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第58話「詐欺師への講義、特別授業料は高くつく」

「毎日 朝7:00前後(土日祝は朝10:00)と夜21:00前後の2回更新でお届けします! 完結までストック済みですので、安心して最後までお付き合いください!」



「……それでは、開封の儀を行います」


メルカトルの最高級ホテル、最上階のスイートルーム。 夜景が一望できる豪華なテーブルの上に、私たちは市場で買った薄汚い壺を置いた。

一万ベル。 安くはないが、アレクセイさんが「魔力を感じる」と言ったのだ。掘り出し物の可能性もある。


「頼むぞ、リアナ。君が擦ってみてくれ」


「分かりました。……出よ、魔人!」


私は壺の側面を、備え付けの布でゴシゴシと擦った。 すると──。


ボフンッ!!


紫色の煙が噴き出し、甘ったるいお香の匂いが部屋に充満した。 そして煙の中から、半透明の身体を持った、小太りのおじさん……魔人?が現れた。


『……フォッフォッフォ。我を呼び出したのはお前たちか』


魔人は空中に浮かびながら、尊大に腕を組んだ。


『我はこの壺の精霊。……さあ、願いを言え。

どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』


「おぉ……!」


「本当に出ましたね!」


私たちは顔を見合わせた。 一万ベルで本物の魔人が手に入るとは、驚異的なコストパフォーマンスだ。 アレクセイさんが興味深そうに身を乗り出す。


「では、願いを言おう。……妻との幸せな時間が、永遠に続くように」


『……ふむ。「永遠の愛」か。よかろう』


魔人はニヤリと笑い、手のひらを差し出した。


『その願いを叶えるための「オプション料金」として、金貨五百枚を支払え』


「……はい?」


『聞こえなかったか? 「基本料金」の一万ベルでは、壺から出るまでしかサポートしていない。願いを叶えるには「追加課金オプション」が必要だ』


魔人は空中に価格表のような幻影を出した。


健康祈願:十万ベル


富の獲得:百万ベル


永遠の愛:五百万ベル

(※月額サブスクリプション契約)


「……はあぁ!?」


私は眼鏡をカチャリと押し上げた。

感動が一瞬で冷め、代わりにマグマのような怒りが湧き上がってくる。


「サブスク? 永遠の愛が月額課金制ですって?」


『嫌なら結構。ただし、キャンセル料として一万ベルは返さないがな』


魔人が下卑た笑みを浮かべる。 なるほど。 これは魔法を使った新手の「霊感商法」だ。 壺に低級霊を憑依させ、言葉巧みに金持ちから金を毟り取るシステム。


「……アレクセイさん。彼を凍らせてください」


「御意」


パキィィィンッ!!


アレクセイさんが指を弾いた瞬間、魔人の下半身が氷漬けになった。


『ひぎゃぁぁぁッ!? つ、冷てぇ! なんだこの魔力は!?』


「私の妻を不快にさせた罪だ。……おい、吐け。お前を操っている本体じゅつしゃはどこだ?」


アレクセイさんの目が、本気で殺しにかかっている。 魔人は震え上がり、あっさりと白状した。


『い、言います! 言いますから溶かして! 俺はただの使い魔です! 本体は、市場の裏にある倉庫に……!』


十分後。 私たちはホテルの窓から飛び出しアレクセイさんの飛行魔法で、魔人が吐いたアジトへと直行した。 市場の裏路地にある、古びた倉庫。 中からは、男たちの下卑た笑い声が聞こえてくる。


「ヒャハハ! 今日のカモもチョロかったな!」


「あの上等な服を着た夫婦、また金を持ってきやがるぜ!」


先ほどの露店の老人と、屈強なゴロツキたちが数人。彼らはテーブルの上に金貨を積み上げ、酒を飲んでいた。


ドォォォンッ!!


倉庫の鉄扉が、氷の礫によって粉砕された。


「な、なんだ!?」


「誰だ!」


土煙の中から、私たちが姿を現す。 アレクセイさんは優雅に微笑み、私はそろばんを構えて仁王立ちした。


「こんばんは。……『追加課金』の支払いに来ましたよ」


「て、テメェらは……昼間のカモ夫婦!?」


老人が驚愕の声を上げる。

私はツカツカと彼らの前まで歩み寄り、テーブルをバン! と叩いた。


「只今より、特別講義を始めます。テーマは『景品表示法違反および詐欺罪における損害賠償請求』について!」


「は、はあ?」


「まず、貴方たちの商売は説明義務違反です。『願いが叶う』と謳っておきながら、後から高額な追加料金を請求するのは、明らかな優良誤認表示! 悪質な詐欺行為です!」


私はそろばんをジャラッと鳴らした。


「壺の代金一万ベルの返金はもちろん、精神的苦痛に対する慰謝料、およびここまでの交通費「魔法使用料」、さらに──」


私はアレクセイさんを指差した。


「この方、一国の宰相を詐欺のターゲットにしたことによる『国家反逆未遂罪』。……これらを合計すると、請求額は一億ベルになります」


「い、一億……!?」


「さあ、払えますか? それとも、刑務所で百年働きますか?」


男たちは顔を見合わせ、そして一斉にナイフを抜いた。


「ふざけんな! ここで殺しちまえば関係ねえ!」


「やっちまえ!」


ゴロツキたちが襲いかかってくる。

私は溜息をつき、一歩下がった。


「……交渉決裂ですね。アレクセイさん、お願いします」


「ああ。新婚旅行の余興にしては、少し退屈だが」


アレクセイさんはあくびを噛み殺しながら、左手を軽く振った。


ゴオオオォッ……!


倉庫内が一瞬にして猛吹雪に包まれた。

男たちの足が、腕が、そして武器が、次々と凍りついていく。


「ひぃっ!? う、動かねぇ!」


「た、助けてくれぇ!」


数秒後。 そこには、芸術的な氷の彫像群が出来上がっていた。

男たちは首から下を氷漬けにされ、ガチガチと歯を鳴らしている。


「……さて。支払いの意思は固まりましたか?」


私がニッコリ笑いかけると、詐欺師のボスの老人は涙と鼻水を垂らして頷いた。


「は、払います! 全部持ってってくだせぇ! 命だけは助けてぇぇ!」


「よろしい。では、金庫の中身を全て回収させていただきます」


私は遠慮なく彼らの金庫を開け、中に入っていた不正な利益、数百万ベルを全て押収した。 一億には届かないが、まあ、懲罰としては十分だろう。

このお金は、後で匿名で孤児院にでも寄付すればいい。


「……ん? なんですか、これ」


金庫の底に、金貨とは違う、黒い封筒が一通入っていた。 高級な紙質。金箔の刻印。

中を開けると、一枚の招待状が入っていた。


『第十三回・メルカトル闇オークション。……出品目録:竜の卵、古代魔法書、そして──』


最後の一行を見て、私の目が釘付けになった。


『──伝説の宝石、スタールビー』


「……スタールビー?」


アレクセイさんが覗き込む。


「確か、それは……幻の宝石と言われているものだな。魔力を無尽蔵に増幅させるという」


「いえ、そんなことより、市場価格ですよ!」


私は興奮して鼻息を荒くした。


「この大きさなら、最低でも十億ベルはします! それが闇オークションに出るなんて……!」


「……欲しいのか?」


「いえ、買えませんよ。でも……」


私は招待状をひらひらと振った。


「このオークション、明日開催です。……潜入してみませんか? 市場調査の一環として」


詐欺師のアジトから、まさかの「裏イベント」へのチケットを入手してしまった。 新婚旅行は、ただの観光では終わらない予感がする。


「……君が望むなら、どこへでも」


アレクセイさんは楽しそうに笑い、私の腰を抱いた。


「ただし、その前に……ホテルに戻って『続き』をしないとな?」


アジトを壊滅させ、懐も温まり、さらには次の冒険の切符まで手に入れた。 私たちは意気揚々とホテルへ戻った。 詐欺師たちへの「授業料」は高くついたが、私たちにとっては最高にエキサイティングな夜となったのだった。

読んでくださってありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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