第83話「暴走する強欲、パパは激怒した」
「毎日 朝7:00前後(土日祝は朝10:00)と夜21:00前後の2回更新でお届けします! 完結までストック済みですので、安心して最後までお付き合いください!」
「行けぇぇ! 壊せ! 何もかも灰にしてしまえぇぇ!!」
吹雪の中、正気を失ったヴィクトル・バレンタインの絶叫が響き渡る。 彼の命令を受け、旧時代の遺物である魔導兵器が、その巨大な鋼鉄の腕を振り上げた。 胸部の赤い魔石が脈打ち、ドームを溶かすほどの高熱の光線が、口から放たれようとしていた。
「……させん」
アレクセイさんが、スッと右手をかざした。
ただそれだけの動作。 詠唱もない。
杖も構えていない。けれど、その掌の先には、世界を隔絶するほどの「拒絶」の意志が込められていた。
ジュッ……!!
魔導兵器から放たれた灼熱の光線は、アレクセイさんの数メートル手前で、見えない氷の壁に阻まれ、霧散した。
「な、なんだと……!? 魔導砲を防いだ!?」
ヴィクトルが目を見開く。
しかし、ゴーレムは止まらない。さらに出力を上げ、次なる一撃を放とうと胸部の魔石を赤熱させていく。周囲の雪が一瞬で蒸発するほどの熱量だ。
「……チッ。無駄にエネルギー効率の良いガラクタだな。丸ごと凍らせるには骨が折れるか」
アレクセイさんが僅かに眉をひそめた、その時だった。
「──アレクセイさん! 待ってください!」
私の声が、吹雪を切り裂いた。 私は眼鏡のブリッジを指で押さえ、目を細めてゴーレムを凝視していた。 私の目には、敵の姿ではなく、そこにある「エネルギーの流れ」と「構造的な欠陥」が見えていた。
「あの機体、熱エネルギーの循環効率が悪すぎます! 胸部の魔石から廃熱が漏れています!」
私は指を突きつけ、叫んだ。
「全体を攻撃する必要はありません! 狙うのは一点! 右胸の下にある『吸気ダクト』です! あそこを塞げば、内部の熱が逆流して自壊します! 最小のコストで無力化できます!」
私の指示が飛んだ瞬間、アレクセイさんの顔にニヤリと凶悪で楽しげな笑みが浮かんだ。
「……なるほど。的確な指示だ、愛しい参謀殿!」
「絶対零度・穿孔」
アレクセイさんが指を弾く。
巨大な氷塊ではない。 生み出されたのは、たった一本の、しかし極限まで圧縮された鋭利な氷の杭。
それは弾丸のような速度で射出され、ゴーレムの放つ熱線をすり抜け──私が指示した「右胸のダクト」に、寸分違わず突き刺さった。
ガギィィィンッ!!
「ガ、ガガ……ッ!?」
ゴーレムの動きが止まる。
直後、行き場を失った内部の熱エネルギーが暴走し、鋼鉄のボディが内側から赤く膨張した。
「今だ、アレクセイさん!」
「ああ。……仕上げといくか」
アレクセイさんの周囲で、雪の結晶が青白く輝き始める。 それは美しいダイヤモンドダストのように見えて、触れれば鋼鉄すら断ち切る刃だ。
「私の背後には、愛する妻がいる。……息子がいる。そして、ようやく手に入れた温かい風呂がある。その平穏を脅かす者は、神だろうと悪魔だろうと──容赦はしない」
「絶対零度・氷牢」
アレクセイさんが指を握り込んだ瞬間。
世界の色が変わった。
パキィィィィィンッ!!
大気が悲鳴を上げた。 自壊しかけたゴーレムの足元から、巨大な氷の柱が一斉に突き出したのだ。
それは生き物のように鋼鉄のボディに絡みつき、関節を砕き、暴走する熱ごと、瞬時に凍てつかせた。
兵器は断末魔を上げることすら許されず、わずか数秒で「巨大な氷のオブジェ」へと変わり果てた。 私の計算と、彼の魔力。 二つの力が噛み合った、完璧な勝利だ。
「ば、馬鹿な……! 私の切り札が…一瞬で!?」
腰を抜かして雪の上にへたり込むヴィクトル。
アレクセイさんは、コツ、コツ、と優雅な足取りで彼に歩み寄った。
「ひ、ひぃぃっ! くるな! 私は帝国の外交官だぞ! 私に手を出せば戦争に……!」
「戦争? 既に君が仕掛けたことだろう」
アレクセイさんは冷ややかに見下ろした。
「だが安心していい。命までは取らない」
「ほ、本当か……?」
「ああ。……妻から『賠償金を回収するから殺すな』と厳命されているのでな」
アレクセイさんは私の方を振り返り、肩をすくめて見せた。その目は「褒めてくれ」と言っている。
「感謝しろ、ヴィクトル。私の慈悲ではなく、妻の計算高さに命を救われたことをな」
「あ、あぁぁ……」
「だが、ただで帰すわけにはいかない。君には、その身を持って『冷却期間』を味わってもらおう」
アレクセイさんが指を鳴らす。
カチンッ。
「──!?」
ヴィクトルの身体が、足元から急速に氷に覆われていく。 逃げる間もない。 膝まで、腰まで、そして首まで。 あっという間に、彼は驚愕の表情を浮かべたまま、分厚い氷の中に閉じ込められた。
もちろん、呼吸ができる程度の隙間は残してある。生きたままの「氷像」の完成だ。
吹雪が止んだ。 後に残されたのは、芸術的なまでに美しく凍りついた魔導兵器と、情けない顔で固まったヴィクトルたち私兵団の群れだけだった。
「……ふぅ。完璧な仕事だったな」
アレクセイさんは手袋を払い、何事もなかったかのように私の元へ戻ってきた。
「リアナ。君の指示のおかげで、魔力の消費を二割も抑えられたぞ」
「それは良かったです。……エコですね」
私は駆け寄り、彼の手を取った。 その手はひんやりと冷たかったが、私を安心させるように優しく握り返してくれた。
「お疲れ様です、アレクセイさん。……私たちの勝利です」
「ああ。……賠償金の請求は任せていいか?」
「ええ、もちろん。兵器の処理費用、精神的慰謝料、それに……私のリゾートの宣伝効果も上乗せして、帝国政府に請求書を送りつけましょう」
私は眼鏡を光らせ、氷漬けのヴィクトルを見やった。
「『着払い』でね」
こうして、アインスワース領を巡る経済戦争と、
一夜の武力衝突は幕を閉じた。 完全勝利。
私たちは家族と領地を守り抜き、そして莫大な賠償金という「ボーナス」まで確定させたのだ。
「さあ、戻りましょう。……お客様たちが待っていますわ」
「そうだな。冷えた体を、温泉で温めるとしよう」
私たちは肩を並べて、光溢れるドームの中へと帰っていった。 空には雲が切れ、美しいオーロラが二人の共闘を祝うように揺らめいていた。
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