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第79話「妨害工作を阻止せよ、弟の初陣」

「毎日 朝7:00前後(土日祝は朝10:00)と夜21:00前後の2回更新でお届けします! 完結までストック済みですので、安心して最後までお付き合いください!」



深夜、アインスワース領。 アレクセイ義兄さんが作り出した巨大な「氷のドーム」の中は、外の吹雪が嘘のように静まり返っていた。 温泉の熱気が充満し、湿った土と新しい木材の匂いが漂っている。


「……異常なし、と」


僕はランタンを掲げ、建設中の脱衣所の裏を歩いていた。 僕の名前はレオ。

リアナ姉さんの弟だ。 王都の学校を休んでまでここに来たのは、ただの旅行気分じゃない。 僕も、家族の役に立ちたいんだ。


(お姉ちゃんは経営で、義兄さんは魔法で、マリーまで手伝いで頑張ってる。……僕だけ何もせずにいられない)


僕は腰に差した剣の柄を握りしめた。 まだ訓練用の模擬刀に近いものだけど、毎日欠かさず素振りをしてきた僕の相棒だ。


その時だった。


「……おい、ここだ。ここが一番燃えやすい」


風に乗って、ひそひそ声が聞こえた。 僕は足を止め、ランタンの光を覆い隠して気配を殺した。

資材置き場の影。 黒いコートを着た男たちが三人、オイル缶を持ってしゃがみ込んでいる。


「へへっ。この柱を焼けば、ドームの支柱が崩れて全壊だ」


「アインスワースの旦那も、起きたら瓦礫の山で泣くだろうぜ」


マッチを擦る音がした。 シュッ、という小さな音が、僕の鼓膜を大きく叩いた。


(放火だ……!)


頭が真っ白になりかけた。 でも、次の瞬間には体が動いていた。


「──やめろっ!!」


僕は影から飛び出し、大声を上げた。

男たちがビクリとして振り返る。


「あぁ? なんだ、ガキか?」


「見回りのガキだ! 構わん、やっちまえ!」


一人がナイフを抜き、もう一人がマッチを資材に投げようとした。 怖い。

足が震える。 相手は大人で、しかも三人だ。

でも、ここを燃やされたら、お姉ちゃんが……義兄さんが、どれだけ悲しむか。


「させるかぁっ!!」


僕は叫びながら、マッチを持った男の手首めがけて、剣の鞘を叩きつけた。


「ぐあっ!?」


「手際がいいな……! 殺せ!」


ナイフを持った男が襲いかかってくる。

殺気。本物の刃物。

訓練とは違う、命のやり取り。

心臓が破裂しそうなくらい早鐘を打っている。

だけど、不思議と相手の動きがスローモーションに見えた。


(義兄さんの魔法演習に比べれば……止まって見える!)


キンッ! 僕は鞘でナイフを受け流し、そのまま懐に入り込んで体当たりをした。

相手がよろめいた隙に、剣を抜く。 銀色の刀身が、ランタンの光を反射して煌めいた。


「姉さんの……僕たちの夢を、邪魔するな!!」


「チッ、生意気なガキだ!」


「囲め! 焼き殺してやる!」


男たちが一斉に襲いかかってくる。

僕は必死に剣を振るった。

一撃防いで、二撃目をかわす。 でも、三撃目が頬をかすめ、熱い痛みが走った。


「くっ……!」


「終わりだ!」


男が魔法で火球を作り出し、僕に向けて放とうとした──その時。


パキィィィィンッ!!


甲高い破砕音が響き、男の手元にあった火球が、一瞬にして「氷の塊」へと変わって砕け散った。


「な、なんだ!?」


「火が……凍った!?」


ドーム内の気温が、急激に下がる。 先ほどまでの温室のような暖かさが消え、肌を刺すような冷気が支配する。 そして、暗闇の奥から、コツ、コツ、と靴音が響いた。


「……私の庭で、随分と派手な花火遊びをしてくれるじゃないか」


「あ、義兄さん……!」


そこに立っていたのは、ナイトガウンの上にコートを羽織った、アレクセイ義兄さんだった。 そのアメジストの瞳は、絶対零度の冷たさで男たちを見下ろしている。


「ひぃっ!? 氷の宰相!?」


「な、なぜここに! 寝ていたはずじゃ!」


「弟が夜中に抜け出したのでな。心配で見に来たのだが……」


義兄さんはチラリと僕を見た。

そして、フッと口元を緩めた。


「……よく耐えたな、レオ。一人で守り抜くとは、大したものだ」


「義兄さん……」


「下がっていろ。ここからは大人の時間だ」


義兄さんが指を一本立てた。 それだけで、男たちの足元から氷のつたが伸び、彼らを瞬時に簀巻すまきにした。


「うわあああ!?」


「た、助けてくれぇぇ!」


「安心しろ。軍に突き出すまで、鮮度を保っておいてやる」


一瞬の決着だった。 圧倒的な強さ。

僕はへなへなと座り込んだ。

安堵と、緊張からの解放で、涙が滲んでくる。


「レオ!」


「レオ、無事!?」


騒ぎを聞きつけたリアナ姉さんと、マリーが走ってきた。

姉さんは僕の頬の傷を見ると、顔色を変えてハンカチを当ててくれた。


「馬鹿ね……! 一人で立ち向かうなんて! もしものことがあったらどうするの!」


「ごめん、姉さん……。でも、燃やさせたくなかったんだ」


「……ありがとう。本当によく頑張ったわ」


姉さんに抱きしめられ、僕は少しだけ誇らしい気持ちになった。

すると、義兄さんが僕の前に立ち、手を差し伸べてきた。


「レオ。立てるか?」


「は、はい!」


僕はその手を掴んで立ち上がった。

義兄さんは僕の肩を強く叩いた。


「見事な剣捌きだった。恐怖に打ち勝ち、家族を守ろうとしたその勇気……まさに騎士の資質だ」


そして、義兄さんは真剣な表情で、けれどどこか楽しげに告げた。


「レオ。このリゾートが完成した暁には、ここを守る『警備隊』が必要になる」


「はい」


「今はまだ学業が優先だが……。君さえ良ければ、将来はこの場所の『警備隊長』を任せたい。……どうだ?」


「えっ……ぼ、僕がですか? 将来……?」


「ああ。君なら背中を任せられる」


義兄さんはニカッと笑い、僕の頭をくしゃりと撫でた。


「それまでは、『警備隊・名誉少年隊長』に任命しよう。……王都に戻ったら、私自ら剣の稽古をつけてやる。早く強くなれよ?」


憧れの人からの、最高の約束。

僕は胸が熱くなり、背筋を伸ばして敬礼した。


「は、はい! 謹んでお受けします! ……早く大人になって、必ず義兄さんの役に立ちます!」


こうして、ヴィクトルの卑劣な妨害工作は、未遂に終わった。

翌日からは警備体制が強化され、工事は急ピッチで進められた。


そして数日後。 ついに「アインスワース温泉郷」が完成した。

氷のドームの中に広がる、花と緑と湯煙の楽園。 更衣室も休憩所も完璧に整い、あとは客を迎えるだけだ。


「完璧です。……これなら間違いなく成功します」


リアナ姉さんが満足げに頷く。 僕たちは正装に着替え、オープン初日を待った。

姉さんの計算では、初日から予約が殺到し、行列ができるはずだった。


──しかし。


オープン当日の正午。 広々としたエントランスには、僕たち家族と、家令のセバスチャンしかいなかった。


「……来ないな」


「おかしいですね。招待状は王都中の貴族に送ったはずなのに」


風が吹き抜ける。 客が一人もいない。

予約台帳は真っ白なままだ。


「……報告します!」


王都から連絡役の騎士が駆け込んできた。


「たった今、情報が入りました! 王都の全ての旅行代理店と馬車組合に、ガレリア帝国から通達が出たそうです! 『アインスワース領への客を乗せた業者は、今後一切の帝国との取引を停止する』と!」


「なっ……!?」


姉さんが目を見開いた。 妨害工作が失敗したヴィクトルが、今度は「客足そのもの」を止めるという、なりふり構わぬ手段に出たのだ。


「そんな……。これじゃあ、誰も来られないじゃないか」


「……いいえ」


沈黙を破ったのは、マリーだった。 彼女は一歩前に出ると、不敵な笑みを浮かべていた。


「旅行代理店がダメなら、別のルートを使えばいいのよ」


「マリー?」


「お姉ちゃん。私に任せて。……『流行』を作るのは、おじさんたちじゃなくて、いつだって若い女の子なんだから」


マリーの瞳が、商魂たくましく輝いた。

剣の次は、商人の出番らしい。

アインスワース家の逆襲は、まだ終わらない。

読んでくださってありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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