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【連載版】竜の器と囚われの贄姫 ~竜にされた家族を助けるため、貴族の家を飛び出し世界最強の男と傭兵になります~  作者: 神崎右京
第五章

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第51話 再会② (Side:カルロ)

 シャロンは連行される俺とアーノルドを見て、どうやって助けに入ろうかとオロオロしていたが、こんな騒ぎに関わったとなれば、フロスト家の醜聞だ。シャロンはその場に残し、俺はアーノルドと二人だけで警備員室に向かった。


「いやはや。彼は私の養い子みたいなものでね。しかも、五年ぶりの感動の再会ときた。つい、はしゃいでしまっただけだよ。騒ぎにしてしまい、申し訳ない」


 アーノルドは、にこにこと笑顔で警備員に謝罪する。全力で胡散臭いモノを見る目で見られているが、たぶん俺も似たような目をしているだろう。

 

「本当ですか?」

「まぁ……概ね、間違ってない。アーノルドは五年前まで、俺の後見人だったんだ。ずっと行方が分からなかったんだが、今朝、ここで働いているっていう情報を得て、なりふり構わず走って来た」


 嘘はついていない。

 女教師からの手紙には、竜騒動をきっかけに、竜神教の研究の必要が高まり、最も詳しいアーノルドが特例で王都に呼び戻されたと書いてあった。過去の不祥事や研究テーマを考えれば、さすがに魔塔や学園に再び所属を戻すわけにもいかず、研究を加速させるためという名目で、国の監視下に置かれながらこの特別資料館の職員として働いているとのことだった。

 職員であれば、貴族しか立ち入れないエリアにも立ち入ることが出来る。研究資料として閲覧を許可する代わりに、この未曽有の事態に対処するための成果を早急に上げろというのが国の要望だった。


 手紙を読んだ瞬間、俺の頭の中で昨夜のシャロンの話とリンクした。

 竜神教の資料を探していたシャロンに興味を持って話しかけて来た、軟派な職員――絶対にアーノルドだ、と。


 悪い男じゃないが、白魔法と黒魔法の混血を作ったらどうなるか、などと真面目に考えていたような狂人だ。シャロンが白魔法遣いだとわかったら、誘拐して危険思想を実行に移しかねない。俺は、シャロンに纏わることに関しては、俺以外の男を全面的に信用していないのだ。


 故に、なりふり構わず走ってきたのは、アーノルドに会うためではなく、シャロンの身の安全を確保するためだった。だが、ここは嘘も方便だ。まずは早くここから解放されることを優先したい。


「まぁ……アーノルド先生がそうおっしゃるなら、信じましょう」

「ありがとうございます」


 警備員はしぶしぶ納得してくれたようだ。教師の資格が剥奪されて久しいのに「先生」などと呼ばれているからには、それなりにここでも信頼を築いているのだろう。

 俺は簡単な反省文と、二度と騒ぎは起こさないという一筆を書かされて、解放されることになった。


「やれやれ。昔からクソガキだと思っていたけれど、全く成長していないな、カルロは。場所も相手も顧みず、喧嘩を吹っ掛けては教師に叱られた学園時代から何も変わってない」

「うるせぇよ。誰のせいだと思ってんだ。お前こそ、美人と見れば誰彼構わず声かけるせいで、しょっちゅう刃傷沙汰に巻き込まれてたあの頃と、何も変わってねぇじゃねぇか」


 警備員が退席した警備室で、俺たちは互いに嫌味を言い合う。


「人の女に声かけてんじゃねぇぞ。次やったら今度は手加減しねぇ」

「おや。もしかしてあの男装の令嬢は、フロスト家の令嬢なのかい?君とよく一緒にいたアルヴィン君と面差しが似ていたから、もしやと思っていたんだけれど――」

「そうだ。今は俺の婚約者だ。手ぇ出したらマジでぶっ殺すぞ」


 俺の脅しなど気に留めた様子もなく、アーノルドは驚いたように目を見開く。


「いや、驚いた。史上初の移民と大貴族の結婚が実現するのか――なんて噂されてるのは知っていたけれど、噂に過ぎないと思ってたよ。噂が出てから何年経っても、正式な婚約発表がされないと聞いていたし」

「ぐっ……」


 痛いところを突かないでほしい。だが、それが世間一般の認識なのだろう。

 俺とシャロンの関係は、どこまで行っても当事者同士の口約束。確たるものなどなく、ひどく不安定なものだ。


「アルヴィン君も魔法適性は高かった。妹君も使えるのかい?」

「本当に魔法にしか興味がねぇ男だな」


 さっきまで、シャロンの外見に甘い言葉を吐いて口説こうとしていたというのに、途端にシャロンを白魔法遣いとしてしか見なくなっている。


「そりゃ、私の人生を賭けた研究テーマの結果を、君が検証してくれるかもしれないんだ。気にもなるだろう」

「てめぇ、絶対にそれ、シャロンの前で言うなよ。心の中で思うだけにしとけ」


 貴族と平民が結婚することは非常にまれだ。領地を持たない一代限りの名誉貴族や、没落寸前の下位貴族であれば類例もあるだろうが、彼らは貴族の血筋が薄いせいか、白魔法適性を持っていないことが殆どだ。

 アーノルドが知りたいのは、フロスト家のような由緒正しい大貴族と平民との混血児がどのような魔法適性を持つか――ということなのだろう。

 完全に人を実験対象くらいにしか見ていない態度は、胸糞が悪い。本当にこいつは、昔から何かが欠落している。


「それにしても、彼女、どうしてあんな恰好をしているんだい? 護身のため? 確かに、あんな美少女があからさまに貴族令嬢の格好をしていたら、犯罪者に狙ってくれとアピールするようなものだと思うけれど――変装と言っても、少し注視すればすぐに男装の令嬢だと気付く程度のもの。あまり効果があるようには思えない」

「あぁ……それについては、事情があってな……」


 俺は、アーノルドにシャロンの事情を説明する。

 何せ、この男は”本物のアルヴィン”を知っている人物だ。俺がこの後、シャロンに向かって「アルヴィン」と話しかける様子を見れば、余計な一言を言いかねない。事前の根回しは必須だった。


「なるほど。自分のことを兄だと思い込むことで、心を守り前に進めている状態、と」

「あぁ」

「ふぅん……白魔法は専門ではないが、あの天才児ダミアン・レーヴが施したというなら、安全性は大丈夫なんだろう。だが……根本解決には至っていないように思うが?」

 

 全てを聞き終えたアーノルドは、あまり納得がいっていない顔をしている。


「結局、現実逃避の逃避先を変えただけだろう。いつか、誰かを支えにすることなく自分の足で立ち上がり、現実を直視して歩んでいけるようにサポートするのが、婚約者の君の役割ではないのかね?」

「……痛いところを突いてくるな。わかってるよ、んなこたぁ」


 ガリガリと頭をかいて、ぼやく。他人に言われれば反論もしたくなる指摘だが、こいつに言われると、まるで親からの説教みたいで、弱い。


「君としては、親友を助けるのも彼女を幸せにするのも、全部自分がやってしまえばいいと思っているんだろうけれど――それじゃあ、彼女の自立には繋がらない。そもそも、そんなことが出来ると思うのは、傲慢だよ。竜の調査にしろ、想い人との結婚にしろ、誰かの助けを得ていく方が早いはずだ」

「それは……まぁ……」


 言われてみれば確かに俺は、何でも一人でやり切ろうとする癖がある。

 他人にはないような圧倒的な魔法の才があったというのもあるが、移民で孤児となった時から、境遇のせいで様々な差別に晒されてきた幼少期も関係しているのだろう。

 自分の幸せは自分で掴み取るものだと思っているし、ぐだぐだ言う奴は実力で黙らせればいいと考えている節がある。


「生涯の伴侶にしたいなんて豪語するなら、君も彼女をちゃんと頼っているんだろうね?」

「ぅぐ……」


 ぐうの音も出ずに押し黙る。

 傭兵として旅をしたこの半年だって、シャロンもあれこれ助けてくれたことに感謝はしているが、こちらから積極的に助力を願ったことは記憶にない。

 呆れたようにアーノルドはため息をついた。


「人間は、万能じゃない。思っていることは、きちんと口に出さないと、思った以上に相手に伝わらないものだよ」


 繰り返される説教は、親が子を諭すような響きを持っていて、居心地が悪い。

 苦い顔で大人しく聞いていると、アーノルドは肩を竦めて笑った。


「何せ君たち二人には、私の人生を賭した研究成果を証明してもらわなきゃいけないんだからね」

「お前……本当に人でなしだな……」


 飄々と言ってのけるアーノルドに、俺はしおらしく説教を聞いたことを少し後悔するのだった。


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