なんでもない鈴の日記帳
ピピ――。
威勢のいいホイッスルの音が、草原の奥まで高らかに響き渡る。この土砂降りの中でもよく通る不思議な音色だった。
「……えーっと、それは?」
「ホイッスルですねー、ふふ」
「いや、そんくらい知っとるわ! ウチはもっとこう具体的なコトを聞いとるんや」
はあ……とファウンダリミントは肩を落とした。
目の前のヤツはいっつもそうだ! 研究熱心がすぎて言語がちょくちょく通じないし。一通りミンの中で感情がサイクロンを形作ったあと、数秒でやっぱり霧散してしまった。
当のダビデは知ってか知らずか、車椅子の上で上機嫌に微笑んでいる。たぶん知ってるんやろなーとミンは思った。
「ホイッスルの改良依頼でも来とったんか?」
「ま、だいたいそんなところですかねー……。アナログな通信手段を使いたいんだとか」
ダビデはカチャカチャと指先でホイッスルのパーツを調節している。
なるほど土砂降りのなかでもよく通るホイッスルが要るのだろうか。てっきり、自分達の演奏活動で使うのかと思ったけれど、そうでもないみたい。
ここまで音が大きいと、ここからそう遠くないところに住むみんながたたき起こされやしないか不安になってくる……まあ、対策はすんでいるんだろうけど。
ダビデは演奏が本業ではあるものの、一応、『理科』の分野においてのスペシャリストだ。医学、物理学、化学、などなど。
二人の所属する『楽団』の寮における医務室主任――一応付け足すと、本人が自分の個室を勝手に医務室にしただけだ――でもある。他にも工房なんかも兼ねているみたいだけど。
「ホイッスルで連絡とか、随分とアナログにも程があるやろ」
「おや、そうとは限りませんよー……? 今でも光信号、手旗、モールスも現役ですからね、ふふ……」
「ゆーても別に特注のホイッスルやなくてもええんちゃうんか」
首をかしげるミン。
「なにか理由があるんでしょうねー、ふふっ。とはいえ、コレクションしたいのかもしれません……」
「あー……ね?」
どうやらダビデも詳しいことは聞かされていないようだし、とりあえずこの理由で合点としよう。
ダビデはチューニングを終え、再度ホイッスルを口に咥える……。
――キュウゥウンッ……!
「……うわ、あーあ、壊したやん」
口を結び損ねた風船のようにへんてこりんな音を出しながら、ホイッスルの前半分がどこかへ吹っ飛んでしまった!
音は波形だ。たぶん、十分な頑丈さを確保しないまま、下手に内部で増幅させ過ぎたんじゃないだろうか。
雨天で視界もそんなに良くないし、どっかにいってしまったパーツを探すのは諦めた方がいいかもしれない――広範囲で小さなパーツを探し回るのは無理がある。
「大丈夫ですよ、ふふ……。仕組みはきちんと覚えてますし……」
「いやその……いや、ええか。うん。で、えーと、戻るん?」
「んー」
ダビデは思案する。
「まー、一旦ここまでにしておきましょうか……。ああそうだ、これを」
ぽす、と両手で挟むように、ミンの片手に小物がにぎらされた。
よーく見てみると、キンキラキンの銀貨だ。なにやら不思議な模様が描かれている。
「付き合ってくれたお礼です、ふふ……。それじゃ、また後で……」
「お、おう? 転ぶなよ」
ミンは銀貨をいろんな角度から見ながら、生返事を返した。ダビデはさっさと車椅子を回して帰ってしまう。
銀貨……うーん? 結局なにかよく分からないが、キラキラしててかっこよさそうなのは確か。とりあえずしまっておこう――忘れた頃に役に立つかもしれない。
それまで、失くさなければいいけれど……。
どうも、くろこげめろんです。まずはお読みいただきありがとうございます。
『センチュリーくんのカフェにっき!』等に続く、なんでもない日々の話です。
いっつもバトルバトルな小説ばかりですので、あんまり日常がなかったんですよね……。やっぱり日常は大事。
とはいえ、ここまで短いのは初。実験的な意味合いもあります。短い中でキャラクターの性格を書き出して、いい感じな風景を書きたいなと。
とりあえずミンちゃんとダビデにフォーカスを定めて、1500字。
両方、今のところ小説外での登場だけなので過去作を読んでも出てきません。(実はミンはチラッと言及はあります)
またいつか本格的に登場することになる時、少しでもキャラクターの厚みの助けになればいいなーなんて。
ではまた! どこかでお会いしましょう!




