表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/100

第62話「断捨離戦争、そのガラクタは私の宝物」

「毎日 朝7:00前後(土日祝は朝10:00)と夜21:00前後の2回更新でお届けします! 完結までストック済みですので、安心して最後までお付き合いください!」



「……さて。宣言通り、始めましょうか」


日曜日の朝。 爽やかな日差しが差し込む公邸のリビングで、私は腕まくりをして仁王立ちしていた。 目の前には、アレクセイさんの部屋や倉庫から運び出した「使途不明品」の山が築かれている。


「名付けて、『アインスワース家・大断捨離作戦』です!」


私が高らかに宣言すると、ソファに座らされたアレクセイさんが、まるで処刑台の上の囚人のような顔で震えた。


「り、リアナ。本当にやるのか? どれも由緒ある品々なのだが」


「由緒があっても、埃を被っていたらただの在庫デッドストックです。管理コストの無駄です」


私は床に三色のテープを貼った。

売却オークション』『寄付』『廃棄』。

この三つのエリアに、容赦なく仕分けしていくのが今日のミッションだ。


「では、第一の品。……この『黄金の孫の手』」


私は純金製の、無駄に装飾が施された孫の手を持ち上げた。


「重すぎて肩が凝ります。それに、アレクセイさんは魔法で背中をかけますよね?」


「あぁ。風魔法を使えばピンポイントで」


「なら不要です。金の地金として売却します。推定十万ベル」


「ああっ!? 祖父の形見が!」


アレクセイさんの悲鳴を無視し、私はそれを『売却』エリアへ放り込んだ。


「次。この『呪われた仮面』。夜中に目が光るとメイドたちが怖がっています」


「待て! それは魔力制御の訓練に使える貴重な……」


「電気代の無駄です。廃棄!」


「呪具を燃えるゴミに出すな!」


次々と仕分けられていく品々。 謎の石像、着ない服、誰にもらったか分からない絵画。 私の「資産鑑定スキル」と「主婦の直感」が火を噴き、部屋はみるみる片付いていく。


「……ふぅ。だいぶスッキリしましたね」


一時間後。 リビングは見違えるほど広くなっていた。

アレクセイさんは、売却エリアに積まれた山を見て、涙目になっている。


「私のコレクションが……。現金化されてしまう……」


「いいじゃないですか。そのお金で、美味しいものを食べましょう」


私は満足げに頷き、最後のエリア──クローゼットの奥の探索に向かった。


「さて、最後はここですね。ん? 何ですか、この箱」


クローゼットの最上段。 埃を被った、古びた木箱があった。装飾もない、ただの粗末な箱だ。


「……む」


それを見た瞬間、アレクセイさんの顔色が変わった。彼はバッと立ち上がり、私の前に立ちはだかった。


「り、リアナ! その箱はダメだ!」


「何ですか? 怪しいですね。……もしかして、昔の恋人からの手紙とか?」


「違う! 断じて違うが……とにかく、それは仕分け対象外だ!」


「怪しい……。中身を確認して、資産価値がなければ『廃棄』です」


私は彼の制止をすり抜け、箱の蓋を開けた。


「──ッ!?」


「ああっ!」


中に入っていたのは、宝石でも、魔道具でもなかった。それは、まさに「ガラクタ」としか呼べないゴミの山だった。


インクが切れた、安物の羽ペン。


コンビニで売っているような、安い飴の包み紙。


使い古されてボロボロになった、ヘアゴム。


そして、私が以前書いた「雇用契約書」の下書き。


「アレクセイさん。これは何ですか?」


私は呆れて彼を見た。


「まさか、ゴミ屋敷の住人になる素質があったとは……。これ、全部燃えるゴミですよね?」


「だ、ダメだ!!」


アレクセイさんが、私の手から箱をひったくるように奪い返した。その必死な形相に、私は驚いた。あの「氷の宰相」が、ゴミ箱を抱えて顔を真っ赤にしているのだ。


「これは……私の、宝物だ」


「……はい?」


「この羽ペンは……君が初めてこの屋敷に来て、契約書にサインした時のペンだ」


彼は愛おしそうに、インク切れのペンを指で撫でた。


「この包み紙は……残業していた私に、君が『糖分補給です』と言ってくれた飴の紙だ。……魔法で真空パックしてある」


「……」


「このヘアゴムは、君が掃除中に落としたものだ。返そうと思ったが、君の髪の匂いが残っていたから、つい……」


「……」


「そしてこのメモは、君が初めて私に提案してくれた『経費削減案』だ。君の筆跡、君の思考、君の生きた証……全てがここにある」


アレクセイさんは、真剣な瞳で私を見つめた。


「世界中の財宝を売ってもいい。だが……この箱だけは、絶対に譲れない。これらは私にとって、計測不能プライスレスの資産なんだ」


沈黙が流れた。 私の顔が、カァァッと熱くなるのが分かった。引くべきか、感動すべきか。 ギリギリのラインだ。いや、完全にアウトな気もする。特にヘアゴム。

でも──。


(この人、本当に私のことが好きなんだ)


こんなゴミを、宝石箱に入れて大切に保管するほどに。その不器用で重たい愛情が、どうしようもなく私の胸を打った。


「はぁ」


私は大きな溜息をつき、マジックペンを取り出した。そして、彼が抱えている木箱に、新たなカテゴリーを書き込んだ。


『家宝』


「……リアナ?」


「特別許可です。その箱だけは、貴方の部屋の金庫で厳重に保管してください」


「い、いいのか!?」


「はい。ただし……」


私は人差し指を立てて釘を刺した。


「ヘアゴムは新しいのを買ってください。それと、飴の紙は……まあ、真空パックなら虫は湧かないでしょうから、許します」


「ありがとう、リアナ!」


アレクセイさんは、一億円の商談が成立した時よりも嬉しそうに笑い、私を抱きしめた。


「君は慈悲深い女神だ。……愛している」


「はいはい。……でも、それ以外のガラクタは全部捨てますからね?」


「もちろんだ! 君との思い出さえあれば、他の装飾品など不要だ!」


現金なものだ。 彼は嬉々として、先ほどまで惜しがっていた骨董品を自ら「売却エリア」に運び込み始めた。

「これも売ろう! 君とのディナー代にするんだ!」と言いながら。


「やれやれ」


私は苦笑しながら、彼を見守った。 断捨離の結果、部屋はスッキリし、家計は潤い、そして夫の愛の重さが再確認された。 計算上は「大黒字」と言っていいだろう。


「……でも、あの箱、誰かに見られたら社会的に死にますよね」


私はそっと、彼の背中に向かって呟いた。

完璧な宰相の、唯一の弱点。

それは、私という「計算外の妻」への、深すぎる執着心なのだった。

読んでくださってありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

感想や評価・ブックマーク、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ