホールの照明は落とされ、広々とした空間はひっそりと静まり返っている。


廊下には湊と凜の並んで歩く足音だけが響く。凜はずっと沈黙していたが、その鋭い瞳は時折湊の方を窺っていた。まるで脳内で何かの論理演算を行っているかのように。


「ねえ、断線先輩」


凜がようやく口を開いた。その声には探求の色が混じっている。


「……ん?」


「あんたと曉姐姐(曉姉さん)、付き合ってるんでしょ?」


湊は一瞬虚を突かれ、次いで雅痞な笑みを漏らした。


「正式に会って三日しか経ってないのに、もう見抜いたのか?」


「見え見えよ。あんたたちが互いを見る目は、暴徒を見る時とは全くの別物だもの」


凜はキャップを深く被り、声を潜めた。少女特有の好奇心が混じる。


「でも、二人の関係には興味があるわ……曉姉さんは私と同じくらい頑固で、それこそ石頭(堅物)な人に見えるけど、本当に上手くいってるわけ? 私が言いたいのは……あんたたち、キスしたことあるの?」


湊はその問いに、足取りをわずかに乱した。彼はわずか17歳、恋愛問題に異常なほどストレートな小師妹を見下ろした。自分の私生活を見透かされて慌てるべきか、あるいは今時のガキの早熟さに満足すべきか、一瞬判断に迷った。


「当然ある。かなり頻繁にな」


湊は努めて平静を装い、肩をすくめた。大人としての余裕を醸し出す。


「彼女は時々氷のように冷たいし、俺は自由奔放な元警官だけど……時として、その『不一致』こそが面白い火花を散らすもんさ。だろ?」


凜はそれを聞くと、思慮深く唇を尖らせた。


「あんたが何をロマンチックに語ってるのかは知らないけど……まあ、キスしてるんなら、恋愛してる時の脳みそは断線してないみたいね」


二人が話している間に、ちょうど角を曲がってホールに入ると、前方に曉と零次の姿が現れた。


「湊!」


それまで戦闘態勢を維持し、氷のように冷たかった曉の瞳が、湊を見た瞬間に崩れ去った。彼女はほとんど駆け足で近寄ってくる。その焦燥と愛着が入り混じった表情は、先ほどの湊と凜の会話を完璧に裏付けていた。


「怪我はない? どこか異常は?」


曉の手が自然に湊の肩に触れ、その視線は彼の身体を隈なく走る。


凜は後ろに立ち、曉が瞬時に「融解」する様を見つめると、湊に向かって眉を上げ、声を出さずに口の形だけでこう言った。


『ホ・ン・ト・に、見・え・見・え』


曉の熱烈さとは対照的に、零次は依然として優雅でゆったりとした歩調で近づいてきた。その白髪は薄暗い灯りの中でも刺すように眩しい。眼差しは淡々としているが、凜を見る時だけは微かな温もりが宿っていた。


「どうだった、初めての完全な一日は」


零次は凜の前で止まった。その声に高低差はないが、凜の持つシルバーの銃のグリップに新しい摩耗の跡があることに気づいた。それは彼女が今日、全力を尽くした証拠だ。


「私にかかれば楽勝よ」


凜は格好よくホルスターの中で銃を回し、キャップで疲れた目を隠したが、言葉は相変わらず傲慢ツンデレだった。


「終端駅で脳みそが断線した変態に遭った以外は、私にこなせないことなんてないわ。師匠、あんたの訓練のリズム、まだトロすぎるんじゃない?」


「ほう、まだ減らず口を叩く余裕があるか」


零次の口角がわずかに上がった。そして全員に向き直る。


「なら、退勤(仕事終わり)だ。今田を見に行こう。あいつ、これ以上目覚めないと、医務班にオブジェ扱いされるからな」


四人は静かな廊下を通り、今田の病室へと向かった。


湊と曉が前を歩き、低い声で今日の戦闘の詳細を報告し合う。その背中には他人の入り込めない暗黙の了解があった。一方、零次と凜は前後の距離を保ちながら歩く。言葉は少なくとも、「極限」を追い求める者同士の無言の共鳴がそこにはあった。


「ねえ、断線先輩」


凜は最後尾を歩きながら、ふいに湊の裾を引っ張り、小声で囁いた。


「……さっきの曉先輩が走ってきた様子……本当に普段と全然違うわね。あんたたち……もう『あっち(ベッド)』まで行ったの?」


「――っぶ!!」


湊は自分の唾液でむせそうになり、前を歩く曉を気まずそうに見た。


「……お前の脳みそこそ、本当に断線してんのか! 病院でそんなこと聞くな!」


気まずさと温かさが入り混じる空気の中、今田の病室のドアがゆっくりと開いた。室内では、それまで静止していたモニターが軽快な鼓動を刻み始めていた。それは、この「最も平凡なメンバー」が再び戦場に戻る予兆だった。



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