別々に行動する
その日、台北の ZERO-DELAY メンバーが久々にレモンティー店に集まっていたが、いつもなら時間を守り、責任感の強い「青」――彩静は、珍しく休みを取っていた。
彼女の不在により、店内の空気はどこか微妙なものになっていた。
「ねえ、みんなも思わない……?」明はドリンクを飲みながら、テーブルを拭いている星玲の方を向き、少し野次馬根性を含んだ興奮気味の瞳で言った。「彩静、最近浅野君の前だと、全然隠そうとしないよね?」
「あなたも気づいた?」星玲はすぐに雑巾を置き、身を乗り出した。彼女の黄色い長髪が動きに合わせて揺れる。
「この前、店の入り口で、彼女が浅野君に向かって次の伏撃ポイントの座標と風向について堂々と話し合ってたのよ。浅野君は隣で彼女の買い物袋を持ってあげて、顔には例の『君の言うことなら何でもいいよ』って感じの雅痞な微笑みを浮かべて!」
カウンター背後のモニターの中で、十七が無表情にデータを処理していたが、その瞳のデータストリームがふとした拍子に跳ねた。彼女は淡々と、しかし微かなブラックジョークを交えた声で割り込んだ。
「私が収集したビッグデータ分析によると、執行官『青』とターゲット『浅野健二』の通信頻度において、『任務コード』と『スーパーの特売』という単語の重複率が 65% に達しています。これは ZERO-DELAY の守秘義務において、通常『完全な陥落』と呼ばれます」
「そうだよ!」今田慎一は角に隠れて凜を盗み見ていたが、話題に耐えきれず顔を突き出した。
「浅野君は全く驚いた様子がないんだ。この前、彩静が重い楽器ケースを背負って帰ってきた時、浅野君は彼女の肩を揉みながら『お疲れ様、今日もあんなにたくさんの汚れ物を掃除したの?』って言ってたんだ。殺しの任務の話には到底聞こえなかったよ。家の掃除の話をしてるみたいだった!」
「あんたたちの脳みそはネットから切断されてるの?」凜は帽子の鍔を下げ、ナイフのような鋭い視線で全員を射抜いた。その口調は相変わらず鋭かったが、珍しく本気で怒っている様子はなかった。
「推測するまでもないでしょ。彩静のあの、自分のすべてを相手に捧げたくてたまらないって顔を見れば。彼女、間違いなく白状したわよ」
「白状して、それでも一緒にいられるの?」明は少し驚き、手に持っていたマドラーを止めた。「浅野君ってあんなに純粋で、かっこいい大学生じゃない。自分の彼女がスナイパーだって受け入れられるもの? それに、あの……」明は、彩静が最近時折見せる「完全に所有された後」のような成熟した色気を思い出した。
「それが愛の力というものでしょう。組織の目から見れば、その愛は極めて身勝手なものですが」十七がさらりと補足した。
「しかし、浅野健二は彼なりの対応ロジックを身につけたようです。彼が今撮っている写真は、構図こそ優しくなりましたが、ターゲットを捉える精度はスナイパーに酷似してきています」
一同は沈黙に陥り、脳裏には否応なしに浅野と彩静が共にいる光景が浮かんだ。
「まあいいわ、彼女が五体満足で戻ってくれば」凜は小さく呟き、弁当の中のしいたけを手慣れた様子で摘み出した。彼女の顔色が瞬時に沈む。「あいつらが白状したことより、今日の弁当になんでまたしいたけが入ってるのかの方が重要よ!」
明と星玲が去った後、凜と暁が店内を掃除していた。
「チリン!」
風鈴が鳴り、彩静が入ってきた。
「暁先輩!今です!」凜の号令と共に、暁の爆発的なシルエットがカウンターの裏から飛び出した。
彩静は店内に一歩足を踏み入れたばかりで、「ただいま」と言う暇さえなかった。視界が瞬時に回転する。暁は身長と筋力の優位を活かし、鮮やかなチョークスリーパー(もちろん優しい加減だ)で、細身の彩静を羽交い締めにし、持ち上げた。
「わあ!暁先輩? ちょっと、待ってください!」彩静が悲鳴を上げ、手に持っていた買い物袋が地面に落ちそうになる。
「問答無用! 今日は逃がさないわよ!」暁はニヤリと笑い、お姉さんらしい悪戯っ子の表情を浮かべた。凜と二人で、まるで犯人を護送するかのように彩静を上の休憩室へと「連行」した。
休憩室のドアが凜の手によって「バン!」と閉まり、決然とした響きを立てた。
ここは普段、女子たちが武装を解いて集まる場所だが、今は尋問室のような圧迫感に満ちていた。暁は彩静を中央のビーズクッションに押し込み、腰に手を当てて出口を塞いだ。凜は主席審判官のように椅子を逆向きに座り、背もたれに腕を組んだ。
「話しなさい!」凜は思わせぶりに、テーブルを「ドン!」と叩いた。
「な、何を……?」彩静は困惑し、ブラウンのポニーテールは先程の揉み合いで少し乱れていた。その姿は、包囲された怯えた子鹿のようだった。
「とぼけないで」暁は腕を組み、片方の眉を上げた。鋭い視線が、心当たりのある彩静の顔を射抜く。「最近のあんたの浅野君の前での態度、店にいた明や十七にまでバレてるわよ。あのリラックスした感じ、隠しきれてないオーラ……」
「あんた……あいつに秘密を明かしたわね!」凜がストレートに切り込む。口調は鋭いが、そこには八卦への興奮が隠されていた。
彩静の体が硬直した。彼女はうつむき、無意識に制服のスカートを指で弄んだ。実の姉妹のような戦友たちの前では、世界級の殺し屋をも相手にできる心理的余裕は、完全に失われていた。
「あ……ええ……はい……」
半分の沈黙の後、彩静はついに微かな告白を漏らした。
「やっぱりね!」凜は賭けに勝ったかのように飛び上がった。「あんたってやつは、結局我慢できずに話しちゃったわけね!」
暁はホッと息を吐き、彩静の隣に座った。その口調は少し優しくなった。「で、彼は? あのイケメン大学生は、話を聞いてどう反応したの? その場で逃げ出した? それとも……」
暁はわざと間を置き、茶目っ気のある視線を彩静に向けた。「私たちの予想通り、その秘密のせいで、もっと『親密』になったのかしら?」
彩静の顔は瞬時に熟したリンゴのように赤くなった。脳裏には昨夜の部屋での光景が浮かぶ。乱れた制服、そして浅野のあの強引な言葉――『君は僕のものだ』。
「彼……私と一緒にいてくれるって言ってくれました」彩静は顔を両手で覆い、消え入りそうな声で言った。「それに、全然怖がってなくて。むしろ……前より積極的になったというか……」
その様子を見て、暁と凜は顔を見合わせ、心の中で答えを出した。
「よしよし、二人の間の問題が解決したなら、私たちはこれ以上聞かないわ。それより……買い物に行きましょう!」
夕陽の下の通りは賑わいを見せていた。スイーツ店から出てきたばかりで、手の込んだ紙袋を手にした三人の女性は、通行人の目には鮮やかな風景そのものだった。
しかし、暗い路地の片隅から、悪意に満ちた瞳が最後尾を歩く凜を凝視していた。身長わずか 155cm で、精巧なドールのように愛らしい凜。その人攫いは長い間観察していた。彼女たちが普通の高校生や大学生に見えたからだ。特にあの黒いキャップの小柄な子は、最高の商品だと思った。
交差点の人混みが入れ替わる瞬間、男は猛然と飛び出し、体格差を利用して凜の口を塞ぐと、そのまま路地裏へと駆け込んだ!
「へへ、こんな可愛いガキ、売り飛ばす前にじっくり味わってやる……」歪んだ狂笑を上げ、男は無抵抗な子ウサギを捕まえた気分でいた。
しかし彼は知らなかった。その「子ウサギ」の指が、冷静に腰のタクティカルナイフに触れていることを。
「あの……今すぐその手を離すことを勧めるわ」
路地の突き当たりから、氷のように冷たく無機質な声が響いた。
男は愕然として足を止めた。前方で買い物をしていたはずの暁と彩静が、いつの間にか幽霊のように唯一の退路を塞いでいた。
暁は首を鳴らし、バキバキと音を立てながら、極めて危険な微笑みを浮かべた。「ねえ、彩静。さっきどこまで話したっけ? ああ、そうそう。『人体の痛覚神経の分布』についてだったわね?」
「暁先輩、こういう粗野な仕事は、後輩の私に任せてください」彩静は無表情に一歩前へ踏み出した。浅野に向ける時の羞恥に満ちた瞳はどこへやら、今の彼女の瞳は極地よりも冷たい死の静寂を湛えていた。
「こ、来るな! ナイフを持ってるんだぞ!」男は慌てて飛び出しナイフを取り出し、凜の首筋に突きつけた。
「あんた、誰を脅してるの?」
抱えられていた凜が突如口を開いた。その声は背筋が凍るほど冷たかった。帽子の影にある鋭い瞳に、赤い光が過った。
次の瞬間、凜のシルエットが男の腕の中で奇妙に縮み、回転した。ZERO-DELAY の近接格闘術だ。
「バキッ!」という鮮やかな断裂音。
「あああああ――ッ!」
男の手首はありえない角度に曲がり、ナイフが地面に落ちた。凜は軽やかに着地し、服の埃を払った。その瞳は、まるで害虫を見るような嫌悪に満ちていた。
「あんたたちの脳みそはネットから切断されてるの? 私を捕まえるなんて」凜は冷たく、いつもの口癖を吐き捨てた。
続く五分間は、この男にとって人生で最も長い悪夢となった。
彩静は銃を使わず、携帯していたワイヤーで男の関節を的確に縛り上げた。動くたびにワイヤーが肉に食い込むが、致命傷を避けるように計算されている。ただ極限の苦痛を味わわせるためだけに。
暁の拳は重槌のようだった。一撃一撃が致命傷を避けつつ、痛覚の最も鋭い腹腔や骨膜を狙って叩き込まれた。
凜は男の前に歩み寄り、彼の上に跨がると、ナイフを彼の腹部にかざした。その口調は恐ろしいほどに穏やかだった。「さっき、何を……味わうって言ったの? ん?」
「助け……助けてくれ……警察……!」男は地面で痙攣していた。目の前の三人の少女は、彼にとって地獄から来た三尊の羅刹に見えた。
「警察は外側の秩序を。私たちは『清掃』を担当してるの」暁は屈み込み、男の顔をパシパシと叩いた。輝くような笑顔が逆に恐怖を誘う。「安心して。あんたを『完璧な形』で零に引き渡してあげる。これからの人生、女の子を見ただけでちびるようになるわよ」
三人が路地を出た時、その姿は一点の汚れもなく、手には食べ残したマカロンの袋があった。
「あーあ、興致が削がれたわ」暁はぼやきながら、彩静の乱れたポニーテールを整えてあげた。「彩静、このことは浅野君に言っちゃダメよ。怖がらせちゃうから」
「わかってます」彩静は恥ずかしそうにうつむき、温和な少女に戻った。「彼の前では……普通の彼女でいたいんです」
「ちっ、恋の酸っぱい匂いね」凜は帽子を深く被り直したが、口元が緩むのを抑えられなかった。「ほら、行くわよ。もう一軒スイーツ店に行って私をなだめなさい!」
女子たちが路地裏で「執行官」の本領を発揮していた頃、レモンティー店に残された三人の男たちの空気は、平和で、そしてある種の熱いオタク気質に満ちていた。
普段は雅痞でリズム感のいい湊は、外見こそアニメとは無縁そうだが、元エリート警官として、熱血でハード派な旧時代の作品に意外なほど目がなかった。今田慎一が近くのアニメ特設展に行こうと提案した時、断られるかと思いきや、湊は意外にも眉を上げた。
「アニメ展? あそこに『機械戦神』の限定フィギュアはあるのか? 最初から最後まで観たのはあれだけなんだ」
その言葉に、アニメファンである今田と浅野の目が瞬時に輝いた。
「湊先輩! 先輩も『機械戦神』を!? 神作ですよ!」今田は興奮して手元のコップを倒しそうになった。
「そうだよ! 特に主人公が最後、街を守るために自爆するシーン……」浅野も興味津々で会話に加わった。
展示場内は人山人海だったが、今田の後ろを歩く、体格のいい二人のイケメンは非常に目立っていた。
今田は普段は臆病だが、ここでは戦場の指揮官だった。各ブースの動線を熟知し、人混みを避けながら浅野と湊に最新の限定商品を解説した。「路人先輩」がこの瞬間、ついに存在感を発揮し、全員分の『機械戦神』記念バッジを確保した。
浅野はカメラでストリートスナップではなく、1:1 の精巧なメカモデルを熱心に撮影していた。写真学科のプロとして、巨大ロボットの足元で湊と今田の最高にかっこいい写真を撮り上げた。「いい角度ですよ、湊先輩! もっと雅痞に笑ってください!」
湊は二人のように叫んだりはしなかったが、ポケットに手を入れ、見慣れたメカの設定資料を眺めながら、終始リラックスした微笑みを浮かべていた。時折、浅野とメカアームの連動構造についてプロの警官らしい正確さで語り合った。
「……たまにはこういうのも悪くないな」湊は限定フィギュアを当てて歓喜する今田と、撮影に没頭する浅野を見て、かつてない開放感を感じていた。
警戒も、零のタクティカルリポートも必要ない。ただ三人の男として、この平凡な楽しみを享受していた。
三人は大小の戦利品を手にし、夕陽が彼らの影を長く伸ばしていた。
「浅野君、今日は本当に楽しかったです!」今田はフィギュアの箱を抱え、満足げだった。「凜さんにモブって呼ばれてますけど、アニメ展でモブになれるのは最高に幸せです」
「そうだね」浅野はカメラの中の集合写真を見た。三人が肩を組み、背景には巨大な機械神像。「あの重苦しい事柄に比べれば、こういう単純な幸せこそが、僕たちが守りたいものなんだろうね」
湊は二人の肩を叩き、珍しく優しい声で言った。「行くか。女子たちも買い物を終えた頃だ。店に集合しないと、遅れたら暁と凜に天井を壊されるぞ」
三人は顔を見合わせ、軽やかな足取りで店へと向かった。この瞬間、彼らはただの楽しい一日を過ごした三人の男だった。
夕暮れ時、残照が街を温かいオレンジ色に染めていた。レモンティー店の風鈴が鳴り響き、二つのグループがほぼ同時に、思い出の詰まった拠点へと戻ってきた。
「おや? 『買い物』に行ってたお嬢様方じゃないか」湊は『機械戦神』の紙袋を手に、手ぶらで戻ってきた暁と凜を見て、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「戦利品が一つも見えないけど? まさか途中でどこかのゴミ拾い(クリーニング)でもしてたのか?」
「はっ! むさ苦しい男三人でアニメ展に行ってロボットを見てるよりマシでしょ」凜は容赦なく言い返し、今田が抱える巨大なモデルの箱を揶揄するように眺めた。「今田、あんた隠居後の準備でもしてるの? モブ先輩」
「こ、これは男のロマンなんだよ!」今田は首を縮めながらも、凜の前で精一杯胸を張った。
凜は帽子を下げ、今田のその間抜けな姿を見て鼻で笑った。「あんたたちの脳みそは本当にネットから切断されてるわね。私たちがこの街の治安を守ってる間に、あんたたちは冷房の効いた場所でモデル鑑賞? サボりすぎよ」
口ではお互いの怠慢を責め合っていたが、視線が重なった瞬間、空気中の硝煙の匂いは消え去り、彼らだけにしか分からない深い愛着へと変わった。
彩静は静かに浅野のそばに寄り、彼の額に浮かんだ微かな汗を見て、カバンから自然にティッシュを取り出し、優しく拭いてあげた。
「浅野君、今日は疲れましたか?」彼女は、ここ数日の疲れをすべて溶かすような優しい声で尋ねた。
「疲れてないよ」浅野は私服に着替え、運動後のように少し頬を赤らめた彩静を溺愛の眼差しで見つめた。彼は自然に彼女のカバンを受け取り、そのまま手を繋いだ。「一日中モデルを見てたけど、やっぱり一番見たいのは君だよ」
彩静は突然の直球な告白に真っ赤になり、仲間たちの目を見られず、ただ浅野に手を引かれるままになった。
「はいはい、そこでいちゃつかないの」湊は笑いながら手を叩き、皆を座らせた。「今日は別行動だったけど、全員無事に戻ってきたことだし、僕が新開発の特製ドリンクを奢るよ」
一同は馴染みの長いテーブルを囲み、静かだった店内は一気に賑やかになった。
今田は興奮気味にフィギュアを開け、嫌そうな顔をしながらもつい見てしまう凜に構造を説明しようとしている。
暁と湊は言い合いをしながら、道中で見た面白い出来事を共有している。
零は相変わらずモニターの中から、この「非合理な執行官たち」の最も感傷的な瞬間を黙って記録していた。
浅野は周囲の仲間たちを見渡し、最後は隣の彩静に目を向けた。彼は知っている。この場にいる全員の手がかつて硝煙に塗れ、重い秘密を背負っていることを。しかしこの店の中で、この瞬間だけは、彼らはただお互いを守り合う、最も平凡で誠実な仲間であり、恋人なのだ。
「彩静」浅野はテーブルの下で、彼女の手をきつく握った。
「え?」彩静が振り向くと、ブラウンのポニーテールが揺れた。
「何でもない。ただ……君に出会えて、本当によかったと思って」
彩静は一瞬呆然としたが、すぐにその日一番の、最高にリラックスした笑顔を見せた。
「私もです、健二君」
紅茶の香りが店内に満ち、窓の外の夜は更けていく。しかし、店内の明かりと笑い声は、この街で最も温かな「座標」となっていた。




