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第55話「翌朝の彼シャツ、それは所有の証明」

「毎日 朝7:00前後(土日祝は朝10:00)と夜21:00前後の2回更新でお届けします! 完結までストック済みですので、安心して最後までお付き合いください!」



カーテンの隙間から差し込む日差しが、眩しくベッドを照らしている。 私はまどろみの中で目を覚まし、隣を探った。 ……いない。 シーツにはまだ温もりが残っているけれど、アレクセイさんの姿はなかった。


「……うぅ、体が重い」


起き上がろうとして、全身に走る気だるさに呻く。 昨夜の記憶が、鮮明に蘇る。

彼の熱い視線、触れられた感触、そして何度も囁かれた愛の言葉。 顔が沸騰しそうだ。


「……着替えなきゃ」


私はシーツを体に巻きつけたまま、周囲を見渡した。 昨夜着ていたネグリジェを探す。 だが、それはベッドの下に無惨な姿で落ちていた。

レースが引きちぎられ、ボタンが弾け飛んでいる。


(……アレクセイさんの馬鹿力。請求書に『衣装損壊費』を計上しなきゃ)


心の中で悪態をつきつつも、口元が緩んでしまうのが悔しい。 とりあえず、何か羽織るものが必要だ。 私はクローゼットを開けた。 そこには、彼が普段着ている最高級のシャツが綺麗に並んでいた。


「一枚、拝借しますね」


私はその中の一枚、白のシルクシャツを手に取り、袖を通した。 大きい。 彼がいかに高身長で、肩幅が広いかを思い知らされる。 袖は指先まですっぽり隠れ、裾は太腿の中程まである。 ボタンを留めると、ふわっと彼の香水の匂い──インクとムスクの混じった香りに包まれた。


「……まるで、彼に抱きしめられているみたい」


袖の匂いを嗅いでいると、ガチャリと扉が開いた。


「リアナ、目が覚めたか? モーニングコーヒーを……」


ワゴンを押して入ってきたアレクセイさんが、私を見た瞬間、凍りついた。 いや、正確には沸騰した。 持っていたコーヒーカップが、ガチャンと音を立ててソーサーの上で揺れる。


「……あ、おはようございます。勝手にシャツを借りました。私のが……その、機能不全になっていたので」


私が説明しながら、長すぎる袖を振ってみせると、アレクセイさんは喉を鳴らして、ふらふらと近づいてきた。


「……凶器だ」


「はい?」


「君の裸眼も凶器だが、その姿は……大量破壊兵器だ」


彼は私の目の前で立ち止まり、熱い視線で私の全身を舐め回した。ぶかぶかのシャツから覗く、華奢な首筋。 袖に隠れた指先。 そして、裾から伸びる素足。


「……似合うな。悔しいほどに」


アレクセイさんは私の腰に手を回し、自分のシャツごしに肌を撫でた。


「私の服に包まれている君を見ると……君が私の『所有物』だと刻印されているようで、ゾクゾクする」


「変態ですか」


「否定しない。……特に、その隠れた指先と、無防備な太腿のコントラストが、私の理性を粉砕しにかかっている」


彼の目が、昨夜と同じ「捕食者」の色に変わっていく。 危険だ。

朝からこのテンションは、私の体力が持たない。


「……今日が休日で、本当によかった」


彼は私を抱き上げ、ベッドの方へと後ずさった。


「二度寝しよう、リアナ。……今度は、もっと深く」


「ちょ、待っ……! ダメです!」


私は彼の胸を押し返したが袖が邪魔で力が入らない。


「今日は新婚旅行ハネムーンの出発日ですよ!? パッキングがまだ終わっていません!」


「荷造りなど使用人にさせればいい」


「ダメです! 私は自分の荷物は自分で管理したいんです! パンツの枚数まで把握されたくありません!」


「私が把握する」


「貴方は一番ダメです!!」


私は彼の腕からすり抜け、ベッドの上に避難した。


「それに、今回の旅行先は『商業都市メルカトル』でしょう? 現地での市場調査と、お土産のリストアップもしなきゃいけません。時間は金です! イチャイチャしている暇はありません!」


私が眼鏡をかけて「経理係モード」に戻ると、

アレクセイさんはガクリと肩を落とした。


「……君は、新婚旅行を『出張』か何かと勘違いしていないか?」


「違いますか? 私たちにとって、旅とは新たな『価値』を見つけるための投資活動です」


「ロマンがない……」


彼は拗ねたように唇を尖らせたが、すぐに諦めたように笑った。


「まあいい。……そのシャツは、そのまま着ていろ。脱ぐのは禁止だ」


「えっ、このまま外出するんですか?」


「部屋の中だけだ。……私の視界にいる間は、私の匂いを纏わせておきたい」


彼は私の髪にキスをし、コーヒーを差し出した。


「さあ、飲んだら準備だ。……私の愛しい、ワーカーホリックな妻よ」


数時間後。 公邸のエントランスには、山のような荷物が積み上げられていた。

そして、それを取り囲むように、完全武装した騎士団が整列していた。


「……アレクセイさん。質問していいですか」


「なんだ」


「この軍隊は、どこの戦場へ派兵されるのですか?」


私は整列する五十人の騎士たちを指差した。

全員、実戦装備だ。殺気が凄い。


「我々の護衛だ」


アレクセイさんは真顔で答えた。


「商業都市メルカトルは、人の出入りが激しい。スリ、置き引き、詐欺師……君を狙う不届き者がどれだけいるか分からん。万全を期すため、王宮騎士団第三部隊を丸ごと連れて行く」


「却下です」


私は即答した。


「新婚旅行に五十人の男を連れ歩くカップルがどこにいますか! 目立ちすぎて逆に標的になります! それに、彼らの旅費と食費だけで予算がパンクします!」


「私の私費だ」


「貴方の財布も管理対象です! 却下! 連れて行くのはルーカス様一人で十分です!」


「えっ、俺一人……?」


後ろで控えていたルーカス様が、「マジか」という顔をしている。

苦労人ポジションは、結婚しても変わらないようだ。


「で、でもリアナ。君に万が一のことがあったら……」


「大丈夫です。貴方がいるでしょう?」


私はアレクセイさんの腕に手を回し、ニッコリと笑った。


「世界最強の魔法使いが隣にいるのに、他の護衛なんて『二重投資』です。無駄の極みです」


「……っ」


「それとも、私を守る自信がありませんか?」


私が小首を傾げると、アレクセイさんは顔を赤くして、片手で顔を覆った。


「……ずるい。そんな風に言われて、断れるわけがない」


彼は騎士たちに向き直り、手を振った。


「解散だ! 休暇を楽しめ!」


「は、はいっ!?」


騎士たちが困惑する中、アレクセイさんは私を抱き寄せた。


「いいだろう。君の安全は、私一人が守り抜く。……その代わり、私の側を片時も離れるなよ?」


「了解しました、旦那様」


私たちは最低限の荷物と、ルーカス様用の胃薬を持って、豪華列車へと向かう馬車に乗り込んだ。 目指すは、大陸一の商業都市。 そこには、きらびやかな商品と、美味しいご飯と──そして、私たちの財布を狙う新たなトラブルが待ち受けているはずだ。


「さあ、行きましょう。……掘り出し物を探しに!」


私の目は、既にバーゲンセールのチラシを見る時のように輝いていた。

アレクセイさんはそれを見て、「やれやれ」と幸せそうに肩をすくめた。

読んでくださってありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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