第48話 報告会① (Side:カルロ)
すっかり日が暮れた後のタウンハウスに戻ってきた俺は、鉛のように重いため息を吐き出して、肩を落とす。
「はぁ……疲れた……」
玄関の扉を押すのも億劫になりそうなほどの疲労は、ぼやくだけでは変わらない。
今日は朝から学園へと足を向けた。アーノルドと懇意にしていたという女教師から返事が来ていないかと期待したが、空振りだった。元々、手紙を届けるだけで二日かかると言われていた。速達で出したが、今日返事が届いている確率は元々かなり低い。焦る気持ちは募ったが、気を落とすほどでもなかった。明日になれば、可能性は今日よりも高まる。
その後の予定をどうすべきかと考え、再び魔塔へ行くことも一瞬頭をよぎったが、どうせ軟禁されて昨日と同じ問答を繰り返すだけだ。それならば――と俺は開き直って、学園内で出来ることを考えた。
それは、アーノルドが禁術の研究に精を出す前に熱心に研究していたテーマ――『血筋と魔法能力の関係性』についての研究資料の洗い直しだ。
研究が行き過ぎて、白魔法を使う貴族と黒魔法を使う平民の混血を意図的に増やしたらどうなるのか――などと考察し始めた段階で、取り上げられてしまった研究テーマ。
当時、人生を賭した研究を生きがいとしていた黒魔法馬鹿が、可哀想なくらい抜け殻になってしまったのを覚えている。
そうして無為に過ごしていたアーノルドが、活力を取り戻して取り組んだ新しいテーマが、禁術だった。
邪教と定められ、禁忌とされる題材だ。手持ち無沙汰になった日々で無作為に選んだとは到底思えない。
そもそもが、研究馬鹿だった男だ。今思えば、血筋と魔法能力の関係性と、竜神教の禁術に何かしらの関連があると思いついたからこそ、そのテーマを新たな研究対象としたのではないだろうか。
そう考えて、学園に残っているアーノルドの過去の研究資料を片っ端から漁り――気づけば休憩も挟まずこんな時間だった。
没頭していた時間を自覚した途端、一気に疲労が襲い来て、今すぐ眠りたい衝動を堪えながら、何とかタウンハウスまでたどり着いたのだ。
「シャロンに会いたい……」
思わず恨めしい声が漏れる。
シャロン――俺のオアシス。あの可愛く慈愛に満ちた天使の顔を一目見られれば、この疲労も吹っ飛ぶ気がする。
下らないことを考えながら重い足取りでふらふらと廊下を歩いていると、「あっ」と小鳥のような可憐な声が遠くから聞こえた。
「カルロ、帰って来たんだ。遅いから心配してたんだよ」
小走りで近寄って来る思い描いていた人物の登場に、じんわりと胸が温かくなり、疲労が霧散していく。
「お疲れ様、おかえりなさい。食事は済ませた? 軽く用意させようか。僕もまだだから、もしよければ一緒に――」
「天使……」
「は……?」
きょとん、と首をかしげる仕草すら可愛い。
結婚したら、これが日常になるのだろうか。どんなに疲労困憊で帰って来ても、この世界一の美少女が「お疲れ様」「おかえり」と笑顔で迎えてくれる毎日――あぁ、想像しただけで最高だ。
「大丈夫? なんだか、すごく疲れてるみたいだけど……」
「いや。お前の顔見たら疲れも全部吹き飛んだ。飯、食う」
「そ、そう……? 変なカルロ」
ついさっきまでは、飯なんてどうでもいいからベッドにもぐりこんですぐに眠ろうと思っていたのに、シャロンと食事が出来ると思うと急に食欲がわいてくるのだから、我ながら現金なものだ。
まだ見ぬ新婚生活を妄想しながら、俺はもう何度目になるかわからないシャロンとの結婚を再び心に誓うのだった。




