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【連載版】竜の器と囚われの贄姫  作者: 神崎右京
第五章

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第53話 古代魔法 (Side:カルロ)

 タウンハウスの応接間の準備が整うころ、大量の資料を持参したアーノルドが到着した。


「大小さまざまな質問をしてくれたね。特にカルロは、遠慮を知らないくらい大量に。予想以上に多岐にわたるから、資料の準備に手間取ってしまったよ」

「うっせ。さっさと本題に入れ」


 ぼやくアーノルドをあしらい、念のため使用人たちは人払いをして、さっそく本題に入るよう促す。アーノルドはやれやれとため息をついたあと、渡されたメモを見ながら切り出した。


「まず、アルヴィン君が書いていた質問。――『竜神教の禁術は、宗教的な儀式ではなく、魔法の一種なのか』。私の研究テーマの出発点でもあるこの質問から入ろう」


 アーノルドは俺が渡したメモへも目を遣る。


「似たような質問を、カルロもしていたね。もう少し核心に迫る質問だ。――『禁術は、黒魔法と白魔法を融合した未知の魔法ではないか』。……さすが、救国の天才と期待されるだけのことはある。君が禁術に興味を持って、わずか一年足らずだろうに、その期間でここまで突き止めるとは」

「既知の人間一人の命がかかってんだ。必死にもなるだろ」


 アルヴィンは、妹が絡むと悪魔みたいな性格になるのは事実だが、そんなことは関係なく、俺たちは元々気が合う親友だった。仮にシャロンとの結婚の問題がなかったとしても、俺は竜を元に戻す手法を探すため、同じように尽力しただろう。

 

「そうだね。君たちがどうしてそんな結論に至ったのかは非常に興味深いけれど――結論から言えば、その仮説は限りなく当たっていると思う」

「やっぱり――!」


 アーノルドの言葉に、シャロンの顔が少し輝く。

 俺は、レーヴ領で研究に使っていた資料をアーノルドに見せながら、どうやって禁術が黒魔法と白魔法を融合した魔法であると仮説を立てたのかを説明した。


「なるほど……禁術は、竜の魔法の劣化版――竜が自由に行使できる未知の魔法を、人間にも使えるように改良したのが、禁術だと当りを付けたわけか」

「あぁ。どう思う?」

「私が研究してたのは、あくまで竜神教が使う禁術の体系についてだからね。竜がどんな魔法を使うか、は研究したことがない――し、興味もなかった。今、カルロに聞くまでは、ね」


 どうやら、ある程度確からしいと思ったようだ。アーノルドは持ってきた資料のうち一つを取り出し、ページを捲る。


「竜神教を調べるうちにわかったんだけれど、この宗教の歴史は意外と古いんだ」

「まぁ、竜を神とみなす宗教だからな。古竜の時代からとなれば、流石に――」

「いや。どうやら、彼らの起源は、古竜の時代よりももっと遡るようなんだ」

「!?」


 思わず驚いてアーノルドを振り返る。

 アーノルドは資料を俺とシャロンに見えるように広げる。覗き込むと、レーヴ領で見た壁画の写しだった。見覚えのある模写に、専門家による画材分析の結果が書き込まれている。


「専門家の分析によると、この絵が描かれたのは、古竜が世界を滅ぼしかけたと言われる時代より三百年以上は昔だと言う。他の集会場で見つかった壁画や絵画も分析したが、同様に古竜の時代よりも前に描かれたと思われるものが複数発見されている」

「つまり――竜神教という宗教は、古竜の時代よりもずっと昔から存在していた……?」


 シャロンは、美しい形の眉を顰めて、怪訝な声を出す。


「ちょっと待てよ。おかしいだろ。竜神教は、”竜”を神と崇める宗教だ。信仰の対象となる古竜が現れるより前から存在するわけがない」


 俺の至極まっとうな主張に、アーノルドは顔色も変えずに次の資料を手に取った。


「簡単なことだ。我々が古竜と呼ぶ存在よりも前から、竜――竜神教が言うところの”竜神”は存在していたということになる」

「な――!」

「竜は老いて死ぬが、”器”を変えれば復活する――それは、竜神教の信者にとっては、古竜の時代よりも前からずっと伝えられてきた伝承だったんだよ」


 アーノルドが見せたのは、手帳にメモとして描かれた複雑で面妖な魔方陣。


「これは、もしかして――」

「あぁ。見覚えがあるかな? シャロン嬢が誘拐されたときに、地面に描かれていた魔方陣と同じものだ」

「!」

「だけど、これはあの事件の後に写した物じゃない。私が、調査の過程で信者から聞き出して紋様を再現した魔方陣だ。これを描いたのは――三年ほどまえだったかな」


 俺とシャロンは思わず息を呑んだ。

 三年前――まだ、竜なんておとぎ話だと世間が思い込んでいた頃。そのころには既に、信者の間で、魂移しの儀式の魔方陣は言い伝えられていたことになる。


「これを教えてくれた信者は、この魔方陣は竜神教が成立した時代からあると言っていたよ。禁術が魔法の一種だとするならば、古竜の時代よりも前から存在していたことになる。黒魔法や白魔法の痕跡が残っているのは、古竜が暴れた時代まで――つまり、現代に残る魔法よりも古くからあることになる。私はこれを、”古代魔法”と呼んでいるよ」

「古代魔法……」


 ごくり、と唾を飲み込んでシャロンが呟く。

 アーノルドは眼鏡を直すように押し上げ、口角を上げる。


「私の仮説を聞いてくれるかい? ――私は、古代魔法こそが原初の魔法であり、現存する二つの魔法は、この古代魔法から派生するようにして生まれた魔法なんじゃないかと考えているんだ」


 少し上ずった声で熱っぽく話すその様子は、学園で生徒に講義をするときによく見た癖だった。


「竜復活の儀式が、古竜の時代よりも前から伝わっているなら、”竜”は過去に何度も現れたのだろう。どうして、古竜のときだけ文明が衰退するほど世界が破壊されたのかは不明だけれど――現在の魔法が古代魔法の下位互換で、古代魔法に代わり成立したと仮定すれば、納得できる」


 俺はアーノルドの仮説を受けて考えを巡らせる。


「下位互換にもかかわらず広く流布した――考えられるのは、古代魔法を使える人間は極端に少なかった。あるいは、何者かによって作為的に数を減らされたのか」

「あっ……宗教弾圧――!」


 シャロンは口に手を当てて小さく声を上げる。

 

「そう。私の仮説は、世論とは少し違う。竜による世界滅亡の危機があったから、竜神教が迫害されるようになったのではない。順序はその逆――そもそも竜神教が迫害されて数を減らしていたから、人間は竜に対抗できる高度な魔法が使えなかった。下位互換の魔法で対処せざるを得ず、被害は歴史に類を見ないほど拡大し世界は混乱した……と」


 アーノルドが興奮気味に持論を話すのを聞きながら、俺は昨日学園で調べたアーノルドの過去の研究結果を思い出していた。

 黒魔法と白魔法の血統は、恐化が広がっていた時代からあと三世代ほど遡れば特定できそうなところまで来ていた。当時の人間の平均寿命がどれくらいかは調べなければわからないが、百年には満たないだろう。

 古竜の出現より前に現在の魔法が生まれ、古代魔法を使用できる人間が宗教弾圧と共に数を減らされたところに、竜が復活した――というアーノルドの論は、確かに筋が通っているように思えた。


「もし本当に世界滅亡前からずっと魂移しや竜復活の魔法が存在したなら、古竜も竜神教が復活させた可能性が高いな。弾圧と共に数を減らした信者たちの、世間への抵抗手段だった可能性すらある」

「確かに……レーヴ領で見た壁画が古竜の時代よりも前のものなら、古竜よりも昔に竜と生贄がいたことは確実だ。もしもカルロの見立て通り、竜が使う魔法は禁術――古代魔法のさらに上位互換なのだとしたら、信者の数が少なくなっていたとしても、竜が一体いれば十分対抗できる。復活させようって話になってもおかしくないし――そんな化け物みたいな武力を自由に復活させて使役できる団体なら、危険視されて徹底的に迫害されるのも納得してしまうね……」


 シャロンの言葉に、俺は頭を抱えた。

 竜に向けて放たれた黒騎士の攻撃魔法が空中で霧散したのも、竜の魔法が圧倒的な上位互換なのだとしたら頷ける。だがそれは、現代の魔法では対抗策がないことの裏返しでもあった。

 

「おいおい……勘弁してくれ。ってことは何か? 俺たちは、竜になったアイツに自我が残ってなかったら”詰み”ってことか?」


 今までは、アルヴィンを人間に戻すための希望に縋りたくてその可能性を探していたが、どうやら再び世界を滅亡させないためにはその奇跡に期待するしかないらしい。

 

「今日この瞬間まで、私は竜が魔法を使うかどうかすら知らなかったけれど、カルロが調べたこの研究資料を見る限り、君たちの仮説は正しそうだね。学術的興味をそそられるテーマだけど、世界滅亡と隣り合わせとは穏やかじゃないな」


 アーノルドは苦笑して俺の研究資料をもう一度パラパラと眺めている。大きなツッコミを入れないのは、俺の考察に矛盾や違和感はないということなのだろう。


「いっそ、馬鹿馬鹿しい考察だと鼻で笑い飛ばしてほしいところなんだがな」

「まさか。さすが黒魔法の神童と呼ばれただけのことはある。君を保護した過去の自分を褒めたいくらいにね。ただ――やはり君は、少しでも早く魔塔に所属すべきだね。このまま野良の研究者でいさせるのは世界の損失だ」


 これまでの人生で何度となく告げられた言葉を、今日も俺はうんざりしたため息で一蹴した。


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