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ZERO-DELAY  作者: WE/9
起死回生

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19/81

君こそが、僕の未来

早朝の東京は薄い灰青色の霧に包まれ、遠くの摩天楼が朝焼けの中で冷たくそびえ立っている。


出勤1時間前という、執行官たちがわずかな眠りを貪るはずのこの時間。鉄錆と冷気の漂う屋上に、二つの影が吸い寄せられるように現れた。


ミナトは開いた制服のジャケットから乱れた髪を覗かせ、手に入れたばかりの銃を弄んでいる。一方、アキラは色褪せた黒のタクティカルベストに紺色の髪をポニーテールに結び、守護符代わりのレモンティーを握りしめていた。


昨夜の廊下でのキス、そして教官に目撃された気恥ずかしさが、微温い空気の中で発酵していく。


「……眠れないか?」湊が静寂を破り、いつもの皮肉めいた、だがこれまでになく優しい笑みを浮かべた。


「ええ」暁は低く応え、フェンス越しに深い通風孔を見下ろした。「静かすぎて……。ゼロの小言がないと調子が狂うわ」


湊は彼女の隣に並び、朝光に照らされた暁の横顔を見つめた。


「なぁ、暁。もし俺たちがこのトンネルで死なず、国連のクソ野郎どもに消されもしなかったら……何がしたい?」


暁は怪訝そうに彼を見た。「無理よ。ZERO-DELAYに『退職金』なんて概念はない。あるのは死亡弔慰金だけ」


「仮定の話だよ。俺は決めてるんだ。台北に店を出そう。お前の大好きなレモンティーの店だ」


暁は手元のボトルを見つめ、静かに返した。「台北? あそこにはミン十七セブンティーンがいて、十分うるさいわ。誰が店番をするのよ」


「お前だよ、オーナー」湊の瞳が輝く。「お前はカウンターで無銭飲食を睨み殺し、俺は最高にリズムのいい特製ドリンクを開発する。明には着ぐるみでチラシを配らせて、十七はオンライン注文担当だ。もう銃を撃つ必要なんてない。考えるのは氷の量だけだ」


暁の口角がわずかに動いた。笑みを堪えるように。


「馬鹿げてる。三日も持たずに潰れるわ。私たちは執行官よ、湊。この手はシェイカーじゃなく、銃を握るためのもの。体制が私たちを逃がすはずがない」


「ちぇっ、風情がないねぇ。だから冗談だって言ったろ」湊は煙草に火をつけた。


「……ええ、冗談ね」暁は小さく応え、肩の力を抜いた。


湊は彼女の「口嫌体正直ツンデレ」な様子を見て、悪戯心が理性を選り分けた。彼は一歩踏み出し、フェンスに手を突いて暁を腕の中に閉じ込めた。


「冗談ついでにさ、オーナー。開店前の『前借り』をさせてくれないか?」


湊の低い声が近づき、彼女の唇に触れようとした瞬間――。


「んっ……!」暁は真っ赤になって彼を押し返した。「馬鹿っ! ここは屋上よ、ドローンに見られたら……」


「いいだろ、おはよのキスくらい」


暁は鋭く睨みつけ、蚊の鳴くような声で呟いた。「……ダメ。昨日……昨日、十分したでしょ」


「へぇ、回数数えてたのか?」湊はさらに笑い、彼女の手を握った。「じゃあ昨夜は何回だったか教えてくれよ。今日のやる気に繋がる」


「死ね、神楽湊!」


暁は脱兎のごとく逃げ出した。湊はその背中を見送り、彼女に踏まれた場所をさすりながら、スマホで『美味しいレモンティーの作り方』を検索した。


【高速環状鉄道・ブラックトレイン03号・06:15】


一時間後、二人の顔には「執行官」の仮面が張り付いていた。


「湊、列車の周波数がおかしいわ」暁が不安げに呟く。


「ああ。速すぎる。小零はまだ成長槽だ。本部のサブAIじゃ制御がガタガタだな」


その直後――【ドォォォォン!】


時速200キロを超える列車が緊急停止した。凄まじい火花と共に、闇の深淵で鋼鉄の塊が立ち往生する。


「どういうこと? 防衛システムは?」


暁がドアを開けようとした瞬間、無数の火花が闇を切り裂いた。


【タタタタタタ!】


装甲を叩く銃弾の雨。これはランダムな襲撃ではない。殺意に基づいた「謀殺」だ。


「ハリーも零もいない……。クソ、通信が遮断されてる。新AIとの接続もだ」


防弾ガラスに蜘蛛の巣状の亀裂が走る。


「湊、相手の火力がおかしい。軍規格の伏撃よ。視認できるだけで二十人以上、背後からも足音がする。包囲されたわ」暁が冷静に告げる。


「いいぜ、リズムは最悪だが、面白くなってきた」湊が冷酷に笑う。


「暁、原則第二条は?」


「『冷静を保て』。これはクリーンアップじゃない。生存戦サバイバルよ」


湊はドアを蹴り開け、反対方向にフラッシュバンを投じた。光が炸裂した隙に、二人は列車の底、線路の隙間へと滑り込む。


「左の三人は私、右は任せるわ」


暁はしなやかな黒猫のように移動し、敵の足首を正確に撃ち抜いた。


「この光る棺桶から出るぞ!」


煙幕を張り、二人は闇へと溶け込んだ。ここからは彼らの庭だ。通気口から飛び降りた湊がナイフで敵の喉を掻き切り、暁は冷却スプレーで体温を隠しながら背後から首を折る。音もなく、光もない死の二重奏。


だが、追い詰められた敵が最後の一撃を放つ。本部に停まっているはずの自動メンテナンス車が、特攻を仕掛けてきたのだ。


「暁、飛べ!」


湊が叫んだその時――。


『権限再起動。システムジャック。全エリア照明……点灯。』


【カッ!】


水銀灯が一斉に点り、トンネルが白昼のように照らされた。暗視ゴーグルに頼っていた殺し屋たちが悲鳴を上げ、目を押さえて悶絶する。


急停止するメンテナンス車。湊と暁のゴーグルは0.01秒で調光を完了していた。


「リズムが戻ってきたな」


湊の銃口が死のリストを埋めていく。一歩、また一歩。躊躇のない処刑。暁もまた、止まった車両を利用して跳躍し、残った敵の息の根を止めた。


耳元で、懐かしくも少し苛つく声が響く。


「女神様ぁ! 生きてますかぁ! パン兄さん、もう少しで国葬の準備するところでしたよぉ!」


「……パン兄さん、静かにして」暁が頬の血を拭う。


【東京本部・指令官室】


「……『スカベンジャー(拾荒者)』。非公式のZERO-DELAYと呼ばれる武装集団だ」


神宮寺司が煙草を燻らせながら告げる。彼らは企業や財閥の汚れ仕事を引き受ける「灰色の掃除屋」。今回の件は、零次がいない隙に本部を叩こうとする大企業の差し金だった。


「状況はもっと複雑だ。胖が解析した通信プロトコルの中に、かつての『N』と同じアルゴリズムが見つかった」


暁の拳が震える。


その日の夕方。胖兄さんが周囲を気にしながら二人を手招きした。


「指令には内緒ですよ。あのメンテナンス車を操っていた権限のID……とっくに抹消されたはずの、**新堂シンドウ ゲン**のものでした」


【地下・廃棄物処理場・深夜】


首領ボス、伏撃は失敗です。あの二人は予想以上に手強い」


肌の浅黒い男、バラクが戦術ナイフを拭う手を止めた。


「あの二人には手を出すなと言ったはずだ。神宮寺の切り札を刺激すれば、我々がトカゲの尻尾にされるだけだ」


「ですが、薬が……。仲間の命が……」


バラクは溜息をつき、窓の外のレールを見つめた。


「体制は栄誉を与え、企業は金を与える。我々は、その間で残飯を拾うことしかできない」


彼はナイフを鞘に収め、冷徹な瞳を光らせた。


「イアン、全ルートを封鎖しろ。奴らが来るなら、俺が直々に相手をする」


机の上の「新堂暁」の写真を見つめ、彼は低く呟いた。


「弦の娘か……。父親とは違うことを願うよ」



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