表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZERO-DELAY  作者: WE/9
新しい始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/102

台北(タイペイ)からの風

【羽田空港・到着ロビー】


自動ドアがゆっくりと左右に開き、早朝の冷気が一気に流れ込んできた。


「わあ――! これが東京の匂い? 台北よりちょっと綺麗だけど、本当に寒いね!」


静かなロビーに、活力に満ちた声が響き渡る。女の子はスーツケースを引きながら、軽やかな足取りでゲートを出てきた。目を引くような琥珀色の長い髪を、動きやすいように黒いリボンで高いポニーテールに結い、それが彼女の動きに合わせて揺れている。


彼女は振り返り、後ろで荷物を押しつつ困り顔のミンに手を振った。「ミン! 早く早く、十七セブンティーンがもう催促してるよ!」


明は星玲ホシレイの肩を軽く押し、歩調を合わせる。その声は優しく、甘やかすような響きを含んでいた。


「星玲、少し落ち着いて。僕たちは支援に来たんだ、観光じゃないんだから」


「分かってるってば! でも、初めての東京本部なんだもん」星玲はおどけて舌を出した。「十七、ミナトさんやアキラさんってどんな人かな? 東京のエースコンビだって聞いてるし、絶対かっこいいよね!」


イヤホンから十七の声が響く。


『台北支部から送られた資料によれば、神楽湊執行官は極めて効率的な戦術家であり、新堂暁執行官は体制の最も忠実な擁護者です。その過剰な好奇心は抑えることを推奨します』


「ちぇ、ロボットは無愛想なんだから」星玲は口を尖らせ、すぐに興奮した様子で明の腕に抱きついた。「ミン、会ったらすぐに紹介しなきゃね。台北支部最強の『コンビ』をさ!」


【東京本部・ロビー 08:30】


湊と暁が医務室の方から歩いてきた。二人は低い声で言葉を交わしている。暁の足取りはしっかりしているが、きっちりと閉められた制服の襟元からは、隠しきれない疲労感が漂っていた。


その時、琥珀色の人影が飛び込んできた。


「ヘイ! こんにちは!」


星玲は軽やかな風のように、湊と暁の前に立ちはだかった。好奇心に満ちた瞳で伝説のコンビをじっくりと観察した後、彼女は胸を張り、満面の笑みを浮かべた。


「初めまして! Section Taipeiから来た星玲です! 十九歳、ミンのパートナーで、今回の台北からの支援担当です! よろしくね、湊さん、暁さん!」


湊は少し呆気にとられたが、すぐにいつもの雅な微笑みを浮かべ、軽くからかうように言った。


「おや、台北からはこんなに可愛い後輩が来てくれたのか。とっておきの茶葉を出してもてなさないといけないな」


暁は少し気まずそうに星玲に頷き、不自然に襟元を直した。「……新堂暁よ。よろしく」


「見かけない顔だけど、君と明はどういう関係だい?」湊が興味深げに尋ねる。


星玲は暁のクールな姿に憧れの眼差しを向けた後、隣の明を振り返った。彼女の頬には興奮の赤みが差し、胸の前で拳を握って、今まさに宣言しようとした。


「実は私とミンはね、パートナーを超えた、お、付、き、合――」


「――息の合ったパートナー関係です」


明が冷静に星玲の言葉を遮った。その声は玉のように穏やかだが、否定を許さない力強さがあった。彼は湊と暁に礼儀正しく会釈し、申し訳なさそうな視線を送る。


「すみません、星玲は冗談が好きで。お二人ともお久しぶりです。僕たちと十七が急いで来たのは、ある任務のためでして」


明の言葉が少し止まった。彼は星玲をちらりと見、それから複雑な表情の湊を見つめる。


「……少し厄介な件なのですが。ですがその前に、まずはコーヒーでも飲みましょう。星玲、君は先に暁さんと正装に着替えておいで」


星玲は明に遮られて不服そうに頬を膨らませたが、それでも素直に暁の後に続いた。ただ、立ち去る前に明を振り返り、あっかんべーと舌を出して小さく呟いた。


「ケチ……台北にいた時はあんなこと言ってなかったくせに」


【東京本部・女性執行官専用更衣室】


金属製のロッカーが閉まる音が、静かな空間に響く。


暁は俯き、ゆっくりと制服のボタンを解いていった。昨夜の余韻が今も体に鈍い痛みとして残り、あの狂おしい真実と救済を思い出させる。彼女がジャケットを脱ぎ、肩にある淡い赤色の痕が露わになった時、後ろから軽快な足音が聞こえてきた。


「わあ――暁さん、東京の更衣室って高級だね! 自動消臭システムまである!」


星玲が跳ねるように入ってきて、手慣れた様子で髪留めを外した。琥珀色の長い髪が一気に広がり、冷たい照明の下で温かな輝きを放つ。彼女はピンクのジャケットを脱ぎながら、好奇心いっぱいに暁の側に寄ってきた。


「ねえ暁さん、その肩のって……」星玲の目は丸くなり、純粋な好奇心に満ちていた。


暁は反射的にシャツを引き上げ、顔を一気に赤くして視線を泳がせた。「これは……昨日の任務でついた打ち身よ」


「へぇー、なるほど! 東京の任務って本当に激しいんだね!」星玲は深く考えず、無造作に髪を払い、任務用のインナーに着替え始めた。その口調が少し真剣になる。


「ミンが言ってたよ、今回は一緒にあの廃墟に行って『ナイト』の残党を追うんだって。あの連中、台北でも本当に酷かったんだから。トンネルに罠を仕掛けたりしてさ」


暁は自分より一つ下で、悩みなどなさそうに見える少女を見つめ、思わず口を開いた。「あなた……怖くないの? 『夜』の残党なのよ」


「怖いよ!」星玲は振り返り、眩しい笑顔を見せた。


「でも、ミンが側にいてくれるから安心できるんだ。さっきはあんな風に言ってたけど、本当はすごく守ってくれるの。この前も西門町で、私を助けるためにゴーグルまで壊しちゃったんだよ」


暁は沈黙した。昨夜の湊の告白、彼女の側にいるために「別の男」に成り代わったあの男を思い出す。


「星玲、あなたならどうする……?」暁は低い声で尋ね、指先で無意識に服の端を弄んだ。「もし、一番信頼している人が、最初は嘘をついて近づいてきたんだと知ったら。あなたならどうする?」


星玲が黄色い長髪を高いポニーテールに結び直そうとする手が止まった。彼女は更衣室の鏡越しに暁を見つめ、その瞳には年齢に不相応な聡明さが宿っていた。


「うーん……昔の私なら、大泣きして逃げ出したかな」星玲は首を傾げて笑った。「でも今は、その人がどうやって来たかより、今どうしてここに居続けてくれるかの方が大事だと思う。もしその嘘の中に留まるために必死でいてくれるなら、その想いは『本物』なんじゃないかな?」


暁の心臓が大きく跳ねた。


「暁さん、今の目、すごく優しいよ」星玲はポニーテールを完成させ、腰のデバイスをかっこよく叩いて、暁にウィンクした。


「湊さんはきっと、すごく温かい人なんだね。じゃなきゃ、暁さんがそんな『何かを守りたい』って顔をするはずないもん」


「そんなこと……」暁は口を尖らせて反論したが、背を向けてタクティカルベストを着込み、口元の小さな緩みを隠した。


「よし! 着替え完了!」星玲は活力たっぷりにドアへ向かった。


「行こう! イケメン二人が準備できてるか見てこなきゃ。今回の任務、私たち台北支部は絶対に足を引っ張らないからね!」


星玲の琥珀色の後ろ姿が消えるのを見届け、暁は深く息を吐いた。その瞳は再び鋭く、揺るぎないものへと変わる。


暁と星玲が着替えを終えてロビーに入った時、メインスクリーンに映し出されていたのは戦術マップではなく、十七が勝手に抽出したデータ映像だった。


映像の中にいたのは、初期の ゼロ。今の彼のような冷めたユーモアや精密な心理調整能力を持つ前の、幼い姿だ。画面の中の零は、突発的な多重衝突事故のデータを処理しきれず、ロジック・デッドロックに陥り、仮想イメージには高校生が赤面したような「システム過熱警告」が出ていた。


「システムログによれば、これは五年前の零の姿です」十七(17)は腕を組み、真面目な顔で揶揄するように言った。


「当時は計算遅延が0.02秒もあり、避難ルートの割り振りでは、あまりの融通の利かなさに二台の救急車を同じ一方通行に誘導しかけました。我々台北のサーバーサイドから見れば、これはまさに『思春期のロジック混乱』です」


「おい、十七。彼も今や東京の戦術コアなんだぞ」


明が制止するものの、その口元には意地悪そうな笑みが浮かんでいた。


「だからこそ、思い出させる必要があるのです」十七は隣で点滅する零の端末を冷ややかに見つめた。「成長とは痛みを伴うもの。特に、自分の過去のアーカイブが黒歴史として私に保存されていると知った時はね」


端末が二度点滅し、零の落ち着いた電子音声が響く。そこには少しの諦めと冷ややかなユーモアが混じっていた。


『十七、私の心理状態調節機能によれば、あなたの今の行為はあなたの優越感を高めるのに寄与しており、これは支部間の協力体制において有益です。したがって、私は沈黙を選択します』


「よし、冗談はそこまでだ」湊は壁に寄りかかり、タクティカルペンを回しながら、出てきたばかりの暁に視線を向けた。


明は笑みを消し、マップを投影した。


「目標は台北から東京へ逃亡した『ナイト』組織の残党。拠点は郊外の廃化学工場です。現在、零次レイジ指揮官は別任務に就いているため、今回の行動に『終結点フィニッシャー』はいません。全工程のクリーニングを、自分たちだけで完結させる必要があります」


湊が歩み寄り、修長な指でマップ上に二つの戦術ラインを描いた。


「ならば、二組に分かれよう。僕と星玲は遠距離からの火力援護と情報制圧を担当する」


湊は琥珀色の長い髪の少女に視線を向けた。


「星玲、君は工廠の監視システムを乗っ取り、僕に射撃パラメータをマークしてくれ」


「任せて、湊さん! 私がいれば、湊さんの弾丸には全部目がつくよ!」星玲は腰のPCを叩き、長い髪を力強く揺らした。その姿には、可愛らしい外見とは裏腹のプロフェッショナルな空気が漂う。


「暁、君と明は近接突入だ」湊は暁を向き、その瞳が深く沈む。「明がトラップで相手のリズムを乱す。君はその隙が生まれた瞬間にクリーニングを実行してくれ。スピード勝負だ、残党に息をつかせるな」


暁は配銃を握りしめ、その瞳は深海のような冷徹さを取り戻した。「了解。準備完了よ」


重厚な気圧ドアがゆっくりと開き、漆黒の、番号のない列車がトンネル内に静かに佇んでいた。


十七が先に車内のスクリーンへと入り込み、四人を振り返る。


「列車は三十秒後に発車します。警告しておきますが、今回の任務は『零次不在』により難易度が15%上昇しています。明、物理的な切断によって星玲のネットワークリンクを途絶えさせないよう注意してください」


「分かっているよ」明は優しく微笑み、車内へ踏み出した。


星玲は歩きながら空中に向かって拳を突き出し、ウォーミングアップを始めた。


「楽しみだなー! 台北と東京の初コラボ、あの『夜』の連中に思い知らせてやろうよ!」


湊と暁が最後尾を歩く。車内へ入る直前、湊は暁の手の甲を軽く叩き、二人だけに聞こえる周波数で囁いた。


「昨夜のことは……リズムに影響させるなよ。もし違和感を感じたら、いつでも僕に見える場所まで下がれ」


暁は一瞬呆然としたが、すぐに湊の手の平を握り返した。その力強さは短かったが、「私もあなたを守れる」という強靭な意志がこもっていた。


「……分かってる。行くわよ」


四人が入り、重い衝突音と共にドアが完全に閉まった。ブラックトレインは野獣の唸りのような轟音を上げ、一瞬にして一条の闇の光となり、深いトンネルの先へと消えていった。


列車は暗いトンネル内を猛烈な勢いで疾走し、強力な遠心力が車体をわずかに傾かせる。メインスクリーンには化学工場の3D構造図と、二人のAIの仮想イメージが流れていた。


後部座席では、暁が無表情に9mm口径の配銃を点検していた。力みすぎた指先は関節が白く浮き出し、スライドを引く金属音が「カチ、カチ」と執拗に、そして硬く響く。


タクティカルスーツに着替えてはいたが、昨夜の混乱した真実と湊の告白が、今も細かな電流のように神経の末端を駆け巡り、彼女の動きを硬くさせていた。


突然、温かく大きな手が上から重なり、銃を点検していた彼女の手をしっかりと抑え込んだ。


暁の体がビクッと震え、肩が反射的にすくみ上がる。彼女は驚いて顔を上げ、悪戯っぽくもどこまでも深い湊の黒い瞳とぶつかった。


「緊張しすぎだ、暁」湊の声はとても優しく、走行中の列車のノイズの中でも鮮明に響いた。「そのリズムじゃ、突入後の一発目を外すぞ」


湊は手を離さず、そのまま暁の手を包み込むようにして掌を重ねた。彼の親指が暁の手の甲を優しくなぞる。肌を通じて伝わってくるのは、侵略的でありながらも、これ以上ないほどの安心感を与える体温だった。


暁の強張っていた背中が、湊に見つめられる中でゆっくりと解けていった。彼女は、雅な微笑を浮かべつつも真剣な眼差しをした男の顔を見つめる。数秒後、彼女はいつものように冷たく振り払うことはせず、自分から掌を返し、湊と指を絡めた。


「……うるさいわね」暁は小さく毒づいたが、完全に武装を解き、従順に背もたれに体を預けた。廃墟の中で再構築されたその繋がりが、未知の任務を前にした彼女にとって、唯一の心の拠り所となっていた。


この光景を目の当たりにした星玲は、驚きのあまり手にしていたエナジードリンクをこぼしそうになった。


「うわわっ……」星玲は琥珀色の目を見開き、口をぽかんと開けた。「ミン、見て湊さん……あんなことできるの? 暁さん、あんな、あんな風に手を繋がせちゃうなんて! これって東京限定のロマンチックな光景?」


星玲は頬を赤く染め、恥ずかしがりつつも目が離せない様子だった。彼女はその雰囲気に当てられたように、こっそりと、少しずつ明の方へと寄り添い、最後には肩を明のジャケットにぴったりと預け、彼の落ち着いた気配を感じ取った。


明は隣の少女の接近を感じ、視線は戦術マップに向けたままだったが、唇の端に微かだが温かい微笑を浮かべた。彼は避けようとせず、星玲が寄り添うのをそのままにさせた。


スクリーンの中の 十七 は、車内の「およそプロフェッショナルとは言えない」二組の執行官を冷ややかな目で見ていた。画面の端には「閃光過負荷(リア充爆発)」の警告マークが点滅している。


「零」十七の声に抑揚はなく、年長者のような呆れが含まれていた。「私の論理演算によれば、現在の車内の酸素消費量は正常ですが、過剰な感情ホルモンの分泌がシステム許容値を超えています。あなたの指揮官たちについて、見解を聞かせなさい」


若い 零 は数回明滅し、少年のようなイメージの顔に、人間の「見ていられない」という困惑を模した表情を浮かべた。彼は重なり合う湊と暁の手を見て、ゆっくりと言った。


『十七先輩。私の「心理状態調節プロトコル」によれば、これは「戦前の感情共鳴の強化」と定義されます。データ上では非効率な行為に見えますが……。私のコードには「いちゃつきを阻止する」という機能は存在しません』


「要するに、もう手遅れだと言いたいのね」十七が突っ込む。


二人のAIは視線を交わし(あるいは、無力感に満ちたデータ交換を行い)、任務中でありながら「恋をしている」四人の執行官を見て、かつてないシステム崩壊を感じていた。


「三十秒後に目標地点に到着します」十七の声が急に厳格になり、車内の甘い雰囲気を強制的に切り裂いた。「工場内部に不明な熱源を検知。全員、ホルモンを引っ込めなさい。戦闘開始です」


明は立ち上がり、最後にもう一度トラップの信管を確認した。星玲は琥珀色の髪をキリッと結び直し、その瞳に鋭さを取り戻す。湊と暁は視線を交わし、同時に手を離したが、その体温の余韻はすでに最強の連携リズムへと変わっていた。


列車が鋭いブレーキ音を響かせ、ドアが勢いよく弾け飛ぶように開いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ