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【連載版】竜の器と囚われの贄姫  作者: 神崎右京
第五章

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第45話 軟禁 (Side:カルロ)

 シャロンが倒れてから二日後――俺は、魔塔の一室に軟禁されていた。


「だから……俺は、昔魔塔に所属してたリオネル・アーノルドの今の居場所が知りたいだけだって言ってるだろ!」

「いやいや。君は本当に、自分の価値を理解していなさすぎる。いいかい? 君の頭脳と魔法センスをこの国家の緊急時に魔塔で発揮しないというのは、国益を損なっていると言わざるを得ず――」


 こちらの話を完全に無視して、張り付けたような笑顔で身勝手な主張をしてくる黒魔導師に舌打ちする。

 だから嫌だったんだ、この場所に来るのは。

 想像した通りの事態ではあるが、流石に何時間も缶詰にされれば、苛つきも隠せない。


 アーノルドの行方を探るため、昨日向かった学園は空振りだった。

 もともとアーノルドは学園では非常勤講師扱いだったから、不名誉な理由で去った人間の情報などほとんど残っていない。

 唯一、彼と個人的な交流があったという女教師がいたが、間の悪いことに一週間の休みをとって実家に帰省中だという。駄目で元々のつもりで手紙をしたため、彼女の実家宛てに送付してもらったが、学園からこれ以上の情報を得ることは出来ないだろう。


 社交シーズンまで、あと二週間。

 魔塔に赴けば面倒なことになることは十分にわかっていたが、眠り続けるシャロンをレイアに任せて足を向けたのが今朝だ。


 今は昼過ぎ。飯を食いに席を外すことすら許されず、一方通行の勧誘を受け続けている。

 空腹も相まって腹が立ってきて、魔法で実力行使に出てやろうか――などと物騒な考えがよぎった、その時だった。


 トントン、と控えめなノック音が響く。


「交代の時間よ。ここからはアタシが引き継ぐわ」

「げっ……」


 入って来た長身の女男を視界に入れて、思わずうめき声が漏れる。


「カルロとは知った仲なの。ここはアタシに任せてほしいわ」


 気色の悪い声で黒魔導師にねだるのは、ついこの前まで滞在していたレーヴ家の面々の面影を宿すダミアン・レーヴだった。

 黒魔導師は迷うようにこちらへ目をやったが、押して駄目なら引いてみろと思ったのか、ダミアンに一任すると決めたようだ。ぼそりと何事かを引き継ぎ、部屋から去っていく。

 男の背中を見送ってから、ダミアンは俺の前にトレイに乗った食事を置いた。


「おなか空いてるんじゃないかと思って。ここの食堂、結構おいしいのよ?」

「へっ、そんなんで懐柔されねぇぞ」


 憎まれ口を叩くが、腹が減っていたのは事実だ。遠慮なく飯をかきこむと、確かに美味い。

 魔塔に所属する半分は白魔導師――つまり貴族の出身者だ。彼らの舌を満足させるような食事は、空腹に苛ついていた腹の虫をようやく落ち着かせた。


「随分強情な態度を取ったみたいじゃない? さっき、アナタが実力行使に出るかもしれないから気を付けろ、って言われたわよ」

「ハッ、わかってんじゃねぇか」


 鼻で笑い飛ばすと、ダミアンは肩を竦める。


「そう刺々しい言葉を使わないでほしいわ。近い将来、同僚になるかもしれないのに」

「少なくとも、アルヴィンの件が落ち着くまでは進路を決めるつもりはない。知ってるだろ」


 シャロンに魔法をかける企みに乗ったのはダミアンだ。俺がどれくらいシャロンに惚れているかも、アルヴィンを本気で元に戻そうとしているかも、よくわかっているはずだった。


「知ってるわ。立場上、一応聞かなきゃいけないから聞いてるだけ。……魔塔に入るつもりは?」

「現時点では、ない。アルヴィンを元に戻して、恐化現象が落ち着き、シャロンと無事に結婚できる算段が付いたら、一考してやってもいい」

「随分先が長そうな話ね……」


 ダミアンは苦笑しながら嘆息した。

 それらすべてを叶えるには、あと二週間で何かしらの成果を上げなければならないという事情は黙っておく。


「そのためにも、アーノルドだ。情報を寄こせ」

「そう言われても、ねぇ。禁術を研究しようとした黒魔導師――アナタの後見人だったと聞いてはいるけれど、それだけで教えるわけにはいかないわ。せめて、理由くらい教えてくれないと」


 ダミアンの物言いたげな視線に、口を閉ざす。

 元後見人に久しぶりに会って近況を報告したい――そんな当たり障りのない理由では納得してくれないようだ。

 ダミアンとは旧知の仲だ。俺がそんな殊勝な人間ではないことなどわかり切っている。


「……アイツの研究内容に興味がある」

「へぇ……?」


 結局、観念して正直に告げる。ダミアンが面白そうに笑ったが、想像はついていたのだろう。視線で先を促された。


「別に、危険思想を持っているとかじゃない。アルヴィンを竜に変えたのは、竜神教の禁術だった。なら、元に戻す鍵も禁術にあるかもしれないと考えるのは可笑しくないだろう」

「忘れたの? 事件直後、国が徹底的にその可能性を探ったじゃない。結果、それは出来ないと結論付けられたから、今の竜討伐論がある。……それをいまさら、振り出しに戻そう、と?」


 ダミアンの呆れたような顔に、ぐっと黙る。

 そう、俺もそれはよく知っている。

 当時、魔塔の精鋭が著名な宗教学者たちまで巻き込んで、徹底的に可能性を探った。捕らえた竜神教の連中を拷問して情報を洗いざらい吐かせた、なんて噂もあった。

 しかし、竜神教に伝わる禁術に、器への魂移しと竜神復活の術はあっても、竜を人間にする術については何も伝わっていないことが明らかになった。


 最終手段として、国はリスクを承知で、死刑囚を生贄に竜復活の儀式を再現してみた。

 もし成功してしまったときに備えて、すぐに討伐できるよう俺も参加してほしいと言われていたから、この目で見ている。


 信者たちの間に伝わっている通りの魔方陣を描き、呪文を唱えて魔力を注ぎ――結果、何も起こらなかった。

 シャロンの証言では、魔方陣が光り、呪文の強弱に合わせて鼓動が不規則に脈打ち、己の身体に何かしらの変化が起きる予兆を感じたとのことだった。しかし再現実験では、禍々しい魔方陣はうんともすんとも言わず、生贄もピンピンしていた。


 だから、禁術は紛い物と結論付けられた。

 中には、もともとフロスト家が危険思想に傾倒し竜神教とつながっていたのではという陰謀論を唱える者や、シャロンの証言は全て嘘なのではと疑う者もいた。

 フロスト領主は陰謀論を否定するために、息子の安否もわからない中必死に駆け回っていたし、心無い誹謗中傷はシャロンを精神的に深く追い込んだ。

 しかし良くも悪くも、アルヴィンが竜化したプロセスが禁術ではないとされたことで、陰謀論は一蹴された。

 わからないことを考えても仕方がない。とりあえず顕在化している「恐化」と山脈に居座り続ける「竜」という二つに標的を絞り、対処していこう――それがこの一年の国の方針だ。


 だから今更、禁術を検証し直すという俺の発言は、ダミアンからすれば、現実を直視できない憐れな男の妄言にしか思えないことだろう。


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