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第63話「誕生日の贈り物、花束の代わりに延べ棒を」

「毎日 朝7:00前後(土日祝は朝10:00)と夜21:00前後の2回更新でお届けします! 完結までストック済みですので、安心して最後までお付き合いください!」



九月二十五日。 私の二十一回目の誕生日は、いつも通りの忙しい朝から始まった。


「おはよう、リアナ。……おめでとう」


ベッドの中で目を覚ますと、アレクセイさんが誰よりも早く、甘い口づけと共に祝福してくれた。 銀色の髪が朝日に透け、アメジストの瞳が優しく私を映している。


「ありがとうございます。でも、今日は予算委員会がありますから、お祝いは夜に……」


「いや。朝一番に渡したいものがある」


彼は子供のように目を輝かせ、私をベッドから引きずり出した。 そのままガウンを羽織らされ、連れて行かれたのは執務室だった。 デスクの上には、重厚なベルベットの箱が鎮座している。


(……まさか、宝石の詰め合わせ? いや、先日お小遣い制を導入したばかりで、そんな予算はないはず)


私は不審に思いながら、彼を見た。


「アレクセイさん。確認ですが、これは『月五万ベル』の範囲内ですか? もし借金をして買ったのなら、即刻返品です」


「安心してくれ。これは私が購入したものではない。……我が領地の鉱山から産出された『素材』を、私が自らの手で精錬し、加工したものだ」


嫌な予感がするような、しないような。

私は恐る恐る、箱を開けた。


パカッ。


「……っ!?」


黄金の輝きが私の網膜を焼いた。 箱の中に整然と積み上げられていたのは、六本の『金の延べ棒』だった。


「き、金塊……!?」


「そうだ。純度九九・九九%。フォー・ナイン。一本あたり一キログラムだ」


アレクセイさんは、まるで千本の薔薇を贈る王子様のような笑顔で、その金塊を私に差し出した。


「リアナ。君に花束を贈ろうかとも思った。だが……花はいつか枯れる。美しさは一瞬で、資産価値はゼロになる。だが、ゴールドは違う。錆びず、腐らず、その輝きを永遠に保ち続ける」


彼は私の手を取り、金塊の重みを伝えさせた。


「私が君に誓った『永遠の愛』と同じようにな」


なんてロマンチックな……いや、物理的に重い口説き文句だろう。 だが、私は稀代の経理係だ。

脳内電卓が瞬時に弾き出す。

(金相場一グラム八千ベル……総額四千八百万ベル!)


「す、素晴らしいです……! 流動性資産として最強です!」


「だろう? しかも、表面を見てくれ。私が愛を込めて刻印した」


『To Liana, my eternal treasure.(我が永遠の宝、リアナへ)』


「……あの、アレクセイさん。この刻印があると『加工品』扱いになり、換金レートが下がります」


「えっ」


「溶かさないと売れません」


「と、溶かすのか!? 私の愛を!?」


ショックを受ける彼を、「いえ、家宝にします! 絶対に売りません!」と必死に慰め、私は朝から物理的にも精神的にも重たい愛を受け取ったのだった。


その日の夕方。 仕事を終えてリビングに戻ると、パンッ! とクラッカーが鳴った。


「「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!!」」


「わっ!」


部屋を飾り付けて待っていたのは、学校から帰ってきたレオとマリーだった。 テーブルには、少し形がいびつだけど一生懸命焼いたであろうケーキが置かれている。


「おかえり、お姉ちゃん! ビックリした?」


「ええ、ビックリしたわ。……これ、二人が準備してくれたの?」


「うん! アレクセイ義兄さんも手伝ってくれたんだよ!」


レオが得意げに胸を張り、マリーが私のエプロンの裾を引っ張った。


「あのね、お姉ちゃん。私たちからもプレゼントがあるの」


二人が差し出したのは、一枚の画用紙と、不揃いな紙の束だった。 画用紙には、クレヨンで描かれた私とアレクセイさん、そしてレオとマリーが手を繋いでいる絵。 紙の束は、拙い文字で書かれた『肩たたき券』だった。


「お姉ちゃん、いつもお仕事お疲れ様」


「これがあれば、いつでも肩をトントンしてあげるからね!」


その瞬間、私の胸の奥がギュッと締め付けられた。 朝にもらった金塊は、ずっしりと重かった。 でも、この画用紙と紙切れは、羽のように軽いのに──私の心には、金塊と同じくらいの「重み」を感じさせた。


「……ありがとう。二人とも」


私は屈み込み、レオとマリーを抱きしめた。


「最高に嬉しいわ。……お姉ちゃんの宝物にするね」


「えへへ、よかったぁ」


「義兄さんのプレゼントには負けるけどね!」


それを後ろで見ていたアレクセイさんが、優しい顔で首を振った。


「いや、私の負けだ。……レオ、マリー。君たちの愛の純度には、フォー・ナイン(純金)も敵わないよ」


アレクセイさんも一緒になって、私たち姉弟を大きな腕で包み込んだ。 アインスワース家のリビングは、四千八百万ベルでも買えない、プライスレスな温もりに満たされていた。


夜、子供たちを寝かしつけた後。 私とアレクセイさんは、テラスで夜風に当たっていた。 プレゼントされた金塊と画用紙は、私の部屋の金庫に並んで保管されている。


ヒュオオォォ……。

庭の木々が揺れ、冷たい木枯らしが吹き抜けた。


「……寒くなってきたな」


アレクセイさんが、身を震わせてコートの襟を合わせた。 彼は「氷の魔法使い」だが、実は人一倍寒がりだ。 魔法で冷気を作り出す反動で、体温を奪われやすい体質なのかもしれない。


「もう十月も近いですからね。……アレクセイさん、来週は北方の国境へ視察に行くのでしょう?」


「ああ。あそこは雪深い。……気が重いよ」


彼は憂鬱そうに溜息をついた。その白く細い首元を見て、私はふと思いついた。 金塊という「富」をもらい、弟妹という「家族」を守ってもらっている。 私ばかりが貰ってばかりだ。


(……そうだ。お返しをしなきゃ)


彼の愛の重さと、子供たちの愛の温かさ。 その両方を混ぜ合わせて、彼に返そう。


「……アレクセイさん。視察まで、あと何日ですか?」


「一週間だ。なぜだ?」


「いえ。……ちょっと、準備したいものがありまして」


私は眼鏡をキラリと光らせた。 私の手先は器用だ。 計算だけでなく、編み目の計算も完璧にこなしてみせる。


「……期待していてください。王宮で一番温かいものを、ご用意しますから」


「? よく分からんが……楽しみにしている」


アレクセイさんは不思議そうに首を傾げた。

私はカップに残った紅茶を飲み干すと、心の中で必要な毛糸の量と、編む時間を計算し始めた。

愛の重みには、愛の温もりで返す。

それが、私たち夫婦の等価交換だ。

読んでくださってありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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