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ZERO-DELAY  作者: WE/9
新しい始まり

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30/102

襲来

早朝六時、台北の湿度は極限に達し、空からは細い雨の糸が降り注いでいた。


ゲートの前では、二組のペアが出発の準備を整えていた。十七セブンティーンゼロによるデータ解析が最終段階である「キーワード照合」に入ったため、任務中とはいえ、執行官たちには珍しく「短時間の待機空檔スロット」が許されていた。


「本部の合成栄養食にはもう飽き飽きだよ!」


星玲ホシレイは鮮やかなイエローのジャケットを羽織り、活発な小鳥のように跳ね回っていた。「せっかく台北本部に来たのに、アキラお姉ちゃんやミナトさんに本物の『台湾式朝食』を食べさせないなんて、ZERO-DELAYの名折れだよ!」


湊はドアフレームに寄りかかり、相変わらず優雅な野暮天ヤッピーの佇まいを見せていた。今日は濃色のカジュアルスーツを纏い、曉の隙を見て自然に手を伸ばすと、彼女の耳元で乱れた髪をそっとかき上げ、レインコートの襟元を整えた。


「動くなよ、曉」


湊は微笑み、その瞳には昨夜の対話を経て深まった寵愛が満ちていた。「台北の風は強い。身だしなみの乱れは戦闘効率に響くからな」


曉は頬を微かに火照らせながらも、彼を突き放すことはせず、むしろその動きに合わせるように少しだけ寄り添った。


一方、ミンは相変わらず精密な理知機械のようだった。彼は俯きながら、星玲の戦術通信機を丹念にチェックしていた。


「星玲、防水コーティングが一部摩耗している。髪も乱れすぎだ」


明は安定した手を差し出し、星玲のトレードマークである琥珀色のポニーテールを、適度な力加減でプロフェッショナルに結び直した。


「へへ……今日のミンもすごく優しいね」


星玲は明の真剣な横顔を見つめ、胸を高鳴らせた。(今だ! この雰囲気なら、曉お姉ちゃんたちみたいに手を繋いだりできるかも!)


【台北の街頭:交差する想い】


しかし、理想と現実の差は、この瞬間に残酷なまでにはっきりと現れた。


湊と曉が前を歩く。湊は周囲の清掃員や早起きの通行人の視線を完全に無視し、その大きな手で曉の右手を力強く、かつ温かく包み込んだ。細雨の中で十指を絡ませ並んで歩く二人の後ろ姿は、直視できないほどの「桃色の閃光」を放っていた。


「湊……みんなが見てる……」曉が小声で窮屈そうに抗議する。


「見させておけ。この体制の中で、こうして君の手を引いて歩けるのは僕の特権だ」湊は眉を上げ、さらに強く握りしめた。


後方を歩く星玲は、その甘い光景を見て胸を躍らせた。彼女は勇気を振り絞り、そっと小さな手を伸ばし、明のスーツの袖を掴もうと試みた。


三センチ……二センチ……一センチ……!


「行くぞ。目的の朝食店は前方五十メートルだ」


星玲が触れようとしたその瞬間、明はちょうど背を向け、ナビゲーションマップと歩数を正確に計算しながら、長い足で颯爽と歩き出した。両手は優雅にズボンのポケットに突っ込まれたままだ。


星玲の手は空を切り、虚しく宙に残された。


「……えっ?」


桃色のバブルは一瞬で弾けた。前方には二人だけの世界を楽しむ湊と曉。後方には空っぽの手のひらを見つめ、落胆に暮れる星玲。


「教官……この超弩級の石頭……」星玲は肩を落とし、琥珀色のポニーテールも心なしか元気がなくなった。「独身の人間に何がわかるって……昨日の夜、自分で言ったじゃない……ううっ」


十七の声が星玲のイヤホンから幽かに響いた。


『星玲、データ分析によれば、明執行官が今のタイミングで背を向ける確率は100%でした。次回は「強行ホールド」戦術を採用することを推奨します。勝算は高いです』


「十七! あんたは黙ってて!」


二組のペアは、対照的な雰囲気を纏いながら士林シーリンの路地へと消え、真実によって運命が書き換えられる朝食店へと向かった。


【激震:中山駅の真空地帯】


熱い鹹豆漿シェンドウジャンと揚げたての油條ヨウティアウの香りが、台北の湿り気を一時的に忘れさせていた。


湊が碗を手に取り、最初の一口を飲もうとしたその時、イヤホンから鋭い電子干渉音が響いた。ゼロと十七の冷静かつ切迫した声が、四人の脳内にほぼ同時に炸裂した。


『キーワードの解読完了』


『マルチパス分析の結果、データの発信源は「地下鉄中山駅」地下四層を指し示しています。現行の路線図には存在しない真空エリアです。直ちに最寄りのZERO-DELAYホームへ向かってください。特別列車が待機中、権限はすべて開放されました』


湊は碗を静かにテーブルに戻した。その瞳は一瞬で「優雅な野暮天」から「飢えた狼」へと切り替わった。曉と視線を交わし、二人は言葉を交わすことなく、阿吽の呼吸で立ち上がった。


「任務開始だ」湊が低く告げた。


「えっ? ちょ、ちょっと待って! 私のダンピンまだ食べてない……」


星玲が悲鳴を上げる間もなく、冷たくも力強い手が彼女の手首を掴んだ。


「星玲、時間がない」


明だった。その口調は拒絶を許さず、理性を保ちながらもその動作は異常なほど強引だった。星玲が朝から待ち望んでいた「手繋ぎ」は、このような**「教官が隊員を引き摺って爆走する」**という形で実現した。


「わあぁぁ! ミン! 速すぎる! 足が、足がもつれるーっ!」


星玲の哀号とは裏腹に、手のひらから伝わる熱に鼓動は狂ったように加速した。これはロマンチックな散歩ではない。ZERO-DELAY特有の、アドレナリンを伴う「拘束」だった。


高速列車の中で四人は極速の換装を行った。


曉は湊に背を向け、便服を脱ぎ捨てる。現れたのは、身体にフィットした機能美溢れるZERO-DELAY正装ブラック・タクティカルスーツ。深藍の長髪を潔く結い上げ、その瞳は氷のように冷たく澄んでいた。


湊もまた、銃をスライドさせ「カチャリ」と装填音を響かせた。彼は曉の背後に立ち、その肩に手を置いた。


「新堂執行官。父親が残した『幽霊ゴースト』と対峙する準備はできているか?」


「体制の運営を妨げる雑音は、私がこの手で排除する――それが誰であろうと」


【真実の陥穽:新堂弦の影】


中山駅の廃墟と化した避難所。かつて廃棄されたその場所には、戦いと銃撃の痕跡が残されていた。


「ここは戦場だった」


明が薬莢を拾い上げる。「それも規模は小さくない。腐食具合から見て、五日前だ」


湊の直感が警告を鳴らす中、曉は奥の鉄扉を見つめていた。「あの向こうに……『弦』の匂いがする」


突如、すべてのスクリーンが点灯した。冷酷な眼差しを持つ深藍色の髪の男――新堂弦。


「星玲、早く! 私の指示に従ってメインコンソールへ! 強制オフラインを試行して!」


十七の声が慌ただしく響く。


「明、星玲を援護しろ!」


「湊! 曉にその画面を見せるな!」


湊は曉の前に飛び出し、その大きな手で彼女の紅白のゴーグルを覆い隠した。


「見るな、曉! 感覚を遮断しろ!」


しかし、声は防げない。十七のハッキングも虚しく、弦のメッセージが響き渡る。


「曉、これは十一年前、私がNを創設したばかりの頃だ。これを見ている頃、お前は十九歳の娘になっているだろうな。パパは嬉しいよ」


「うっ……おえっ……」


その吐き気のする言葉に、曉の身体は激しく震え、湊の胸の中で乾嘔した。弾丸よりも鋭く、彼女の信条を切り裂く言葉。


「ふざけるな!」


湊は画面に向かって三発撃ち込んだが、防弾ガラスに跳ね返される。


「よく考えろ。なぜ私がここに現れたのか? ヒントをあげよう。Nには後継者が必要だ。後継者が現れない限り、Nは全世界を蹂躙し続ける」


湊が十七に襲撃の予報をインターセプトするよう叫ぶが、返ってくるのはノイズだけだった。


信鳩メッセンジャー番犬ガードドッグは処理したよ。今、ZERO-DELAYの扉は開け放たれているんじゃないかな? 家に帰って考えなさい、私のかわいい子。バイバイ」


映像が途切れた。十七と零が同時にダウンする。


「鳩と番犬……『夜』と『拾荒者スカベンジャー』がやられたのか……」


湊は戦慄した。もしそうなら、今、台北本部は無防備な空殻と化している。


新堂弦が残した「後継者」という名の毒蛇が、曉の首を絞め始めていた。


「明! 星玲を連れろ! すぐに本部へ戻るぞ!」



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