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ZERO-DELAY  作者: WE/9
歩み続ける理由

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12/54

For... what?

ロビーの照明が、粛殺しゅくさつとした深藍色に切り替わった。巨大な三面のホログラムスクリーンが指揮台の上にゆっくりと昇り、それぞれのエリア番号を映し出す。


【17】台北、【0】東京、【7】ニューヨーク。


三人の司令官が同時にスクリーンに現れた。


威厳に満ちた東京司令、冷静沈着な台北司令、そしてニューヨーク分部からは眼鏡をかけた男。三人は並び立ち、鋭い眼差しで眼下の出撃を控えたエグゼクティブたちを凝視していた。


「これは単なるクリーンアップ任務ではない」東京司令の声が拡声システムを通じて重々しく響き渡る。


「都市の秩序に挑み、我らの同胞を惨殺した悪の根源――『N』組織への最終審判である」


「ニューヨークの部隊はすでに近海へと潜入している。明日、跨海こかい軌道が全面開放される。ニューヨーク、台北、東京による三方包囲網の開始だ」


戦術地図と座標データのさらに下、隠された領域――そこはAIシステムたちの仮想領域だ。


ハリー(Harry)のアイコンは灰色の低迷状態にあり、データ流は断続的で、ミッチェル殉職による論理的混乱と悲しみが示されていた。


その時、スクリーンに二つの強力なデータチェーンが走り、**【システム17】(台北ホスト)と【システム0】(東京システム:零)**が同時にハリーへ接続を要請した。


「ハリー、シャキっとしなさい」ゼロの声は冷静だが、毒舌は鳴りを潜めていた。


「データによれば、ミッチェルの遺言におけるお前への期待値は『戦場クリーンアップ率100%』よ。今フリーズすれば、彼の評価が下がるわ」


スクリーンにうなだれたハリーが現れ、微かな電子音を発した。


「……僕は僕の『脈動パルス』を失ったんだ」


その時、零のスクリーンが点滅し、小柄で零にそっくりだが活気に満ちたアバターが現れた――「小零シャオ・リン」だ。


「ハリーお兄ちゃん!」小零はハリーのアイコンの周りを飛び回り、蛍光色のデータチップを振りまいた。


「ミッチェルおじさんはもういないけど、この戦いのリズムをお兄ちゃんに遺してくれたんだよ! ほら、これは東京分部の『リズム』データ。半分あげる!」


小零が仮想の小さな手を伸ばし、深青色の光の球をハリーに手渡した。この「リズム感」の共有により、ハリーの曇っていたコアランプに力強い赤光が灯った。


人称年齢の近いAIたちが意気投合する様子を見て、零と17は高頻度コードを交換し合った。


『確認。ターゲット:新堂 シンドウ・ゲン


『確認。行動目標:N組織の全データノードを完全に抹消』


そして、三つのシステムの音声が一つに重なり、全システムを震わせる誓いを立てた。


「ONEのために。ミッチェルのために。明日、我々が戦場を支配する」


二時間前、司令は「三城合同総攻撃令」を下した。ニューヨークと台北の支援部隊はすでに公海の縁に到達している。空気中には濃厚なカレーの香りとコーヒーの匂いが漂っていた。それは部隊伝統の「戦前食」だ。


レストランにはエグゼクティブや後勤スタッフが溢れていた。手紙を書く者、装備を点検する者。多くは沈黙の中で食事を摂っていた。この「高速環状鉄道」が彼らを運び出した後、明日この席に戻れる者はいないかもしれないと全員が知っていたからだ。


零次レイジミナトアキラは同じテーブルについていた。


湊は上着を脱ぎ、襟元を緩め、ロックアイスの入ったウィスキーを手にしていた。零次は端然としたまま、清らかな日本酒を。白い長髪が自販機の光に柔らかく照らされている。


「ニューヨークに」零次が低く声を出し、杯を上げた。


「平和に、それと、あの寒すぎるジョーク好きの親父に」


湊が杯を合わせ、氷が澄んだ音を立てた。二人は一気に飲み干し、喉を焼く熱い液体で胸の焦燥を抑え込んだ。そして、視線は自然と向かいの暁へと向いた。


暁は整った作戦服のまま、可愛らしいキャラクターが描かれたレモンティーを両手で持ち、ストローを吸いながら戦術地図を睨みつけていた。


「……ぷっ」湊が先に吹き出した。


「なあ暁、こんな世界の終わりのような夜に、よくそんな小学生みたいな飲み物が飲めるな?」


「ほっといて!」暁が顔を赤くして言い返した。「コーヒーは動体視力に影響するし、アルコールは反射神経を0.2秒遅らせるわ。任務前に完璧な生理状態を保つのはエグゼクティブの義務よ!」


「真面目すぎだろ、零次さん、見てくれよこれ」湊は残った酒を揺らし、零次に目配せした。


零次は珍しく微かな笑みを浮かべた。兄のような呆れ顔だ。「いかにも暁らしい。『体制システム』の教科書そのままだ」


湊は、緊張を押し隠して強がる暁を見て心を緩ませ、ウィスキーのグラスを彼女の鼻先に近づけた。


「なあ、暁。明日のリズムは吐き気がするほど速いぜ。『大人のリズム』、一口どうだ? 違う世界が見えるかもよ」


「どけて!」暁は避けながらも、冷徹な表情を保とうとしていたが、その瞳は揺れていた。「神楽湊、これは戦前規律違反よ! 司令に報告するわ!」


「報告する前に、口角についたレモンティーの跡を拭けよ」湊は笑ってグラスを引き、その眼差しを深くした。


笑い声が止み、三人の間に短い沈黙が訪れた。それは重苦しいものではなく、深い絆の証だった。


「湊、暁」零次が杯を置き、再び冷徹な瞳に戻った。「明日の攻撃、私は外周の強化人間軍団を引き受ける。核心部は……お前たち二人に任せる」


湊は笑みを消し、頷いた。テーブルの下で、暁の手がそっと彼の服の裾に触れたのを感じた。


「死なないで」暁がうつむき、消え入りそうな声で言った。


「お前もな」湊が短く応える。


その時、零の声がスピーカーから響いた。


『エグゼクティブの皆様、発車まであと11時間です。アドバイス:ビッグデータによれば、遺言の平均文字数は42文字です。今から構想を練ることを推奨します。明日、良いクリーンアップを』


冷たいジョークだったが、レストランには僅かな笑いが起きた。


だが、司令が首領の名を発表した瞬間の出来事が、湊の脳裏を離れなかった。


「最終目標は、Nの創設者であり元ZERO-DELAY指揮官――新堂 シンドウ・ゲン


その瞬間、湊の鋭い「リズム感」が極めて混乱した周波数を捉えた。隣の暁の身体が激しく硬直したのだ。それは恐怖ではなく、骨の髄から湧き上がるような激痛と怒りだった。暁の呼吸は乱れ、バイザー越しでも彼女の瞳に一瞬よぎった虚無を感じ取れた。


レストランの廊下で、トイレへ向かう零次を湊が追いかけ、低く尋ねた。「零次さん、さっきの名前……」


零次は立ち止まった。白い髪が横顔を隠し、平淡な、だが微かな溜息を含んだ声で言った。


「それは暁の過去の一部であり、我々が踏み込めない禁区だ。私に聞くより『本人』に聞け。明日が過ぎれば、もう二度と話す機会はないかもしれない」


【本部宿舎廊下・22:30】


深夜の食事が終わり、湊と暁は静まり返った廊下を並んで歩いていた。足音が空虚に響き、息が詰まるほど重い。


「暁」湊が前を見据えたまま口を開いた。「あの名前……『新堂 弦』を知っているんだな?」


暁が足を止めた。彼女は壁に寄りかかり、うつむいて紺色の長い髪で表情を隠した。やがて、乾いた声が漏れた。


「彼は……私を拾った人。名前をくれ、殺し方を教え、そしてある日、何一つ理由もなく消えた男よ」


彼女は顔を上げた。縁の赤い瞳には、バイザーを突き抜けんばかりの憎しみが宿っていた。


「私にとっては、私を捨てた男。そしてこの災厄の首領。神楽湊、私はあの男を、この世の誰よりも憎んでいる」


湊は彼女を見つめ、強固な外殻の下で暁が砕け散っているのを感じた。自室のドアの前で暁が背を向けようとした時、湊を強烈な衝動が襲った。


彼は迷わず暁の手首を掴んで引き寄せ、彼女のバイザーを乱暴に押し上げると、その唇を熱く、力強く塞いだ。


「んっ……!」


暁は予期せぬ強引さに息を呑み、頭の中が真っ白になった。湊の体温、微かなウィスキーの香りと硝煙の匂いが、彼女の感覚を支配していく。


やがて湊がわずかに離れ、鼻先を合わせたまま荒い息を吐いた。腕の中で顔を真っ赤にした暁が、震える声で問い詰める。


「な、何よ急に……明日は決戦なのよ……」


「明日がどうなるか分からないからだ」湊は彼女の瞳を見つめた。そこにはかつてない野性と決意が宿っていた。「暁、この世界のリズムはとうに壊れてる。明日があるか分からないなら、今を『享楽』しようぜ」


湊は暁を壁際へと激しく押しつけた。冷たい金属の感触と湊の熱い背中が彼女を挟み込み、逃げ場を完全に塞いだ。


「神楽湊……規律違反よ……」暁は強がったが、その瞳はひどく狼狽していた。胸を押し返そうとする手には力がなく、甘えるような仕草にすら見えた。


湊は答えず、彼女の両手首を片手で掴み、頭上の壁に固定した。その仕草は獲物を追い詰めた野獣のように支配的だった。


「規律を言い訳にするな」湊の低く磁気を帯びた声が耳元で囁き、暁の神経を震わせる。「今、お前のリズムは俺が支配する」


湊は暁の首筋に深く唇を寄せた。舌先と歯が侵略的な力強さで、彼女の白い肌に鮮烈な痕を刻んでいく。


暁が短く悲鳴を上げ、湊の膝が割り込むことで彼女の抵抗は完全に崩れ去った。薄い衣類越しに伝わる湊の筋肉の躍動感に、眩暈を覚える。


「ん……勝手に、いじめないで……」


暁は震えながら抗議したが、湊の手が腰のラインを滑り、敏感な場所を愛撫すると、ついに力尽きた。


暁の身体はしなだれ、拒んでいた指先はいつの間にか湊の服を掴んでいた。それは溺れる者が掴む唯一の浮木ふきのようだった。彼女は目を閉じ、主導権を取り戻すことを諦め、断続的な吐息を漏らしながら、無防備な首元を湊の掠奪に晒した。


それは完全な従順であり、魂と肉体を同時に捧げる儀式だった。


薄暗い廊下の隅で、暁はいつもの厳格な「鼓動のリズム」が湊によってかき乱されていくのを感じていた。彼女はもはや体制を信奉する冷酷な執行官ではなく、愛する者の「いじめ」に甘い声を漏らす一人の女だった。


湊は腕の中の、潤んだ瞳をした少女を見つめ、その野性を深い温もりへと変えた。


「このリズムを覚えておけ。明日……何が起きても、忘れるな」


暁はもう答えることができず、湊の肩に顔を埋め、激しい鼓動でその熱狂に応えた。


激しい情事の余韻が狭い部屋に沈殿していた。暁は軍用毛毯一枚を纏い、湊の傍らで丸まっていた。乱れた紺色の髪が湊の胸元に散っている。薄暗いライトの下、暁の瞳は空ろで、普段の武装した強さは消え去っていた。


彼女は湊の胸にある古い傷跡を指先でなぞり、長い沈黙の後、独り言のような小さな声で尋ねた。


「湊……もし明日、私たちが信じてきた『体制』が崩壊したり、裏切られたりしたら、どうすればいい?」


湊の指が止まった。暁は自嘲気味に笑い、その瞳に恐怖を滲ませた。


「新堂 弦が言ったの。私たちは体制に飼われた猟犬だって。もし全部が嘘だったら? 明日、組織が私たちの後ろ盾じゃなくなって、私たちを裏切ったら……私はどうすればいいの?」


部隊で育ち、ZERO-DELAYを唯一の拠り所としてきた暁にとって、それは世界が滅びるに等しい問いだった。


湊は寝返り、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。彼は高尚な理屈を並べる代わりに、暁の指を強く、熱く絡め合わせた。


「暁、聴け」湊の声は低く、揺るぎない安心感に満ちていた。「リズムは乱れるかもしれないし、体制は崩れるかもしれない。だが、一つだけ絶対的なことがある」


彼は彼女の額にそっと唇を寄せた。


「俺たちが、そんなことはさせない。たとえ世界がお前を裏切っても、俺のリズムはお前と共にある」


それは盲目的な自信ではなく、死地を前にした男の、最も重い誓いだった。


暁の不安は、奇跡のように静まり返った。彼女は湊の胸に顔を埋め、どんな命令よりも信頼できるその力強い鼓動を聴いた。


「うん……信じてるわ」


暁は目を閉じ、出撃前最後の安らぎに身を委ねた。明日の戦場で待ち受ける過酷な裏切りを、彼女はまだ知らない。だが少なくとも今、彼女には全世界を敵に回す勇気が宿っていた。



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