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ZERO-DELAY  作者: WE/9
起死回生

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18/80

馴染み深く、見知らぬ我が家

お馴染みの油圧ドアが開く音が響き、ミナトアキラ、そして制服のジャケットを肩に掛けた**零次レイジ**が、地底深く埋設されたプラットホームに降り立った。


「このオイルの匂い……安心しちまうなんて、俺も末期だな」


湊は襟元を正した。久々に袖を通した黒い執行官制服が、彼にあのキザなリズム感を呼び戻させる。


暁はホームの冷たい支柱に手を触れた。冷光灯の下、彼女の深い紺色の長髪がより一層深みを増して見える。南国のバカンス少女から「体制の信徒」へと戻った彼女の瞳に、わずかな懐かしさがよぎった。


最後尾を歩く零次の脳内ではハリーがシャットダウンしているが、その「戦力天賦(天辺)」の威圧感は健在だ。すれ違う新人たちは無意識に息を呑み、自然と道を開けた。


【技術センター・中央サーバーコア】


湊は**小零ゼロ**のコード断片が収められたストレージをホストに挿入した。モニターに淡い緑の光が点滅し、小零特有の冷笑的な電子音が、少し掠れながらも幼い響きで聞こえてくる。


『検知……馴染みのある……低効率……神楽、私は今……成長中だ……隙を見て……フォーマットしないでくれ……』


「安心しろよ。お前がいなきゃ、誰が俺のリズムを修正してくれるんだ?」


湊は笑い、サーバーの筐体を軽く叩いた。小零はここで、東京本部の膨大な演算能力を糧に、再び皆を守る戦術中枢へと育っていく。


一方、ハリーのデータは零次の体から抽出され、米軍のミッチェルへと引き継がれた。親しい者たちに見守られながら、彼もまた、ニューヨークを守る日が来るのを静かに待つのだ。


作戦整備大楼メインホール


「おやぁ? 伝説の『バカンス組』じゃない?」


上から艶っぽく、どこか気だるげな声が降ってきた。タイトなタクティカルベストに教官ジャケットを羽織った美女が、手すりから顔を覗かせている。京都分部から転属してきた、**草壁くさかべ ほたる**だ。


彼女は軽やかに飛び降り、暁の前に着地すると、南国の余熱が残る暁の頬を遠慮なくつねった。


「あんたが噂の小暁アキラちゃん? 写真よりずっと可愛いわね。訓練場ではたっぷり『可愛がって』あげるから」


「……自重してください、草壁教官」


暁は顔を赤らめたが、頼りがいのあるオーラを放つ彼女に、意外にも不快感は抱かなかった。


そこへ、ダボついたパーカーを着て、分厚い眼鏡をかけた太った男が、廊下の隅で握り飯を食いながら座り込んでいるのが見えた。


「どこの浮浪者だ? 保安員は?」暁が眉をひそめる。


男は顔を上げ、丸眼鏡を押し上げて人の良さそうな笑みを浮かべた。「大阪から来た情報員の**『パン(胖)兄さん』**や。よろしゅうな」


彼が言い終えるか否か、視線が暁に止まった瞬間、手から握り飯が転げ落ちた。彼は転がるように暁の前へ詰め寄り、聖地巡礼でもするかのように膝をついた。


「女神様……新堂さん! 結婚を前提に付き合ってください! あんたのために世界中のファイアウォールをハックしたる!」


「どいて」暁の二文字は、列車をも凍らせるほど冷徹だった。


「フラれるん早っ! 最高や!」パン兄さんはうっとりと頬を染めた。「あんたの冷たさに、ワイの心は完全に撃ち抜かれたで!」


【シミュレーション・テスト】


零次はポケットに手を突っ込み、モニターの横に冷徹に佇んでいる。


「模擬テストだ。ルールは寸止め。永久的な損傷は禁止。一人脱落すればチームの敗北だ。始め」


第一戦:湊&暁 vs 草壁&猿渡


名古屋分部から来た精鋭・猿渡は基本に忠実な優等生だが、湊と暁の阿吽の呼吸には及ばない。


「リズムを上げるぜ、暁!」


「言われなくても!」


暁は赤い閃光(雨の中のシミュレーション)となって滑走する。草壁の変幻自在な攻撃を湊が抑え、暁が猿渡の背後に潜り込んで銃口を突きつけた。


「チェックアウト(出局)だ」零次が淡々と宣告した。


第二戦:暁 vs 草壁 (1 vs 1)


雨の中の肉弾戦。暁の剛健な格闘術を草壁は柳のように受け流す。


【カッ、カッ!】


二人の銃口が同時に、相手の急所に突きつけられた。


「引き分けだ」零次が微かな賛辞を瞳に宿す。


「ウフフ、負けたわ。今時の新人は怖いわね」草壁は降参のポーズを取り、暁の顎を猫のように撫で回した。「その命懸けの目、嫌いじゃないわよ。いいわね、小暁」


「あ、あまり触らないでください!」暁の耳たぶは真っ赤だった。


【夜:新宿への緊急出動】


警報が鳴り響き、新AIの無機質な声が響く。


『代号1032。犯罪グループ確認。ブラックトレイン03号、3分後に発車。執行官、出撃せよ』


湊と暁の顔から笑みが消え、一瞬で武装を完了させる。疾走する列車の中、湊が呟いた。


「なぁ暁。初めての任務、覚えてるか?」


「覚えてる。あの時は零が戦術を解説してくれて……隣でずっと黙って私を見てる誰かさんのせいで、気まずかったわ」


「そ、それはリズムが合わなかっただけで……! ここは俺たちの居場所だ。天国か地獄か知らないが、このレールに戻ってきたんだ」


下車。索敵。発砲。乗車。


教科書通りの「クリーンアップ(掃除)」。二人の連携は、ブランクなど微塵も感じさせないほど完璧だった。


【23:00 宿舎A棟の長い夜】


声控灯が二人の足音に合わせて点いたり消えたりする。誰もいない廊下で、湊の手が暁の手に触れ、その細い指を力強く包み込んだ。


「今日はずいぶん威風堂々としてたな、新堂執行官」


湊はキザな笑みを浮かべ、暁をドア横の壁に追い詰めた。


「……うるさい」暁は顔を背けるが、逃げる力は入らない。


湊は暁の耳元で息を吐き、戦術ベストの下にあるしなやかな腰を引き寄せた。「離して……誰かに見られたら……うぅ……」


暁の鋭い声は、今や甘い懇願へと変わっている。


「ダメだ。これは、今日教官と楽しそうにしてた『お仕置き』だ」


白い首筋に湊が軽く唇を落とすと、暁は目を閉じ、湊の制服をぎゅっと掴んだ。今は冷酷な執行官ではなく、愛する者の腕の中で溺れるただの少女だった。


二人の唇が重なる。


最初は触れるだけの優しいキス。だが、暁が降参したような溜息を漏らすと、彼女の手は湊の首に回った。湊は強く彼女の肩を掴み、その柔らかい唇を味わいながら、彼女が自分のキスで震えているのを感じていた。


やがて離れた時、暁の瞳には霧がかかり、頬は朱に染まっていた。


「……暁、そんな顔されたら、俺まで冷静でいられなくなる」


湊の独り言に暁は我に返り、慌てて部屋へと逃げ込んだ。


だがその瞬間。廊下の角で軍用ベストの影が閃いた。草壁蛍の鷹のような目が、暁の幸せそうな微笑みを完璧に捉えていた。


【翌朝:食堂の洗礼】


「おっはよ~、小暁」


幽霊のように現れた草壁が、ニヤニヤしながら暁の前に座る。


「小暁ちゃん、昨日の夜は湊とどんな『訓練』をしたのかしらぁ?」


暁の背筋が凍りつく。「……ただの自主練です」


「あらぁ? でも昨日の寝る前のあの顔……。赤くなって、口元にふにゃ~っと幸せそうな笑みを浮かべちゃって。可愛くて食べちゃいたいぐらいだったわよ? 湊の『戦術指導』は効果覿面みたいね?」


【ブフォッ――!】


暁が飲んでいた紅茶が噴き出した。


「教、教官! やっぱり見てたんですか!」


暁は装備箱を掴んで逃げ出した。入り口で挨拶しようとした湊の足を思い切り踏みつけ、「大ヘンタイ!」と泣きそうな声を残して。後に残されたのは、足を押さえて悶絶する湊と、食堂中に響き渡る草壁の邪悪な高笑いだった。



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